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 1年単位の変形労働時間制

前回、1ヶ月単位の変形労働時間について書きました。これは、1ヶ月を平均して、1週40時間(業種等によっては44時間)の労働時間になるようにすれば、合法的に法定労働時間を超えて労働させることができる、という制度でした。

おおざっぱにいうと、この期間を1年間でに延ばしたのが、1年単位の変形労働時間制です。


1年単位の変形労働時間制というのは、


本来、労働時間は

      1日8時間

      1週40時間(業種等によっては44時間)

を超えてはならないのですが、

 

1年以内の期間で変形労働時間制を行うということを

    労働協約または労使協定を締結する

ことで定めることにより、


1年以内の対象期間を平均して、

  1週40時間(44時間の業種等でも、40時間になる)

の労働時間を超えないという条件で、

  特定の日または特定の週に

   1日8時間

   1週40時間

を超えて労働させることができる、という制度です。


ここまでですでに、1ヶ月単位の変形労働時間制と違う部分があります。それは、

 1年単位の変形労働時間制では

  ①労使協定や労働協約を締結しないと行うことができない

  ②1週間の法定労働時間が44時間の業種等でも、40時間以内に収めないといけない

 という部分です。


そのほかにも、

 労働日数を年280日以下とすること(変形労働時間制の対象期間が3ヶ月を超える場合のみ)

 労働時間の限度が1日10時間、1週52時間となっている

 1週の労働時間が48時間を越える週の回数に制限がある

 連続労働日数は、通常6日。繁忙期に特定期間を定めたときは、その期間は1週1日の休日確保

 タクシー運転手などには別途暫定措置がある

などといった制約があります。

これは、変形期間が最長1年間と非常に長いので、労働者の健康の保持のために、繁忙期に集中的に労働させるということに一定の制限を設けていることによるものです。

いずれにしても、、1年単位の変形労働時間制では、業務の繁閑を予想し、法令上の制約を守りながら、労働日と労働時間を決定していかなくてはいけないので、実際に導入するのはけっこうややこしい部分があります。

そのかわり、時期による業務の繁閑がはっきり分かっていれば、苦労して導入しただけの効果を発揮できるものと思います。


1年単位の変形労働時間制を導入する場合の就業規則の条文を、以下の通り例示します。


(労働時間及び休憩時間)

第○○条

従業員の所定労働時間は、従業員代表との書面による協定(以下、労使協定という)により、毎年※※月※※日を起算日とする1年単位の変形労働時間制によるものとする。1週間あたりの所定労働時間は、変形期間を平均し、週40時間を越えないものとする。

2. 従業員の各日の始業・終業時刻は、次の範囲内で、労使協定により定めた時間とする。

    始業 ※※時※※分 ~ ※※時※※分

    終業 ※※時※※分 ~ ※※時※※分

3 業務の都合その他やむをえない事情がある場合は、全部または一部の者について、前項の始業、終業時刻及び休憩時間を繰り上げ、または繰り下げることがある。


(休日)

第○○条

1年単位の変形労働時間制の適用を受ける従業員の休日は、変形期間の初日を起算日として1年間に85日以上を与えるものとする。

2. 前項の休日は、労使協定により定めるものとする。


1年単位の変形労働時間制は、日々の労働時間も休日も業務の繁閑に合わせて調整するやり方だけでなく、日々の所定労働時間は一定として、休日だけを業務の繁閑にあわせて調整したり、休日は一定として、日々の労働時間を業務の繁閑にあわせて調整したりと、それぞれの会社の事情に合わせて行うことが可能です。そのため、会社の実情に基づき、導入の検討をすることが重要です。


また、1年単位の変形労働時間制では、通常の残業時間の計算の仕方だけでなく、変形期間の途中で入社したり退職したりした人の残業時間の計算など、ややこしい部分がたくさんあるので注意が必要でしょう。

 1ヶ月単位の変形労働時間制

労働時間(始業時刻・終業時刻・休憩時間)や休日について、従業員一律に決めて支障がない会社であれば特別問題ないのですが、なかなかそうもいかない会社も多いでしょう。

業務の繁閑が激しい会社であったり、年中無休の小売店であったり、24時間365日無休の病院であったりすると、

 

 従業員の休日を確保することが大変

 忙しい時期にはどうしても残業しなければならず、残業代がかさんでしまう


といった問題が発生してしまいます。

そういった場合に、1日8時間、1週40時間(業種等によっては44時間)という労働時間の原則の例外を活用できる場合があります。

今回はその中のひとつである、 1ヶ月単位の変形労働時間制 について書こうと思います。


本来、労働時間は

      1日8時間

      1週40時間(業種等によっては44時間)

を超えてはならないのですが、

 

1ヶ月単位の変形労働時間制を行うということを

  就業規則(またはそれに準ずるもの)で定める

    または

  労使協定を締結する

ことで定めることにより、


1ヶ月を平均して、

  1週40時間(業種等によっては44時間)

の労働時間を超えないという条件で、

  特定の日または特定の週に

   1日8時間

   1週40時間(業種等によっては44時間)

を超えて労働させることができる、という制度です。


つまり、1ヶ月のうちで、あらかじめ残業する日と時間を決めておき、その分の労働時間を別の日に短縮し、つじつま合わせをすれば、合法的に、しかも残業代を支払うことなく、残業させることができる、という制度です。

あらかじめ業務の繁閑が予想できる会社では導入しやすいと思われます。  


1ヶ月単位の変形労働時間制を導入する場合の就業規則の条文を、以下の通り例示します。


(労働時間及び休憩時間)

第○○条

従業員の所定労働時間は、1ヶ月単位の変形労働時間制によるものとし、変形期間を平均し、1週間あたりの所定労働時間は40時間を越えないものとする。

2. 従業員の各日の始業・終業時刻は次のいずれかとする。

   シフト
3. 前項の所定労働時間、始業・終業時刻は、毎月※※日を起算日とし、勤務カレンダーによって決定し、前月※※日までに従業員に通知する。

4 業務の都合その他やむをえない事情がある場合は、全部または一部の者について、前項の始業、終業時刻及び休憩時間を繰り上げ、または繰り下げることがある。


(休日)

第○○条

従業員の休日は、毎週少なくとも1回の休日を与えるものとする。各従業員ごとの休日は、勤務カレンダーによって決定し、前月※※日までに従業員に通知する。


1ヶ月単位の変形労働時間制では、法令等の範囲内で、従業員の労働時間を自由に決定しうるものであり、実際に、様々なかたちで導入されています。そのため、他の事例を安易に真似するのではなく、各会社ごとに、自社に最適と思われる方法を十分に検討し、導入すべきです。

尚、変形労働時間制の運用に際しては、知らず知らずのうちに法令に違反してしまうことも珍しくないため、十分に勉強して理解した上で行うなり、専門家の指導を仰ぐなりすることをお勧めします。特に、残業代の計算方法は少々複雑であるので注意を要します。


第○○条  休日

休日というのは、会社が従業員に対して、 労働を免除するという日 ということであります。

休日と休暇というのはちょっと紛らわしいかもしれませんが、休暇というのは、会社が本来労働すべきとしている日に、従業員としての権利を行使して休むことをいいます。年次有給休暇を思い浮かべれば、なんとなく理解していただけるものと思います。


労働基準法第35条では、休日について以下のように定められています。

 使用者は、労働者に毎週少なくとも1日の休日を与えなければならない

 ただし、4週に4日の休日を与えていれば、毎週1日でなくてもよい


私個人としては、4週に4日の休日ではなく、毎週1日の休日を確保すべきだと考えています。

その理由は次のとおりです。

①(44時間の例外を除き)1週間の法定労働時間が40時間となり、1日8時間労働×5日の労働で、1週間に2日の休日確保も困難ではない状況であるのに、常態として1週間に1日の休日の確保ができないこと自体が、その会社の労務管理に何らかの問題があると考えられること

②4週に4日の休日とした場合、起算日の設定と周知、本当に4週に4日の休日が確保されているかのチェックなど、労働時間の管理が複雑になりやすいこと

ということで、1週間に最低1日の休日を確保すべきだと私は考えています。


就業規則で休日を設定する場合、週末などに一斉に休みが取れる会社であればそれほど問題にはなりませんが、小売業などは、就業規則で休日を特定するのは無理なので、勤務カレンダーを定期的に作成することにより休日を特定することになります。

勤務カレンダーを作成する場合、休日の確保、法廷労働時間の遵守、変形労働時間制を採用するのであれば、変形労働時間制による制約、などに注意する必要があります。


以下、ごくごく一般的な条文を例示します。


(休日)

第○○条

従業員の所定休日は以下の通りとする。

(1)日曜日

(2)土曜日

(3)国民の祝日及び休日

(4)その他会社が特に定めた日

2. 会社は、毎年※※月に、翌年※※月から※※月までの勤務カレンダーを作成し、従業員に通知する。



就業規則に休日として定めた日は、必ず守らなければならないことになります。

そのため、法令を守った上で、上の条文にとらわれることなく、会社の実態に合った休日を定めることが重要です。


(4)は、夏季休業、年末年始休業、ゴールデンウィークの休業などを想定しています。

また、第2項の勤務カレンダーの作成には、変形労働時間制や、年次有給休暇の一斉付与など、従業員の休日を確保しながら会社の業務を円滑に進めるために、導入を検討してもよい事項もあるでしょう。

第○○条  休憩時間

休憩時間については、経営者はあまり気にしないが、従業員にとっては不満の種になる、ということもあるので、注意が必要です。

まず、休憩時間を与えなくてもよい従業員がいます。これは、施行規則などで細かく定められていますが、たいていの会社に当てはまるのが、

 管理監督の地位にある者

には休憩時間を与えなくてもよいことになっています。


休憩時間について労働基準法第34条で明記されているのは、以下の事項です。

 与えるべき休憩時間の長さ、および休憩時間を与える時期

 休憩時間は基本的に一斉に与えるべきこと

 休憩時間は自由に利用できること


まず、休憩時間の長さですが、

 労働時間が6時間を越え、8時間以下…45分以上

 労働時間が8時間を越えるとき…1時間以上

を与えなければなりません。

逆に言うと、労働時間が6時間未満であれば休憩時間を与えなくてもよいわけです。労働時間8時間の正社員がお昼の休憩を取っているのに、労働時間6時間のパートタイマーが休憩を取らずに働き続ける、ということも不可能ではありません。あとは、社内の雰囲気がどうなるか、会社の方針に合うか、などということを考慮し、そうするかしないかを決定するだけのことです。

もちろん、労働時間6時間以下の労働者に休憩時間を与えることは全く差し支えありません。

尚、休憩時間は、労働時間の途中に与えなくてはなりません。午前9時始業で、午後5時から午後6時まで休憩時間、6時終業、というようなことはできませんので念のため。


次に、休憩時間をいっせいに与えるべきこと、

については、個別に休憩時間をとるとした場合に、十分休憩時間をとることができない労働者が出てくるのではないかということで、このような規定となっています。

しかし、会社にとって、従業員に一斉に休憩を与えるのは都合が悪いということがよくあると思われます。そのため、休憩時間を一斉に与えずに済む方法もあります。

まず、販売業、運送業、病院などの特定の業種については、一斉休憩の適用が除外されています。つまり、一斉に休憩を与えなくてもよいわけです。

それ以外の業種では、一斉休憩の適用を除外する労使協定を締結することによって、一斉に休憩を与えなくてもよい とすることが可能です。

その労使協定では、

 一斉に休憩を与えない労働者の範囲

 その労働者に対する休憩の与え方(具体的に)

について定めなくてはなりません。この労使協定は、労働基準監督署に届け出る必要はありません。


最後に、休憩時間の自由利用についてです。

当然のことながら、自由利用なら何をやってもいいわけではなく、休憩の目的を損なわないという範囲内で、会社が一定の規制をかけることもできます。

具体的には、職場の秩序を損なわないこと、他の従業員の休憩の邪魔をしないこと、設備等を損なわないこと、という範囲内で、事業場の状況も考慮した上で、会社が規制を行うことができると考えられています。

規制することがあれば、就業規則の、服務規律、または賞罰、のところで規制する事項を定めるのが一般的です。


休憩に関しけっこう問題になるのが、

 休憩時間中に電話番を命じることができるか

ということですが、これは、どうひっくり返ってもできなません。これで従業員とトラブルになったら、会社側は100%勝ち目はありません。

これは、休憩時間の自由利用に反するからです。

電話に出た時間だけが労働時間で、そうでない時間は休憩時間だ、という主張も、やはり100%認められません。

これは、電話に出ていない時間も、手待ち時間として、労働時間ととらえられるからです。電話番を命じられている時間全てが労働時間ということになります。

それでも(合法的に)電話番を命じるにはどんな方法があるでしょうか?それは、

 管理監督者が電話番をする

 労使協定を締結し、電話番をする従業員の休憩時間をずらす

という2通りの方法です。どうするかは会社次第です。


以下、ごくごく一般的な条文を例示します。(労働時間の項で例示した条文と同じです)


(労働時間及び休憩時間)

第○○条

従業員の始業、就業の時刻及び休憩時間は次のとおりとする。

 始業時刻 午前9時

 終業時刻 午後6時

 休憩時間 正午から午後1時まで

2. 業務の都合その他やむをえない事情がある場合は、全部または一部の者について、前項の始業、終業時刻及び休憩時間を繰り上げ、または繰り下げることがある。


(始業・終業時刻もそうであるが)休憩時間については、その時間(開始時刻と終業時刻)を特定しておく必要があります。また、労使協定を締結し、休憩時間の適用除外をするのであれば、そのことについても条文中で触れておいたほうが良いでしょう。

労働時間や休憩時間については、各会社、事業場ごとに、その実情に応じて定める必要があるので、例示した条文をそのまま使えることはむしろ少ないのではないかと思います。

第○○条  労働時間

労働時間については、給与・賞与・退職金など金銭的な面についで、会社と労働者とのトラブルの原因となるものであります。

また、労働時間は、時間外手当など金銭的なもの、過重労働による過労自殺・うつ病などの病気などとも密接に関わっており、会社が従業員の労働時間を労働時間を軽視すると、思わぬしっぺ返しを受けるおそれもありますので、十分な注意が必要です。


今回は、ごくごく一般的な労働時間、休憩時間について書こうと思います。


まず、労働時間には、

 法定労働時間

 所定労働時間

があります。


法定労働時間は、労働基準法第32条により、

使用者は、

 1日8時間(休憩時間を除く)

 1週40時間

 (商業、映画演劇業、保健衛生業、接客娯楽業で労働者が常時10人未満の事業場は44時間)

となっており、使用者は、この時間を超えて労働させてはならない

ということになっています。(時間外労働(残業)を行うには、労働者代表との協定が必要ですが、詳細は項を改めて書こうと思います)


所定労働時間というのは、各会社が定めた労働時間のことです。所定労働時間は、上の法定労働時間の範囲内で定める必要があります。もし法定労働時間を越えた定めをしていれば、たとえ従業員と合意したものであっても、労働基準法違反となります。

そのため、会社で定めている所定労働時間が、法定労働時間を超えていないかをチェックする必要があります。尚、チェックする場合には、1週間に1日(または4週間のうちに4日)の休日が確保されているかも確認する必要があります。


以下、ごく一般的な条文を例示します。(休憩時間については、条文には含めたが、項をあたらめ、多少説明しようと思います)



(労働時間及び休憩時間)

第○○条

従業員の始業、就業の時刻及び休憩時間は次のとおりとする。

 始業時刻 午前9時

 終業時刻 午後6時

 休憩時間 正午から午後1時まで

2. 業務の都合その他やむをえない事情がある場合は、全部または一部の者について、前項の始業、終業時刻及び休憩時間を繰り上げ、または繰り下げることがある。



上の条文にそのまま当てはまる会社は実際にはそう多くありません。

各会社の実情に応じた労働時間(所定労働時間)が決まっていると思われるので、その所定労働時間が法定労働時間の範囲に収まっているかを確認すべきです。

その上で、

 変形労働時間制(1年単位、1ヶ月単位)

 1週間単位の非定型労働時間制

 フレックスタイム制

 裁量労働制

 事業場外のみなし労働時間制

など、より会社の実態にあった労働時間の設定方法がある、という可能性もあるため、休日との兼ね合いも考えつつ検討するのも良いと思います。

(変形労働時間制などについては項を改めて書こうと思います)