無限地獄



おお!


タルタロスよ


永久地獄よ



闇の闇


冥界の奥の奥に


存在する暗黒の狭間



罪人(つみびと)たちが集まる都


重い足枷を引きづりつつ


黒い陰を引きづりながら


女神たちから憎まれ


愛に飢える者たちよ



光は無い


陽(ひ)も無い



此処は無限の闇の中


繰り返される


果ての無い地獄



もはや罪状など


忘れてしまうほどの


暗(あん)の世界



おお!


タルタロスよ


永久地獄よ



眠りたくとも


決して許されず



もはや朝夕もわからず


くっきり残る痣の痕


赤黒く黒ずんだ


それを


舐めては涙し


舐めては涙し



戻れぬ夢を思いつつ


掠れた声で呻いては


無限の地獄の中



タルタロスよ


タルタロスよ



この者たちの罪を


どうか救い給え



この者たちの業を


どうか赦し給え



罪を負った者たちが


行き着く場所


タルタロス



未来永劫の罰を


与えられる場所


タルタロス



まだまだ順番待ちは


多く



さてそろそろ・・・



タルタロスが待っている




    浮かれ女(め)



私はこの世を儚らむ


浮かれ女



女がひとり


このしがない世の中で


暮らしていくには


軽やかに唄でも


歌わなきゃやっていけないさ



私はこの世を怨む


浮かれ女



女がひとり


たった一度愛した男に


捨てられたとて


涙なんか流しちゃいけない


だってもっと


惨めになるだろ



恋に恋して


今日も一夜の夢物語



明日は


また誰かが


私に逢いにやってくる


私はいつだって


両手広げてまっていてあげる


傷ついてボロボロのあんたを


朝まで抱き締めていてあげる



だからこの浮かれ女の


胸でお眠りよ



今だけは震えずに


安らかにただお眠りよ


安心して私の鼓動を


子守唄代わりにお眠りよ



私はこの世を愛おしむ


浮かれ女



いつだって恋して


抱かれて


傷ついて



けれどいいの


それが浮かれ女の宿命(さだめ)



あんたは傷ついた羽が


治ったら


すぐに去って行ってしまう


鳥だけど



私はただまっているだけの


浮かれ女だけど



また疲れたら「此処」に


おいでよ



この浮かれ女が


あんたをいつでも


包んであげるからさ



「此処」はあんたの


還る場所(ところ)さ




    ※浮かれ女~歌をうたい、舞を舞って人を喜ばせる

 

             ことを職業とし、また色を売る女。


             遊女のこと。





       

   愛の末



志を追う若き獅子たちを


愛した女たちは



身体(からだ)全体で


男たちを支え


苦を共にした



時にはかばい


時には匿い



時には手に武器を持ち


時には敵陣の中を奔走し



共に傷付き


共に戦い


この何時果てぬとも知れぬ


激動の刻(とき)を


駆け抜けた



愛は惜しみなく



男の生き様に惚れ


男の信念に魅かれ



同じく涙し


女たちも華々しくも


散った




   舞い扇



三味の音(ね)に託す


女の涙


今日も舞い扇で


隠して


妖艶に惑わす



華やかな着物の下に


数知れぬ哀しみが


宿り



憎しみの炎は


ふつふつとその身の内に


静かに灯り



時代を動かす


愛した


たった一人の男のために


今宵も


舞い続ける



袂に秘めたる


女の魂を胸に


新しき夜明けのために


剣の代わりに


扇をかざし


明日を夢見る


芸妓の心



長唄に今の世の


憂いをのせて


哀しく舞う


その姿は


確かに流転の時代に


生きた女の証




   現代っ子悲曲



ぼくは今の時代に


生まれ堕ちた


現代っ子



哀しくなるから


ニュースは見ない


辛くなるからクラスメイトが


虐められているのも無視するんだ



先生が理不尽に


手をあげる姿も


ぼくが犠牲者でないなら


関係も無い



両親がいくら喧嘩して


汚く罵り合っていようとも


今日明日の飯が


確保されているなら


仕方ない



日本の何処かで


大地震が起こっても


今居る「此処」が


安全ならどうでもいい



世界の何処かで


テロ事件が起こっても


「此処」に居るぼくには


何の関連性も無い



周りに流されないように


生きればなんてことは無い


躓(つまず)くことも無ければ


泣くことも無い



‘まあ、こんなものさ‘と


腹をくくっちまえば


こちらのもの



動じず


水の上をそっと


歩いていればいい



総てはこの大自然が


起こしたことであって



総てはこの「見えない力」が


作用して起きていることであって



ぼくの所為では無い



ぼくの生命(いのち)が


尽きるその日まで


安定で安全な


生活ができるなら


他はどうでもいいこと



自己満足だろうが


自己欺瞞だろうが


ぼくはぼくが可愛い



ぼくはぼくだけが唯一だ



神も仏も所詮は


「異形」のもので


ぼくの生活の営みには


直接関わりの無いこと



他人のため己の財産を


投げ打って寄付する奇特者



他人の痛みを我が痛みと


すり替え共に涙し


その苦を同じく味わおうとする人愛者



他人が重圧により傷付き


倒れていくのを憐れみに思い


愛のために身を投じて


慈善活動する慈悲者



でもそれは


何も行動を起こそうと


しないぼくと似ている



自己犠牲も


隣人愛も


愛国精神も



総ては詭弁だ



傲慢さが生んだ


建て前と綺麗事だ



ぼくはまさに


この現代が


生み堕とした


子供



誰が首相になろうとも


何も変わるわけが無い



一度栄えた者は


必ずや地に堕ちる


宿命なのだ



まるで英雄のように


囃したてられた人物も


時が過ぎてゆくごとに


貶され、蔑まされ


堕とされてゆく



そうして


また時代は


新たな犠牲者を


探し出してゆくんだ



だから


ぼくは抗わない


金なんて


暮らしてゆく分だけ


あれば十分


名誉なんてそこそこの


信頼というものに化けて


いればそれでいい



高い望みなんて持つから


人間は崩れる



ぼくは望まない


ただこの「現状(いま)」に


満足するだけだ




   恋する気持ち



あなたのその胸に


飛び込むのが怖い



恋をしたのは


初めてではないけれど



こんなにも切ないほど


誰かに心奪われたのは


あなただけ



初恋よりも狂おしい



あなたに気持ちを


打ち明けたいと


心では願っているけれど



いざと思うと


勇気が萎んでしまう



本当にダメな私


いくじなしで惨めになる



恋の一つもろくにできもしない



この気持ちは本物なのに


一体どうしたら


あなたを振り向かせることが


できるのだろう



心から「好きです」と伝えたい



もう少し、


もう少し待っていてね



私頑張ってあなたのため


綺麗になるから



そうしたら


あなたの元へ翔んでゆく



誠実な私の心ごと


どうか抱きとめて下さい



好きだから・・・




    姥捨山



エンヤコラサ


エンヤコラサ


今からこの婆


捨てにいく



エンヤコラサ


エンヤコラサ



今年はうちの


婆の番じゃ


目暗(めくら)になった


よたよた婆にゃ


未練もない


情がのこらん内に


はや山へ



エンヤコラサ


エンヤコラサ


今からこの婆


捨てにいく



食いぶちがようやっと


一人減るにゃ有り難い


うちは大家族


新しい嫁も来たからは


もうろく婆は


もういらねえ



冬の山へ


冬の山へ


吹雪く山道


婆担ぎ



エンヤコラサ


エンヤコラサ



背中で婆が


子守唄



エンヤコラサ


エンヤコラサ



やめてけれ


やめてけれ


情がのこっちまう


おれは早く


嫁んとこさあ


帰りてえんだから



エンヤコラサ


エンヤコラサ


今からこの婆


捨てにいく



春にはこの山にも


綺麗な綺麗な


花が咲くじゃろうて



「婆も花になるじゃ」



村のおきまりの


台詞吐いて



すたこらさ


転げ落ちるように


山を下ってゆく



エンヤコラサ


エンヤコラサ



帰りは


背中の荷物もないのに


なぜこの足


行きより重い



エンヤコラサ


エンヤコラサ



婆よ早く花になれ


綺麗な綺麗な


花になれ




    「真実」



ぜんぶ


どうだっていいと云っているような


陽(ひ)の光



ロゴスもアイデンティティーも


すべてリセットすればいい



だって


「現実(いま)」だけがよければ


それでいいんだから



ぜんぶ


どうでもいいと云われているような


月の灯(ひ)



アガペーもアニミズムも


すべてファンタジーだもの



だって


「現在(いま)」だけがよければ


それでいいんだから



それだけが


私の唯一の


「真実」なんだから




   マリーゴールド



夜に泣く



貴方を知った


その日から


逢えるその時を


夢に見て



遠い地で


私はひとり


貴方を想う



愛を語り合っている


幾多の星々が


怨めしい



朝になれば



目まぐるしい


日常の中で


この狂おしいほどの情熱も


真昼の太陽のように


大空から隠すことが


できるだろう



そうして


私は貴方に


逢いにゆく



   赤い靴の少女



パパが死んだ朝


私は友達と映画に行きました


王子さまとお姫さまが


恋をするロマンチックなお話


胸をときめかせて


映像に魅入られて


パパのこと忘れていました



ママが死んだ夜


私は彼とドライブに行きました


夏の夜空に輝く星の瞬き


彼の胸にもたれかかって


甘い時間を過ごして


ママのこと忘れていました



そんな私を不憫な


目で見たおじさんが


私にプレゼントをくれました



綺麗な赤い靴



私はすぐに夢中になって


周りの人が止めるのも聞かず


赤い靴を履いて喜びました



靴は私の心を代弁するかのように


大いにはしゃぎまわり


華麗なステップを踏みながら



街を駆け抜け


森を駆け抜け


山を駆け抜け


ひたすらに踊り続けました



私はもはや自分の


心も忘れ果て


赤い靴に支配され


ただ動かされているだけ



人々がもの陰から


私のことを指を差しながら


笑っています



涙がたくさん出てきて


止まりません



私は心から悔いました


パパとママに



私は心から祈りました


パパとママに



すると足が止まりました



私は懺悔することによって


ようやく踊らされるという


地獄の試練から


逃れることができました



でも少し遅すぎました



足が止まると同時に


私の寿命もここまでのようです



でも私はほっとしました



やっとこれで


踊らなくて済む



やっとこれで


パパとママに直接


謝ることができる



眠るように逝った私を


ある心の優しい一人の少女が


綺麗な毛布を掛けてくれました