725冊目『知られざる英語の「素顔」』(山崎竜成 プレイス) | 図書礼賛!

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死ぬまでに1万冊の書評をめざす。たぶん、無理。

 

 

英語の参考書で衝撃を受けたのは、二冊ある。ひとつは、『基本からわかる英語リーディング教本』(249冊目)である。『リー教』とも呼ばれる本書に私が出会ったのは受験生のときだが、当時の私の英語学習にとってまさに革命的だった。私の友人にも、『リー教』に助けられた人が何人もいた。『リー教』が革命的だった理由は、いま自分が読んでいる英文の読み方が正しいのかそうでないのかが、自分で判断できるというところだった。それまでこんな本はなかった。もちろん、そのレベルにまで達するにはかなりの習練がいるのだが、『リー教』のおかげで英文を読むスキルが間違いなく向上していっていることはよく実感できた。いまの高校生を見ると、この本の存在さえ知らない人もいて、実にもったいないと思う。

 

さて、もう一冊が本書である。私自身、英語の勉強をやめてだいぶ経っており(実は最近少しずつ勉強している)、この本の内容を完全に咀嚼できるだけの英語力を持ち合わせてはいないのだが、それでも従来型の「軽量化した英文法」にはない、英文法が持つ本来の幅広い現象を描く本書の意義は、しっかり理解できた。「補語に来るのは、形容詞か名詞だけ」「前置詞+名詞は、主語や目的語にならない」といった英文法の鉄則には数々の例外があることを、豊富な例文で証明している。他にも名詞句に疑問文や感嘆文としての機能があることや、howの意外な用法、類似表現が混ざり合うケースなど、初めて知ることが多くて目から鱗が落ちる思いだった。私自身、「英語は単純」と高校のときの先生に言われたことがあるが、実際の英語は想像以上に複雑であり、そこには多様な現象が観察できることを本書では教えてくれる。

 

私が感心したのは、例文の多くを入試問題から採用していることだ。いくら「英語は単純だ」とはいっても、実際に目にする入試英文は、思っているよりもずっと複雑だ。本書は、従来の「軽量化した英語」を見直す大きなきっかけとなるかもしれない。ところで、著者の山崎先生とは、前の職場で一緒だった。認知言語学を研究しているとおっしゃっていて、『言語学の教室』(246冊目)という本を紹介してもらったことがある。英語の入試問題についてもエキスパートで、生徒からも大変人気があった。そんな山崎先生だが、いつも入試問題(誤文訂正問題が多かったと記憶している)を持ち歩いていて、他の英語講師と議論している姿をよく見かけた。入試問題から多くのものを得ようとする先生の姿勢に私は感銘を受けた。本書は、英語の素顔にどこまでも向き合おうとする山崎先生だからこそ出せた本であろう。