































父殺しの罪で15年間の服役から故郷の島の帰ってきたイズレルは、漂流しているクルーズ船の中で何者かに殺された7人の遺体を発見する。
イズレルの元に、父の兄である保安課補のスターリングとメイン州警察の警部補サラザールが訪れてくると、叔父からは憎しみと共に容疑者として見られていることに気づくのだが…。
本書は、父殺しの罪で15年間の服役の後、故郷の島に帰ってきたイズレルが主人公。
イズレルの前に現れたメイン州警察のサラザール警部補とはどうやら何かしら関係があり、漂流していた船についても知っている事があると仄めかされることで、イズレルがどんな秘密を抱えているのか想像しながら、序盤はゆっくりと進みます。
そしてそのイズレルと共に物語を牽引するのは、暴力を振るう父親に怯える12歳の少年ライマン。
ある日、隠れ家としている空き家で怪我をしている女性を発見すると、父親の目を盗んで彼女を助けようとします。
父殺しに関する事実も判明すると、イズレルに対する読者の目も変わってくると共に、イズレルが迎える新たな危機をなんとしても無事に乗り越えて欲しいと願うようになります。
とはいえ、サラザール警部補から明かされた、ある事実にはイズレルでなくとも愕然としますし、それを受けてのイズレルの行動は「それって絶対に悪手じゃない?!」とヒヤヒヤとさせられました。
一方でライマンの純真な姿は単純に助けたくなりますし、どうか幸せな未来が待っていますようにと祈らずにはいられないものが。
イズレルは再び囚人となることを恐れ、ライマンは父の暴力と孤独を恐れつつも、それぞれが目の前の問題に必死になる中、二人はおぞましい真実と向き合うことに。
そうして、それぞれ真実と向き合った二人ですが、生き延びようとするイズレル、逆に絶望を覚えるライマンと、どこか対照的なものも感じました。
それゆえにイズレルの決断、そしてイズレルが海を感じる場面は胸にジワリとくるものが。
そしてそのイズレルの決断からのライマンが海の上を跳ぶ姿というのはとても鮮やかで、海面のキラキラした反射と共に彼の跳ぶ情景が浮かんでくると共に、未来に希望を抱かせてくれるものがありました。
厩舎で起きた火災事故によって犠牲となった名馬プリンス・オブ・トロイの馬主、アラブの王族の一人、シーク・カリムの依頼で、危機管理コンサルタント会社に勤めるハリィ・フォスターは、現場となったニューマーケットに派遣される。
そこでハリィが見るものは、高名な調教師一家のチャドウィック家で、カリスマ的な調教師である父の元でいがみ合うような三人の息子の姿。
ほどなくして火災現場からは身元不明の遺体が発見され、それは家族から問題児とされ疎まれていた末娘のゾーイのものと判明し…。
『覚悟』に続く〈新・競馬〉シリーズ。
今回の主役は危機コンサルタント会社に勤める弁護士ハリィ・フォスター。
序盤、元々片田舎で細々と弁護士をやっていたハリィが、どうやって世界的に顧客を受け持つような危機コンサルタント会社に勤めるようになったかが描かれているのですが、ここが小憎らしく思えるぐらい上手いなぁと感じました。
ハリィの優秀さと胆力を冒頭で示された事で、ぐっと引き込まれるものがあります。
そのハリィですが、馬券を買った事もないぐらいの競馬初心者で、ハリィを通して英国の伝統的な競馬のシステムなどを学びながら読んでいけました。
なので、競馬シリーズ初心者にも優しく、もしかしたらシリーズの入門書としても最適な作品かも。
さて、厩舎が焼け、末娘のゾーイが死体で発見された、事の真相とは果たして。
ハリィは、チャドウィック家に隠された秘密に近づくのですが、殺人事件と名家一族の闇を暴いていく様子は、どこか懐かしく思えるような伝統的なミステリのようでもありました。
実際、家族間の闇については、予想はついたもののやはりおぞましいもので、だからこそハリィがチャドウィック家の尻を蹴飛ばすような〝サンダーフラッシュ“を叩き込む姿に爽快さを覚えます。
また、ハリィが事件を通じて知り合ったケイトという女性とのロマンスが華を添えてくれます。
ハリィにケイトに対する思春期の少年のような態度はちょっと可愛く見えますし、ケイトも単に美しい女性ではなく、いざという時に頼りになるような強さを持っているのがいいですよね。
ちょっとしたロマンス小説、ロマサスのようなところも本書の魅力で、事件の陰惨さをあまり感じさせず、最後に幸せな気分で本を閉じる事ができました。
