ひっぴーな日記 -3ページ目

ひっぴーな日記

よくわからないことを書いてます

またGWですが、外に行くだけの気力と財力がないので主にねております_(:3」∠)_

 

んー風邪ついでに湿疹もあったんだけど、どうやらあわない薬のせいでちっち薬疹してたみたい。ちっさいぽつぽつができrて白い粒?っぽいのができて。まぁんー回復にむかってるけど、このタイミングで暑くなると汗でるから勘弁w

 

はぁ~テニスやりたい。

 

 

自ら守るものは、それは必ずしも守るべきものではない。

 

 

 

 

 

 

 

                         *

 

 

「あー……、変に演技しちゃったなあ。久世さん、あの人嫌いだ本当に」
 いや、苦手といったほうがいいか。僕が精神と体力を底の底まで使い果たしたような気分で、大学校校門のすぐ横のガードレールに両手でがっくりと肩を落としていた。
 あの久世という、いやクリスか、人はどうにも僕を怪しんでいるようだった。軍にしろ、戦争のことにしろ、予め知っているんじゃないかという、なんというかそういう隠語をすべての台詞に感じた。
 実際、ある程度のここの保護地の実情や、軍の関連、は知っていたが戦争とか始めて聞いたことなのだから、僕としてはこのまま外に帰りたいぐらいの驚きなのだが、彼女の前だとどうにも構えてしまって「何もわからない平凡な少年」っぽい感じな性格を演じてしまった。
 外の家で学んだことだけど冷静に冷徹になりきれれば本心は揺るがない。そんなことをぐだぐだ教えられたせいだろう。
「しかしなあ、よく考えると今度会ったときのことを考えると億劫だな」
 ガードレールから手を離して高台から見える広大な海上都市の町並みを見る。
 あの人が毎日顔付き合わせるとなるとか、そんなんだったら僕がストレスで三日で精神がだめになるレヴェルだ。これから会う蓮桐や蓮杖などにそれとなくフォローというかやり過ごす方法でも伝授してもらうか。
 それに手に残った医療用のアンプル。中身はわからないがあの形状からして害はない、だろうが正体不明なものを入れられたのは間違いない。これもあとで聞くしかないか。
「しかし、戦争、ね」
 戦争に、軍に、それに特化した部隊。荒唐無稽にもほどがある。いつだったか聞いた空軍の幽霊話と同等レベルだ。
 だが戦争それ自体は想定内の出来事、とも言える。トーラスへの流入する武器やカネを見ていればそれとなしには分かることだ。だが、実際に起こっているとなると敵側と味方の判別を付けなくてはならない。自分がどこに立って誰に何を頼り考えなければならないか。それが必須なのだろうから。
 僕は遠く、千二百メートルの壁に円状にさえぎられた向こう、わずかに覗く海を見つめる。
 トーラスの半径は十五キロ。直径三十キロ、円周が九十四キロの大都市が丸々治まる巨大な生活圏で、それは円状に中央から、各公館庁、その外側に住宅地区、商業地区、一番外延に各研究所などの特殊施設が並んでいる。実のところ増設、区画整備などがこの長い間なんども行われたために円状に、とは言いがたいが、それなりに綺麗な様相を呈していた。外周を歩いて一週して回ったら四日以上かかるだろう広大な都市。
 そしてセキュリティは厳重。外延の壁の下は各種自動の多重セキュがあり、中央にはいるにはSクラスのパスがないと入れない。ここに住むティーア系の住民は、つまり例外なくAクラスを配布されていて中央以外どこにでもいけるが、来賓や外から来た商業者はBからCクラスのゲストパスしか持たせず、商業、外延までしかはいってこれないようにしておりかなり厳重だ。先ほど久世さんにもらったパスは全員Sクラスなのでそれほど破格な地位にいることがそれだけでよくわかる。
 排他的な民族、とかいわれてもしょうがないなあ、と僕はぼんやりと考えてとりあえず坂を下りることにする。
 舗装されたアスファルトはほとんど使われていないようでかなりの間放置されていたようだった。蝉がたくさん止まる左側にはこんもりした丘にたくさんの雑木林は生えていて、道路の割れ目からは雑草が見える。そんな道路をガードレール沿いに僕は下りていく。
 しかし、戦争。こんなにも平和で発展してるように見えて本当にそんなことが行われているかと考えるとどうにも信じがたい。もちろん――信じるに値することはいくらでも経験してきたので、その事実を聞かされてもこうして迷っているのはただの意地だろう。
 もちろん知っていたわけじゃない。でもそんなことがあってもおかしくはないだろうという勘みたいなものがあっただけの話。トーラスのあり方について大よその疑問はもっていたにしても戦争だなんて面食らう。
 ここの――このトーラスの住民達はそれを知っているのだろうか。知ってここにいるのだろうか。いや、ほとんどはしらないだろう。知っていたらティーアの民族気質的にとっくに反乱でも起きている。そうなると国家レヴェルでの秘密裏の何かで戦争……紛いのことをしているということになる、のだろうか。
 トーラスの高いビル群などをみても戦争で疲弊しているように見えない。普通は消耗している都市から枯れていくものだけれど、やはり海の上での戦闘で、それ以外の業務雑用っぽいことを僕らがやるのだろうか。
 保護優先地が実は戦争に集められ、またはそのために保護される場所で、そして軍の関連所。そして戦争。
 非現実的だ、とか結論がでるのは今時な子供のせいだからだろうか。
「そもそも、それもうすうすわかっていたから軍の教習なんて受けたはずなんだけど、」
 ここまできて意気地がないっていうか、何かを壊すためにここにきたんじゃないと僕は頑なに思っているだけだろうと思う。そもそも、こんな所に手早くバレてしまう教師の名目で送り込んだ時津彫の家の意図がまったくわからなかった。
 彼女と僕のためへの配慮、と前向きに考えておくことにした。

 


 第五地区商業街は例外なく五階建て以上の建物が立ち並び欧州風の街の作りが目を引く。あらゆる人種が入り乱れたような、外の茅ヶ崎第二新副都心ほどではないが、そこらかしこに髪がほとんど栗色から茶、金色に目は赤緑色やほとんどが碧眼であると外人街に迷い込んだ錯覚さえある。もちろん肌の色も例外なく白色なのだが、黒色も多い。
 そんなところに外から仕事できたサラリーマンが紛れ込めば様相に慄くだろう。日本国にいるようで日本ではないような。まぁ、僕もつまりビビッているわけなのだが。
 欧米風に石畳が敷き詰められて歩道や狭い自動車道も積極的に石や木が使われなんだかおしゃれに見える。そこに普通の学生や社会人があるいていくのだから、まるで人だけを挿げ替え、都市を置いたような違和感さえ生じてくる。とはいっても歩く人ほぼ全員が碧眼なのだが。
 人通りの多い住宅地区のメインストリートからダイレクトに入れるこの場所は人も自動車も多く、また買い物客や外来の人もおおくて探すのに困る。
 僕は一旦立ち止まり、手近な日本国の全国チェーン店のコンビ二の木陰の隅で立ち止まった。
 ここまで人が入り乱れているとストレスが溜まりそうなものだが、道行く人はなんだか陽気な雰囲気で外地街の日本人のピリピリとしたようなものは伝わってこない。これも隔絶された都市のなせる業か、ティーアの気質なのかな、とか行き乱れる人をみて適当な感想を持っておく。
 久世さんに言われてまず向かったのは蓮杖祀のほうだ。証明証から外見は一二歳で純血のティーア系。主に商業街を警備、と称して練り歩いているらしいがどうにも見つからない。久世さんに言われたとおりにPDAのGPS位置情報をみて行動しているのだけれども彼女はあっちこっちに移動してしまうので、土地勘ゼロの僕にしては追いかけっこをしている感じだった。
 というか、こんな適当な人員配置でいいんだろうか?
 年齢的に遊びたいお年頃……つーかなんでその年齢で軍に! っておもったが純血種なんてだいたいどこか天才めいたやつが多いのだ。十歳で大学出てます、といっても僕は驚かないだろう。さっきはおかしなあらゆる意味で規格外、粘着質な純血にあったばかりだし。
 家族連れや足早に過ぎる外来の社会人などを見て、どうしようと思う。周囲は大規模なフランチャイズ店があり、十階建て以上の建物に様々なものが詰まって、それに宣伝用のスピーカーからは音楽やなにかのラジオ番組まで聞こえてきてそれに各商店の呼び込みがBGMとして重なる。とにかく僕はなんとかまた足を踏み出すのだがそろそろ限界を向かえそうだ。
 夏の熱気に誰もが暑そうな顔をして通り過ぎていくそろそろ正午。道行く人も服装が開放的なことなのはいいがこのクソ暑い中なぜ屋内に入ろうとしないのだろうか。この辺が日本人とのちがいだろうか、ああもうどうでもいい。
 人ごみを掻き分けながらPDAをみつつ、また大きな街路を曲がる。
「早くここから出たい……」
 足を踏み入れて三十分少々で人酔いしてる僕だった。弱。いや、ここが特殊なんだ、見渡す限りティーア系とかありえないし。……うん多分。
 僕がまたPDAのティーアプレイに目を移してみると、高杉はトーラスの外、蓮桐は外延付近、そして、蓮杖が僕の位置と重なっていた。
 ……あれ? この辺にいるのだろうか? さっきは二百メートルは離れていたはずなのに。
 僕がT字路の交差点、とも判別がつかないほどの人ごみの多い中で辺りを見渡す。額の汗で前髪が張り付くのをハンカチを出してぬぐい、喧しいほどの喧騒の中、辺りを見回した。
「あ、お兄ちゃん!」
 その声はそれなりに遠くから聞こえたので誰かが家族を見つけた声なのだろう思った。
 だが、
「おにいちゃん! ちょっと!」
 僕はだんだん近づいてくるその声に思わず振り返る。呼びかける声は連呼しながら明らかに僕に近寄ってくる。
 人ごみを掻き分けてその顔に満面の笑みを貼り付けて僕めがけて走ってくる女の子がいた。
 黒の肩紐で着るチュニックのワンピース一枚で裾にはフリルがついている。それに二の腕までの同じ黒の長手袋に手首には何重かの銀のリング。華奢な体躯に右足太ももに何かのベルトが巻きついていて足首にも片方だけファッションなのかリングがはめられており、スニーカー。全体的に白い素肌に映える眩しい格好で実に可愛らしかった、のだが。
「やっと会えたねー!」
 そう言って近づいてくる少女、どう見ても蓮杖祀だった。背中まで届く長髪を左右でオレンジ色の髪紐で括ってツーサイドアップにしている。証明書では金髪ではあるが、その先端が金髪から幻想的な薄い赤色に変わっていてそれが目を引く。
 右手を僕に対して振りながら、あははと笑う彼女はなぜかこの暑さのためだろうか、それとも熱中症になりかけの僕の脳みそのせいだろうか、きらきらと周囲が輝いているようにすら見え、その彼女だけが僕に達するまで特殊相対性理論真っ青なスローモーションにさえ幻視して、
「お・に・い、ちゃーん!」
 と、彼女は僕に抱きついた。なぜか助走付きで。
 否、タックルをかました。
 擬音でいうとドーン、というとこかドカーン、だろうか。ドッカーンでもいいと思う。
 彼女はフットボールのスクラムを組んで突っ込んでくる野郎共如く僕を抱きしめた勢いでそのまま数メートル吹っ飛び、そして僕は石畳に背中と頭を盛大に打ちつけて一瞬意識が飛びそうになったが目の前というか僕の上に乗っかっている少女の重みですぐに現実に引き戻される。頭の片隅で、ああ、今日頭打ったの二回目だな、と思い浮かんだ
「もう! クリスちゃんのとこに先にいくっていうから暇つぶしにちょっとお友達のバイトの手伝いしてたら会いそびれそうになったよー! 会いたかった!」
 そういう彼女に、アレそういえばなんで僕はお兄ちゃんなんて呼ばれているんだろう、なんで僕がくるって知ってるんだろう、というか僕はなんでタックルされたのかな、というかこの状況はなんだろうとさめた思考で、愛情表現が日本離れした蓮杖祀にがくがくと襟首をつかまれて頭を揺すられていた。
 真直で見ると釣り目の整った相貌でやはり年相応の顔立ちを満面の笑みで満たしている。
「はじめまして! 蓮杖祀です」
 そうか離れろ少女重し暑い、とは言えなかった。

 

 

                         *

 

 

 正午だということもあってか、食事目当ての客の耳障りな喧騒と飛び交う客引きが交じり合い、遠くから聞こえる霧笛と自動車の走行音がそれに乱雑さに拍車をかける。そろそろ中天に差し掛かろうとする溶岩のような真夏の太陽は石畳を行き来する人々を艶やかに浮かび上がらせ、その様子を僕は実に夏らしくいいなと思った。
「ふぐ! ふぐぐっ! ほおおー! おおー!」
「……」
 目の前の少女を除いて、だが。
 金と紅の目を見張る荘厳な色のツーサイドアップの髪を揺らしながら一心不乱に大盛りのアイス付きカキ氷を食っている少女――蓮杖祀を僕はじっとりとした目で見ていた。


 数分前、僕にタックルをかましてがくがくと頭を揺らすのを止めさせ、僕は頭と腹を摩りながらなぜか擦り寄ってくる蓮杖をいい加減立たせたところで自己紹介した。
 とはいっても先ほどの言動だと久世さんから聞いていたらしく、
「待ってましたよー! 時津彫お兄ちゃんが来るのを! わくわくして昨日は眠れませんでしたー!」
 とにこやかに言うものだからまずなぜお兄ちゃんなのか、と問いただそうとしたところ物凄い腹の音が蓮杖から聞こえた。
 そして一瞬にして今までのテンションはどこへやら、その音に元気を吸い取られたかのようなか弱い少女はうな垂れ、お腹を白くか細い両腕で押さえ、今にも泣き出しそうな哀願の顔で僕を見上げると、
「……お腹空きました」
「……」
 そんな顔されても。
 というわけでそのまま近くにあったオープンレストランへと直行と相成った。


 そして現在に至るのだが、蓮杖はアホみたいに食べる。食べまくる。まるで自動機械のようにいちいち大仰なリアクションをしては目の前にあるものを口に入れていく。しかも食事はパスタだけであとはほとんどデザート。まさかここのレストランのメニューのデザートを端から端まで食う気じゃあるまいなこの娘。僕が払うような雰囲気になってるけどさ!
「この舌に乗せた途端に氷雪のように溶け消える氷と甘さを控えたシロップの絶妙なバランスが、バニラビーンズをふんだんに使ったアイスを引き立ててとてもいい仕事していますね! それに下層のクラフトはワッフル地にメープルシロップとはこれはやられました。冷たいアイスの後に舌を休ませるこの演出! いやーここのシェフにチップ上げたいぐらいですね! ほおおー! またこめかみにきました」
 じゃぁいますぐやってこいよ、と言いたかったが蓮杖はすぐにカキ氷の下層を切りくずさんとあっちの世界へと戻っていってしまう。いちいち料理番組のレポーターばりの感想を誰に言っているのか疑問で首を傾げるぐらいに思うのだが見ている限りでは彼女意識しないで普通に独白しているようだった。
 レストランにはいるなり、なぜか外のオープンの最前の席に案内され―いつだったか見栄え良いカップルはそこに案内されるとか聞いたことがあるが―冷房が効いている屋内のほうがいいと思ったが、足元からの冷房、フットエアーが完備されていたので黙っておいた。そのままなし崩しに注文を決め、蓮杖は最初こそ元気はなかったが、食べているうちに段々テンションを取り戻して色々聞くに聞けない状態、という感じになったわけだ。
 僕は自分の分の食事は終わっていて、食器も下げられ、食後にだされたアイスティーを渋い顔で啜って溜息をつき、横の往来へ目をそらす。
 車道並みに広く取られた歩道はそれでも溢れる人の往来で埋め尽くされていた。時折走り去る自転車や電動バイクが生ぬるい空気をかき乱していく。そして――この飲食店街は自分がいる店のようにオープンカフェ式をとっているようで同じような道沿いで食事している客を目に出来るが、ここはひときわ違うとひしひしと感じる。
 通り過ぎていく人たちが遠慮なしに躊躇なく、僕達を見ては物珍しそうな目線を残していく。例え僕が物憂げな視線を送ってもそれが絶えることはない。人ごみが極端に苦手というわけではないがこんなに見世物のように視線を受けるのは疲れてる状態の僕の精神にとって大変気分がよろしくない。むしろ――彼らの視線には物珍しいという物以外に――敬意、といえばいいのだろうか、尊敬のようなものが混じっているような気がした。
 まぁ、言わずともわかるように、蓮杖祀が視線をあつめているわけなのだが。純血にしても金色ではなく珍しい金紅色に幼い容姿、それが一心不乱にカキ氷を食いながら見てくれ二十歳の男性と一緒にいるんだからそりゃだれでも目をとめるよなぁ……、とか僕はほとんど他人事の域で考えた。
「あ! ウェイトレスさんこの特製パフェ、って言うの下さい」
「ちょっとまって蓮杖さん!」
 僕は物凄い勢いで首を戻すと、いつの間にかにカキ氷を食べ終えた蓮杖がメニュー越しに不思議そうに僕のほうを見てくる。まだ食うのかこの娘。彼女の碧眼にはなんでしょう? という色が浮かんでいた。僕が眉間の皺を指で押さえながら発言しようとしたとき、
「あ、わかりました」
「え? ああ、それなら話が――」
「時津彫のお兄ちゃんも食べたいんですね! 大丈夫ですよと特別製なので大きいですから一緒に食べましょう」
 そうじゃねぇよ……。
 思わず口にしそうになった言葉を飲み込んで、思いっきり拳を固めてから思いっきり嘆息した。ここまで疲れるキャラクターは初めてだ。
 そんな僕にはお構いなしに蓮杖はウェイトレスにはきはきと注文を済ませると鼻歌交じりに僕と同じアイスティーのストローに口を添える。
「えーと、あのさ蓮杖さん、そろそろ話してもいいかな?」
 僕はいうとまたキョトンとしたリスのような目で僕を見つめてくる。
 そんな不思議なこと言ったか僕。
「お話ですかー、あ、えと敬称はつけなくていいですよ。私のほうが年下なのでお兄ちゃんに悪いです」
「あ、そう、いやじゃなくてえっと、蓮杖はなんで俺のことお兄ちゃんって呼ぶわけ?」
 とりあえず根本的なことから振ってみた、っていうか話しにくいしい。
「えー……お気に召しませんでしたか?」
「いや、そういうことじゃなくてさ……」
「それは年上だからですよ」
「……」
 不思議な文様がはいった長手袋を両頬につけてふふふ、と含み笑いをした。アクセサリーの銀製の腕輪が涼しい音を鳴らす。可愛らしいんだが憎らしいんだが良くわからなくなってきた。あーいらいらしてきた。
「冗談ですよー。私、兄弟がいないので時津彫さんがそうだったらいいな、って思っただけです」
 ふーん……。よくわからない。
「なのでお兄ちゃんと呼ばせてください」
「断る」
 即断してみた。どういう「なので」なんだろう。蓮杖は不満そうにえー、と口を尖らせる。
「じゃあさあ、久世さんとか普段なんて呼んでる?」
「クリスちゃん」
「まんまじゃねぇかよ」
 お姉ちゃんじゃないのかよ。突っ込みが声にでちゃったじゃん。それでも蓮杖はふふふ、と両手を口につけて笑っている。
「私、ここ生まれ育ちで中央に住んでますから。あんまりお友達とかいないんですよねー。だからこういう警備しながらほかの人とお話できるのが嬉しいんです」
「そっか」
 なんだか不思議な話だ。このトーラス自体がティーアを閉じ込める役割をしているというのに、さらに閉じ込められているような少女がいるというのは。
 そんな僕の思考が顔に出ていたのか彼女は慌てるように言う。
「あ、もちろんわかってますよー、そういうこと。色々。でも私にはここは大事な場所なので、そういうことは二の次なのです。大事なものを守るということは大変ですけど、それがお仕事ですし楽しいですから」
 そういって細い両手をぶんぶんをふりまわす蓮杖は年相応に見えて微笑ましい。最初はぶっ飛んだ性格かとおもっていたけど以外に理性的で分別があるのかもしれない。
「とりあえず……お兄ちゃんは無しな。俺はさん付けにしてくれ」
「ふーん、ちょっと面白味にかけますがわかりました」
 呼称に面白味を求めても詮無いと思うんだけど。漫才でもやりたいのか?
「それで、ていうことは、このトーラスの成り立ちとか役割とか、そういうの全部知ってる?」
「そりゃもちろん! 法化制圧部はエリート集団ですからね、そのぐらいの基礎知識はないと」
 ……エリート集団? 初めて聞いたぞそんなこと。そんな疑問がまた僕の顔に出ていたのか、
「あれ、クリスちゃんから聞いたんじゃないんですか?」
「……聞いてない。だいたいしか」
 あの金髪ものぐさ女め……。僕のこと探るだけ探るようなことだけいって全然説明してないじゃないか。教育係じゃなかったのかよ。
「んー、クリスちゃんは優秀ですけど自分の興味があることだけしか行動しませんからねぇ。わかりました! 私がささっと大体の補足説明をさせていただきます」
 あれで優秀なのかよ久世さん……。僕的信用度はゼロに近いのだが。
 そしてよろしくお願いします、と蓮杖に深々と頭を下げられたので僕も習う。そんな奇妙な二人組を好奇心いっぱいの視線を浮かべたウィトレスさんがタイミングよく来て、例の特製パフェとやらが来た。
「おおー!」
「……」
 でかい。いやなんというかこんな盛っていいのだろうか、これは食べ物で遊んじゃいけませんレヴェルじゃないのか? と躊躇するぐらいでかかった。
 綺麗に食器を下げられた円形のテーブルの中央に大よそ五十センチはあるだろうデカイパフェが鎮座していた。器は金魚鉢をちょっと小さくしたくらいで下層はコーンフレークが何十とあり、上層はバナナやらパイナップルやらヨーグルトやらがこれでもかというぐらいデコレーションされていた。
「んー。意外に小さいですね」
「え? そうなの?」
「? そうじゃないですか?」
 やばい、蓮杖と僕との価値観には日本赤道海溝並みの溝がある。
 その蓮杖は鼻歌交じりに――もう立たないと届かないので――頂点のアイスクリームを適当に平らげると、丸いパイナップルとさくらんぼ、りんごを何個か横の小皿に載せた。
「はい! ささっといきますよ」
 ……ささっといきたいのはパフェたべたいだけじゃないのか。
「んーそうですね、まず時津彫さんはクリスちゃんからどのくらい聞きました?」
「うーん、とりあえず依然戦争は続いてること。トーラスの住民はほぼ軍関係者。トーラスは人種保護の目的じゃなくてそれを名目にその戦争のために国か政府かが、ティーア系を集めて戦争させていること。その代償に自分らが守り、国が守ってくれていること。僕の所属組織は法化制圧部であること。久世さんが科学でおかしな現象をおこしたこと、そんなあたりかな。あとなんか実戦っぽいことはやってないとか。ちょっと俺の推測入ってるけど」
 僕が彼女のまとまらない言動を思い出しながらなんとか要約していく。それに伴い彼女の顔も思い出されるのだが顔だけはいいんだよなぁ。まったく。抜けてるとこは……ないよなうん。……多分。
 それを聞いて、なんだか無心にパフェの天辺あたりを食べていた蓮杖がふむ、と大儀そうに息を漏らして頷く。
「ほとんど表面しかはなしてないんですねー、いやークリスちゃんお茶目すぎます」
 表面しか話さない説明役がお茶目っていうのもどうよ?
 僕は何度目かの嘆息をする。
「とりあえず抜けているとこからお願い」
 蓮杖は満面の笑みを浮かべながら僕の声に答えた。
「まず基本的なことですが、先の大戦についてどれくらい知ってますか?」
 ――先の大戦。オセアニア大戦のことか。アウストラリース共和国を主軸としたオセアニア連邦が起こした南北の大戦。
「史実程度しかしらないな。南のオセアニア連邦が主に火星移民などの技術、月、及び惑星などの宇宙条約で大洋機構会議で断って、その大統領が暗殺。連邦内で批判が高まって戦争。最後には例の『謎の大爆発』で赤道から連邦全土が被害を受けてなし崩しに戦争が終わった。そんなところかな」
 実際のところ、十年戦争や赤道越境戦争など様々な呼称があるこれは謎が多い。オセアニア連邦大統領はなぜ拒み、なぜ暗殺されたのか。なぜ戦争を始めたのか、爆発が起こったのか。三百年たった今でも謎だらけなのだ。
「ふーんちょっとそれは抜けていますね。大筋はそうなんですが、その間とその後が重要なんですよ」
 間と後? 戦時中と戦後、ということか。
「戦後はあれだろ? その、なくなりかけた人種の保護を世界各国が保護してそこに収まった」
「うん、そこが違うんです。戦時中、その前にも連邦内は随分荒れていたようで、反動勢力、レジスタンスなんかがいっぱいいたみたいなんですね」
 そう言いながら小皿にパイナップルの輪切りを置く。その真上にさくらんぼを数十個。間に爪楊枝を一本。
「連邦の戦争に反対する人たちは『各国へ、自分達の技術交換、既得権益を相互に享受するということを条件に亡命を希望した』んです」
 そう言ってパイナップルに数本の爪楊枝をさす蓮杖。おそらくパイナップルの輪切りが連邦、間の爪楊枝が赤道で刺さってる爪楊枝が亡命希望の反対勢力ということだろうが、食べ物で遊ぶな的な思考が浮かぶ僕はまだお子様なのだろうか。
 ――しかし、亡命。軍閥政権で内乱が絶えない国だったとは聞いたことはあるけど。
「ですがもちろん戦争中ですからね、交渉は難航して戦争末期には多くのティーア系が海外にすでに渡っていたと聞いています。そしてあちこちに小さな亡命政府も出来始めた頃――あの巨大な爆発でアウストラリース大陸ごと連邦はほぼ瓦解したわけですね」
 そういってパイナップルを爪楊枝で切り刻むと周囲のさくらんぼに爪楊枝を突き刺す。
 でもなんだかそれでは話がおかしい。
「亡命するにしても自分の身売りなら『交換』なんてことでまかり通らないだろ? 相手にとって見れば自分家に勝手に上がられるようなものなんだからさ」
 そういうと紅色の髪の先を指先でくるくると遊びながら蓮杖は微笑む。
「いってみれば能動と受動です。確かになんのうまみもない他人を自分の家に入れるわけがないですが、ティーア系人種は長い目をみてもそれ以上の利益を生み出すと何千年以上前から見られてきた、ことはわかりますよね?」
 ああ……そういえばそうだった。ティーア系が一つに集まり、世界と対等に渡り合えたのには一重にあの尋常じゃない運動能力と技術力だった。
「あっちからほしいと言って断られていたものが、急にむしろこちらからどうぞと言ってくるなら断る必然はどこにもありません。あくまでティーア系は望まれて迎えられた、受動的だったんです。そうやって世界に広がっていき、ティーアの要求通り、このような人種保護の地域が作られたわけです。そしてもっというとティーア系の要求はその土地における治外法権や領事裁判権をもった、主に主権と権力をもった保護地です」
「それって――」
 つまり自身の法律で統治して自身の判断で外交まで行える、言ってみれば――
「国、じゃないか」
「そうですねー」
 そういうと蓮杖は立ち上がって天辺のアイスを小皿にかきわけながら、
「そこがこのトーラスの実情なんですよー。トーラスはその国々に保護されたただの地域、土地じゃなくて、『世界中に点在する国』いってみれば群集国家、なんです。だから大規模な軍隊やその機能にしたがってそれぞれのトーラスに特色があるんですねー」
 よいしょっと、とおばさんくさい掛声ですわると山盛りにもったパフェを嬉しそうに食べる。見てくれは十二歳だからなぁ。可愛いといえば可愛いけど。
「戦前の戦争反対の人たちが、連邦が自滅するかどうか知っていた上での行動だったのかは、ついぞわからないままでしたが。閉鎖的らしかったですからねー。はい、そして国によって違うんですが、ここ、日本のトーラスは機能ごとに八つに分かれていて、ここ東海は軍を主に担当しているんです。担当というか、ただ軍関係者が多いってだけで皺寄せが来てるだけですけどねー」
 ふふふ、と軽やかに笑う蓮杖。
 しかし国としてここにあるなら、
「トーラスは戦争を強いられているのではなくて――自らしているってことか?」
 おお、と黒い手袋に包まれた両手で拍手する。もちろん音はでないが。なんだか仕草が可愛いので馬鹿にされている気分はしない。
「そこのへんがクリスちゃんが言わなかったことですねー。さっきのが大よその保護地の成り立ちで現在の役割――それが各国に戦争終結後に現れだした連邦からの攻撃に対抗するのがこの保護地の役割なんですね」
「でも連邦はあの爆発で、」
 むしろ、ブラックホールのような、とでも言えばいいのかあれで文字通りなくなった、はずだ。
「でもさすがに復興して小国らしきものは確認されています。うん、まぁ攻撃手段も限られてますし、それが保護地設立の促進にもなりましたけど、未だに成立していな国もありますし――とにかく戦争をしているのは、このトーラスという国であって日本国じゃないんです」
 なんだから煮え切らない感じだったが、久世さんの「戦争は続いている」の意味。それはティーア系の国だけがまだ戦争が続いているという真相とその意味だ。そして、保護地の国が関与していないということは、
「連邦、というかもうないからあっちの敵っていえばいいのかな、それがティーア系を狙ってきているってことか。だから国は保護地を対等以上に見て土地を割譲、物資補給して、逆に言えば、保護地は国を守っている、ことになるのか」
 なんという共存共栄。技術提供だけでもなく、対外からの敵からも守っているのだからトーラスのイニシアチブ、発言力は大きいのだろうな。あれ? でも、
「なんで保護地だけが狙われるんだ? そもそもそれだと同属間の争いになるんじゃ?」
 その疑問にも蓮杖は気づいていたらしく、難しい顔をして先のさくらんぼを口に入れる。
 ティーア系の特質としては異常な団結力、人種至上主義とでもいえばいいのだろうか、自分の民族以外は認めず、自分達が一番優れた種であるとかそういった思想があった。またそういった宗教も今もある。だからこそおかしい。さっきの話からすると禁忌に近しい同族で争ってることになる。
 その辺を話すと急に蓮杖は歯切れが悪くなり、
「うーん……、そこは後々でって彩夏ちゃんにもいわれてるんで、私からは詳しくいえないんですけど、とりあえず今は保護地だけが狙われ続けているとしかいえません。でも国ごと狙われるケースもあるので一概には」
 ごめんなさいというふうにやっぱり深々と頭を下げるので僕もあわてて下げてしまう。なんだか調子が狂う……。
「それで一応、最高意思決定権は統括府理事会というのがありましてぇ、各トーラスに数人、また数年に一回、クニドスで秘密で開催される統括最高理事総会とかがそうです。理事と議員がいて主に中央会って通称で呼ばれてます。まあー、大体こんな感じですねー」
 そういって今度はパフェの切り崩しに専念し始める蓮杖。だいたいの現状と仕組みをわかりやすく教えてくれたのは久世さん以上に感謝極まりないが色々疑問も残った。だけどそれは今聞くべきことじゃないだろう。
「あのさ、それで法化制圧部についてにようやく戻るんだけど」
「ああ! 忘れてました!」
 パフェの世界に突入しそうになっていた蓮杖を呼び戻すのはなんだか忍びなかったが。
 本当に忘れていたんだろうな……そんな口にアイスつけちゃって。
「法化制圧部は主に対人強襲、及び対外防衛を前提とした特殊部隊組織です。つまり私たちがその戦争とやらをやっているといえばそうなります。だからこそティーア系の中からも優れた人が選ばれてトーラスに配置されているんですよー」
「へぇ」
 ふふん、とあまり成長していない胸を張る蓮杖だが口の端のアイスをふき取ってほしい。僕が手を伸ばしてふき取ってやると「ふぐぐ! ふぐぅ!」とかなんとかおかしな声を出して身をよじらせた。くすぐったかったらしいけどいちいち反応面白いなこの子。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
 もうお決まりの頭を下げる挨拶。
「それでこのトーラスは第八区まで分かれているのはご存知ですよね? 番地では『地区』呼称ですが、区分けになると『区』扱いです。この八区に一部隊ずつ法化は配備されているんです。構成は数人から多くて十数人。ここの第五区法化は現在、時津彫さん含めて六人、です。まぁこの位普通ですけどね」
「……」
 え? 少なくないか? ということは久世さんのところでも推測したようにつまり――
「逆にいえば、その程度の人数がいれば、この戦争とやらは事足りるってこと?」
 大規模な兵器はいらない。大きな組織すら不要。ただ少数精鋭がいれば成立する戦争。
 蓮杖はそれに随分困ったようにんんー、と腕を組んで唸ると、
「そこもあんまりいえないのですが、ちょっといっちゃいますとその通りで、敵さんは初期の頃から数が少なく、数人いれば対処できてしまうような状況だったんです。だから今こういう体制になってるんです」
 そうすると、やはり敵の動機がわからない。敵の動機というかこの戦争の動機、と言えばいいのか。同族殺し――それが目的ではないだろう。
「うんまぁ……わかったよ。あとはその彩夏さんとやらから聞く。それで特殊部隊というからにはなんかすんごい訓練とかするの?」
 結構そこをいえば経験者な僕。
「いえ、特別なことはしません。ご存知の通り私たちはそれだけで強いですから、対ティーア系だけに絞って対策していればいいんです」
 それだけで――強い、か。久世さんの消えるような移動。まったく疲れていないような持久力に腕力。それに、
「あの、科学がどうたらこうたらってのか?」
「そうですよー。私たちがやることは、それを実現させることで肉体的訓練よりも研究が優先なんです」
 研究、ね。そこまでいくと特殊部隊というより部活動な感じをうけるがティーア系はデフォルトで他人種を凌駕する身体能力を持っている。もしティーア対ティーアならばなにか別のものがものをいうことになるんだろう。
 久世さんが言う「個人個人にもよる」という言が頭を掠めた。
「ティーア系は確かに筋力訓練をしてもそれなりに強くなれますが、先天的にすでに一歩抜き出てる人も何人もいるんです。ですから基礎としてその科学的なものを全員に使えるようにしたのが今の主な体制ですねー」
 あのクリスちゃんとかそうですよー、と自慢げにいう蓮杖。まぁそういえばあれは成長途絶者だったな。いやわからないか。
「あの久世さんて成長途絶者なのか?」
 僕はすっかりぬるくなったアイスティーで口を湿らせ、大方「ささっと」話終えたらしい蓮杖はパフェに食いつきながらどうでもよく言う。
「ですよー。ワイズマン症候群、先天的不老化病、GUB症候群とかいろんな名前がありますけど、ご存知の通り、先天的疾患で成長が止まっちゃうんですよ。逆のケースもありますけど、私たち純血者には多くいます」
 ふぐ、とさらにとったヨーグルトを口いっぱいに運ぶ。
「ちなみに久世さんて何歳?」
「ん? 二十三歳ですよー」
 ……やっべぇ。僕普通に年下だと思ってたよ。年上とか冗談だと思ってたし。僕より五歳も上だったのか。
 なんていうか、ああいう性格になるのはなんだか納得がいった。みてくれ十六、七歳でとまれば捻くれもするだろう。もっとも性格がひねているということ前提になっちゃうけどま、いっか。
 とすると――
「あ、私は普通ですよー。純血ですけど十二歳です。はい」
 僕の視線に気づいたのかえへへ、と笑うとまた食事に戻っていく。
 一心不乱とまではいかないが、わき目もふらずにパフェを食べる蓮杖を僕はただ見つめていた。金紅色の髪がゆれて白くて細い、その年齢にあった体躯がなんだか儚げに見える。
 すでに真上を通り越した太陽はやや斜めからの赤い日差しを地上に降り注いでいて、店員が日よけのカーテンを歩道沿いのフックに掛け始めた。まだ喧騒は途切れず、それに耳を澄ましながら思い返すと思えば長く話しているようでそれほど長くもなく、だけど短くもない会話だった。つまり言えば、内容が濃すぎた感がある。
 何か少数の南の敵と戦っている蓮杖たち。そしてそこに入った僕。それを利用している国、それに統括府理事会の面々。
 僕は少し溜息をつくと日よけのカーテンから見える高層商店街をぼんやりと見る。陽炎でゆらゆら揺れるそれはなんだか僕の思考そのもののようだ。きっとこの法化の面々にもいろいろ事情があり、そしてこの保護地――国の人たちも様々な思いでここにいるのではないだろうか。誰もが望む国や思想でいられないなんてわかってるけど、そこに政治とか利益とか絡んでくると考えるだけで萎える。
 人は人だけを思うことは出来ない――のだろうか。
「なんていうか」
 徐に、蓮杖がすでに皿にわけたパフェを食べ終えて水を飲んでいた彼女が、言う。
「ん?」
「時津彫さんってなんていうか飲み込みが早い、というかこう言うとなんですが諦めが早いって感じがしますね」
 それは――あの金髪の少女、じゃないか彼女にも言われた言葉。
「うん、まあ、諦めたほうがいいことには越したことはないけど足掻くよりはいいからさ」
 奪うより、奪われたほうが楽。ただそれだけだから。
「外の軍学校で教習うけてらしたんですよね。外地は危険ですからねー。ティーア系を目に仇にしてる組織はたくさんいますし専用のカウンターテロ、特殊部隊もいますからねー」
 専用の、ねぇ……。
 ふーん、と蓮杖は手にもったグラスを弄ぶ。
 だから僕も徐に聞く。
「蓮杖ってまだ十二歳ってことは学校いってるわけ?」
「え? あ、はいまだ学生やってます」
 驚いたことに学業を兼業していらっしゃる部隊員だった。
「えっと小学校?」
「いいえ、スキップ利用して今は第六地区大学校の高等三年生です」
 ……なんていうか。咄嗟に勝ち組、負け組みとか思い浮かんだ僕はこの年齢でおっさんなのかもしれない。ていうかこの容姿で高校生か。それはまぁ……。
「というか一人除いて全員学校に通われていらっしゃいますよ」
 なんてこったい。本当に部活じゃねぇか。
「ああ、でも基本研究するためですから。研究というか自分の理論を確立するといえばいいのか、そのために所属してますねー」
 そっか、と僕は彼女に微笑んで見せた。
 久世さんがいった、「僕がここにいる理由、君がここに来た理由」とやらの言葉がようやくわかった気がした。久世さんがここにいる理由、ね。
「蓮杖はさ、」
 ちょっとこれは聞きにくい。だからすこし歯切れが悪くなる。
「それを全部飲み込んで、俺見たく諦めているわけでもなくてここにいる理由って、なんだ?」
 僕の質問に少し悩むような仕草を見せるとやはり手元のグラスの水を揺らしながら答える。
「そう、ですね。私にとってここは家であって大好きな場所であって。ここで生まれてただここでずっと育ったからというだけじゃなくて、ここに住んでいる人たちが好きだから、多分だからここにいるんだと思います」
「う、ん」
「それに、」
「?」
「人種とか、そういう戦争とかに捉われないで考えるのももう一つの答えだと思いますよ。国や組織じゃなくて、人があってそして分かり合えるんですから」
「あ……」
 なんだか――見透かされたような気がした。でも自然と腹は立たない、いや立つ以前に同じようなことを言われた錯覚に陥った。彼女は本当にただここでの生活だけで、例え戦闘があったとしてもそれだけで楽しいのだろう。ただそれが彼女のいる理由。正直――そんな単純な理由じゃ僕は納得できない理由、だった。
「あ、すいませんなんか偉そうなこと言っちゃって、」
「『世界は星と人で満ちている。ただそれだけで素晴らしい』」
 唐突に言った僕の言葉に蓮杖が首を捻る。
「誰の言葉ですか?」
「んー……俺の大事な人が、ちょっと昔に俺に言ってくれた言葉」
 そうですか、となんだかほっとしたような表情を蓮杖が浮かべた。
「素敵な言葉ですね」
「ん」
 そういう蓮杖がなんだか年相応以上に大人びて見えたので腕を伸ばして鼻をつまんでやった。まだ滑らかな皮膚を保った柔らかい鼻梁に少し驚く。なんだか年上の久世さんにすら見せなかった内面を、年下の蓮杖に相談したような気がして、それがなんだか負けたような、そんなくだらない気持ちがあって。だからちょっとしたこれは小さな反抗、悪戯だ。
 鼻を挟まれた蓮杖は「はにふるんでふかー!」と目を思いっきり瞑りながら手足をばたばたさせる。やっぱこうしてみると十二歳だよなぁ、と勝手に観察していると、片腕を伸ばしてきた。でこぴんでも食らわせる気か、と思って顔を引くと、
 目の前に銃があった。
 本当に何の前触れもなく。ただ本当にそこに当たり前のようにあったかのように。
 フォルムからしてグロックだろうけど見たことのない形だった。質感もその存在感も確かに蓮杖の小さな手に収まっていて、それが逆に不釣合い。銃の表面は黒くガラスのように光を散らしていて白い蓮杖の右手と対照的だった。
「え? うぇ?」
 思わず変な声を出してしまう。でこぴん所か鉛球を食らわせられてしまう。冗談ではなくて。急な展開に思考が追いつかない。
 どこから出した? そもそも蓮杖はワンピース一枚でこんなごつい銃をどこに。
「もー! 急に何するんですか! 思わず作っちゃいましたよ、本当に」
 なんだかちょっとご機嫌斜めな口調でそういうと、銃を僕の眼前から離して上に銃口を向ける。
「あ、すいません、驚かれましたよね。ちょと今消しますんでー」
 僕の返答とか質問とかそういうのを抜きにしてとっとと進める彼女。
 蓮杖が左手で銃のバレルを掴むとずぶり、と、銃に両手がゼリーのように進入して、『銃がまるで雪の結晶のように空間に散っていった』。
 その時間わずか数秒。注視すらできない速さ
「それって……」
 僕がようやく声をもらすと、ああ、とようやく蓮杖が気がついたかのように、
「言うの忘れてましたね。これがさっき言っていた研究、ティーアがティーアより一歩抜き出るための技術です。IEディファイン、主に干渉とか魔技とか魔希って言われてるものです」
「干渉……」
 あの久世さんは確か徹底した科学理論に基づいたものといっていた、あれか。
 出鱈目だけど、出来るようにする。
「自己臨界性限界っていう定義が全ての根底に使われていまして、えーと、説明すると難しくなるので簡単に言うと、例えばクリスちゃんは音に、干渉していて、私は粒子線に干渉して不可能事象を起こしてるんですよ」
 ……正直言うと、それを聞くのは「二回目」だった。
 それの定義を聞くのは、二回目だ。
 でも蓮杖はほぼ溶けただけのパフェをつつきながらにっこりと笑い、
「じゃ、ささっと簡単に説明しますねー」
 そう朗らかに言った。

 

 

 

 

 

 

I surely fight for her if I go to fight.

 

 

はいきっちりひきましたーなんでやー。

 

どうにも気温があがった21日ぐらいからやたら痰がでて昨日ぐらいからな~んか体調というか吐き気?があってぐらぐらゆれる?で

今朝はもうあかんですよw体がぐらぐら揺れるわ(ウィルス性の感染症に見られる震戦)、痰はずっと黄緑色のでっぱだわ、吐き気するわで半日でかえってきました。

 

いやね、入院前はウがい薬でかかさず予防してたんですよ。が、なんと甲状腺異常の人はうがい薬つかえないんですよこれがw

 

理由としては消毒成分の主体はヨード(ヨウ素)なので、甲状腺異常に限らず、ヨウ素過敏症のひとはうがい薬使うのは相対禁忌になっているんですよね。俺の無痛性甲状腺炎は橋本病がベースになってる甲状腺低下症なんだけれども、まぁ、すくなくとも呑んじゃうよね?w薬。それの蓄積で病気が悪化するからやめてね。ってことね。

まぁいまはアズノールとかヨウ素使わないやつがあるからべつに深刻になるひつようがないけども、選ぶ時はきよつけようねって話。

 

あーあ、つことでまだインフルがはやってるんでとっとかえってきてぼうーとしてます。インフルじゃありませんようにw昨日あたりに葛根湯のんどけばここまで悪化しなかったのになぁ・・・。薬のんで吐き気は落ち着いてきたんであとはちゃんと食事して9時ね6時おきしてればいいかな。

 

あ、金のベンザめっさきくもう眠いwつか基本からだよわいなぁ。昨年はこの風邪を無痛性甲状腺炎しらず病んだからなーw寝ます。

気温が32度で花粉が飛ぶとかどういう地獄。

 

あっついわーほんまあっついわーなんでやわー

 

赤道の気温が上昇しっために南側の高気圧がおしあげられただの、北極圏の気温が上がった為にそれがこっちにきたっだの。

んーそいや今年って観測史上初の最低気温とかなかったっけ?w

あああ~暑いの嫌いなんじゃ~~このまま冷夏でおわってほしい

 

厚焼き玉子。

 

うーんインスタばえしないw

久しぶりにつくるとぐちゃぐちゃになるねー

ああ、猫になりたい(ry

 

めっちゃあつかったけどんーまぁそれほどでもなかったなぁ。

しかし疲れた。というか記事編集しててめっさ首痛い寝たい。

 

小説の手直ししないといけんのだけど、最近時間がなさすぎてあんじゃこりゃー状態 ぇ

宅配料理たのもうかなぁ。

 

 

欺瞞を渡し正義に変えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 測るとはいっても、必ず久世さんのほうからの仕掛けを待つ必要はない。
 木刀の切先越しに見る彼女の目は油断なく僕を見据え、さらに迷いはない。やはり、先手か。
 彼我は十メートル、歩数にして約八歩を――二歩で僕は肉薄した。最後に踏み込んだ左足でトップスピードにのりそのまま右手だけを真正面に振り下ろすことでそれを可能にした。半身であるから背中側である右へ逃れるのを警戒していれば問題ない。片手を抜いた片手面――
 しかし、彼女はこの絶妙な速度にもまったく驚いておらず、むしろ笑みを浮かべると――
 その一瞬、久世さんの姿が消えた。いや、まるで笑みが残像の尾を曳いてどこかへきええたかのような。青い輪郭を残して見失っ――
「遅いな不正解」
 目を集中して視覚を広げると一瞬前を走る彼女の金髪と、僕の左横からの警告が響く。
 左横、つまり真正面。ざわざわ回避位置の背中側ではなく、しかもまったくのノーモーションで僕に知覚できないほどの速度で移動してきた。
「っ!」
 前に振り下ろした木刀の軌跡を握りの力を変えて無理やり真横になぎ払い、腕を交差させ、右足を踏み込み彼女へまた肉薄する。
 そして木刀が彼女の左腕に当たるその刹那、またそこから彼女が「いなくなる」。
「――またっ」
 だが見失ってはいない。円形を描くように今度は背後へ回っていた。後ろに彼女を見、交差した腕から木刀を逆手に持ち変え、回転と遠心力、左の踏み込みの威力を乗せて大上段から打ち下ろす。拳法なら開打という両腕を左右に打ち下ろす動作だ。
 さすがにこれは避けられなかったのか、依然正眼の構えをしていた久世さんは初めて木刀を寄せ受け止めた。腕に伝わる衝撃に自分で呻き、だが久世さんは無表情で顔色一つ変えない。あの移動をして息ひとつ乱していなかった。
 だがそんなことに驚いている暇はない。この異常な速さは「やられる」速さだ。こちらの決め手が必要。
 衝撃によってぶれた握りの空きを利用して木刀を脇に寄せ、地を這うように体を沈ませ回転して足を交差。それを維持したまま、右手を木刀の先端、左手を柄――一本の棒に見立てて――彼女の胸に向かって突き出した。腕の捻りと旋回の膂力が最大の速度で突き出される。
 自分でも納得の最速の突き。
 手に衝撃が来るのと、最後に踏み込んだ足に続いて地に着いた右足の音が高らかに聞こえたのが同時。だが、久世さんはその威力と衝撃を、木刀を胸の前で立て、「刀の腹」という極小のスペースを両手で前に出しただけで防いでいた。
 正直有り得ない、と一瞬硬直する。あの旋回力と突きにしても真正面から受け止めたら吹っ飛んでもいいものを――彼女は飄々とした表情で当たり前のように曲芸のような受け止めをやってのけた。
 純血云々以前に何かがおかしいと冷静さを欠いているとこを――つかれた。僕の木刀を刷り上げながらまるで最初から目の前にいたかのように、息がかかるぐらいの距離に瞬時に移動、僕の木刀を持っている左右の腕に自身の木刀を腕ごと入れてくると両手の五指を伸ばし――、やばいと思った。だから思わずやってしまったのだろう。片手をはずし久世さんの木刀を掴んでいた。
 あとは目視できたのはそこまでだった。視界が一八〇度まわり、さらに九十旋回。天井越しに久世さんの端正な顔が降ってきた。衝撃で脳みそが揺すられ、眼球が安定してようやく咳き込む。
 僕は地に伏して、久世さんが上から僕の木刀を利用して僕の首を押し込み、片手を首の傍を指差すように地に着けている。
 ――そして、吹っ飛んだ久世さんの木刀が地に着くと、僕の抜き手の拳が彼女の鎖骨直前に止まるのも同時だった。
 久世さんは心底楽しそうに笑い自身の吹っ飛ばされた木刀と僕の反撃の拳を交互にみやった。というかまるで金の垂れ幕のような彼女の髪が顔にかかってくる。ていうか痒い、ていうか何気にいい匂いつーか早くこの絞め技といて欲しい、どうなってんだこれ。首だけ絞められているはずなのに全身動かない。
 彼女の金髪が舞い、ほう、という感嘆の声が聞こえ、ようやく僕を解放する。僕は頭を振りながら首を押さえ立ち上がった。
「やるじゃん。僕の移動が見えなかったにしては反応が早い。それに最後。木刀吹っ飛ばしたやつ。単純な技じゃないな。お前、持ってるのか?」
 ……思わずやってしまったけど。そういう久世さんもその「持っている」んじゃないだろうか。
「……持ってるって、何を?」
 それもわからんのか、といった表情で、ほとんどすすり足で一瞬で元の位置に戻り、木刀を拾う。もっともここで言ってもいいだろうが僕自身確信がない時点で言うのはどうかと思っただけだ。
 速い。
 それだけじゃなくとも技術も自分より上かもしれない。
 先の突進のあと、ソックスのままで、正面に回られ、さらに返し刀も回避どころか真後ろに移動されている。そしての状態で攻撃せず、僕の槍術の「拏」――揺れと刺突の一撃を完璧に殺していた。そしてそのまま逆腕絡みだろうか、木刀を利用して体を吹っ飛ばされた感じだ。その直前に僕は彼女の得物を飛ばして反撃の拳を上げていたが。
 速さと経験、か。いやその持っているというものの威力か。
「はあー、ここまでやるとは思わなかったわ。うん以上これで終わり。これだけできりゃ大丈夫だろ。あとはまぁ、補足説明しとくな」
 さばさばとした言動でとっと木刀を壁の元の位置に戻すと、さっさと元のソファに腰掛けてなんだか深い溜息をついた。見た目、少女だが意外に苦労人なのかもしれない。
 僕はそのまま木刀を道場の壁に立てかけるとソファの前にまた正座するのも、試合した後になんだか違和感があったのでそのまま壁に背を預けて腕を組んだ。
「ティーア系ってのはそのありえない異常な身体能力でちょっと工夫すれば別の武器を持てるようになる。武器、というとちょっと語弊があるんだが、ま、蓮桐みたいなのはあそこまで行くとありえないな。人間の域を超えてるって感じ」
 ありえないことを起こす。先の不可解な移動術だろうか。とはいってもなんか道具を使うのか、それとも体術の一種なのか。
「例えば僕の場合は音だ。というか、全員この音というものを基礎にしている。例えば、」
 ソファから下ろした彼女の右足がトンっ、っと軽く静謐な床を叩いた、
「え、」
 そして――なぜか左足から力が少し抜けた感じがした。
「お前物理学は学んだか? 波動力学とか僕のはその辺だ。主に自己臨界性ってのが根底にあるんだがそれもレンに聞け」
 つまり――音を工夫して幻覚とか身体を狂わせるというところか、大雑把に言えばだが。有り得ない、わけじゃない。僕らの人種は生身でそういうことをやるからこそ今でも繁栄しているのだろう。……聞いた話、戦争の要員として、らしいが。
「詰まる所、これは徹底した科学理論に基づいた戦闘方法なのさ」
 そう言ってソファから立ち上がるとまた金の残滓を残して一瞬で僕の横に現れた。そして静かに道場の壁に瀬を預ける。
 移動による風すら起きない。衝撃すら感じない。気配すら皆無。
 これが科学だって?
 ならば消える瞬間には何かあるはずだ。予備動作、いや、予備反応。
「実を言うと法化制圧部のみが全員行える。そして全員が全員それぞれ独自の理論に基づいて様々な事象を起こすことを『目標』としているんだ」
 そう言うと、わずかに背を壁から離すと、

 久世さんの目が細まり――金髪が翻った。

 聞こえた。右足が五回、ムクドリが鳴くような小さな『音』。
「――振動」
 いつのまにかまたソファの定位置に収まっていた久世さんは、緩やかな髪を直しながら僕の呟きにちょっと驚いたようにみせた。
「ん……。まぁ正解? かな。これに限れば僕は空間を振動させ気流の流れを作り主に移動を早くすることに使用している。幻覚とか感覚とかはただの副産物だ。もっとも、ここまで使うのはそれなりに訓練は必要だけどな」
 音によって空気を振動させ、それで足と地の摩擦係数を減らしていたのか。それ以上に空を飛ぶように鍛錬されていたけど。空気中に振動が多いと熱流が生まれて揚力が発生する。
「出鱈目、というか確かに普通じゃできませんね。それをやってのけるっていうことは……」
「まあな」
 それを言ったら僕のやった「あれ」も出鱈目なのだろう。彼女のようにわかってないだけ始末が悪いというか。
 久世さんは誇るわけでもなくそれで終わりだという感じで、ソファの下に手を突っ込んで魔法瓶らしきものを取り出してカップも取出し、まだ湯気の立つお茶を注いで、一口飲んで深々と溜息をつく。
 至福の顔を見ていると本当にそのままにしていれば歳相応で可愛いのに、と思った。
 しかしそろそろ道場の使い方について説法したい気分になってきた。
「普通じゃできない、でも僕らには出来る。だからここにいるんだろ。出来ないから、それがどうしたっていうんだ? 出来ないなら、出来るようにすればいいだけだ」
 ここにいる、か。僕はもっともっと別の意味でここに来たのだが。ただあの家が嫌いで、ただ確かめにここにきてしまったにもかかわらず、ここに居ることが安心してしまっているということを自覚していた。
 普通であることが普通であった外とは違い、普通ではないであろうとしているこの場所を。だけど。
 僕はただ護りたかっただけのはずだ。教師だろうが兵士だろうが自分らを、国を、ティーア系という人種を、彼女を護るということをしたかったはずだ。
 人種なんてどうでもいい。父親のことなどどうでもいい。ただそれだけで僕の世界は完結していたのに――あの家の実態を――知ってしまった。
 彼女を知ってしまった。彼女たちを知ってしまった。
「おい、お前って、なんでここに来たんだ?」
 久世さんは興味があるのかないのか、肘がけに顎を乗せてカップを揺らしながらどうでもよさ気に聞いてくる。
「それは――、確かめるため。ですよ」
 確かめる、ねえ、と彼女は反芻する。
 もっとも軍関連に放り込まれるとは思いもよらずだ。
「まあそれじゃあ、せいぜい確かめるように頑張れ。とりあえず僕の仕事は以上だ。そんで時津彫君にはやってもらうことがあります」
「は?」
 いきなり女性らしい言葉になったので僕は驚いて彼女をみる。
「これを渡してきてください」
 僕は壁から背を離して近寄り、久世さんがだるそうにスカートのポケットからだした三つの手帳を見た。黒皮でいかにもな感じ。受け取って開いてみると顔写真付きの、身分証明証? か。
 名前は蓮桐彩夏に高杉謙一、それに蓮杖祀。蓮桐は確かにさっき見た黒髪の刀女と同じ。だが高杉というのはずいぶんと軽そうな、東京北部近辺にいそうな顔だった。
 件の蓮杖祀は久世さんと同じ金髪で十二歳程度の姿容姿。ぜんぜん違うじゃん。
「法化内のIDカードだ。トーラス内のパスも兼任してる。更新したんだけど渡すのだるくてね。彼らの端末の位置はGPSからわかるから位置情報、お前のPDAに送信しておいたから。会いに行ってな」
 にこりと微笑む久世さん。天使のように綺麗だが腹はドス黒い。つまり顔合わせと仕事放棄ができて一石二鳥ってところか。
「わかりました。あ、そういえば。迎えの女性って久世先輩だったんですか?」
 うんっと頷くので疲れる。予め電話ぐらいほしかった。
 僕が手帳をポケットにしまい、荷物を背負おうとしたとき、
「なあ」
 久世さんが声をかけてきた。
「お前さ、『本当は何をしにここに来たんだ?』」
 僕は息がつまり、ずっと聞こえていたはずの蝉の鳴き声が耳に流れ込んでくる。
「僕は――解放しにきたんですよ」
 そう言った。だけど久世さんは誰を、何をとは言わなかった。面白そうに白い肌を変えて僕に言う。
「そうかい、せいぜい頑張れ」
 僕も少し笑ってしまう。僕だってどうせ出来やしないと思っているんだから。
「お前は……蓮桐と同じ黒髪だ。何かあるかもな」
 久世さんはそういってまたソファにねっ転がってしまった。

 

 

                       *   0/1

 

 

 なにやら彼女は他に言いたいことでもあるらしい雰囲気だというのに僕が何か言ってもああ、とかうん、とかの生返事だけで多少言葉を交わした後すぐに黙りまた読書に戻ってしまった。ちなみにほんのタイトルをちら見したけど『恋は決闘―居城編―』。
 どんな本だ。
 とにかく、届けろ、ということは後は他で聞けという意味でもあるだろうし、顔合わせとけという意味でもあるだろうから、僕はさっさとバッグと刀を背負う。僕としてもこれから一緒に行動する人たちに興味がないとは言えないのでその機会があるならむしろ積極的に受けたいところだった。
 むしろ情報漏えい―だと思うのだが―の有無の確認と適当な現在のトーラスのあり方をぐだぐだと話した彼女に対しては本当に仕事しろよと言いたい。あとは他メンバーに丸投げってなぁ……。僕にはどっちでもいいことだけど。
「あ、そうそう。これから色々面倒になるだろうからちゃんと他のメンバーに聞いとけよ。仲間なんだからな」
「仲間、すか」
 僕の気の抜けた返事に、久世さんは嫌らしい笑みを浮かべてこちらに顔を向けて言う。
「そう、仲間。言ってなかったがそんでここが拠点、つーか駐屯地。一応この学校も学校の体裁を整えてるが僕らの拠点なんだ。外見だけ学校なのは第五区大学校が廃止になって隣の第六区大学校に再編されたためなんだが。出来たばっかで打ち捨てられたみたいなもんだが、一応この学校は防衛拠点に近いし、色々便利なんだ。後で暇あったらみとけ」
 僕は肩を竦めて頷くと僕は改めて道場を見渡した。
 本当に誰もいない無人の学校だったのか。しかしここまで生徒の受け入れの準備が出来て廃止とは。なんだか嘘臭いと思ってしまうのは勘ぐりすぎだろうか。むしろ接収という感じがしたけど。
 すでに僕がしまった壁にかけてある木刀と竹刀を見る。あまり道具や屋内にしてもほとんど使われていない。
「ん? あんま心配すんなよ。作戦司令室とか奥校舎にあるけど、そこは夢の島のように散らかってっからさ。あとで掃除よろしく」
「いやよろしくじゃなくて……」
 僕はとりあえず今の段階で聞けることを聞いておこうと思った。
「えーと……。本当にここが軍の駐屯地として使われてるんですか? 学校が?」
「学校のほかに何に見えるんだよ。そうだよ、さっき言った通り軍、ていうか法化の待機所みたいな風になってる。言っとくが、トーラスの警備隊と法化はまったく別の所属でその働きも違うからな」
 警備隊とは軍務庁の直轄するこの都市の警備、つまりいってみれば軍隊のことで、その下に警察と警邏という機構がある。軍隊と警察機構が一緒くたになっているのは都市ならではなんだろうとは思う。
「さっき法化制圧部は軍務傘下って言ってませんでしたか?」
「そうだったか?」
 なんだかこの白々しい澄まし顔も様になっているので腹も立たないのが不思議。
「……なんにも武器らしい武器が見当たらないんですが。銃とか装備とか……」
「まあ、それも個人個人によるしなあ」
「……」
 個人個人……。戦争してるのに一人で特攻でもしろというのだろうか。そんな僕をみた久世さんは今日何度目かの溜息を付いて、
「さっきも言ったろ。戦争してっけどさ、実戦らしい実戦もない。どっちかっていうと迎撃戦っつーか、まあそのうちわかる」
 大雑すぎだ。この人。
 さっぱりわからない。つまり大きな敵は洋上で潰して撃ち漏らしたのは僕らで白戦しろってことか。
 先の試合で純血の異常な身体能力とその「科学」とやらに基づいた力は目の当たりにしたけど、それで戦車とかを相手にしろとでもいうのだろうか。
 いや――もし法化制圧部という組織が少数精鋭なら――相手も少数精鋭なのではないだろうか。とはいってもそんな小隊にしても銃の一つや二つおいといていいものだろう。
「まー、いろいろあるだろうけどさ。あとは特にレンに聞くといい」
 そこで本で口を隠した格好の久世さんの目がすぼまる。
「お前と同じだしな」
「は?」
 先と同じ言葉。何が同じだというのだろう。いちいち意味深げだがなんだか聞くのを躊躇してしまう。
 あ、いや、と久世さんは言葉を濁し、わざとらしい咳払いをした後重箱のような注意事を言い出した。
 曰く、ここは軍だが階級関係は中央だけで末端はほとんどない実力主義だから緩くやっていい、あと詳しいことはレンかマツに聞け。
 曰く、さっきみたいに位相や相転位やら波動なんかの難しいことをやって、「事象」を引きこすように出来るようにするんだがあと詳しいことはレンかマツに聞け。
 曰く、お前の宿舎は第五区の住宅地にあるからあとで見てこい、あと詳しいことはレンかマツに聞け。
 曰く、武器は順次用意するが基本使い慣れたもんを持ち歩くようにだがあと詳しいことはレンかマツに聞け。
 曰く――
「あんた自分の仕事しろよ!」
 思わず突っ込んでしまった。あんた僕の指導役っぽいこといってたろうに。いや教育係だったか……? それでも久世さんは神妙な顔つきを崩さすにむくれるように本に視線を逃がす。
 容姿がなまじかなり可愛いので本当に中身と性格が別離しているように見えてきた。あの中には小さい宇宙人が入っていて、自動操縦されているのかもしれない。
「うーん、僕よりもレンのほうが絶対うまく説明できるし、というか会って損はないというかなんというか。僕よりももっとも近い存在ではるだろうし。むしろ説明役はマツだから」
 なんだかごにょごにょいっているが僕は少し溜息を吐いてさっさと道場を出ようとした。今まで気づかなかったがここは冷房がないのに異常に寒いことに気づいた。すべるような板張りの床。大またで綺麗な板張りの道場を横断して外に出ようとした。
「あ、もう行くの?」
「……行けって言ったのは久世先輩でしょう」
「そんな人のせいみたいに」
 あなたのせいだと思う。
「なにか他に用事があるんですか?」
 僕が仕方なしに言葉を吐き出す。なんだか先輩とかそういうものはどうでも良くなってきた。大体久世さん自体が他人を試すような言動なのだ。探るような彼女の言葉にいい加減疲れてきた。よくわかない人に詮索されるのは気持ちいいもんじゃない。
 その当人はちょいちょいと手招きをして、ソファから身体を起こそうともせずに僕に可憐な笑みを見せる。それにつられて楽しそうに踊る金髪を目に僕はなんの警戒をもせずに久世さんの目の前まできた。
「じゃあ手、出して」
「……? はい」
「時津彫君、肝心なところで油断するね」
 何を言っているですか、と言おうとして咄嗟に出していた右手を引っ込めた。さようならの握手でもするのかと思ったが、チクリとした鋭利な刺激に反射で右手を持って後ずさる。
「……?」
 見ると右手首のある一点に赤い血液の玉が出来ていた。慌ててふき取ると不思議なことにすでに血液は固まっていて、何らかの傷口さえない。
「はい、これ」
 なにがなんだかわからない僕に、目の前の久世さんが寝そべった格好のまま器用に何かを放ってきたので左手でキャッチする。
 見るとカプセル型のアンプルだった。応急処置用のもので、点滴ほどではないが抗がん剤や栄養剤など入れ摂取することにより効果はある。携帯型に特化していて民間では売られていない軍用のものだ。精密ドライバーの柄ぐらいの大きさの紡錘状のカプセルの半分下にナノサイズの針がある。
「ってなに僕の身体にいれてんすか!?」
「なにって、電解質型のナノマシン」
 ナノ、って。この人本当になにしやがる。
 久世さんは依然としてその静謐とした顔を崩さずにこりと笑いかけてくる。
「それはお守りだ。僕が君にあげるプレゼントだよ」
「プレゼントって……自分がなにしたかわかってんですか! ナノサイズの媒介の使用は先の大戦から使用は硬く禁じられいて――」
「はいはいはいはいはいはいはいはいはい」
 久世さんが「はい」を何個も並べ立てて僕の台詞をさえぎった。額の金髪を払い眉根に皺を寄せて言う。
「つまり、君は今何かされた自分の身体の心配より、僕の身の安全を心配をしてくれるのかい? 優しいんだね」
「なっ」
 そんなつもりはまったく……ない、とは言えない。そう指摘されてはじめてわかるが、今はそういうことじゃないだろう。なんだかもう混乱してきた。
「話を逸らさないでください。このナノはなんの作用をするものですか。それにいくら軍関係とはいっても使用は、」
「殊勝なことだが、それを禁じたアウストラリース条約もウェズリー条約もちょっとした茶番だ。ていうか関係ない。まあ、気にするなよ。そもそもこのトーラス内はティーア系人種の国みたいなもんだし、こんなものでも使わない限り自衛できないのさ」
 気にするなとか簡単にいってくれる。そもそもこんなものがどこのなにが自衛になるんだ。
 僕は自然と右手を擦る。
「自衛って……。守るべき規則があるなら守るべき理由があるのは当然でしょう。だからこそのルール。その理由がないっていうならそもそもそんなルール作らない」
「そう、君の言うとおり時津彫君。『理由なき束縛などありえない』。自分で言って自分で気づいていないようだけど、それ、よく考えておきな」
 久世さんはなんだかやはり不機嫌そうでまた本のほうに視線を戻してしまう。白い整った顔はそのままなにか嫌なことがあったように歪んで明らかな拒絶の色が浮かんでいた。
「僕がここにいることの理由、君がここに来たことの理由。それをよく考えて忘れないことだ。今はわからないだろうけれども、いつか絶対に知らなくちゃならない時が来るさ。だからせいぜい頑張って『解放』しな」
 そういうと久世さんは持っていたハードカヴァーの本を顔に載せて両手を腹において眠ったような格好になる。
「……」
 太陽の光がそのまま定着したかのような金の髪も揺れず、僕はただ何か言うべきか、言うべきじゃないか迷う。   
 もう話は終わりだ、とっとと行けという空気が伝わってきてしょうがいない。結局話をはぐらかされ、話題も飛び飛びで趣旨も論旨もあったもんじゃない会話だったが、僕は諦めそのまま足早に道場を後にした。

 

                         *

 

 

 時津彫が剣道場を後にする音を方耳でききながら、久世は薄目を開けてその様子を伺う。身長が一七〇前後の整った顔立ちの碧眼で見てくれは整っているといえば整っている。悪く言えば精悍すぎるというところだろう。外の引き戸の扉が閉まる音と同時に彼女は深い溜息を付いた。
 元々こんな儀式的なことはせずとも、それこそどこぞの説明会のように書類と用具を渡せばいいのだが、そんなことでは彼のここに来た本当の動機が知れない。こんなよくわからない面接をやったのは彼女の進言だということはおそらく時津彫もしらないだろう。
「それにしても……よくわからないっていうのが結論かな」
 先のぶっきら棒な口調と違って女性らしいニュアンスで久世が呟きながら本を顔から上げる。
 彼が育った時津彫家とは代々ティーア系の重役を輩出している有名家系で、その苗字を知らないのは日本国でも地方の人だけだろう。テレビやその他メディアにもでることがあるので知ることは出来る。だがどれもこれも軍関係者で情報規制があるし、知識人でもトーラス内外では情報は制限される。その家の内を窺い知る事は困難。
 その時津彫から長男がここに来ると聞いてまず違和感があった。確かに父親が勤めているのならわかるが、本人は教師希望だという。だが、三年前までは軍関連の学校に通っていたことがわかっている。
 何かが彼を変えた、のだろう。そもそも、「トーラスの外に家が存在する」ということ自体、蓮桐家と並んで驚きなのだから。
 戦争にとっても彼はあんまり驚きすらせず、このトーラスのあり方にとってもある程度知っていた風だった。それに例のものに関してもなにか「持っている」ようでもあった。戦いも離れしているというか……。
 ――彼はきっとどこかで――このトーラスを調べていたのではないか。なにかの目的で。
 彩夏には考えすぎとか言われたが。
 久世はソファの裾から薄型の携帯電話端末のPDAを取り出してどこかへコールした。コール音がしばらく鳴ってそして繋がる。
「ああ、僕、クリス。うん終わったよ――うん、でもねえ……やっぱりちょっとわからないんだよねえ、あそこはやっぱ情報が外に出ないからどうにも掴みにくい」
 しばらく久世は寝そべったままの格好で誰かと数分間だけ、半分報告、半分雑談のような雰囲気で天井を見ながら話す。
「でも――」
 一瞬の間。
 道場に少ない埃が太陽の射の光で煌き、蝉の音が静かに流れ込んでくる。
「僕らにもし必要なら――絶対に渡さない」
 久世は宣言のような言葉を吐く。そしてまた静寂の後にじゃあ、といって電話を切った。
 しばらく、彼女は本を顔に乗せたまま肘掛にあづけている両足をぶらぶらと揺らして何かを考え込む。
 もし、彼が本当に中央の言う時津彫ならば、例の事件の被害者ということになる。さらにいえば、外の一般市街地での戦闘があったということになる。そんなことはありえない。彼がここの何かを探っているとすればそこが関係しているのではないか。しかしそれならやはり――
「……ま、あとはレンがうまくやってくれるか。万事こともうまくいくことはなしに」
 彼女はよくわからないことを言って、はぁ、と溜息をまた付いて長い金髪を一回梳いた。


 彼は一つとして本当のことは言わなかったし、一つとして自分を信頼しなかった。だからあんなにも不器用、見え透いた演技を重ねて、本当のことを述べることを固辞したのだろう、いや、本当のことを伝えたいとは今は思っていないのかもしれない。
 だけど。彼女なら。


「しかし、ちょーっと変に演技しちゃったなあ。時津彫君に嫌われてなきゃいいけど」

 

 

 

 

 

 

 

I waitting for you.

 

べつにきたなくねーなー?とおもっていたが新品みて愕然とするこれね。

 

 

これがつかっていたフィルター。2016年3月16日とりつけ

 

 

はい新品。

 

 

お わ か り い た だ け だ ろ う か ?

 

 

 

驚きの白さ。

 

 

あ、これはハウスダストもアレルギーになるわっていうぐらいの汚さフィルターwwwいやこれねぇ・・・。

フィルターは1年半が寿命だね本当に。

 

偽善を並べ、善を作り出す。

 

 

 

 

 

 

 金髪の美少女の言葉に今日通算三度目の驚愕を受けて眩暈がした。
 目の前に位置する純血の少女は僕にその容姿から考えられもしない言葉を吐いた後、何も無かったかのようにまた形の良い耳にイヤホンをすると読書に戻ってしまった。眩暈というかギャップから立ち直った僕は少女を改めて見る。
 道場は左右に広くて開いた扉から少女と僕はそれなりに離れているのに挙動が細部までよくわかる。
 彼女の綺麗な金髪は長く、頭の下に預けている肘掛に広がって彼女の背中まで垂れていた。時折音楽にあわせてかその髪が頭と連動して動く。そんな動作が可愛いな、なんて暢気に思っていると、
「いつまでそんなとこに立ってるつもりだよ。とっとと入って来い」
 そう言われては入らざるを得ない。元々僕がここにきて色々推測、想像したことも聞きたかったので望むところといった感じだが、藪蛇つついて自分のほうのことをボロださないかどうか微妙な所だ。
 僕は板張りの床を素足のまま少女が寝そべっている赤いソファの目の前まで来ると、彼女は本をこれでもかというぐらい力を入れて閉じると、手のひらサイズの音楽プレイヤーを操作して止め、イヤホンをか細い指で両耳から離した。仕草は少女然としているんだがどうにも威圧的な印象を受ける。
 彼女はなぜかふぅ、と疲れたように嘆息し、緩やかに絹のような髪を整え僕のほうへと目をやり一瞥した。

 僕の青い目と彼女の青い目が――初めて互いを認識したような印象を受けた。

 だが彼女はすぐに目線を離してぞんざいに持っていたハードカバーの本を道場の床に放り投げ、音楽プレイヤーを適当にイヤホンごとスカートのポケットに収めると、ようやく体を起こして彼女の小さな体にしては大きすぎる重厚なソファに背中を預け正面を僕に向けた。随分と偉そうに足を組み、右手を肘掛に置き、左手で頬を支える格好。突っ立っている僕を上から下まで嘗め回すように無遠慮に観察してくる。
「とりあえず座れよ。話がしにくい」
 彼女の発言は全部棘がずらっと並んでいるように感じられたが、当人はそれほどでもなく眠そうで、面倒臭そうな、なんでこんなことをやらなくちゃならないんだ、といった不遜な表情が浮かんでいた。
 そうするとやっぱりそうか。なんだか流されてここまできてしまったが、彼女は自分の意思でやりたくてやっているわけじゃない、と思う。とすると彼女は誰かに頼まれたか命令されたかでここにいる。
 いわばこれから始まる何かの説明人、案内人、ガイダンスの司会役。誰のかといわれば――彼女所属している組織についてだろうし、誰に、となるとおそらく――あの刀の少女ではないだろうか。
 僕は彼女の目の前で、スッと右足だけ引くとそのまま左膝を下ろし右膝を下ろす。最後に両膝を揃え、立てていた足首を折って正座として座る。スポーツバッグを下に刀のバッグを上に置く。まるで強権な教師に起こられる生徒の図であるような感じではあるけど、僕としては道場で胡坐をかくほどアホじゃない。目の前の少女はその道場に椅子を持ち込んでどっかりと座り込んでいるんだが。
 その僕の行動に彼女――久世さんは一瞬眉をひそめて言う。
「お前、なにか武術でもやってるのか。日本式の。随分重心がぶれないじゃないか」
 ……。みただけでわかるのかこの人。少し衝撃。僕は少し上にある久世さんの顔をみながら努めて普通に言う。
「あ、はい。えっと、合気道とか槍術とか少し……ほとんど我流ですけど」
 嘘は言っていないが、嘘は言っている。僕の返答に久世さんはふん、っと鼻を鳴らし、でもまだ納得いってないらしく、整った容貌の上を疑問に満たして話をそのまま続ける。
「まあ、とりあえずその辺はおいおい聞くか。どーせ事前の資料に書かれてねえこともあるわけだが、……つーかお前さっきからどこ見てんだ、おい」
「え!? あ、なにも、見てません……ええ、なにも」
 僕は直ぐに目を伏せる。僕の位置からしてダイレクトに久世さんが組んでいる綺麗な足と白いスカートの間が見れるのでまだ年頃の僕に対してどういう拷問だと言いたかった。目を見て話すのはなんだかまだ憚れるので自然と視線が下に行ってしまう。
 まさか狙って座れとかいったんじゃないだろうなこの人。
「お前の心情はわかる。確かに僕は可愛い」
「……」
「だがらそういうのには寛容だ。なんなら乳の一つでも揉ましてやらんでもない」
「……」
「ただし、僕に勝負でかったらだがな。僕は弱い男は好かん」
 僕はただそのまま硬直してあほみたいな表情で聞いていた。この人本気でいっているからだ。本気とは思いたくないけれど。口が悪いのはわかったがあんまり女の子が乳とか言わないでほしい。
 しかし僕? 女性だよなこの人。そういう言い方なだけか。そういう自称する女性とはあんまり関わったことがなかったからなんだかはやり、やりずらい。
 それは置いておくとして、と久世さんが話題をばっさり切り替える。
「とりあえず自己紹介だ。僕はクリスタンベル・久世・コルデー。愛称のクリスとか言われるけど、久世って呼んでくれ。ちなみに久世は母方の苗字だ。ここでバック専門、というか監視員みたいなことをやっている」
「そう……ですか。わかりました久世、さん」
「久世、せ・ん・ぱ・いだ。先輩。僕はお前より年上なんだから。年功序列を忘れんな」
 今久世って呼べって言ったじゃないか。
 はい、とまた僕は気の抜けた返事をしたが少し不遜な顔をしている久世さんを見る。
 どうみても僕より歳が一つか二つは下だというのに年上? ああ、まぁそれもありうるか。監視員とかのとこは突っ込まないでおこうと思った。それはどう考えても「あっち系」だろうから。
 ティーア系の身体的特徴としても純血は稀ではあるが人間外観の成長がそれこそ一桁の年齢から二十歳後半で止まる。僕らの特異的なものとしては老成で生まれて、逆に若返りながらその年齢で止まるなんてもあるらしいが詳しいことはわかっていない。染色体突然変異……だったかな?
「えっと、それで俺は時津彫龍之介と言います。今日ここの大学校に教育庁より教師として着任するよう――」
「りゅう……のすけ? なんだそれ? お前本当に時津彫家の長男か?」
「え?」
 意外な反応に僕は言葉が詰まる。
 まさか、と息が詰まる。やはり藪蛇だったのかどうなのか。このトーラスでは時津彫の名は有名すぎるはずなのに。
 彼女は音楽プレイヤーを差し込んだ反対側のスカートのポケットに手を突っ込みなにか折りたたんだ紙片を出した。しばらく両手でそれを開いて紙と僕を交互に見ていたが、仕舞い、今度は腕を組んでうーん、と首を横に傾げた。
 僕はその様子を内心戦々恐々と見ていたが、彼女はやがて諦めたかのように首を戻した。
 彼女は――「時津彫龍之介」に関してどこまで知っているのだろうか。
「ま、いいや。あとで中央いけばわかることだろうし。で? 何? お前ここに何しにきたって?」
「……ですから学校の、」
 そこで僕は言葉をとめた。久世さんが――内心では見てくれ年下なので先輩と思う気にはなれない――腕を組みながら僕を見て苦笑いをしていたからだ。肩が揺れるたびに金髪も波うち、次第に笑い声が口の端から漏れ出した。
 僕はやはりそれをぼんやり見つめているしかなかった。
 一体なにが可笑しいのか。僕の言葉のどこが。それとも考えか。
 だけどそれを考えると自然に結論に行き着く。「ここに学校なんて言葉自体が不釣合い」なのだろう。
 所詮はこのトーラスに来ても古巣に帰ってくるということか。あの父親はどうやっても僕を縛りたいらしい。
「はは、げっほっ!あっごほ!」
 咽るのかよ。
 久世さんがようやくかなり咳き込んで笑うことをやめるとそれでも可笑しそうに僕に言ってくる。
「学校だって? そりゃかなり笑える話だな。いい加減お前も気づいてるんだろ? お前は本当は、一学校の教師としてここに送り込まれたわけじゃねえってこと」
 送り込まれた、か。ふむ、言いえて妙、いや無能を指摘するにはいい言葉だ。
「やっぱり、ここ、軍関係の施設なんですね」
 それを聞くと久世さんは初めて驚いた顔をして凪いだ表情を止めた。
「へえ……外見通りの朴念仁だと思ったがそうでもない。それなりにクレバーだ……。確かに畑が違うな。こっちは警備、つーかつまり、むしろ軍関係だ、うん」
 なんだか最後は歯切れが悪かったが、ああ、やっぱりそうか、とは思った。
 僕の成長した時津彫という家系は三世紀前よりここの保護地で軍部出身が理事会の一員を歴任をしてきたのだ。つまりはティーア系に限れば、重要な重鎮の家系。その家の長男がただの一学校の教員なんてありえない。
 軍の上級の職務の席について当然。その空気が必ず時津彫にはあった。
 それぐらい――僕もわかっていた。痛感できるくらいに。でも希望は、ほんの一欠片の希望はもっていたのだ。それが今案の定なくなった。
「ありあえないっていったら見も蓋もないけどな、それにこの人種保護優先地の住人の八割が軍やそれら関連施設で働いてることぐらい――お前だって知ってるだろ」
「はい」
 外部から見れば不思議なことだが、このトーラスに居住しているティーア系は例外を除けばほとんどが軍関連で働いているのだ。外の一般人は知らないことだが僕の家だからこそ聞いていたことだ。もっというと僕だからこそ知っていたというべきか。
「ですが、ティーア系の人権は先の戦争の世界人権宣言に盛り込まれて認められています。だからこそこのトーラスっていう――」
「お前、知ってるようで本当に何も知らないんだな」
 久世さんがやれやれといった感じで自身の金髪を指でくるくると遊ぶ。知らないというか、僕の言ったことはもっとも、僕の考えというよりは模範的回答を言ってみたまでだったのだが。
「なるほど、確かに人権宣言、ウェズリー条約では自由と尊厳が認められ、ティーア系は一般人であろうとも生涯を安定して生活することを約束されている。だが、だ。ではなぜこんなトーラスだとかいう箱の中に世界中のティーア系は閉じ込められているんだ?」
「それは……」
 少しだが「閉じ込められている」という表現が気にかかった。
「減った人種の保護だとか迫害への対策だとかただの政治的な建前だ。外の連中のくだらない自己満足だよ。いいか、これはただの檻だ。収容所といってもいい。つまりは怖いのさ。ユーリもオムスも。自身の体の崩壊を度外視すれば素手で岩割れるようなやつらで過ごししたく無いのは当然の反応だ」
 僕は随分と喋るなあ、と久世さんの話を聞いていた。そんなことはもう、僕だってわかっていた。既知の事実としてわかっていることを聞かされても何の感慨もわかない。逆に僕は今更なぜそんな既成事実を持ち出してくる彼女の意図がわからなかった。だから切り出す。
「報われない話ですね。もしかしたら今現在も俺が『政治的な建前』でここにいるかもしれませんよね」
 僕は鋭く、だがさりげない口調で言った。久世さんは可愛らしい顔に満面と渋面の間のような笑みを浮かべ、また僕をみたまま押し黙る。
 ……さっきからこの問答は何なのだろうか。彼女は今まさに僕に何かを伝え、それによって「ここ」に僕を縛ろうとしているようで仕方が無い。
「……感情が口に出るタイプ、と思ったら本当に思慮深いな。それはいろいろまずいな。ま、話を戻すがとりあえずこの日本国にしてみてもティーア系は八つの人種保護優先地地点に集められている。それぞれの人種保護優先地域は日本名では『トーラス』と呼称され、先述の条約にのっとり世界各国で当時、数十年掛けて建設されそこに現在全てのティーア系が居住している。もちろん、例外もあるが、さて、」
 久世さんは足を組み解いて僕のほうへと顔を寄せる。よく見ると彼女の目は碧眼というよりは深緑の色も混じって見えて不思議な光が漂っていた。
「なぜだ?」
 再度の質問。
 なぜか。
 今まで遠のいていた外の蝉の囁きも、強く通り抜ける風が引き戸を揺らす音が不意に蘇る。
 なぜティーア系をこうも一点集中させなければ成らなかったのか。三世紀前の先祖は何を考えてこのようなシステムを作り上げたのか。
「それは……やはり種の保存と繁栄のため、では?」
 模範的回答にやはり久世さんは眉をしかめる。
「お前、考えが深いのか浅いのか……。頭固いな、教科書の丸暗記じゃないだからよ」
 そんなこと言われても困る。僕は元からこういう性格なのだ。だいたい種の繁栄と復興を願ったのならば自然と相成る形のように思える。
「戦争が――まだ終わってないからだ」
 久世さんは少し間をため、そして唐突に言った。
 まるでどうでもいいような投げやりな口調でするりと。
「――え?」
 僕が抜けるような声を出すと彼女はその反応は期待していたというよりも見飽きた、といった表情で嘆息する。
 彼女の雰囲気は、僕のそのリアクションをみると先ほどと打って変わって興味を急激に失ったかのようにみられた。
「昔、当に戦争が終わったとか周囲は抜かしやがるが、そんなことは共存繁栄の大義名分で偽りの平和を着飾った当時の上層部の情報操作にすぎん」
 ――ならば、彼女がのらりくらり僕に質問のようなことをしていたのは「このことを知っているかどうかの確認」か。もし知っているなら――どこで知ったか情報漏れを確認するのが彼女の役目ということか。またどこで知ったか聞き出すために。
「戦争は今も続いている。推測でもなく事実で続いてる。そしてそのためにティーア系はここ、人種保護優先地とか言う名目で集められ、そしてその戦争の尻拭きに従事させられている。わかるか僕らは世界から隔絶させられ、迷惑ごとを押し付けられているんだ。それもこれも過去の戦争の原因がティーア系が原因であるところが大きい。ほかのやつらも甘い汁をすって、今平和であるのはうちらの心血の上に成り立っているということを見ずにな」
 久世さんの言はいまだに棘はあったが内容よりも感情は薄かった。どちらかというと既成事実を読み上げている、そんな淡白さがあった。事実、彼女にしてみれば大戦によってこうなったとしても、どうでもいいのだろう。まだあって数分だが、彼女はそんな世界の情勢などどうでもよく思うのだろうと感じられる。
 それよりも――戦争が終わってない、だって? 本当なら、それは本当に驚きの事実だ。
 僕が外で学習してきたことは、すべて嘘で今も日本国やほかの国は……南のあそこと戦っている? この三百年もの間? そしてまだ続いている戦争の要員としてティーア系が集められている?
 反拍したくないがそんなはずはないとは言わずにいられない、実際に見たわけじゃないけどあの惨劇で生き残ってる人などいるわけがない。だから僕は言う。
「そんなの――ありえないですよさすがにありえない。あの状況からどうやっても連邦は持ち直せるはずがない。そもそも戦争は終わったって、」
「誰から聞いた、そんなこと」
 間髪いれず話を割って入ってくる久世さんの言葉。綺麗なソプラノだが今は硬質だった。
 先ほどの探ってくるような目線と言葉ではなく、純粋に戦争未終結の事実を知らなかった僕に驚いている、と思う。
「誰からって――そのテレビとか歴史の教科書でも――それと当時のメディアの履歴も、」
 そこまでいっても久世さんは僕から目を離さなかった。だけど僕はなぜか必死に事実から、自分の知っていることの正当性を証明しようとしている。そんなことで正当性なんて証明できないとわかっているのに。
 なぜだろう。僕はそんなにも自分の世界が――。
「お前が自分で見たわけか」
「見てませんよ。それだったら久世さんこそ、」
「僕も見てない。だが事実として戦ってるのは戦ってる。じゃあ、『そういうことだ』と考えるしかねーだろ。外のお役人もそう言ってんだからよ」
 戦ってる――だと?
 僕は、そう僕は子供のころ、外の時津彫の家で過ごしたある日を思い出した。あれは鮮明で――だけど確かにそこに脅威があるということが、わかった。
 僕は嘆息した。やっぱりそうか。
 僕が何事もなくあの家から出られるはずがなかったのだ。
 祖父はいまだに東京の防衛庁付大使館にいるし、父も今中央で業務を行っている。そして僕、だ。
 実際のところ、僕はどこかの軍関係のどこかに放り込まれているとは思っていたけど、本当に。
 あの父親、というかあの家は最後まで僕が軍以外のところへ行くのを嫌がりはしたが、強制はしなかった。そんな結果がこれだと逆にやっぱり諦めの溜息しかでない。
 それで戦争、か。しかし放り込むには吹っ飛びすぎだろう。いきなり戦争に参加しろとは。
「それで、本当にまだ戦争しているんですか」
「ああ」
 久世さんは体を起こしてどっかりと細い肢体をソファにあずけ、ニーソックスの足を組む。顔は無表情。柔らかい金の髪がふわりと舞う。
「どこと? 誰とやってるんですか?」
 言わずとも南だと思ったが――
「それがわからないんだな」
「は?」
 久世さんの言葉にまた言葉が詰まった。なんだそれは。正体不明なものと戦争している。それってただの、
「テロじゃないですか。それだと。局地的に攻撃が行われているなら……」
 いや、違うのか? 本当に戦争と断じるに値するなら、世界で戦いが行われている……?
「お前は見たところバカじゃあないからわかるだろうがまさに戦争してるんだ。日本国が一番被害が少ないってだけで確かに戦いがある。欧州、アフリカ、米国、最前線は赤道か、どこでもある。何しろのその証拠に、敵は全部南の国旗背負ってきてるんだからな」
「じゃあ、まったく正体はわからないにしても南の国は生きていて、そして攻撃してきているってことですか」
「ま、だいたいそういうわけだ。お前が今頭んなかで考えたことはこの三百年の間で様々な専門家がすでに考え実証済みなことだ。いいか、

事実から逃げるな。

先輩からはそれだけしかいえない。後々は自分でなんとかしろ」
 なんとまぁ、無責任この上ない言葉だ。そうするとここは保護地ではなくて、戦争から僕らを保護する役割があるのか。依然として戦争が続いていれば当然ティーア系への不満が募り、人種が槍玉にあげられ迫害や殺人などおこる。実際昔があったのだから。
 だからか?
 だからこうやって自分らは戦争のために国を護り、またここに集まることによって自分たちを護っているし国が僕らを護っている。
 さきほどの「閉じ込められている」という久世さんの言葉が思い浮かんだ。それにあの刀の少女の「新規」という言葉。
 新規という言葉を使うのはティーア系、トーラス内での軍関係における新人を指す時にだけ使う言葉だ。
「つまり、世界規模の戦争はいまだにあり、その尖兵としてティーア系がこの人種保護というお題目の名の元に局地的に集められて長年戦わされている、そういうことですか」
「まあな」
「じゃあ……、戦っているのは本当にあの連邦だけ、なんですか? 『別の者とも戦っている』んじゃないんですか?」
 それを聞いて久世さんは緩く微笑み、端正な相貌を崩す。
 おそらく想像以上に確信を突いたのか、それとも妄想豊かな僕を笑ったのか。
「極論ですが南だけのためにこんな世界規模のコミュニティを作るとは考えられないです。久世さんの言うとおりならこのトーラスの成り立ち自体に疑問ができます。作られた動機は――」
「南だけ、とは自信過剰なことだが、ま、詳細はおいおいわかってくるだろ」
 久世さんは半分独白気味の僕の台詞に割り込んで可笑しそうにゆっくり頭を振る。
「だいたい僕自身もあんま実戦とか参加したこと無いんだ。戦闘つってもお遊びみたいなものだからな。形式だよ形式。軍隊なら軍らしくしてなくちゃお給料貰えないしな」
 そう言ってようやく久世さんは立ち上がると、金髪を後ろに流し道場の壁にかけてあった竹刀と木刀のうち、反りが真剣に近い木刀を二本選んで両手に持って帰ってくる。
「ま、末端の僕らには関係ないことだよ。悩むのはあー……、お前の親父さんとかトップの連中だけでいい。適当にやってりゃいいのさ」
「そう、ですね」
 しかし本当に良くしゃべる。この辺で話の落とし所だと思ったのだろう、話題を切ってきたな。
 僕はそう言って座る時の逆回しのように重心をずらさず立ち上がり彼女に身体を向ける。荷物を持つととりあえず壁に寄せておく。おそらく木刀で何かやるつもりだろうと思ったからだ。
 しかし父と僕の関係を知ってるとといい、この子、本当に得体が知れない。
「随分飲み込み早いな。お前はそういう性格じゃないと思ったんだが」
 久世さんが木刀の片方で肩とトントンと叩く。
「家柄でしてね。父が恨み言のようにお前は軍に行くんだのといわれてましたし――なにより昔にそういう体験があったので。わかってはいたんです」
 だけどわかりたくなかった。ただそれだけなのだろう。ちゃんとわかっていたのならそもそも、教師なんて辞令をほいほい信じてはいない。
 そういう僕の笑顔に久世さんは面白くなさそうな顔をしてから木刀の一本を僕へ差し向けてくる。
「とりあえず言っておこうか。もう一度。僕はクリスタンベル・久世・コルデー。一応ハーフだ。トーラス第五区法科部法科制圧課所属。お前の一応教育係兼査定などの雑用係だ。上は中央の教育庁ではなくて軍務庁が管轄だ」
 まさに僕の家柄そのままのところだな、と思った。まさか騙されて放り込まれるとは思わなかったけど。
 ――法化制圧部か。法化、ね。
「それでこれから何あるんですか? 木刀の振りで査定でも?」
 あまり質問や抵抗がないようなので拍子ぬけしたらしく不機嫌そうに頭を振った。
「だからそれっぽいことをやるってことだ。これからお前の実力をみる。それが僕の仕事だ。ここで木刀で試合って法化の人員に足る実力か改めて、見る」
 そこでにこりと可愛らしく微笑むのでどう反応したらいいのか困ったが、素直に黙っていれば可愛いのにと思った。僕は久世さんの出した木刀を掴んだ。あまり重くない、樫でできたもの。これならサブハチの竹刀のほうが重いだろう。
「戦いっていっても強襲みたいで本格的に最後にきたのは約二ヶ月前だし、そんなに力むことじゃない。だらだら訓練とかそれっぽいことやってれば普通に安穏と暮らしていける」
 久世さんは金髪を靡かせながら、僕と間合いを取るために重心のゆれない動きで離れていく。
「あとはレンとかマツとかに聞いてくれな。そろそろ口が疲れてきたから」
仕事しろよと思ったけど、レンというのは蓮杖か蓮桐のどちらか、マツは祀のことだと思った。ん? でも祀の苗字はあの蓮杖だったか。
 僕はそのまま距離を測りながら離れ、久世さんとの距離が十メートルになるところで立ち止まった。
「ところでその祀さんにあったですけど、あの方、ここで何やってたんですか?」
「あ? 祀は今中央に出ていないけど、」
 と、木刀を構えようとした久世さんが言葉を止め、ああ、と嫌そうな表情をした。
「それは多分成美だ。橋本成美。眼鏡かけてたろ? そいつが言った蓮杖ってのは今ここにはいない。嘘ついたんだろ」
「なんで嘘ついたんですか?」
「……色々な」
 なんか本当に嫌そうな顔をしていたので僕は黙って木刀を正眼に構えた。深入り禁物。ただこんなもので力が測れるのかどうか。
 しかしながらティーア系、特に純潔は外地にいなかったのでそうは言ってられない。ティーア系の世界人口の二割にも満たないのに未だに三大人種に数えられるのは突出した科学力のほかにその圧倒的な身体能力のためだ。意図的に意識しなければだが鉄程度は片手で曲げられるし、百メートル五秒切るような運動能力を備え、銃弾でも訓練すれば避けられる。純血はその最たるものでハイエンドクラスだ。当初の連邦が純血を尊んだ理由に、混血が多くなって純血から得られる軍事力低下を懸念したためとも言われているから希少性と凄さがわかる。
 目の前の少女でもトラック片手で持ち上げることぐらいできるんじゃないだろうか。
「ていうかさ、お前四月で卒業してんなら今までの三ヵ月、軍事教習うけてたろ? そんでなんで学校のセンセイなんておめでたい発想が生まれるんだか」
「おめでたくとも希望はあったんです! だいたい辞令とかにちゃんと記載があったから希望持ったっていいじゃないですか!」
「拳銃撃ち鳴らす先生がいたらそれこそ僕がみたいぐらいだっつーの」
 もっともな意見。火気演習もちゃんとあったが僕は父親に頼んでほとんどけっていたのだが。久世さんも面倒くさそうだがようやく木刀を同じく正眼に構える。
 重心はやや後ろに。右足は約半寸うかせ、地に着いている左足より半歩前に出す。教科書どおりだけど実に美しい構えだった。
「あの、そのままでやるんですか?」
「何?」
「いやだから。ソックスだと滑りますよ。床」
 久世さんの格好は手が隠れるぐらいの長いカットソーに白いミニスカート、足にはニーソックスだったので言ってみたが、
「これはハンデだハンデ。それに滑らないよ」
 そうですか。僕は少し重心を右前に、半身の形で構える。それに久世さんはスッと碧眼をすぼめた。
「じゃあ、いくぞ」
「――はい」

 

 

 

 

 

It is farther from a result.

 

 

春だからか、なんかすっげー走ってる人がいたんだけどなんだろあれ。

今通ってる整形の医師、基本2分診療。指示は触診、レントゲン、注射の3つ

 

あーやぶだわ。と。まぁ説明しない、聞かない、やらないときてるし。うーん。まぁお金ないんで今は。歯科で通ってる総合病院に紹介状かいてもらおう。

 

 

さてさて。甲状腺のホルモン値が正常範囲になりました!めでたい!けど、まだ異常症なので、正常におちつくまでまたなくちゃならんという。

つーか4ヵ月半ですよ4ヶ月。通常の倍。もう。これが入院中になおってたらもっとちがかっただろうに本当に。

とりあえずしゃかりきにくわんでよいというのはほっとした。この3ヶ月、食事は苦痛でしかなかったからね。

 

ということで小説かきに指鳴らし中。