サガン・シリーズ第三弾。

古書フェアにて、現在は絶版になっているブュッフェの装丁版を見付け10冊以上大人買い。自分の持ち分も含めて約20冊、刊行順に積み上げられたローズピンクの背表紙を横目に、これらを読破するまで、しばらくサガン道一筋で行こうと腹を決めた次第。今年の夏の想い出はきっとサガンとともに彩られることでしょう。

さて「ある微笑」。ヒロインはまたまたサガンの分身のような、パリに暮らすおしゃれな女子大生。いかす彼氏がいて、講義のない午後はサンジェルマン・デ・プレのキャッフェでジュークボックスを独り占めし、ウィスキーとシガレットをやりながらサルトルを愛読する、ちょっと不良で知的な女の子。まだ二十歳なのに、どこか人生に倦怠してる風を漂わす気取り屋の彼女が、遊びと割り切って、とってもイケてるおじさまと二週間のサマーバカンスへ。行き先は、これまたサガン作品のお約束の地・コートダジュール。そして遊びのつもりの恋だったけれど、独占できないものほど執着してしまうもので…。恋の成り行きそのものはありきたり。興味をひかれたのは、ヒロインが恋やお酒や食事やダンス…金銭による娯楽を浮薄に楽しみながらも、暇さえあれば読書に耽っていること。初対面の人に尋ねたいのは職業なんかではなく「恋をしてらっしゃいますか?何をお読みですか?」の二点。そのほかの事にはさして関心無しってところが素敵でしょ。ちなみに私がハセガワに会うと必ずする質問は「今、体重何キロ?」

フランソワーズ サガン, 朝吹 登水子, Francoise Sagan
ある微笑
さて夏の休日、けだるい午後に読みたい作家は、やっぱりサガンタバコ
まぁ作品によって、秋はしっとり、冬も美しく、早春はうっとり…とシーズン通じて楽しませてくれるでしょうけど。でも、この作品はやっぱり夏晴れ船よね!

すごくデカダンで刹那的快楽主義な父娘が登場。舞台は南仏の避暑地コートダジュールでのひと夏。キーワードは「奢侈‥しゃし」。ヒロイン・セシルの大部分の楽しみは裕福な父親の金銭のお陰をこうむっている。スポーツカーを乗り回し、新しい服や、レコードや、本や、花を買うこと…もちろんセシルは父親が与えてくれるこれらの安易な楽しみを恥とは思わない。ところがある日、その大好きな父親に新しい恋人ができ婚約する。秩序と平穏と調和された生活態度を強要する、理知的で聡明な未来の母親にセシルは反発。画策して彼女を排除しようとする。まったりとした夏の昼下がりの読書に、南仏ニースのアンニュイなひとときや、カンヌの華やかな喧騒を、生意気で魅力的な小悪魔の陰謀とともに伝えてくれるこの作品は、やはりぴったりなんじゃないでしょうか。

フランソワーズ サガン, 朝吹 登水子, Francoise Sagan
悲しみよこんにちは

表題作の「ティファニーで~」はへップバーンの映画であまりにも有名。だけど原作から受けるヒロインのイメージはもっとボーイッシュでコケティッシュでいわゆるハスッパ。ヘップバーン演じるホリーはお上品過ぎる感あり。それにしても、私がこれまでセレクトしてきた小説の中のヒロインたちは、なぜみんなこうも人生というものに迷いもブレもなく突き進めるのだろう?というくらいアイデンティティが確立してる。精神的に不安定になった時にはティファニーに駆け付け、何か購入するわけでもなく、ただキラキラの品物を眺めたり、店内をウロウロしてゴージャスな雰囲気を味わうのが好き。それが一番の癒しになるというヒロインを描いた、とびきり洒落たセンスの持ち主・カポーティは、その時代、かのジャッキーやモンローとも付き合ったことがあるといわれるハイソなプレイボーイだったそう。やっぱりね~!私生活も思い切り派手でいかしてたんだ!この「ティファニーで~」のほかに収録されている3つの掌篇も、どれもお伽話のような王冠1お花畑のようなチューリップ赤カポーティ独自のキラキラ感星いっぱいの世界。きっと日常もファンタジックで素敵な人生を送った人なんだろうなぁと想像させる作者による夢々しい短編集です。

カポーティ, 竜口 直太郎
ティファニーで朝食を
このところ“奔放・贅沢・優雅なお淫ら”系の作品傾向だった私にとって久々の堅もの。このジッドとかスタンダール、トルストイ、ドストエフスキーあたりの“おぉ神よ!”的な宗教命題ものは今気分じゃなく、ちょっとテイストが重かった。2つ年下で幼馴染みの従弟の彼と相思想愛、婚約までしているのに、何故かヒロイン・アリサは恋人を捨てて神に走り、そのまま若い身空で天に召されてしまう。地上の恋より天上の愛に憧れる、敬虔というより偏屈?変人?なヒロインです。お互い常に高め合いたい。堕落した関係になりたくない‥とかたくなに愛を拒絶する彼女。人は穢れがあるから魅力的なのでは?

ジッド, 山内 義雄
狭き門
贅沢とお遊びが大好きで、退屈するのが死ぬより恐い。日々の快楽の為なら愛する人も罪の意識無く平気で裏切る、ある意味無邪気な悪魔マノン・レスコーと、その蠱惑的魅力に翻弄され情欲に溺れ、そそのかされるままに犯罪に手を染め、人生を落魄させてしまう青年の物語。彼女はその恐るべき奔放な性格と、貧乏への極端な嫌悪ゆえ、男から男へ渡り歩き、罪に罪を重ね、逃亡に逃亡を繰り返し、最後は流刑地で息絶える。あくまで自分の本能に忠実で、身の破滅を招くまで突っ走らないではいられないという、全く計算の無い、何だか憎めない天性の悪女なのです。

アベ プレヴォ, Abb´e Pr´evost, 河盛 好蔵
マノン・レスコー

著者は巨匠バルテュス夫人としてヨーロッパ社交界で尊崇を浴び、自身も女流画家である節子・クロソフスカ・ド・ローラ。その品格・教養・才能すべてが他を超絶している典雅な貴婦人。彼女の美意識で彩られた12か月が格調高く綴られた随筆写真集です。スイスで一番豪奢な山荘での四季を慈しむ暮らし‥すみれの季節には野に咲くすみれを食卓に飾り自家製のすみれ茶とすみれジャムのトーストで朝食‥完璧!“私の人生は夫バルテュスの描いた一枚の絵画”と語る彼女の華麗なる着物コレクションとそれに纏わる逸話も麗しい写真と文体で紹介された、芳香漂う花々を愛でる様に読みたい一冊です。

節子・クロソフスカ・ド ローラ
グラン・シャレ夢の刻
世間的地位も名声もある初老の小説家がふと思い付いて気晴らしの旅に出る。その旅先ウ゛ェニスで偶然見かけたギリシャ彫刻の様に美しい少年に心を奪われ、そのうち彼をつけ回し、待ち伏せまでするようになる。理性も品性も備えたいい大人が、節度も自制も忘れ一人の少年を追っ駆け、疫病が蔓延するその土地にとどまり続けやがて命を落とす。少年に直面すると老醜に見舞われつつある自分に激しい嫌悪を覚え、理髪店で白髪を染め顔に化粧をほどこす姿はただただ哀れ。「芸術と美」を問うた気高い作品ではあるけれど、何とも言えないやりきれなさが残ります。

トオマス マン, Thomas Mann, 実吉 捷郎
ヴェニスに死す
パリで暮らすスノッブな仲間達がスペインのフィエスタ(祝祭)と闘牛見物旅行の間に惹き起こすラブ・アフェア。彼等はパリでも旅先でも朝昼夕晩やたらと飲む!お酒の楽しみ方が通なんです。カフェでシャブリといただく朝食。通りのテラスでウィスキーのソーダ割りかベルモットで昼食。行き付けのビストロで食事とともにシャトー・マルゴー。ホテルのバーではマティーニやコニャック。繰り返される酒宴のシーンは飲めない私もワクワクするほどイカしてる。別に酒精讃歌の小説ってわけじゃないんだけど‥。途中、ランチとワイン2本をリュックに詰めて渓谷へ鱒釣りに出かける場面の描写がまた素晴らしい。魂を癒してくれる大人の休日です。
アーネスト ヘミングウェイ, Ernest Hemingway, 高見 浩
日はまた昇る
人間的心情がドライで個人主義の主人公。彼の日曜日は、午後じゅうアパルトマンのバルコンから通りを眺めて過ごすのがお気に入り‥出かける人々、通りの店先、電車、猫、空…最初の星がきらめくまで飽かずに眺める風景がノスタルジックに描かれてます。ある日の午後、圧しかぶさるアルジェの大気、紺碧の地中海、みなぎる太陽の光、気怠い風…静謐な避暑地の浜辺で全く唐突に、確固たる理由なく彼は殺人者になってしまう。動機は「太陽のせい」と答える彼。これは〈アルジェの永遠の夏〉を愛し〈灼熱の午後〉に促されて殺人を犯してしまった一人の男の物語です。
カミュ, 窪田 啓作
異邦人
20世紀パリ社交界のアンニュイを描かせたら当代随一の人気作家フランソワーズ・サガン。彼女の筆致は思い切りスノッブで洗練されてます。「部屋着は正絹‥確かに贅沢とはひどく気分の良いものだわ」「長い息を吐くとすぐ服の内側ベルトにさえぎられ‥(ピエール)カルダンはあんまりだわ。私を空気の精のように思ってるんだから」「トルストイとマルローから同時にインスピレーションを得た嘘と、フィッツジェラルド流の身の上話を‥」「退屈なあまり印象派を眺めるのに30分費やして‥」あちらこちらに宝石のようにちりばめられた洒脱なフレーズ。装丁がビュッフェのリトグラフ(初版)っていうのもニクイ!
熱い恋
フランソワーズ サガン, 朝吹 登水子, Francoise Sagan
熱い恋