厩舎で起きた火災事故によって犠牲となった名馬プリンス・オブ・トロイの馬主、アラブの王族の一人、シーク・カリムの依頼で、危機管理コンサルタント会社に勤めるハリィ・フォスターは、現場となったニューマーケットに派遣される。
そこでハリィが見るものは、高名な調教師一家のチャドウィック家で、カリスマ的な調教師である父の元でいがみ合うような三人の息子の姿。
ほどなくして火災現場からは身元不明の遺体が発見され、それは家族から問題児とされ疎まれていた末娘のゾーイのものと判明し…。
『覚悟』に続く〈新・競馬〉シリーズ。
今回の主役は危機コンサルタント会社に勤める弁護士ハリィ・フォスター。
序盤、元々片田舎で細々と弁護士をやっていたハリィが、どうやって世界的に顧客を受け持つような危機コンサルタント会社に勤めるようになったかが描かれているのですが、ここが小憎らしく思えるぐらい上手いなぁと感じました。
ハリィの優秀さと胆力を冒頭で示された事で、ぐっと引き込まれるものがあります。
そのハリィですが、馬券を買った事もないぐらいの競馬初心者で、ハリィを通して英国の伝統的な競馬のシステムなどを学びながら読んでいけました。
なので、競馬シリーズ初心者にも優しく、もしかしたらシリーズの入門書としても最適な作品かも。
さて、厩舎が焼け、末娘のゾーイが死体で発見された、事の真相とは果たして。
ハリィは、チャドウィック家に隠された秘密に近づくのですが、殺人事件と名家一族の闇を暴いていく様子は、どこか懐かしく思えるような伝統的なミステリのようでもありました。
実際、家族間の闇については、予想はついたもののやはりおぞましいもので、だからこそハリィがチャドウィック家の尻を蹴飛ばすような〝サンダーフラッシュ“を叩き込む姿に爽快さを覚えます。
また、ハリィが事件を通じて知り合ったケイトという女性とのロマンスが華を添えてくれます。
ハリィにケイトに対する思春期の少年のような態度はちょっと可愛く見えますし、ケイトも単に美しい女性ではなく、いざという時に頼りになるような強さを持っているのがいいですよね。
ちょっとしたロマンス小説、ロマサスのようなところも本書の魅力で、事件の陰惨さをあまり感じさせず、最後に幸せな気分で本を閉じる事ができました。

