リアルオプション -2ページ目

数日前の話である。

名刺を渡したこの部屋で、ハナは一言言った。
「なんで場所をここにしようと私が言ったか分かる?」


聞きたかったことを逆に質問された。
引越しで荷物を片付けたとはいえ、契約書を辿ればすぐに身元はばれてしまう。
口封じ何てこともできない。
「教えて」単刀直入に返した。


ハナは笑顔で答えた。
「この家、私の家じゃないからよ。」

私は唖然とし、言葉を詰まらせながら言った。
「どういうこと?」


「この部屋に最初に来た日を覚えている?」
「先週、私が計画の内容を話したときですよね。」
私は警戒すると、なんとなく敬語がでてしまう。


「そう、そのときに私はこういったことを覚えている?。
 『もうすぐ実家へ戻るから荷物を片付けている』
 『この計画には、ちょうどいい時期だわ』」
私も記憶力には自信があった。確かにハナは言っていた。

「覚えているよ。」
人間は相手に聞きたいことがあるときほど、言葉は単純になるものだ。

「そう。それでこの部屋で計画の詳細を話したよね」
「そうですね。」


「でも、私はこの家が自分の家だとは一切言っていない。」
「さっきの2つの内容は実はリンクしていないのよ」
「嘘をついているわけじゃないの。現に私の部屋も荷物はほぼないしね。」


「私の先入観だったってことね。参りました。」
「もう一人、協力者がいるってこと?この家の?」


「いないわ。後々面倒になりそうだしね。」
「この家は、私の元彼よ。」

間もなく、もがいていた足の動きが止まった。
無気力な体が私に委ねられた。

ロープを手に取り、手足をそれぞれ縛り上げる。
またクローゼットの金具に引っ掛けたロープを、有希の体へ繋ぐ。

何時、コイツが起きても問題がなかった。


私は、玄関のドアをわずかに開け、OKサインをハナへ送った。

OKサインが悪魔のサインであった、なんてTV番組の言葉を思い出した。
ハナは頷き、有希の状態を確認することもせず、エレベータホールへ向かった。


私は時計を見た。
ハナがリミットの時間より30分は早かった。
2時間後、ハナは成田空港にいることになる。
卒業までの1ヶ月間の余暇をロスで過ごすことにしている。


「よし。やるか。」
変声機の声に慣れ、緊張とともに、本日2度目のクリーム色のドアを開けた。


部屋に有希がいなかったら?
計画が途中で失敗したら?
私以上にハナは法とリスクを犯している。
それでも、ハナは捕まらない確信とリスキーを楽しむ余裕があるのだろう。


ダイニングと通じるドアは、部屋のデザインと同系色のクリーム色であり、
中の様子は伺えない。
いずれにせよ、ドアを開けた瞬間に、有希の視線は私に向けられ、
奇声が発せられるだろう。
「奇声はよくない。まるでこっちが悪者だ。」

変声機を確かめるように、私は小声で喋った。

深く深呼吸をし、ゆっくりとドアを開けた。

わずか0.5秒の間に、窓の外を眺めている有希の後姿を捕らえた。
ドアを閉める間、彼女はその姿勢を保ったままだった。
1時間弱の間に有希との信頼関係を築いたハナに感謝した。


足音を立てない最大限の速さで、有希へ向かう。
そして、振り向くやいなや、声がでるやいなや、有希の口元をタオルで縛った。
絶妙のタイミングであろう。
その証拠に、有希の口元から血が見えた。

彼女は声にならない声をあげ、私は背後から首を絞めはじめた。


殺すつもりは全くない。
血流を遮断し、数分間失神してもらいたかっただけである。