就業規則のネタ -52ページ目
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第○○条  従業員の種類 (従業員の定義)

前回、 適用範囲 というタイトルで就業規則の条文を紹介しました。今回は 従業員の種類 ということで条文を紹介しようと思いますが、この条文を就業規則に盛り込む場合、従業員の種類を明らかにした上で適用範囲を定めるという流れになるということだけご了解いただきたいと思います。


従業員の種類については、一般的な名称として

 正社員

 契約社員

 短時間正社員

 パートタイマー

 アルバイト

 嘱託社員

などが挙げられます。

このほか、業種によって特有の名称や、会社によって独自の名称を定めていたりする場合もあります。

また、同じ名称でも会社によって実態が異なる場合もよくあります。

このようなことから、就業規則において従業員の種類を列記し、それぞれについて定義づけておくことは、会社と従業員との無用のトラブルを避けるためにも大変有効であると考えています。


条文の一例を挙げてみると



(従業員の種類)

第○○条

この規則において従業員とは、所定の手続きを経て雇い入れられた者をいい、その種類は以下の通りとする。

(1)正社員 : 期間の定めなく雇用された従業員

(2)契約社員 : ○年以内の期間を定めて雇用された従業員

(3)パートタイマー : ○年以内の期間を定めて雇用され、1日または1週間の労働時間が正社員より短い従業員

(4)アルバイト : 業務上臨時の必要により○ヶ月以内の期間を定めて雇用する従業員

(5)嘱託社員 : 定年後○年以内の期間を定めて雇用された従業員(定年を超えた年齢で新たに雇用された従業員を含む)



これはあくまで一例です。

従業員の種類、その名称、定義については、法律上決まっているものではないため、各会社の実態に合わせた名称、定義にすることができます。

ただし、いたずらに従業員の種類を増やしたり減らしたりすることは、従業員の管理の手間を増やしたり、かえって従業員とのトラブルの種になってしまったりする可能性があるので、会社の実態に合わせて従業員の種類を決定することが重要です。


また、従業員の種類を新たに追加した場合は、就業規則を改定し、新しい区分の従業員に適用される規程を明らかにしておかなくてはなりませn。これを怠ると、就業規則のどの部分を適用するかをめぐって、新しい区分の従業員とトラブルになる可能性があります。

第○○条 適用範囲

就業規則は、当然のことながらその会社に勤める従業員に適用するものです。そのため、すべての従業員に対して一律に同じ就業規則を適用するのであれば、適用範囲に関するトラブルというものは発生しません。

しかし、実際には多くの会社において正社員、パートタイマー、嘱託、などの社員区分があります。そして、社員区分によって、異なる労働条件を定めています。

例えば、

 正社員には慶弔休暇制度があるがパートタイマーや嘱託にはない

 正社員とパートタイマーで退職金の計算方法が違う、嘱託には退職金はない、

といったところです。


こういう問題は、パートタイマーが慶弔休暇を取得しようとしたとき、嘱託社員が退職したとき、になってはじめて表面化するので、言った言わないの無意味な水掛け論になりがちです。


このようなつまらない問題が起こってしまう原因は、

各従業員が、自分が正社員なのかパートタイマーなのか嘱託なのか、ということをちゃんと分かっていないことにより、起こる場合

正社員、パートタイマー、嘱託の区分によって、労働条件等について別の定めをしている部分があるということを従業員が理解していないことにより、起こる場合

の二つであると考えています。


一つ目の原因については

 会社が従業員を採用するときに、正社員なのかパートタイマーなのか嘱託なのかということをはっきり知らせていない

ことが根本原因です。

これは、就業規則の問題というよりは、労働契約の締結のやり方に問題があった、ということになります。

従業員の採用時に、社員区分を明記した労働条件通知書を交付するようにすれば、この原因については解決します。一番重要なのは、ここの従業員について、社員区分をあいまいなままにしないではっきりさせることです。


二つ目の原因については、

 会社側がその場しのぎの、行き当たりばったりな対応をしている

 社員区分により別の定めをしていることを就業規則等により明文化していない

 違いを明文化していても、社員に十分理解させていない

この3つのいずれかがその根本原因となっている場合が多いと考えられます。

従業員が、社員区分によって労働条件等について別の定めをということを初めからわかっていれば問題にならないことであるにもかかわらず、会社が従業員に対し十分理解させることを怠ったために無用のトラブルが発生してしまうことになってしまいます。

無用のトラブルを防止するため、以下のような条文を明記しておく必要があります。



(適用範囲)

第○○条

この就業規則は、すべての従業員に適用する。

ただし、パートタイマー、嘱託の就業に関し別の定めをした事項については、その定めによるものとする。



ここでは記載しませんが、それぞれの従業員の区分について定義づけをしておくことも有効です。育児休業・介護休業などとあわせて従業員の区分を積極的に活用している会社もあります。


条文のただし書きのように、パートタイマー、嘱託に関して別の定めをする場合は、どのような定めをするかについて就業規則のどこかに明記することが必要です。

別の定めを明記していない場合、正社員に適用される就業規則をパートタイマーや嘱託にも準用することになってしまうので注意が必要です。

特に、退職金など多額の金銭が絡む場合は、裁判など深刻なトラブルになることも多くなります。しかし、就業規則の定め方ひとつでトラブルを未然に防ぐことも可能なのです。

第○○条  目的

就業規則に限らず、規則や規程では最初に目的を明らかにするのが通例です。当然のことながらそれなりの目的を持って就業規則をつくるわけですから、この部分がないと、ちょっと落ち着かないこととなってしまいます。


この 目的 という条文については、就業規則をつくる目的が、従業員の労働条件、服務規律その他就業に関する事項について、会社と従業員が包括的にした約束事であるので、なんのひねりもありませんが私はそのようにそのまま書くこととしています。

だいたい、以下のようなわりと定型的な条文になります。



(目的)

第○○条

この就業規則は、○○○○株式会社(以下「会社」という)の従業員の労働条件、服務規律その他就業に関する事項を定めたものである。

2. この就業規則に定めのない事項については、労働基準法その他の法令及び労働協約の定めるところによる。



私が以前読んだ就業規則関連の本には、この条文の第2項の部分について、

記載するメリットは、絶対的記載事項(就業規則に必ず書かなければいけないこと)が万一抜けていても法律違反にならない、

記載するデメリットは、労働基準法などの、義務規定だけでなく努力義務についても従業員と約束することになってしまう、

と書かれた部分があって、ちょっとおもしろいと思った記憶があります。

ただ、

絶対的記載事項が抜けている就業規則なんて、素人がつくるのでなくてはありえないことであり、

労働基準法などの努力義務も、就業規則に書いてあるかどうかに関わらず、努力する義務については何にも変わらない、

ということで、

私は、上の条文を基礎に、多少アレンジすることにしています。

まえがき(前書き・前文)

就業規則は、労働基準法第89条で、

 

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、(中略)就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。(以下略)


と定められています。

ということでしょうがなく就業規則をつくるとなると、 まえがき(前書き・前文) に何を書くかについてなかなか思いつかない、ということになってしまいます。まあ、 まえがき は絶対書かなければいけないものでもないので、実際には書いていないことのほうが多いものと思います。

しかし私は、就業規則には まえがき をぜひ記載するようお願いしています。

その理由は、 まえがき は、会社がどんな経営理念をもっているか、会社が従業員に何を求め、また従業員のことをどのように考えているか、ということを書くことができるフリースペースだと考えているからです。

 

就業規則を、つくらないと法律に引っかかるからつくるとか、単に従業員とのトラブルを回避するためだけにつくるとか、ということであれば、 まえがき というフリースペースは必要ありません。

しかし、就業規則の作成を経営の一部ととらえれば、 まえがき に書くこともいろいろ出てくるのではないでしょうか。

 

会社の経営には、モノ・ヒト・カネが必要だといわれます。そのモノ・ヒト・カネは、会社の経営理念に沿って適切に使われてこそ会社に発展をもたらします。その中のヒトに対し、会社がどのように考えているのか、何を求め、どう報いるのか、ということをまとめたのが就業規則なのです。

つまり、経営理念の下に、会社の、モノ・ヒト・カネについての考えをまとめたもののひとつとして、就業規則があるのです。

就業規則をこのようにとらえれば、 まえがき は従業員に向けての非常に重要なメッセージとなります。
これが、私の就業規則そして まえがき に対する考えです。

ただし、まえがきを書いたとしても、そのまえがきが会社の実態とあっていない場合、また前書きに書いた経営理念に実態を近づけていこうという努力がないのであれば、そのまえがきはかえって逆効果になることもありえます。


そのような意味では、 まえがき は両刃の剣でもあります。上手に使いこなしてこそ まえがき は会社の発展のための効果を発揮するものです。

就業規則とはいったい何なのか?

会社で従業員を採用すると、契約(労働契約)を結んだ上で働き始めることになります。


労働契約は、契約書に記名押印をしっかり行うところも増えていますが、仰々しく雇用契約書の取り交わしなどはせず、口頭で(あるいはなんとなく)済ませてしまうこともあります。
口頭の場合、採用された従業員もだいたいの仕事内容ととりあえずの賃金額しか分かっていないような状態で、細かいことなどはまったくといっていいほど理解していません。


そのため現在は、従業員の採用にあたり労働条件を書面で通知することが義務付けられています。


通知すべき内容は以下の通りです。
① 労働契約の期間に関する事項
② 就業場所、従事すべき業務に関する事項
③ 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交代制の場合の就業時転換に関する事項
④ 賃金の決定、計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項
⑤ 退職・解雇(事由及び手続き)に関する事項


ただ、これ以外の労働条件についてはよく分からないままです。
そこで、就業規則が登場することになります。


就業規則については、
「それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている」(昭43.12.25最高裁大法廷判決、秋北バス事件)
と解されています。

つまり、
合理的な労働条件を定めている就業規則は、
   労働契約の契約内容の一部であり、
 また、
   法律と同等の扱いを受ける
ということになるのです。


そのため、就業規則がないと、
   細かい労働条件が全部抜け落ちた、不十分な労働契約
 となり、また、

   会社に決まりらしい決まりがない

という状態になってしまうのです。


就業規則は、従業員との契約であり、また会社の秩序を守る法律です

労働基準法その他の法令は、労働者を保護するためにあります。会社内を管理し、秩序を維持するための決まりはほとんどありません。
就業規則がなければ、社内の秩序は維持できません。


ほとんどの人は普段気が付きませんが、就業規則がない会社というのはほとんど無法地帯です。
労使トラブルが発生し、就業規則というトラブルを解決する手段がないことに気がついてはじめて、会社が無法地帯であったことに気付くのです


しかし、トラブルが発生してから就業規則をつくっても、さかのぼって適用することはできません。
そうなる前に、自分の会社が無法地帯であることを認識し、就業規則というそれぞれの会社に合った法律を作り、秩序のある会社とつくっていく必要があるのです。


というわけで、私は、就業規則についてブログを書き綴っています。


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