ワールドカップの肖像 4 | picture of player

ワールドカップの肖像 4

グループD



■ポルトガル
■ルイス・フィーゴ
■ウイング、サイドMF

初めて見たのは、バルセロナに入って間もない頃だったろうか。
ちょうど、それまでのトップ下から右ウイングへとコンバートされたフィーゴは、窮屈なハンカチ1枚ほどのスペースから解放され、右サイドをずたずたに切り裂いた。
スピードで力任せに引き千切るタイプではない。
また、飛び出しのタイミングで勝負する「生かされる」タイプでもない。
フィーゴはまずボールを受け、そこからおもむろに勝負をしかける。
そのボールの持ち出し方は、バレエのようにゆっくりとした軽やかなステップで始まる。
華麗なフェイントがあるわけでもない。種類も少ない。
しかし、そのいくつかのフェイントと重心の移動のみで、相手の逆を取る。
抜群のセンスがないと出来ない技だ。
フィーゴの動きに合わせて、相手ディフェンダーはダンスを「踊らされる」。
不必要なまでに完璧に抜き去っているから、実際、本当に踊っているように見える。
よほどの力の差がないとできないことだろう。
彼はバルセロナの右サイドはダンスホールに変えた。
1対1で対峙して、まともにボールを取られたのをほとんど見た事がない。
たとえ2人に囲まれてもしばしば突破し、糸を引くようなクロスや、目の覚めるような強烈なシュートを叩き込んでいた。
ルイス・ファンハールという面白監督の黄金時代の中で、フィーゴもまた、自身の全盛期を迎えていた。
その頃のフィーゴはまぎれもなく、世界で有数の支配者だった。
そして、現在。
レアル・マドリー、インテルとチームを変える中で、フィーゴはその役割を色々と変えていった。
マドリーでは、「支配者」ジダンの忠実な将軍として、のちにファンの壮烈なる野次の対象として。
インテルでは、純粋なサイドアタッカーとして、単純なスタイルのチームに変化を与えるスパイスとして。
役割が変わるに従って、また年齢を経るごとに、彼の支配力は弱まっている。
DFを踊らせることも少なくなった。引きちぎることは1試合に1度あるかないかだ。
代表のチーム内での位置づけも変わった。
現在のポルトガルの中心はまぎれもなくデコだ。
かつての僚友ルイ・コスタ、フェルナンド・コウトは代表を去っていった。
C・ロナウドやシモン・サブローサなどの若手も出てきた。
おそらく、今度のワールドカップはフィーゴにとっても最後の国際大会になるだろう。
これは半分願いなのかもしれないが、衰えたフィーゴの姿は見たくない。
できることなら、バルサでの全盛期で見せたように、華麗に相手を舞わせるようなプレーを披露して欲しい。
もちろん、そんなことができないのはわかっている。
だが、ワールドカップはまだ始まっていない。
今までにワールドカップで起きてきた信じられない出来事を考えたら、一体、誰が無理だなんていえるんだろうか?



■アンゴラ
■ペドロ・マントラス
■FW
選択の余地はない。
知ってる名前がマントラスだけだからだ。しかもワールドユースで日本とやった時の、おぼろげな記憶。
アンゴラ自体は日本での親善試合は見たが、いかにも新興国という感じで、組織は未整備、個人技で局面を打開していく、古いスタイルの南米に近い印象。
ただ、その個人技も往年のスーパーイーグルスやカメルーン程の卓越したものはなく、単にこねまわしているだけで、このレベルで通用するものとは思えない。
しかし、このW杯をアンゴラは単なる「旅行者」として通り過ぎるわけにはいかない。
なぜなら、このグループには奇しくもポルトガルが同居しているからだ。
ポルトガルはアンゴラにとっては旧宗主国。
400年以上の支配を経て独立を果たしたが、その後に待っていたのは約30年も続く内戦だった。
想像するしかないが、ポルトガルへの感情は愛憎なかば、長年見守ってくれた父親でもあり、忌むべき圧政者でもあっただろう。
その父性の塊のようなポルトガルと、初めてのW杯で戦うというのは一体どういう縁だろうか。
躊躇があるだろうか、それとも他の何かが?
だが、アンゴラはそろそろ戒めを解かなければならない。
ここからようやく本当の自国の歩みを始めるためにも、今大会はいい機会となるかもしれない。
そのためにも、ポルトガルでプレーするマントラスの力が必要となるだろう。
ベンフィカではサブ生活を送る彼だが、まだ老け込む年ではない。
あの柔らかいタッチと意外性のあるプレー選択は、ポルトガルと言えども十分警戒せざるを得ない。
勝つことは難しいかもしれない。
あるいは、引き分けさえ論外とも言える。
だが、少なくとも同じ条件で戦うことはできる。
どれだけ国が荒れていようとも、いまだに銃の音が鳴り止まなくても、相手が侵略者だろうとも、ピッチに立つのは11人で、ボールは1つ、ゴールは1つ。
フットボールは実に公平だ。



■イラン
■ホセイン・カエビ
■右SB

まずこの選手のキャップ数を見て欲しい。
ワールドカップ前で42。
この数字を見ただけでは大しておかしいとも思わないかもしれないが、注目して欲しいのはその年齢。
なんとまだ20歳。
十代で代表キャップを刻んでいることさえ珍しいというのに、もうすでに40を越えている。
日本の中澤が48キャップなので、それとほぼ同じ試合数を20歳にしてこなしている。
このままのペースでいくと、メキシコの皇帝スアレスの世界記録も狙えるだろう。
ただし、これが、中東でよくある年齢詐称によるものなのかどうかはよくわからない。
だって、イラン人年齢よくわかんねえもん。
前にU-23の日本戦を見たときに、明らかにこいつら30だろってのが8人くらいいた(確か実際に年齢詐称で2、3人追放されたようだが)。
とりあえず、このカエビについてもそこの点については突っ込まないことにする。
カエビというよりも、キャビィというほうが日本人には馴染み深いだろうか。
日本ではちょっと前まで「キャビィ」と呼ばれていたが、なぜか最近「カエビ」になった。
なぜだろうか。地元議員の圧力だろうか。それとも細木数子に相談でもしたのだろうか。
ともあれ、その能力は本物。
右サイドを疾走するスピードと、足下のテクニックはアジアレベルを超えている。
マハダビキアとのコンビは絶品で、日本代表も何度も苦しめられた。
さらにそれにアリ・カリミが絡む右サイドは、イランの攻撃の中でも最も有効なオプションだろう。
お世辞にも守備はうまいとは言えないし、公称175センチの身長は明らかに160センチ台。
空中戦は明らかにウィークポイントになる。
ただ、イランはそれでいいのだろう。
このチームは守るチームではない。
現実の世界でも、イランは超大国アメリカに抵抗し続けてきた。
どれだけ相手が強大でも、それに立ち向かう勇気を持っている。
今大会でも、このグループには強烈な敵が揃っている。
それでもイランは闘ううだろう。
カエビはその一番槍を担い、勇敢に敵陣に突っ込んでいく。
彼が巨人の喉笛に食らいついた時が、イランの突撃の合図だ。



■メキシコ
■クラウディオ・スアレス
■CB

おいおいおいおい、まだやってたのかよ。
メキシコのメンバー表を見た第一の私の感想はこれだ。
クラウディオ・スアレスという男は、既に伝説の住人だと思っていた。
今回選ばれなければ、そのまま伝説界に住みっぱなしだったに違いない。
なんか、2002年にカニーヒァがアルゼンチンのメンバーに選ばれた時も同じことを考えた覚えがある。散らかしてたなあ、あの頭。
これはニュースでよくある死亡記事に感覚が似ているかもしれない。
とっくの昔に死んだと思っていたのに、「昨日未明、脳梗塞により…」という記事を目にして、「え!まだ生きてたの!?」と驚愕する土曜午前9時。
そして、葬式で号泣する森繁久彌。
長いスピーチを繰り出す森繁。
列席者の全員から「次はお前の番だ」と思われる森繁。
ここぞとばかりに泣く佐藤浩一。
話がタイタス・ブランブルのバックパス並みに逸れた。
ともかく、世界最高代表キャップ数を引っさげて、スアレスはワールドカップに戻ってきた。
しかし、既にチームの主役は彼ではない。
バルセロナでレギュラーを張るラファエル・マルケスが、「皇帝」として君臨している。
ポジションはお互い3バックの中央。
同時起用はありえない。
スアレスのカバーリング能力も捨てがたいが、マルケスをはずすわけにもいかない。
普通に考えたら、マルケスのバックアップにスアレスという流れだろうが、「旧」皇帝のスアレスもおとなしく控えに甘んじているようなタマではないだろう。
さて、どうなるか。
「新旧皇帝、キャンプ地で殴り合い!」「新皇帝、即位宣言『俺の時代』」「旧皇帝が涙ながらに『謀略だ』」「マルケスのトゥシューズに画鋲が」。
そんなゴシップ記事がタブロイドに並ぶ姿が目に浮かぶ。
「王」は二人いるべきではない。
リカルド・ラポルペ監督の判断が試されている。