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ワールドカップの肖像 5

グループE



■チェコ
■ペトル・チェフ
■GK

いいゴールキーパーは美しく飛ぶ。
ペトル・チェフももちろんその例外ではない。
197cmというゴールキーパーとしては申し分のない体格が宙に舞う時、私は固唾を飲む。
それまで身じろぎもしなかった大きな体が、瞬間的に動き出し、空中に飛び上がるからだ。
チェフの体はまるで静止しているかのように長く空に滞在する。
まるで、重力という足かせから一人だけ自由なように。
うまいのはセービングだけではない。
まだ23歳だが、キャッチング、飛び出しなどGKとしての能力は世界屈指。
更に特筆すべきなのは、彼の集中力だ。
仕事のない時も、禅僧のようにじっと待ち、注意が散漫になることはない。
チェルシーというピンチの少ないチームにいると、彼の出番は多くない。
しかし、一度決定的なシーンになると、途端に彼は豹変し、おそろしいばかりの勢いでボールをはじき出す。
ゴールキーパーという最もリズムを作るのが難しいポジションで、彼は完璧にその仕事のやり方を心得ている。
プレーを見たことはないが、GKで唯一バロンドールをとった男、ソ連の蜘蛛男レフ・ヤシンがこんな感じだったのではないだろうか。
だが、チェフは慢心しない。
淡々と仕事をこなす。
私生活でも、物静かな男だそうだ。
だが、野心がないわけではないだろう。
奇しくも、現在世界最高のGKと呼ばれているジャンルイジ・ブッフォンと、今大会ではグループが一緒だ。
「どっちが上だかはっきりさせてやろうじゃないか」
静かな表情をしながら、チェフはこんなことを考えているかもしれない。
誰もそれを傲慢だとは思わないだろう。
彼にはブッフォンの足首に手をかける資格が十分にあると、誰もが知っている。



■イタリア
■アレッサンドロ・ネスタ
■CB

運がない男、ということになるのだろうか。
期待された98年のワールドカップは直前の怪我で不出場、代わりのベルゴミおじさん大活躍。
そして、再起を誓った02年では肝心の韓国戦に出場できず(あの審判だとネスタがいようがいまいが関係ないとは思うが)。
ネスタにとっては、今回が3度目の正直ということになる。
能力は疑いなし。
カバーリング能力は折り紙つき、そのスペース感知能力はエスパー並。
また、カバーリングDFは概ね人に弱いものだが、ネスタはそんなこともない。
高さがあり、スピードもあり、当たり負けすることもなく、どこぞのリオ・ファーディナンドとは一味違う。
相棒にもファビオ・カンナバーロという相性抜群のおっさんがおり、しかも後ろを守るのはあのブッフォン。
死角はない(出場停止でマテラッツィが出てきた場合には苦労が多少増えるが)。
では、今回は彼の大会になるのだろうか?
それは誰にもわからない。
ワールドカップは神に委ねる部分が大きい。
愛される者もいる。
スキラッチは閃光のように得点王をとり、ロベルト・バッジョはワールドカップで最も輝いた。
愛されない者がいることも確かだ。
ジョージ・ウェアはついぞ出場がかなわず、カルロス・バルデラマは一秒も本当の才能を見せることができず、エリック・カントナは残りわずか数秒でコスタディノフに沈められた。
さて、ネスタはどっちになるのだろうか?
今回のイタリアは油の乗り切った選手が中心で、オフェンス、ディフェンスともに穴はない。
期待以上の結果(すなわち優勝)を狙える戦力だと言っても過言ではない。
ネスタがその担い手となる可能性は当然のことながら、高い。

それどころか、ワールドカップを代表する伝説のDFになれる可能性だってある。
しかし、蓋を開けてみなければわからないのがワールドカップ。
ネスタは今頃神に祈りを捧げているだろうか?
しかし、祈ればいいというものではない。
何せワールドカップの神様はとびきりの美女のようにきまぐれなのだから。



■ガーナ
■ミカエル・エッシェン、ステファン・アッピアー、スレイ・アリ・ムンタリ
■MF
初出場を飾ったガーナ。
原動力はヨーロッパで活躍するエッシェン、アッピアー、ムンタリの3人衆。
ガーナの黒い三連星(みんな黒いけど)と呼ぶことにしようではないか。
エッシェンは言わずもがなの存在。
チェルシーに50億円(実際その価値があるかどうかは別として)で移籍し、現在はマケレレ、ランパードと問答無用の強力な中盤ブロックを形成している。
「シュートの撃てるマケレレ」という表現が一番合うだろうか。
マケレレよりも守備力は劣るが、身体能力を生かした高い位置からのボール狩りは強烈で、何度もそこからフィニッシュまで持ち込んでいた。
彼が三連星の一番槍として、相手を牽制することになる。
配役としてはオルテガといったところだろうか。
ムンタリはウディネ-ゼに籍を置いている。
重心を後ろ目に置き、広範囲をカバーすると同時に、正確なキックを生かして攻撃に参加する。
最近では前目で起用されることも多いが、前だろうが後ろだろうが、どっちでも結構な能力を発揮するだろう。
バランスの取れた選手で、三連星の2番手としては適任。
まだ22歳なのに落ちついているのも好印象。
だけど、影が薄いので「えーっと、三連星はオルテガとガイアとあとだれだっけ?」のマッシュといったところだろうか。
現在フェネルバフチェ所属のアッピアーは、ユヴェントスにいた頃が最も印象深いだろうか。
攻撃型の選手で、行動範囲の広さと正確なタッチを生かし、ガーナでもフィニッシュの部分で変化をつける役割りを任されている。
どちらかと言えば単細胞型の選手が多いため、その経験は貴重。
三連星の重鎮として、敵にとどめを刺す役割りが期待される。
年齢的にもガイアだな、ガイア。
ガーナはこの三連星が積極的に動くのを、ボアテング、クフォーあたりがカバーするということになる。
守備専のボアテングは、さしずめ見守るドズル・ザビか。
クフォーはさらに後方のギレン。そうか?ちがくね?
まあいいや。
ともかくも、三連星の「ジェットストリームアタック」がこのチームの浮沈を握っていると言っても過言ではないだろう。
「お、俺を踏み台にぃ!?」とトッティあたりにやられることのないよう。
(ナレーション)
快進撃を続けるガーナ代表であったが、本国では失脚したダイクン家の創始者ニャホ・ニャホタマクロー前会長の復讐が始まっていたのだ・・・!
第36話「ニャホタマクロー、大地に立つ」、君は、刻の涙を見る。



■アメリカ
■ブライアン・マクブライド
■FW

もうサプライズではない。
アメリカが展開する「サッカー」は、フットボールの世界においても十分に有効であることが、2002年のワールドカップで証明された。
DF面では前線からの激しいプレスと、コンパクトなラインコントロール。
現在のフットボールシーンのベーシックな戦術ではあるのだが、90分間綻びを見せないその組織力とフィジカルは超一級の完成度。
高い位置でボールを奪った場合には、快速ビーズリーなどが飛び出していき、すぐさまフィニッシュに持っていく。
どちらかといえばバスケットボールの速攻のような、もしくはアメフトのワイドレシーバーのような、これぞアメリカという統制された戦術。
しかし、速攻ができない場合に鍵を握るのは、10番を背負うランドン・ドノバンと、このブライアン・マクブライドだ。
ドノバンは言わずもがな、ドイツのレバークーゼンにも籍を置いていた逸材。(ただし大好きなドジャースの試合が見れなくてホームシックで帰ったが)
ドリブル有り、パス有り、膠着した状況を打破する能力がある。
ただし、それもマクブライドの助力があってこそ。
見た目は冴えないおっさん、フットボーラーよりもどちらかといえば銀行員や教師が似合うような風貌。
能力もたいしたことはない。
決定力はほぼ皆無、足も遅いし、テクニックもない。かと言って、特に背が高いというわけでもない。
しかし、そんな悩める中年予備軍・マクブライドがどうしてスタメンを張れるのか?
それは、彼の献身性と、そのポストプレイにある。
アメリカは「シャドウプレイ」と呼ばれる戦術を攻撃の基本としている。
シャドウプレイとは
1.トップにボールを当てる
2.パサー以外の選手がボールを受けた選手を追い越して走りこむ
3.ボールを受けたFWは走りこむ選手にダイレクトもしくはワンタッチでボールを送る
という一連の流れのことを言う。
この動き自体は普通だが、それをチームぐるみで組織化して90分やりつづけることに、アメリカの独自性がある。
この戦術の要となるのが、マクブライドということになる。
高度な戦術理解と90分走り回りつづける体力がないと、できる仕事ではない。
マクブライドは他の能力はからっきしだが、この仕事だけは高精度でこなすことができる。
アメリカの司令部は中盤にない。
マクブライドが攻撃をコントロールする。
彼にボールが入った時、アメリカの猛攻が始まる。

ワールドカップの肖像 4

グループD



■ポルトガル
■ルイス・フィーゴ
■ウイング、サイドMF

初めて見たのは、バルセロナに入って間もない頃だったろうか。
ちょうど、それまでのトップ下から右ウイングへとコンバートされたフィーゴは、窮屈なハンカチ1枚ほどのスペースから解放され、右サイドをずたずたに切り裂いた。
スピードで力任せに引き千切るタイプではない。
また、飛び出しのタイミングで勝負する「生かされる」タイプでもない。
フィーゴはまずボールを受け、そこからおもむろに勝負をしかける。
そのボールの持ち出し方は、バレエのようにゆっくりとした軽やかなステップで始まる。
華麗なフェイントがあるわけでもない。種類も少ない。
しかし、そのいくつかのフェイントと重心の移動のみで、相手の逆を取る。
抜群のセンスがないと出来ない技だ。
フィーゴの動きに合わせて、相手ディフェンダーはダンスを「踊らされる」。
不必要なまでに完璧に抜き去っているから、実際、本当に踊っているように見える。
よほどの力の差がないとできないことだろう。
彼はバルセロナの右サイドはダンスホールに変えた。
1対1で対峙して、まともにボールを取られたのをほとんど見た事がない。
たとえ2人に囲まれてもしばしば突破し、糸を引くようなクロスや、目の覚めるような強烈なシュートを叩き込んでいた。
ルイス・ファンハールという面白監督の黄金時代の中で、フィーゴもまた、自身の全盛期を迎えていた。
その頃のフィーゴはまぎれもなく、世界で有数の支配者だった。
そして、現在。
レアル・マドリー、インテルとチームを変える中で、フィーゴはその役割を色々と変えていった。
マドリーでは、「支配者」ジダンの忠実な将軍として、のちにファンの壮烈なる野次の対象として。
インテルでは、純粋なサイドアタッカーとして、単純なスタイルのチームに変化を与えるスパイスとして。
役割が変わるに従って、また年齢を経るごとに、彼の支配力は弱まっている。
DFを踊らせることも少なくなった。引きちぎることは1試合に1度あるかないかだ。
代表のチーム内での位置づけも変わった。
現在のポルトガルの中心はまぎれもなくデコだ。
かつての僚友ルイ・コスタ、フェルナンド・コウトは代表を去っていった。
C・ロナウドやシモン・サブローサなどの若手も出てきた。
おそらく、今度のワールドカップはフィーゴにとっても最後の国際大会になるだろう。
これは半分願いなのかもしれないが、衰えたフィーゴの姿は見たくない。
できることなら、バルサでの全盛期で見せたように、華麗に相手を舞わせるようなプレーを披露して欲しい。
もちろん、そんなことができないのはわかっている。
だが、ワールドカップはまだ始まっていない。
今までにワールドカップで起きてきた信じられない出来事を考えたら、一体、誰が無理だなんていえるんだろうか?



■アンゴラ
■ペドロ・マントラス
■FW
選択の余地はない。
知ってる名前がマントラスだけだからだ。しかもワールドユースで日本とやった時の、おぼろげな記憶。
アンゴラ自体は日本での親善試合は見たが、いかにも新興国という感じで、組織は未整備、個人技で局面を打開していく、古いスタイルの南米に近い印象。
ただ、その個人技も往年のスーパーイーグルスやカメルーン程の卓越したものはなく、単にこねまわしているだけで、このレベルで通用するものとは思えない。
しかし、このW杯をアンゴラは単なる「旅行者」として通り過ぎるわけにはいかない。
なぜなら、このグループには奇しくもポルトガルが同居しているからだ。
ポルトガルはアンゴラにとっては旧宗主国。
400年以上の支配を経て独立を果たしたが、その後に待っていたのは約30年も続く内戦だった。
想像するしかないが、ポルトガルへの感情は愛憎なかば、長年見守ってくれた父親でもあり、忌むべき圧政者でもあっただろう。
その父性の塊のようなポルトガルと、初めてのW杯で戦うというのは一体どういう縁だろうか。
躊躇があるだろうか、それとも他の何かが?
だが、アンゴラはそろそろ戒めを解かなければならない。
ここからようやく本当の自国の歩みを始めるためにも、今大会はいい機会となるかもしれない。
そのためにも、ポルトガルでプレーするマントラスの力が必要となるだろう。
ベンフィカではサブ生活を送る彼だが、まだ老け込む年ではない。
あの柔らかいタッチと意外性のあるプレー選択は、ポルトガルと言えども十分警戒せざるを得ない。
勝つことは難しいかもしれない。
あるいは、引き分けさえ論外とも言える。
だが、少なくとも同じ条件で戦うことはできる。
どれだけ国が荒れていようとも、いまだに銃の音が鳴り止まなくても、相手が侵略者だろうとも、ピッチに立つのは11人で、ボールは1つ、ゴールは1つ。
フットボールは実に公平だ。



■イラン
■ホセイン・カエビ
■右SB

まずこの選手のキャップ数を見て欲しい。
ワールドカップ前で42。
この数字を見ただけでは大しておかしいとも思わないかもしれないが、注目して欲しいのはその年齢。
なんとまだ20歳。
十代で代表キャップを刻んでいることさえ珍しいというのに、もうすでに40を越えている。
日本の中澤が48キャップなので、それとほぼ同じ試合数を20歳にしてこなしている。
このままのペースでいくと、メキシコの皇帝スアレスの世界記録も狙えるだろう。
ただし、これが、中東でよくある年齢詐称によるものなのかどうかはよくわからない。
だって、イラン人年齢よくわかんねえもん。
前にU-23の日本戦を見たときに、明らかにこいつら30だろってのが8人くらいいた(確か実際に年齢詐称で2、3人追放されたようだが)。
とりあえず、このカエビについてもそこの点については突っ込まないことにする。
カエビというよりも、キャビィというほうが日本人には馴染み深いだろうか。
日本ではちょっと前まで「キャビィ」と呼ばれていたが、なぜか最近「カエビ」になった。
なぜだろうか。地元議員の圧力だろうか。それとも細木数子に相談でもしたのだろうか。
ともあれ、その能力は本物。
右サイドを疾走するスピードと、足下のテクニックはアジアレベルを超えている。
マハダビキアとのコンビは絶品で、日本代表も何度も苦しめられた。
さらにそれにアリ・カリミが絡む右サイドは、イランの攻撃の中でも最も有効なオプションだろう。
お世辞にも守備はうまいとは言えないし、公称175センチの身長は明らかに160センチ台。
空中戦は明らかにウィークポイントになる。
ただ、イランはそれでいいのだろう。
このチームは守るチームではない。
現実の世界でも、イランは超大国アメリカに抵抗し続けてきた。
どれだけ相手が強大でも、それに立ち向かう勇気を持っている。
今大会でも、このグループには強烈な敵が揃っている。
それでもイランは闘ううだろう。
カエビはその一番槍を担い、勇敢に敵陣に突っ込んでいく。
彼が巨人の喉笛に食らいついた時が、イランの突撃の合図だ。



■メキシコ
■クラウディオ・スアレス
■CB

おいおいおいおい、まだやってたのかよ。
メキシコのメンバー表を見た第一の私の感想はこれだ。
クラウディオ・スアレスという男は、既に伝説の住人だと思っていた。
今回選ばれなければ、そのまま伝説界に住みっぱなしだったに違いない。
なんか、2002年にカニーヒァがアルゼンチンのメンバーに選ばれた時も同じことを考えた覚えがある。散らかしてたなあ、あの頭。
これはニュースでよくある死亡記事に感覚が似ているかもしれない。
とっくの昔に死んだと思っていたのに、「昨日未明、脳梗塞により…」という記事を目にして、「え!まだ生きてたの!?」と驚愕する土曜午前9時。
そして、葬式で号泣する森繁久彌。
長いスピーチを繰り出す森繁。
列席者の全員から「次はお前の番だ」と思われる森繁。
ここぞとばかりに泣く佐藤浩一。
話がタイタス・ブランブルのバックパス並みに逸れた。
ともかく、世界最高代表キャップ数を引っさげて、スアレスはワールドカップに戻ってきた。
しかし、既にチームの主役は彼ではない。
バルセロナでレギュラーを張るラファエル・マルケスが、「皇帝」として君臨している。
ポジションはお互い3バックの中央。
同時起用はありえない。
スアレスのカバーリング能力も捨てがたいが、マルケスをはずすわけにもいかない。
普通に考えたら、マルケスのバックアップにスアレスという流れだろうが、「旧」皇帝のスアレスもおとなしく控えに甘んじているようなタマではないだろう。
さて、どうなるか。
「新旧皇帝、キャンプ地で殴り合い!」「新皇帝、即位宣言『俺の時代』」「旧皇帝が涙ながらに『謀略だ』」「マルケスのトゥシューズに画鋲が」。
そんなゴシップ記事がタブロイドに並ぶ姿が目に浮かぶ。
「王」は二人いるべきではない。
リカルド・ラポルペ監督の判断が試されている。

ワールドカップの肖像 3

グループC



■アルゼンチン
■ハビエル・サネッティ
■右SB

彼の名前がない。
5月15日に発表されたメンバーリストを見て、私は目を疑った。
間違いなく代表は確実だと思っていたし、落選したことがいまだに信じられない。
サネッティの名前を聞いた事がある人は多いだろう。
攻守の対人能力の高さ、アバウトなクロス、特筆すべきなのはそのドリブル能力だ。
また、「セリエAの阪神」として名高いインテルで1995年からずっとプレイし、キャプテンを務めているという忍耐力の高さも売りだ。
10年で監督が15人、選手が100人入れ代わるというほとんど罰ゲームに近い環境で、彼は文句一つ言わずにやっている。
代表・クラブ合わせての経験は何ものにも代え難いはずだ。
そんな彼がなぜ?
確かに年齢は32歳と高めだが、監督との確執や戦術上不適合などの決定的な理由があったわけではない。
更には、これが一番重要なのだが、彼の代えがいないのだ。
メンバーにも入っていない。おそらくスカローニが埋めるのだろうが、明らかに力不足。
あるいはメッシーか、とも言われているが、3‐4‐3の右ウイングが果たして務まるのかどうかは誰にもわからない。
アルゼンチンはそのほかにも有力候補だった、ワルテル・サミュエル、マルティン・デミチェリスが外れている。
久保が外れたのには理由があった。ルーベン・バラハが、ルドヴィク・ジュリーが、クリスティアン・ヴェアンスが外れたのにも、理由があった。
ホセ・アントニオ・ペケルマンの選択には理由がない。
あるいは、あるのかもしれないが、合理的な説明がなかった。
リケルメと心中するという戦略はわかるのだが、彼以外を軽んじるようなチームなのだろうか?
本当のところはわからない。
ただ一つはっきりしているのは、サネッティがいないということ。
彼は一体どんな気持ちでテレビ画面を見つめるのだろうか?



■オランダ
■ルート・ファン・ニステルローイ
■FW

世界最強のCFと言われたのは、そんなに昔のことではなかったと思う。
今でも、悪くはない。
当たりの強さ、どんな体勢からでもシュートに持っていく貪欲さ、地味にポストプレイをこなす器用さ・・・今でもCFに必要な能力はすべて兼ね備えている。
少し調子を落としているのは確かだが、それだけで全てを否定するには余りにも惜しい能力だ。
今大会でも、おそらくCFとしては5本の指に入る。
是非、活躍を期待したいものだが、しかし、この初めてのW杯を彼は「無職」として迎える。
一応、所属はマンチェスターユナイテッドになっているが、調子こいて監督サー・アレックス・ファーガソンの逆鱗に触れ、今夏の放出は決定的。
おまけにシーズン中も、フランス代表のルイ・サハにポジションを奪われて、後半はろくに出場していない。
まさに踏んだり蹴ったりのシーズンだったと言えるだろう。
しかし、このW杯で彼は自分の価値を示さなければいけない。
マンチェスターに入った頃よりも、随分と年をとり、また昨今の公私にわたる不調によって、市場価値は急下落。
獲得に名乗りをあげるのは、インテル、トッテナムなどの香ばしい名前ばかりが並ぶだけだ。
四の五の言わずに与えられたところで点を取れと思うのだが、いかんせん彼のプライドが許さない。
PSVから出る時には引く手あまた、つい2、3年前まではやれレアル・マドリーだACミランだと騒がれていたくせに、今ではこの体たらく。
ニステルローイは歯がみしているに違いない。
自分が最強のCFであることを、彼は証明しなければいけない。
そのためには、唯一の弱点だった勝負弱さを克服する必要があるだろう。
弱いチームからボコボコ点を取るだけではなく、真の強豪相手に価値あるゴールを決めること・・・たとえばアルゼンチンのような。
だとしたら、彼の就職活動にはこの「死のグループ」はおあつらえむきかもしれない。



■セルビア・モンテネグロ
■イリヤ・ペトコビッチ
■監督

「プラービ」の愛称で親しまれるセルビア・モンテネグロ代表。
旧ユーゴの頃は「東欧のブラジル」と言われたように、テクニックを全面に押し出してくるチームだった。
ストイコビッチやプロシネツキ、サビチェビッチなどを代表とするように、相手を嘲笑うような技術から、曲芸のような点の取り方をしてきた。
それは良くも悪くも刹那的で、美しくはあったが、脆かった。
しかし、現在の代表チームの姿に、その面影はない。
率いるのはイリヤ・ペトコビッチ。
ゴール前に堅固な城壁を築き、確かな守備からのカウンターを武器にしている。
ペトコビッチの信念のもと、チームは大きく変貌を遂げた。
まるで北欧か東欧の小国かと見間違うばかりだが、今の代表チームに昔のスタイルを維持をする能力はない。
いまやたった2ヶ国になってしまったセルビア連合にとっては、それは現実的な選択なのかもしれない。
だが、それが合理的だと感じると同時に少し寂しくもある。
あの花火のような美しいフットボールをできたのは、世界でユーゴスラヴィアだけだった。
おそらく今後あんなフットボールを見ることはもう無理だろう。
もう取り返すことはできない。
しかし、ペトコビッチは全てを捨て去ったわけではない。
彼はインタビューでこう答えていた。「オランダもアルゼンチンも強い。だが、我々は戦うことをやめない。これはフットボールだ。」
彼らは内戦とともに多くのものを失った。選手も、金も、国も、ありとあらゆるものを失った。
しかし、彼らはイナット(矜持)だけは失っていない。
最後の瞬間まで、ペトコビッチは強国の喉元を噛み千切ろうとするだろう。
そして、いずれ敗れる時がきたとき、願わくばなるべく美しく倒れて欲しい。
彼らの先輩たちがそうしたように。



■コートジボワール
■コロ・トゥーレ&ヤヤ・トゥーレ
■CB&MF

名前のとおり、二人は正真正銘の兄弟である。
先に名が売れたのは兄のコロのほうだった。
身体能力に任せたでたらめに広い守備範囲で頭角を現し、今ではアーセナルのレギュラーになっている。
ヤヤのほうが知られるようになったのは、ごく最近になってからだろうか。
ブラック・アフリカ特有の行動半径の広さで、相手MFを悩ませている。
そういえば友人にヤヤ・トゥーレの説明をしたときに「ややトゥーレってなんだ、微妙にトゥーレってことか。」と半切れされたことがある。
ヤヤはねえよな、ヤヤは。同時にありなしで言ったら、コロもないと思う。
ところで、兄弟で同時にW杯に出る選手は少ない。
有名なところで言えば、ラウドルップ兄弟などがその代表格だろうか。
だが、ミハエルとブライアンは確かだいぶ年が離れていた。
それに比べると、トゥーレ兄弟は2歳しか違わない。
こうなると、必殺技などに期待したくなるのは私だけだろうか。
たとえば「コートジボアールタイフーン」だとか「象牙の塔」、あるいは「エレファントドリブル」なんかネーミングとしてはいいのじゃないだろうか。
兄弟なのでもちろん合体技である。
私の頭に高橋陽一作の「立花兄弟」がいることは間違いがない。
もう止められない。
そう思ってメンバー表を眺めてみると、次々と必殺技を繰り出しそうな面白ネームが並んでいるではないか!
バカリー・コネとアルナ・コネの「フレンチ・コネクション」、アルナ・ディンダンの「黄昏のダンディズム」、ジル・ヤビ・ヤポの「ヤッピー百烈拳」、とどめはマルコ・アンドレ・ゾロの「怪傑☆キャッツアイ」である。
まあ、本当の武器はディディエ・ドログバの「爆発身体能力」とディディエ・ゾコラの「黒人差別に抗議」なのだが。
だいぶ話がずれたが、DFが不安視されるコートジボアールのことである。
トゥーレ兄弟の本当の必殺技「頭の悪さは身体能力でカバー」がこのチームの危機を救うことになるかもしれない。

ワールドカップの肖像 2

グループBです。


■イングランド
■ギャリー・ネヴィル
■右SB

プレミアリーグ出場ゼロのテオ・ウォルコットを入れて、ジャーメイン・デフォーを外すというギャンブルというか、暴挙に出たエリクソン。
もうルーニーが駄目で、オーウェンも復帰後すぐでシオシオなので、やけになったエリクソンはギャグ路線に走ったものと、私は睨みました。
笑いと言えば人材に事欠かないのが、イングランド。
ジェナス、クラウチ、ジェームズ大将等精鋭を揃える中でも、特に私はギャリー・ネヴィルを推したい。
彼は右サイドバック不動のレギュラーで、実力的には可もなく不可もないといったところ。
しかし、致命的な弱点としてとにかく信じられないようなポカが多い。
弟のフィリップ・ネヴィルがユーロ2000であほなタックルで敗退を決定させるPK与えたように、不必要なスリルをプレゼントしてくれる血筋だ。
今大会もやってくれるはず。
もしこれでジェームズ大師範が出てくることになれば、2人が奏でる極上のエンターテイメントにイングランド人は嘔吐するに違いない。
さらに付け加えると、ギャリー・ネヴィルは行動様式がいじめられっ子だ。
なぜか相手から狙われやすい。蹴られる、殴られる、唾を吐かれる。
何か見ていてイライラするんだよ・・・・(放課後の教室で担任とマンツーマン)。
プレースタイルも、抗議の仕方も、倒れた後の痛がり方も、一々しゃくに障る。
いじめられた相手に詰め寄る姿も、「なにすんだよ、ジャイアン!」とでも吹き替えを入れたいくらいだ。
そんな彼を私は「ギャリー」と呼んで親しんでいる。
優勝という夢がだいぶしぼんでしまったイングランド。
それでもギャリーだけは私たちの期待を裏切らないはずだ。



■スウェーデン
■トビアス・リンデロート
■MF

堅固なDF、キープ力と決定力のある二人FW、スペースへの飛び込みは天下一品のサイドハーフ。
異常に低いDFラインと、FWのキープ力を生かして繰り出される一撃必殺のカウンターを武器に、ダークホース的な匂いをプンプンさせている危険なスウェーデン。
その戦略の要はズラタン・イブラヒモビッチであり、フレデリク・リュングベリであり、ヘンリク・ラーションであるわけだが、トビアス・リンデロートも間違いなくその一人だ。
ほとんどベタ引きのDFラインと前線には、モンゴルを思わせる広大なスペースが横たわっている。
リンデロートはその空間をほとんど一人で埋めていると言っても過言ではない。
スペース感知能力は超一級、小柄だが人にも強く、「白いマケレレ」と呼ばれている(私が勝手に呼んでいる)。
引き気味の1ボランチをやらせたらヨーロッパ屈指、なぜにデンマークのコペンハーゲンでプレイしているのかさっぱりわからない。
これだけの能力を持ってれば引く手あまただと思うのだが。
たぶんデンマークに何かあるんだろ。うまい焼酎とか、安い定食屋が。白夜マニアとか。
ともかく、彼がいるといないでは戦術自体を変更しなければならない、というほどの要。
作戦遂行という観点から見ると、ズラタン&リュングベリよりも比重はでかい。
上に行くためには、彼が健康で出場停止を食らわないことが一番の条件。
リンデロートの存在がスウェーデンをダークホースたらしめている。



■パラグアイ
■カルロス・ガマーラ
■CB

南米のカテナチオと評された98年W杯。
次期大統領候補チラベルト、アジャラ別人とともにゴール前に閂をかけ、守って守って守り倒したわけだが、決勝トーナメントでは、優勝したフランスのリベロのおっさんにわけわからんうちに決められて、轟沈。
その潔い死に様は「果たしてこれが南米か?」、「最後の侍を見た」、「マゾサッカー」など、高い評価を得た。
あれから8年。
あの時一緒に砦を築いたアジャラ別人は既に代表になく、チラベルトに至っては栃木県佐野市で子供と握手する始末 (ページ一番下のほう)。
ガマーラ本人もインテルでさんざん飼い殺されたりして、もう35歳になってしまった。
今大会は、チーム自体も「カテナチオ?イタリア語わかんね」と、攻撃型にシフト。
チームの中心は間違いなくFWロケ・サンタクルスだ。
ガマーラは既に主役ではなくなっている。
しかし、パラグアイ躍進のためには、必要なピースであることは間違いない。
肉体は衰えただろう。スピードもなくなっている。
しかし、98年に「南米にもこんなCBがいるのか」と驚いた、あの天才的な読みが錆びつくことはないはずだ。
円熟味を増したのか、枯れたのか。
最近のプレー振りを見ていない私にはわからない。
だが、できることなら老獪さを増したガマーラを見てみたいと思う。
「ガマーラは死んでない」
そう、実況に叫んでもらいたい。



■トリニダード・トバゴ
■ドワイト・ヨーク
■FW

眩暈がするようなメンバー表の中で、一際輝く名前がある。
ドワイト・ヨーク。
この名前を知らないサッカーファンはいないだろう。
トレブルを達成したマンチェスター・ユナイテッドの全盛期、フィニッシャーとして前線に君臨したのが、この男だ。
アンディ・コールとともに、立花兄弟を思わせる「ツインズアタック」は各チームの恐怖の的。
ベッカムのクロスに勢いよく頭から突っ込んでいくプレースタイルは、清々しいのを通り越して、若干気味が悪いくらいだった。
あれからだいぶ長い時がたち、今ではヨークもセンターハーフです(紫門ふみの漫画のタイトルのようなノリで)。
自身のスピードが衰えたこともあるのだろうが、それ以上にチーム事情でどうしようもないからやらされているといったところだろうか。
これあhワンマンチームにありがちなことで、98年のワールドカップでも、エムボマさんが不器用にボールをさばいていたのを覚えている。
ただ、シドニーFCでのプレーを見る限り、ヨークのそれはエムボマよりもずっとしっくりきている感じがする。
あのわがままだったヨークが?と私は驚きを禁じえない。
しかし、高いテクニックを生かして、彼は黙々と仕事をこなす。
本当の適職ではないだろう。それはヨークも十分承知している。
だが、他に担い手がいない。ならば、俺がやるしかないじゃないか。
年をとったせいか、ヨークにはそんな自覚が(やっと)芽生えてきたのかもしれない。
プレーだけでなく、精神面でも、ヨークは紛れもない中心選手だ。
今大会、トリニダード・トバゴは勝利を求められていない。
しかし、今後何十年かの自国のサッカーのために、無様なプレーは見せられない。
背負っているものが自分だけではないことを、ドワイト・ヨークはよく知っている。

ワールドカップの肖像 1

さて、ワールドカップである。
レベルの低下だとか、CLのほうがすごいだとか、商業主義だとか、批判が多々あるのも確かなのだが、やはり4年に1度の世界一決定戦。
スポーツブログをやっている身としては、無視することはできない。
ほんとは、別に無視できないこともない。
すべて無視して「ジャンナコプーロスはとってもエロそうだ」とかの話を書いてればいい。
しかし、お題を与えられての料理というのもなかなか楽しいものなので、あえてやってみようと思う。

当然、ここで戦力分析なんぞしても全く意味がないので、人的な側面にスポットライトを当てていくことにしたい。
1回に各グループ4チーム、そして各チーム1人ないしは2人程度のキーマンを取り上げていきたい。

まずはグループAから。



■ドイツ
■ユルゲン・クリンスマン
■監督


地に落ちた開催国。とりわけ批判されているのが、監督のクリンスマンだ。
サンフランシスコ在住、DF組織が出来ていない、GK問題・・・目の上のたんこぶ的なベッケンバウアーから容赦なく叩かれ(叩くベッケンバウアーもどうかと思うが)、ドイツ国民は戦々恐々となっているに違いない。
あるいはグループリーグ落ちか?なんていわれるほどだから、随分好評を博しているものだ。
だが、私のクリンスマンへの評価は低くない。
フォクツ、リベック、フェラーと、代表監督は3代続けて、これでもかとベテランを使い倒し、ひたすら「堅い」だけのくそつまらないポートボールチームを作り上げていた。
内容のなさは、「ゲルマン魂」とかいうよくわからない免罪符がある。
それが最近までのドイツサッカーだった。
しかし、クリンスマンは国内の若手を積極的に登用し、「サッカーとはポートボールではない」ことを教え、脆くはあるが美しいパスサッカーを展開できるまでに引き上げた。
この功績は十分に評価できる。
ただ、天才ストライカーらしく、やり方がだいぶエキセントリックだっただけだ。
おそらく、優勝はないだろう。あまりにもDFがしょっぱすぎる。
誰もがそう思っているが、クリンスマンだけは本気で優勝を信じている。
覚えているだろうか?前評判の低いドイツの怖さを。



■コスタリカ
■パウロ・ワンチョペ
■FW


正直言って、コスタリカはワンチョペとFWのサボリオ、それとMFのボラーニョスくらいしか知らない。
後の二人も世界クラブ選手権で目を引く活躍をしたから知っているだけで、本当に知っているという意味ではワンチョペのみだ。
ワンチョペの何がすごいと言ったら、もちろん名前である。(前回のエントリー参照)
ワンでチョペ。チョペってなんなんだ!「チョペ、ワン」でと渋くバーのカウンターで決めるのか!
もう、一度覚えたら絶対に忘れない。それくらいパンチ力のある名前だ。
しかし、ワンチョペのもっとすごいところは、名前に負けないパンチ力を持っていることだ。
パンチ力とはなんだろうか?
得点能力はさほど高くないのだが、試合の流れとか空気とかをまるで無視して点を取る能力のことだ。
ワンチョペは点が取れそうなときに寝ていて、何の気配もしないときにおもむろに得点する。
これは簡単なようで難しい能力だ。なにしろ、まるで説明できない。
おかげで、「ストライカーはパンチ力重視」という方針でダリオ・シルバなどを獲得していたマラガに招かれたこともある。
そういえば、前のW杯ではブラジルから点取ったりしてた。
いつ爆発するかわからない不発弾。眠っている可能性もあるが、不意に暴発の可能性も大。

予測不能のコスタリカン・ルーレット。
論理で説明できないワンチョペの「パンチ力」が、このグループの鍵を握る。



■ポーランド
■イェルジィ・デュデク
■GK


みなさんはあの魔法の踊りを覚えているだろうか?
それは昨年のCL決勝、3-0からリヴァプールがミランに追いついた、あの試合のPK戦で披露された。
あらゆるキーパーがPKは難しいという。
当然だ。キックが決まる確率は90%以上だという。
PK戦ではそれが最低でも5回繰り返されるのだ。ある意味で公開処刑に近い。
普通のキーパーだったら、止める確率を少しでも高めようとする。
フェイントをかける、相手の目を読む、キッカーの傾向を探る・・・・チームの勝利のために、1センチでもいいから相手のボールに近付こうと努力する。
それでも届かないのがPK戦だ。私はそんなキーパーの姿を美しいと思う。
一方、デュデクは踊った。
もう全くの裏技である。今まで誰も踊ろうとは思わなかった。だって、踊りたくないもの、PK戦で。
しかし、彼の作戦は功を奏する。
シェフチェンコを止め、彼は英雄になった。
特筆すべきなのは、その度胸だろうか。
CL決勝という、後にも先にもこれっきりというような舞台で、彼は華麗に舞った。
おかげで今年はベンチ暮らしが続いているが、W杯という大舞台で、そのダンサーとしての血が騒ぐのではないだろうか。
デュデクが舞う時、それはたぶんポーランドが大ピンチの時である。
ちなみに、GKとしての能力はブルゴスクラスでしかない。



■エクアドル
■カルロス・テノリオ
■FW


カルロス・テノリオの名前を知っている人は結構いるかもしれない。
現在、世界クラブ選手権に出場したUAEのアル・サードに所属しているからだ(たぶん出てなかったとは思う)。ごめんなさい。間違いでした。世界クラブ選手権に出たのはアル・イティハドでした。カルロス・テノリオが所属するアル・サードは浦和のエメルソンがいたところです。
大柄なのに柔らかいドリブルを駆使し、明らかに競技を間違えているような強靭な体躯をしているが、間違いなくエクアドル代表の攻撃面でのキーマンである。
ただし、彼の場合気をつけなくてはいけないのは、まだ「生きている」ということだ。
というのも、昨年に同じエクアドル代表のFWであるオティリノ・テノリオが、交通事故によって死んでいるからだ。
だいたいがエクアドルなんかの選手には興味がないため、テノリオが死んだと言えば、有名なほうの「カルロス・テノリオ」が死んだと思いがちである。
かくいう私も最近まで勘違いしてた。
おそらく今でも勘違いをしている人がいないとも限らない。
しかし、これは逆にカルロス・テノリオにとっては好都合かもしれない。
たとえばドイツのシュバインシュタイガー当たりがテノリオの区別をつけられているとは、到底思えないからだ。
「え?テノリオって死んだんじゃないの?」そんな微妙な雰囲気の中、触れていいものやらわからず、カルロス・テノリオへのマークは自然と甘くなるはず。
その時が、このストライカーの働き時だ。
作戦名「テノリオは2度死ぬ」。死ぬのかよ。
エクアドルが勝ち上がるにはそれくらいやらないと無理。
ただ、カルロス・テノリオは笑っちゃうくらい決定力がない。

イブラヒマ・バカヨコ

■イブラヒマ・バカヨコ(なんか情報によって誕生日が違います)
■サッカー
■FW


中学校時代の同級生に「カス」というあだ名の男子がいた。
確か「〇一(なんとかカズ)」という名前だったと思うのだが、入学当初から彼は「カス」と呼ばれていたように記憶している。
子供は残酷なものだ。何の呵責もなく一人の人間を侮辱的な名前で呼ぶ。「カス」と。
今にして思えば、ぎりぎりどころか、れっきとした人権侵害だ。
しかもマルティン・パレルモなりのパーフェクトなオフサイド、線審も胸を張って旗を上げるというものだ。
だが、不思議だったのは、「カス」がその不当な呼び名に対して、何の抵抗も示さなかったことだ。
むしろ進んで受け入れ、なおかつ自分が「カス」であることにアイデンティティを見出しているかのようだった。
私は最初当惑したが、だがそのうちに私も「カス」と呼ぶようになっていた。
真実はどうだったかわからない。中学生くらいの年齢に本当のカスなんていない。
今頃では、三畳一間でシャブ漬けで、嫁の給料で舟券一点買い、「倍にして返してやるからな!」などと吐き捨て、一点の曇りもないカス野郎になっているのかもしれない。


だが私はあえて言おう、「カス」であると!(ザビ家は関係ありません)
現在、たとえ「カス」が本物のカスなっていたとしても、私は驚かない。
なぜなら、私の中で彼はもう「カス」になってしまっているからだ。
娘の下着に顔をうずめようと、幼馴染の婚約者を金で奪おうと、納得してしまう。
義父を毒殺の上、行く先々で金を盗み、茶器に爆薬を詰めて自爆、最後には「下等な人間であります」と泣いて謝ったら、逆に万歳したいくらいだ。
名前というものはそれくらい大事なのだ。
イメージを形作る最初の記号であり、あまりにもそのインパクトが強いと、その印象しか残らなくなってしまう。


サッカー選手でも名前が全てになっている選手はいる。
イブラヒマ・バカヨコはそんな不幸な選手の一人だ。
今でも覚えている、彼の名前を最初にサッカー雑誌で見た日のことを。
それはとびきり暑い夏の(中略)バカはねえだろ、しかもヨコって。
かっこいい名前ならいい。
「ヨルグ・ハインリッヒ」だとか「キム・シェールストローム」だとか「ジャンニ・リヴェラ」だとか「オットマー・ヒッツフェルト」とかなら、いいイメージも作りやすい。
あだ名もそうだ。
「爆撃機」、「皇帝」、「襲撃者」・・・なんとなくプレーの想像はつく。
たとえ「中東のペレ」だの「寿司ボンバー」、「パナマの怪人」、「ヘリコプター」などちょっとアイタタタな名前でも、意外と見慣れてくればしっくりくるものだ。
だが、不幸かな「バカヨコ」はダメだ。
「バカ」はいけない。しかも「ヨコ」って。そしてとどめにイブラヒ「マ」。マって。
文句なしのKO勝ち、終わってみたら朝青龍。


もうそれ以来、バカヨコのイメージは膨らむばかりだ。

「おぉーっと、バカヨコ、左サイドを突破!でもスパイク左右逆!」
「バカヨコ見事なゴールです!でもそれは自殺点です!お、お、バカヨコ喜んでいる!喜んでいる!」
「今日も両方の鼻から青っぱなを垂らしていますねえ、バカヨコ」「ええ、ユニフォームも反対です。」
「うわー、書けない!バカヨコ!『ぬ』の字を間違えたー!!」
「あれ、バカヨコ立ち止まりましたねえ。」「ええ、ちょっと何してるのか忘れちゃったみたいですねえ。」「またですか。」「今シーズン五度目です。」


実際に試合を見てないのもよくなかったのだろう。
私の中での「バカヨコ」株はライブドアも真っ青の暴落ぶりである。
目をつぶれば、パンツから性器をはみ出させながらボールを持って走り出し、途中で目的を見失って立ち止まるバカヨコの姿が見える・・・。
かくも名前というものは大事なのだ。


同じような選手に「パオロ・ワンチョペ」、「イブラヒム・バ」、「サムソン・シアシア」、「アレハンドロ・マンクーソ」、「パスカル・チンボンダ」、「ポール・スミス」などがいる。
ワンチョペやバくらいは見たことがあるので、なんとか構築されたイメージを覆すことはできる。

しかし、チンボンダ当たりになると、一体ピッチ上でどんな行為を繰り広げているのか見当もつかない。
「・・・ハァハァ・・・いや、やめてお義父さま、そこはっ・・・ああっ!お義父さまのチンボンダ!大きいっ!(以下自主規制)」などというみだらな妄想をしたとしても誰も責めることは出来ないだろう。いや、できるか。まあいい。


挙句の果てには、シアシアとマンクーソに至っては同じピッチで、しかもワールドカップで対戦している。(94年)
「さあ、シアシア、マンクーソにあたりにいきます!」「いいですねー、シアシア」「おっと、マンクーソ、シアシアに対してファウル!」「シアシアとマンクーソが激しくぶつかる!」「マンクーソ、マンクーソ、マンクーソ、ドリブルで上がる、並走するシアシア、追いつくか、追いつくか!おぉーっとぉー!」「うわー、シアシア!」「そこでチンボンダだーーーー!!」「シィーーータァーーーー!!」「カネダァァァァーーーーーー!!」
放送席にいるのが加茂さんだったら、静かに眠ってしまうことだろう。


私が一番危惧するのは今後のことだ。
幸か不幸か、バカヨコは伸び悩んだ。
期待されたほどの成長を示すことが出来ず、このままひっそりとクラブを渡り歩いて現役を終えるだろう。
日の当たるビッグクラブには行くことはまずない。
だが、他にも名前オリエンテッドな選手が出てこないとは限らない。
「バカヨコ」や「チンボンダ」などという生易しいものではなく、しかももっと脚光を浴びてしまいそうな・・・。


(以下、森本レオの声でお楽しみください)
20XX年、ACミランに一人の天才が移籍してきた。
地元レフスキ・ソフィアで3年連続30点をあげた100年に一度のストライカー。
移籍金は史上最高の1億ユーロ。
だが、パオロ・マルディーニ監督のたっての希望もあり、ACミランは支払いを承諾した。
今後10年はACミランを任せられる逸材。
ワールドカップでの得点王も期待される、ブルガリアの英雄。
その名も「チンボーノ・マンコフスキー」。
ミラニスタは彼の活躍を信じて疑わない。
*写真はユニフォームを掲げて喜ぶマンコフスキー
(以上、森本レオ)


あるいは、こういうことだ。


(以下、田口トモロヲの声でお楽しみください)
アルゼンチンに、一つの才能がある。
地元リーヴェルで弱冠14歳でデビューし、そのまま中盤の王になった。
両足から繰り出される柔らかいパス、突進力のあるドリブル、当たりに負けない体躯、彼はサッカー選手に必要なものを全て備えている。
一度対戦すれば、誰も彼を子供だとは思わなくなるだろう。
現代表監督のハビエル・サネッティも「招集の可能性は高い」と才能を認める。
アルゼンチンの至宝、遅れてきたマラドーナ2世。
「フェルナンド・シャチョサン・ハゲリーニョ」から目を離すな。
(以上、田口トモロヲ)


「いやー、それにしてもねー、いくらなんでもハゲリーニョってのはねえ」
などという金田喜稔の含み笑いが聞こえてきそうだ。

意外に二人とも結構な美形で日本から「マンコフスキーツアー」なんかがキャンキャンの主催で開かれちゃったりしちゃうのですよ、お父さん!
娘の危機ですよ!「マンコフスキー・陽子」とかになって帰ってくるかもしれませんよ!

あるいは婿養子で「田中チンボーノ」。これはきつい。


だからと言ってどうすることもできない我々は、日本の名作を読むことしかできない。


『我輩は猫である/夏目漱石』


名前はまだない。

『名前は「マダナイ」という猫』という某漫画家のネタに爆笑した記憶がある。


調べていてわかったのだが、バカヨコはコートジボアール人だそうだ。
折りしも、カメルーンを破ってワールドカップに出場を決めている。
ドログバ、カルーを中心としたFW陣に割って入るのは難しそうだが、ぜひともバカヨコは代表に選出され、日本のお茶の間を色んな意味で楽しませていただきたいものだ。

ディビッド・ジェームズ

ディビッド・ジェームズ (David James 1970年8月1日)

■サッカー
■GK


選手を評価するときに、身体能力が高い、という形容詞がつくときには注意したほうがいい。
それは暗に「他の能力が低い」ということを言っているからだ。
たとえば、ジョージ・ウェアのようにものすごく高いレベルの中で、わずかに身体能力がまさっている場合もあるにはあるが、それはバロンドール級のレアケースだ。


大抵の場合は、合コンの相手の特徴を尋ねた時に「えーっと、優しい娘」と言われた時と同じだと思って差し支えない。
みんなも経験があるに違いない。
その娘は本当に仏陀クラスの「やさしさ」を備えているわけではなく、他の「スタイル」、「顔」、「知性」などに突出した個性がないからこその形容詞なのだ。
同様の形容に「気が利く」、「お酒が好き」、「おもしろい」なども要注意ワードだ!
何度だまされたことか!


こういった犠牲者を出さないためにも、ウイニングイレブンのように数値で出して欲しい。
「うわ、こいつ軒並み能力低いけど、『巨乳』スキルつきだよ、どーっしよーかなー。」などと悩ませてくれ!
女性読者も、男性を紹介された時には気をつけて欲しい。
「男らしい」、「背が高い」、「癒し系」なんてのは要注意!
ただ『お金持ち』スキルつきは見逃すなっ…!天国への片道切符だっ・・・!


話が本田泰人のミドルシュートくらい逸れた。
要するに、今回紹介するディビッド・ジェームズもそういう選手なのだ。
彼もいわゆる「身体能力が高い」と言われている選手の一人だ。
問題は、彼がGKであることだ。しかも代表クラス。
最後の砦であるべきGKの第一アイデンティティが「身体能力」。
どうなんだ、それ。
そう思った方はおそらく正しい。


代表クラスのGKの評価のされ方は、「沈着冷静」だとか「読みのいいポジショニング」、「集中力の強さ」とか形容される。
ブッフォンを見てみるとよくわかるだろう。
彼はこの形容詞のどれを当てはめてもよくはまる。
世界最高のGKといわれるのも頷ける。
しかし、ジェームズにはそのほとんどが欠けている。
「タイミングのいい飛び出し」も「正確なパンチング」も「精度の高いフィード」も「絶妙の判断力」もない。

「抜群のリーダーシップ」も「DFラインの的確な統率」も「炎のロックンロール」もない。一番最後のはブルゴスしか持ってない。


ジェームズは身体能力一本やりなのだ。それしかない。
まるでデビュー当時の肉体美を売りにし続ける三十路近くのグラビアアイドルのようではないか。
それはそれで潔いとは思うのだが、いずれ通用しなくなるのは誰の目にも明らか。
やれ演劇だ、やれ歌だ、やれ司会業だと、その他の能力を磨き始め、なんとかしてグラビアという「身体能力」以上の何かを引き出そうとする。
そりゃ、真鍋かおりもブログを書き始めるというものだ。
だが、ジェームズはそういう気がないのか、そういうことができなかったのか、選手として晩年に近付いてきた今でも「身体能力」のみが彼の売りだ。
たぶん頭が悪いんだと思う。


おかげで、彼はとんでもないミスをするネタ系のGKとして名を馳せている。
すっとこどっこいなタイミングで飛び出してあっさり交わされたり、ドリブルしてボールを掻っ攫われたりと、年に数回は目を覆いたくなるほどのミスをする。
おそらく、自分の身体能力をいまだにイメージしきれていないのだ。
「身体能力を制御しきれない」とか言うとちょっとかっこいいが、単に集中力がないのと頭が悪いだけだと思うので、騙されないように。


ただ、考えようによってはこれはすごいことだ。
GKとして必要な技術を何一つ身に付けることなく、唯一身体能力に任せた反応の早さだけでいまだに代表に名を連ねているのだから。
サッカー界の細川ふみえと名付けても差し支えないだろう。
誰か他にいないのかイングランド。


たぶん彼はこのままで現役を終える。
それでしょうがないんだと思う。
いまさら正確なポジショニングとか身に付けられても、こっちが困る。
これは予想でしかないが、これからどんどん身体能力が衰えていく中で、自分の認識と身体能力のギャップが広がり、随所で信じられないミスを披露してくれるはずだ。
ジェームズから目を離すことはできない。


そんなジェームズにピッタリなのはこちら。


『吉本印天然素材』


内容は全然違うけど許してくれよな!


次のワールドカップをジェームズは2ndGKとして迎えるだろう。
だが、信じている。
1stのロビンソンが怪我をして、ジェームズ先生の出番がくることを・・・!
同じくネタ系のイェンス・レーマン(笑)もドイツの1stに任命されたことだし、同じことがジェームズにないとは言い切れない。
堅固を誇るイングランドDFに100%のエンターテイメントがもたらされるはずだ。
その時から、真のワールドカップが始まることは間違いがない・・・!


わけがない。


しかし、なんであの手のGKは帽子を被るのか。

フィリッポ・インザーギ

■フィリッポ・インザーギ(Filippo Inzaghi 1973年8月9日)

■サッカー
■FW


スポーツの目的の一つに、勝利というものがある。
それは唯一絶対無二の教義のようなもので、「フェアプレイ精神」だとか「健全な教育」だとかの二次的な他のおためごかしの目的に比べると、はるかに重要視されている。
ヴィンス・ロンバルディが「勝利がすべてなのではない、勝利は唯一なのだ」と言い、それを手に入れるために最善を尽くす必要があると示唆した。
勝利を手に入れた者はすべてが正当化される。
日本で言えば「勝てば官軍」と言ったところだろうか。
だから、プレイヤーたちの中には、ロンバルディのように極端な考え方を持つ者がいる。
たとえルール違反でも、勝てばいい。
極端な考え方だが、スポーツの世界の中ではスタンダードでもある。
最も合理的で最も純粋だし、「スポーツマンシップ」なんていう誤魔化しに比べれば、ずいぶんとわかりやすい。


サッカーの場合にも当然それは当てはまる。
ほとんどのプレイヤーが大なり小なり、そういったことをしているだろう。
MFやDFの場合は、審判の目をかいくぐって相手を削り、肘打ちをし、頭突きをする。
前線の選手の場合は、誤魔化しということになるだろうか。
オフサイドを誤魔化し、ハンドを誤魔化し、ファウルを誤魔化す。
ときにはエリック・カントナのようにカンフーキックを繰り出すこともある。(一年間の奉仕活動つき)


その中でもとりわけたちが悪い(と言われている)のが、シミュレーションだ。
シミュレーションを簡単に説明すると「演技」である。
やられていないのに、やられたような振りをすることだ。
サッカー選手はとにかくこの演技がうまい。
特に前線の選手にはそれが顕著だ。
トッティ、リバウド、ドログバ…うまい選手は倒れるのもうまい。
彼らは体が触れるか触れないかのうちに大怪我でも負ったかのように倒れる。
へたくそな演技だとカードをもらうのは彼ら自身だ。
だが、そんなことはほとんどない。
そんな熟練者たちはいつしか「ダイバー」と呼ばれるようになった。
彼らはピッチという大海原のあちこちで、「ダイビング」を敢行する。波なんかないはずなのに。


前置きが長くなった。
今回取り上げるフィリッポ・インザーギもそんなダイバーたちの一員だ。
彼はダイバーの中のダイバー、あらゆる場所であらゆるタイミングでダイビングをできる、勇気ある男だ。
ダイバー界で彼のことを知らない奴はもぐりだ。ダイバーだけに。うわ、俺まじでセンスいい。


まず、フィリッポ・インザーギの本業について話そう。
彼の名前を知らない人はいないと思う。
セリエAでも得点王を獲得した、現代きっての「1タッチストライカー」である。
テクニックがあるわけでも、足が速いわけでも、でかいわけでもない。
とにかく点の取れるところにいるというポジショニングと、手に入れたチャンスを体のどこでもいいから押し込んでいく決定力が特徴。
昔彼のプレーの分析を雑誌で読んだことがある。
驚くべきことに、彼のプレーのほとんどが1タッチもしくは2タッチで、そのさらに半分がシュートであるというデータがでていた。
彼の得点力を誉めるには簡単だ。「嗅覚」という言葉を使えばいい。
自分の鼻だけを頼りに得点を積み上げる男、インザーギ。
ある意味、最もFWらしいFWと言えるかもしれない。


しかし、インザーギには別の側面もある。
まず、彼は生粋のエゴイストだ。
ストライカーたるものエゴイストであるのが当然だ。わかるかね、柳沢くん?
とにかくパスはしない。
長い事相棒だった人格者のデルピエロでさえ、「パスくれない」と嘆いていたほどだ。
ただ、これに関しては、ストライカーとはそういうものなのだからしょうがない。そうだよね、柳沢くん?
彼はエゴイストであると同時に、勝利を渇望している。だから、彼はパスをしない。
自身のゴールが勝利に直結していることを信じているからだ。


次はインザーギの素行の話だ。

彼はとにかくいちいち大袈裟なのだ。
試合中のあらゆる場面で感情を剥き出しにしている。
わかりやすいのはパスをもらえなかったときだろうか。
それまで前に走っていた体勢を小走りで止めながら、「ここに出してくれよ!」と両手を差し出して味方にアピールするシーンだ。
オフサイドの時にも同じポーズをする。なんでもいいのか。
審判へのアピールも多い。
しばしば何かを叫んでいる。
わりと大袈裟なイタリア人の中でも、とりわけよく目立つ。


さて、以上のゴール以外の二つの特徴をわかってもらえたことと思う。
そして話はダイビングへと話は戻る。
このインザーギの「エゴ=勝利への餓え」と「大袈裟な身振り」を混ぜ、「ゴール大好き」風味で味付けをすると、どうなるだろうか?

なんと「芸術的ダイビング」が完成するのだ。


インザーギのダイビングは完璧だ。
タイミング、大袈裟な倒れ方ともに技術点では文句なし。
さらに、倒れた後の痛がり方と、「信じられない」とでも言いたげなまるでレイプされたかのような表情、さらには何かを求めるように両手を天に掲げる姿も秀逸。
芸術点でも文句なし。
リプレイ前に言う審判への小言もボーナスポイントだ。
もちろん、足など引っ掛かってないことは言うまでもない。
しかし、ダイバーにとって足が引っ掛かっているかどうかなど、些細なことだ。
ダイバーはダイブする。それが仕事だからだ。
インザーギは躊躇なく完璧にダイブをやってのける。
一体これでどれほどのPKを獲得したのだろうか?
年をとってさらにその技術が円熟味を増しているのだから、なおさら手がつけられない。


彼に比肩できるダイバーはスペインにいる。
ベティス所属のダニだ。
ダイバーとしては西の横綱と言った所だろうか。
卒中を起こしたかのような悲劇的な倒れ方はインザーギ以上かもしれない。
ただ、倒れた後の芸術点で惜しくも次点にならざるを得ない。
さらに、彼はFWとしてはたいしたことない。


そんな一流ダイバーのインザーギにぴったりの映画はこちら。


『深く静かに潜行せよ/ロバート・ワイズ』


誰よりも深く、誰よりも静かに、インザーギはダイブする。

ダイブするときの彼は何よりも幸せそうだ。
その姿は狡猾で、それ以上にとても美しい。


ちなみに、フィリッポ・インザーギには弟もいる。シモーネ・インザーギだ。
プレースタイルはほとんど同じで、兄弟揃ってよく転がる。
あるDFは「あの兄弟は詐欺師だ」と言っていた。
ゴールの決め方も「こそ泥」みたいだとよく言われる。
それでもゴールはゴールなのだから、なんとも言えない。
勝つこと、ゴールすることがフィリッポ・インザーギの、インザーギ兄弟の全てなのだから。


ただ、是非、インザーギ兄弟の親の顔が見てみたいものだと思う。

ロラン・ロベール

ロラン・ロベール (Laurent Robert 1975年5月21日)

■サッカー
■左MF


止まってるボールを蹴らせたら、というフレーズがある。
右だったらおそらくベッカムが世界一だろう。
次点がピルロ、ジュニーニョ当たりだろうか。ベロン、ソラーノも悪くない。
まあ、このあたりは誰でも遜色はない。
左も候補は多い。
ミハイロビッチの鉈で叩き斬るようなキック、アドリアーノの異空間ビーム、ロベルト・カルロスのザ・滅多に入らない・太もも炸裂、中村の変態スライダー・・・どれも甲乙つけがたい。


今回取り上げるロラン・ロベールの左足から放たれるFKも素晴らしい。
弾道で言えばミハイロビッチに似ているだろうか。
強く、早く、よく曲がる。
コースに決まれば、GKはあきらめるしかない。
相手に恐怖感を与える類のキックと言えるだろう。


ただ、間違っていけないのは、あくまでFKはおまけであるということだ。
フィールドプレーヤーとしての仕事が先なのは言うまでもない。(ミハイロビッチの一番の仕事は相手を挑発して退場させることである)
その上FKまでうまいときたら、なんというお得感だ。
まあ、かわいい子が意外と巨乳だった、というような感じだろうか。
嬉しい悲鳴の一つもあげたくなるというものだ。


だが、何にも例外はある。
問題は、ロベールの場合はFKがおまけではないということだ。
彼は「止まってるボールしか蹴れない」。
つまり、FKもしくはCKだけにその左足が爆発する、ということだ。
さきほどのたとえによると、ロベールは巨乳一本槍のグラビアアイドルスタイルであるとも言える。
この「止まっているボールしか蹴れない」界で、ロベールの右に出る者はいない。
いや、左足だから左だろうか?
ともかく、ロベールの見せ場は極言すれば、FKだけだ。


決して力がないということではない。
インプレー中は主に左サイドを主戦場とし、相手を脅かす。
スピードはないが、タイミングがいいのだろう、突破することもしばしばだ。
闘志を全面に出して、守備もする。
スタミナはあまりないが、フランス代表歴は伊達ではない。


しかし、ロベールには致命的な弱点がある。
それは「クロス」だ。
え?左足が得意じゃなかったっけ?とみなさんは思うかもしれない。
そう、確かに彼の左足はモンスター級だ。
しかし、私は言ったじゃないか。
ロベールは「止まってるボールしか蹴れない」界の第一人者だと。


とにかく、一度見て欲しい。
アーリークロスはまだましな方だが、突破後のクロスはまあ、ひどいもんだ。
あのFKの精度はどこへやら、味方めがけて蹴っているのかどうかも判然としない。
やけっぱちで思い切り蹴ってるようにしか見えないクロスで、敵もクリアできないけど、味方も合わせられない、というような代物。
至近距離で弓矢撃たれたようなものである。
チェルシーのウィリアム・ギャラス(サイドバックで本職はCB)のクロスとたいした違いはないかもしれない。
あれに合わせて点とってたシアラーはほんとに凄かったんだと思う。
このクロスの下手さはもうサイドハーフとしては致命的だ。


単純に前に走りながら横に蹴るのが苦手なのだろう。
監督たちは、あれほどのFKがあるのだからそのうち改善するだろう、と誰しもが思っていたに違いない。
私だってそう思っていた。
だが、結局改善されないまま、今に至る。
どうしてこうなってしまったのだろう?


想像1
「ロラン、君はフリーキックが上手だねえ。」
「うん!ぼくフリーキック好きだよ!」
「じゃあ、フリーキックだけ練習しなさい。動いてるボールなんか蹴る必要ないんだよ。」
「うん!わかったよ、パパ!」


想像2
「ロラン、これをつけてごらん。」
「え?なにこれ?」
「大リーグフリーキック養成ギプスだよ。これをつけていれば世界有数のキッカーになれる。」
「えーん、パパ、痛いよー、走れないよー。」
「それでいいんだ、ロラン、フリーキックだけ練習しなさい。」


今時大リーグもないと思うが。
どうしても「幼少期のトラウマ」的想像になってしまうのは単純に私の趣味です。
まじめな話、おそらく育成過程で何かを間違ったとしか思えない。
指導者がきちんとした指導をできなかったのかもしれない。
また、適切な指導を受けていたとしても、気性がかなり荒いロベールのことだから、馬の耳に念仏だったとか。
同じような理由からかわからないが、ロベールは右足もほとんど使えない。

そして、性格も悪いからきっと友達もいない。


左足一本、しかもFKのみという特異な成長を遂げたロベールにぴったりなのはこちら。


『孤独の発明/ポール・オースター』


誰とも友達になれないロラン・ロベールはただ孤独にサッカーボールを蹴り続け、空間をワープするFKを発明したのだった。(と思う)

なんとなく、壁に向かって蹴り続けるロベール少年の面影が浮かんでくるのが不思議だ。


ともかく、ロベールはひたすらFKを蹴り続けている。
年に何度か信じられないようなゴールを決めることもあるだろう。
それが彼の存在意義だし、そういう選手がこの時代にいるというのも悪くはないと思う。

ディオン・サンダース

ディオン・サンダース (Deion Sanders 1967/9/8)
■アメフト/野球
■CB/PR/WR/外野手



「優勝請負人」「二足のわらじを履く男」「ネオン・ ディオン」「プライムタイム」…
肩書きのやたらと多い男だった。
その中でも一番有名なニックネームは「プライムタイム」だろうか。
派手な言動、派手な服装、派手なプレイ、まさにその名前が似合う、きらびやかな選手だった。


ディオンがアメフトと野球の二足のわらじを履いていたことは、非常に有名だ。
またアメフトの中でもポジションを3つもこなし、最終的に何足のわらじを履いていたのかよくわからない。
もし娘がこういう男と結婚しようとしたら、私は絶対に止める。


野球のほうはあまり見たことがないので、何とも言えない。
成績だけ見ると、盗塁と守備以外はぱっとない選手だったようだ。
ただ、アメフトのスーパーボウルに出場した選手で、唯一ワールドシリーズに出たことのある選手でもある。


二足のわらじを履いていたと言っても、やはり輝かしいのはアメフトでのキャリアのほうだ。
2度のスーパーボウル優勝、最優秀守備選手1回、プロボウル選出8回。
CBもしくはPRとしては最高級の選手という評価を受けていた。


そのうち、PRとしては文句なしの能力を誇っていた。
システマティックなアメフトにおいて、リターナー、特にパントのリターナーは、個々人の即興が大きなウェイトを占める唯一のポジションである。
ディオンはその常軌を逸したルートの取り方と抜群のスピードで、しばしばカバーチームをぶち破った。
彼にとっては天職だったと言えるだろう。


しかし、CBとして優秀だったかと言われると、賛否両論だ。
とにかくディオンはタックルが下手だという評判だった。
私もそれには賛成する。
何度か見たことがあるが、そりゃあ、もうひどいものだった。
「こいつ目つぶってやってんじゃねえの」というくらい的外れ&へっぴり腰のタックルで、見ていた私の腰はへなへなと抜け、当時付き合っていた彼女に振られ、おまけにドラクエのセーブデータが消えた。
どうしてくれる。勇者「しめおね」を返せ。
まあ、それくらいにひどい。
ちょっと気合の入ったQBの方が、絶対にいいタックルをする。ブレット・ファーヴとか。


蛇足ながら付け加えると、CBというポジションは相手のパスレシーバーをカバーするのが役目である。
前まではマンツーマンが主流だったが、最近ではゾーンの守り方も結構導入されている。
ゾーンにせよマンツーマンにせよ、重要なのは、「縦に抜かれる」or「タックルミス」が致命傷になりかねないということだ。
場合によっては一発のパスでタッチダウン、というのもよくある。
だから、CBにとっては、パスを取らせないことも重要だが、その後のアフターケア、つまりパスが通った後に確実に仕留めるタックルというのが、非常に重要になってくる。
要するに、ラブホテルに誘って断られた後に、そのまま切れて帰らせるか、お茶を飲んで談笑するかというようなものだ。(この比喩はフィクションです)
現に、優秀なCBはほぼ確実にタックルがうまい。
さらに言えば、プロレベルになると、CBだけでなくDFの選手全般にとって、タックルはほぼ必須の能力だ。


だからと言って、ディオンは下手なCBであったと言うつもりはない。
なぜなら、彼は別の方法をとったからだ。
タックルが下手なディオン・サンダースがどうやってプロボウルまでに登り詰めたか。
普通の人間だったら、タックルが下手→死ぬほど練習→タックル上手になる、という段階を踏むと思う。
しかし、ディオンはさすがにプライムタイム。
やることが違う。
彼の場合は、
タックルが下手→タックルするような状況に絶対にさせない→絶対にパス通させない
というパントリターン並の常軌を逸した思考ルートになってしまう。


「城主!敵方は2万の大軍!」
「うーん、片目つぶってみ?」
「あ!1万に減った!」


根本的な解決になってないところがミソである。
しかし、それでなんとかしてしまったところがディオンのすごいところである。
徹底したマンツーマンディフェンスで相手のエースを封じるだけでなく、わざと相手から離れ、空いてると思って投げられたパスをインターセプトするという漫画みたいなプレイまでも行っていた。
おかげで、インターセプトされる確率が高いので、相手QBがそもそもパスを投げない、ということになる。(おかげで逆サイドは好評炎上中、ということはよくあったが)
彼がマークするサイドは「ディオンサイド」と呼ばれる聖域になった。
試合中に完全な静寂が訪れる不思議な空間だったことを憶えている。
しかし、相手エースを完全に「消す」ことには成功していた。
NFL史上で最も卓越したエースキラーだったことは間違いない。


そもそもの弱点を克服することなく、スーパースターにのし上がったディオンの武器はその気違い地味た発想だった。
そんなディオンにぴったりの映画はこちら。


『フィツカラルド/ヴェルナー・ヘルツォーク』


「船が通れないなら、船で山越えちゃえばいいじゃん。」という映画である。
リアル船頭多くして船山登る。
常識で通用しないなら、非常識で勝負。
それがどんなに無謀でも、やってみる価値はある。
ディオンはそれを身をもって体現した選手だ。
ちなみに、監督ヘルツォーク、主演クラウス・キンスキーともに掛け値なしの狂人である。


意外なことに、ディオンはまだ現役だ。
年齢からか、一度引退していることもあり、衰えは隠せない。
しかし、実に楽しそうにプレーしていた。
おそらく彼の根本的なキャラクターは非常にシャイなのではないだろうか。
派手な言動も服装も、それを隠すためのアクセサリーに過ぎない。
スーパースターでなくなったため、今は飾る必要がなくなった。
もう彼をプライムタイムと呼ぶ人はいない。
しかし、それが本当のディオン・サンダースなのかもしれない。