エイジレスの282回 抗がん剤の副作用軽減に期待
がんは、我が国で最も死亡率の高い病気であり、日本人の 2 人に 1 人が罹患するといわれています。抗がん剤治療(化学療法)は、手術および放射線治療と並ぶ「がん治療の 3 本柱」の1つとして、高い医療実績を誇っています。
その一方で、化学療法を続けることにより、筋力低下による疲労感/倦怠感や廃用(寝たきり)症候群、心筋症といった副作用が起こりうることが問題視されています。
しかし、抗がん剤が筋力低下を起こす原因についてはよくわかっていませんでした。
今回、副作用軽減につながるかもしれないという報告がありましたので、ご紹介します。
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(難しい話なので、結果のみ記載します)
1. TRPC3 チャネル阻害がアントラサイクリン系抗がん剤ドキソルビシン投与による心筋萎縮(心不全)を抑制することをマウスレベルで明らかにしました。
2. ドキソルビシンは、心筋細胞の低酸素化を誘導することで TRPC3 タンパク質の発現を増加し、Nox2 を安定化することを明らかにしました。
3. TRPC3 と Nox2 タンパク質の相互作用を仲介するタンパク質(TRPC3 のNox2 と結合する部分配列)を心筋細胞特異的に発現させたマウスで、ドキソルビシン誘発性の心筋萎縮が抑制されました。
4. 既存の TRPC3 チャネル阻害化合物の中から TRPC3-Nox2 複合体形成も抑制しうる化合物 pyrazole-3 を同定し、pyrazole-3 がドキソルビシン誘発性の心筋萎縮と心機能低下を抑制することを明らかにしました。
5. 適度な運動を与え続けたアスリートモデルマウスでは、心筋 TRPC3-Nox2複合体形成が顕著に抑制されていました。
6. TRPC3 遺伝子欠損マウスの心機能を解析したところ、アスリートモデルマウスの心臓と同様、柔軟なコンプライアンス(弾性と伸展性)をもつ心筋を呈することがわかりました。
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つまり、抗がん剤の副作用の一つである筋力低下について、副作用を抑えることが出来そうだとのお話です。
抗がん剤の進化に比べて、抗がん剤の副作用研究は、あまり進んでいないようです。
ガンを治癒するのが目的なので、仕方ない面もありますが、副作用の影響で、寝たきりになったりすることもあるようですので、本末転倒な側面もあります。
副作用研究は、あまり脚光を浴びない分野ですが、患者さんにとっては重要な研究なので、研究者の方に合われた際には、エールを送ってください。
因みに、副作用の多くに関与しているのは、活性酸素です。
抗がん剤の一部には、活性酸素を増やしてガンを退治するものもあるので、当然、体内の活性酸素が増加します。
また、放射線治療は、体内の活性酸素を劇的に増加させる効果があります。
結果的に、正常細胞も傷つけ、酸化も促進します。
なので、抗がん剤治療や放射線治療が一段落したら、ポリフェノールなどの抗酸化物質をたくさん食べたり、抗酸化代謝系が活性化するようにバランスのいい食事を心がけたほうが、宜しいようです。
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また、抗がん剤で、現在主流の「アポトーシス誘導型」という抗がん剤は、細胞の自己死(細胞の自殺です)を促すものですが、当然、正常細胞の自己死も起こります。
結果的に、死んだ細胞が担っていた機能に影響が現れます。
場所によっては、生命維持に重要な役割をしている細胞もあるかもしれません。
なので、治療が一段落したら、細胞を復活させることが必要です。
復活させるには、細胞を増やす役割をしている「幹細胞」を活性化させる必要がありますが、その前に、傷ついて機能しなくなった細胞を排除する必要があります。
人の体では、毎日3000億個の細胞が死んで、新たに3000億個の細胞が生まれると言われています。
なので、抗がん剤で、3000億個の細胞にダメージを受けたとしても、計算上は、1日で回復出来ることとなります。
で、復活させるためのキーワードは、オートファジーとミトコンドリアです。(色々と大切なことはありますが、まずは、この二つ)
オートファジーは、細胞の自食作用で、死んだり、傷ついた細胞を排除して、その成分を再利用する仕組みを持っています。
ミトコンドリアは、体内で使うエネルギーを生産する器官です。
細胞の増殖を促すには、大量のエネルギーを必要とするため、体内におけるエネルギー生産を大幅に増やす必要があります。
なので、オートファジーとミトコンドリアの活性化は、細胞の復活には必須の条件となります。
活性化についての詳しいことは、関連記事2をご覧ください。
お大事に!
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