ハンデ



目の見える私と


目の見えない君



目の見える私は虚構を見つめ


錯覚の彼方に居る



目の見えない君は心で闇を切り払い


真実を見抜く力が有る



耳が聞こえる私と


耳が聞こえない君



耳が聞こえる私は虚栄に傾き


世迷言を信じる輪の内に居る



耳が聞こえない君は研ぎ澄まされた感覚で


感性を極める力が有る



口でもの言える私と


口でもの言えない君



口でもの言える私は虚言の極致に立ち


慢心を起こし幻影の中に居る



口でもの言えない君は冴え渡る慈愛の理(ことわり)で


玲瓏なる世界を作り出す力が有る



見えるのに実は何も見えていない私


見えないのに真(まこと)を識見している君



聞こえるのに実は何も聴こうとしていない私


聞こえないのに真の真偽の耳を持っている君



話ができるのに実は何を言っていいか


わからない私


話ができないのに真の至言を


持っている君



愚かな私は五体満足なだけが


取り柄で他には何も無い



君は欠陥を余儀無くされた代わりに


心眼を得た



私は決して君には成りたく


ないけれども


それでも羨ましいよ


その「真実を見抜く力」が




   現実という名の無情



私、見てしまったんです


あの女が駅の階段から


小さな男の子を突き落とすのをーーー



私、見てしまったんです


あの男が夜道を歩いていた酔っ払った


おじいさんを車ではねる瞬間をーーー



私、見てしまったんです


嫌がる女子生徒を暗い化学室に


むりやり連れ去る先生の姿をーーー



私、見てしまったんです


近所に住む男の子が学校で


飼われている兎を殺すのをーーー



私、見てしまったんです


お父さんが真昼の歓楽街で


香水たっぷりつけた若い女と


ホテルに消えていくのをーーー



私、見てしまったんです


お母さんが街の小さなスーパーで


無機質な目で万引きしている様子をーーー



私、見てしまったんです


いつも優等生な兄がゲームセンターの


角の路地裏で気弱そうな


男の子からお金をむしり取っているのをーーー



私、見てしまったんです


気の弱い姉が友人たちと


クスリをやっている所をーーー



私、見てしまったんです



私、見てしまったんです



見たくもなかったのに


知りたくもなかったのに



どうせ何もできないのだから



私、見なければよかった





   罪と罰



ぼくは事故に遭いました


大きな大きな大事故です


ぼくは死にかけました



いいえ


死んだのです


一度は黄泉の国へ赴き


綺麗な花畑に掛かる


赤い橋を渡ろうとしたのです



ですが誰かが一生懸命


ぼくを呼ぶので振り向きました



その声はもうずっと前に


死んだ父でした


母もいました


まだ幼かった弟もいました



彼らもまた


事故で死んだのです



ぼくは懐かしさのあまり


彼らに近付こうとしました


けれど逆に彼らに


来てはいけないと注意され


その指示に従いました



すると


目を開けたら


ぼくは病院に居ました


そうです


ぼくは一度死に


黄泉返ったのです



ぼくの心臓は


母のものでした



ぼくの両目は


父のものでした



ぼくの脳は


弟のものでした



目覚めたぼくは


もうぼくではなくなっていました



ぼくは一度死に


黄泉返り


そうしてまた死にました





   アリス



「その首をちょん切っておしまい!」



アリスは逃げたよ


飛ぶように逃げたよ



好奇心と出しゃばりなお口が


災いしてとうとう


あのおこりん坊の女王さまを


本気でおこらしちまった!



大変だ


大変だ



ほらほら女王さまが叫んでいる



アリスはチェス盤の上で


走っている


逃れられないのにね



ほらほら後ろから


トランプの兵士が


そのかわいいお首を


チョコンと切っちゃった!




   大日大聖不動明王(だいにちだいしょうふどうみょうおう)



金剛石を踏み沈め


後ろには大火を携え


左右には三十六童子を携え


顔の面(おもて)には憤怒の形相


内心には憐れみをたれ給う


両の眼は天と地を睨み


口はあうんの二字を含み


両の牙は天地和合を噛み締め


御身には曼荼羅の袈裟を掛け


左の御手には縄を携え


右の御手には剣を携え



地獄に墜ちようとする者を助け


人々を救い給う有り難き御姿



宵の明星


夜中の明星


明けの明星


その御姿こそは


大日大聖不動明王なり



不動を前に護摩を焚き


祈り


呪い


供養す



明星の大威力で


この世の悪を


懲らしめ給うなり


 

    太陽



私が神さまに


感謝するとしたなら


それは貴女に出逢えたこと



貴女を知る前の私は


ちっぽけな存在


貴女はまるで太陽


私をいつでも照らしてくれる


その温かい微笑みで



神さま  有難う


あの人と巡り逢わせてくれて


私はこれから大きくなれる



貴女はまるで太陽


貴女がくれるその愛を


私は絶対裏切らない



私が一番に愛する太陽


私が一番に尊敬する太陽



眩いばかりに光り


輝いている貴女


ずっとそのままでいて・・・



私だけの心の太陽

    ライム



あなたが好きだったライム


一口齧った


口の中に広がる酸っぱい味



こんな真夏の眠れない


夜には



あなたの顔が浮ぶ



あなたの細い長い指が


握るライム



あなたが美味しいと


言ったライム



でも私には


少し苦いみたい



ずっと一緒にいようねって


約束したのに



それは儚い  儚い


夢で終わってしまって


それは切ない  切ない


幻で終わってしまって



星になったあなたを


想いながら


私はまた苦い  苦い


そのライムを齧った




     薔薇



黄色い薔薇は


不幸せの色


幸薄く虚ろげで


儚い



白い薔薇は


悲しみの色


思いが深すぎて色さえも


染まらない



赤い薔薇は


憎しみの色


情念が心のままに


反映する



紫の薔薇は


孤独の色


気高さすぎて


敬遠される



ピンクの薔薇は


嫉妬の色


自分自身しか


愛せない



オレンジの薔薇は


変わり者の色


目立ちたがり屋で


溶け込めない



黒い薔薇は


愛の色


あなたを想い


想い尽くして


我が身もろとも


焦げ尽くしてしまうから




     空色朝顔



わたしは朝顔が好きだ


朝露に光る優しげな花



この、空色の朝顔は


まるで母のよう



空高し夏の日に


この花を手向けよう



この、爽籟(そうらい)の中に


母の笑顔が見える



懐かしむ時は


決まってこの愛しい花に


口づけをおとそう



そうして


澄む空にはなとう


朝顔を



     暗情



つつせし我が心の


暗黒よ


天に届かぬ


悲惨な運命は


もはや断末魔の叫び



我の意志は堅く


されど約(つづま)るように


固まっている


この色の無い穴の中で



誰にも見つからぬように


包み泣きし


つべたましいこの世に


生を受けた哀しみに


落胆す


この常磐では


何も考えず


流れに身をまかせるのが


一番利巧な生き方



我は常にとちめいている


暗然なるがままに


我は耐えるのであろう




       ※つつせし~貧しい。みすぼらしい。


         約(つづま)る~小さく縮まる。うずくまる。生計が


                   苦しくなる。


         包み泣き~声を忍ばせて泣くこと。

  

         つべたましい~恐ろしい。気味が悪い。ぞっとす


                   るような。残酷。


         常磐~永久不変。あてのないこと。何の目安も


              たたない。石や岩は動けないし物も言え


              ない。そういう状態が永遠に続くのでは


              どうしようもない。


         とちめく~うろたえる。慌て惑う。狼狽。愚か者。


         暗然~悲しみのために暗い気持ちになること。