Beyond Despair -22ページ目

Beyond Despair

― 絶望の底に落ちた少女の先に待つ運命 ―

黒い刃は既にエレナの左耳に到達している。

後は少しだけ力を入れれば綺麗に切断出来るだろう。

エレナはもう、自分の命はここまでなのだと理解した。

「んで、人間様特有の遺言ってのはあるか? 一応今までも聞いてきてやってはいるんだが、そのどれもが泣き叫ぶだけでよ~。アンタは正解なんだから、ちゃんとした遺言残してくれよ?」

でないと面白くない、とグリードは笑う。

しかしエレナにはこれといって言い残す事は無かった。

強いていえば、護や愛花、龍二や坂口達ともっと一緒に居たかった、と言う後悔だけだ。

「なら、最後に一つ聞かせてください」

耳障りな魂の嘆き声に耐えながら、なんとかまともな言葉を話す。

「貴方は、一体、何なんですか?」

弱々し声音で、最後の力を振り絞っての問いかけ。

その問いにグリードはヒヒッ、と下品に笑うと――。

「俺は、人間により近い、〝化け物(アヴェンジャー)〟だよ」

と、そう言いながらグリードはエレナの耳に当てている黒い刃に力を込めた。

が、その瞬間に背中から耳慣れない音が響きわたった。

部屋のドアが乱暴に開かれる音。

グリードはとっさに振り返る。

と、そこには右手に鍔の無い日本刀を握り締めた金紗の髪の少女が立っていた。

少女はグリードでは無く、エレナの事をじっと見つめている。

予想外の出来事にエレナも乱入者を見つめてしまう。

「何だテメーは、まさか騎士団とかって奴か?」

「いいえ、あんな連中と一緒にしないで。私は貴方の知らない組織の人間よ」

凛とした美し声音にエレナは魅了される。

すると金紗の少女は鞘から日本刀を静かに引き抜くと、馬乗り状態のグリードに先端を突きつけた。

「私が受けた依頼は貴方を捕獲する事、言ってる意味は分かるわよね」

「なるほどなぁ~、てっきり俺はどこぞの〝赤毛犬〟かと思ったぜ」

ふー、と胸を撫で降ろすグリード。

そしてフラフラと立ち上がり、目の前の少女に向き直る。

ふと、エレナは金紗の少女の瞳に誰かとの同じ雰囲気を感じた。

(あの青い目、どこかで……)

そんな事を思っているエレナにお構いなく、グリードと金紗の少女は互いに視線を交差させる。

グリードは波ならぬ殺意を醸し出している、がしかし少女はグリードとは逆に冷静だ。

言ってしまえば目の前の男なぞ眼中に無い、と言った感じである。



/続く



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人がよさそうだから、誘拐犯でもきっと良心があると思っていたのだ。

が、そんな彼女の思いは簡単に打ち砕かれた。

グリードは今までの彼とは思えない様な笑みを浮かべている。

そしてエレナの耳をベロり舐め上げた。

「ヒヒッ、大事な大事な耳だからなぁ~、丁重に丁重に」

身体がさらに激しく震える。

エレナはもう頭の中が真っ白な状態になっていた。

そんなエレナを見ながらグリードはゲラゲラ甲高い笑い声を上げる。

「や、やだ……」

消えそうな小さな声での呟き。

グリードはエレナの恐怖する顔を楽しみながら彼女の身体を押し倒した。

そして馬乗りになり、エレナを殺意満ちた視線に見下ろす。

「さぁ~嘆けクズ共ッ! この女にありったけぶちまけてやれやァッ!!」 

そのグリードの叫びと同時に――。

『タスケテッ! タスケテッ!』

魂の嘆き声が脳に投げれこんできた。

「いや、いや、いやぁぁぁぁあッ!!!」

さっき味わった頭痛よりも激しい痛み。

エレナは自由にならない身体を必死に揺らす。

地面を何度も蹴りつけ、グリードから逃れようとする。

が、馬乗りになっているためその抵抗も虚しい物だった。

やがてエレナは激しい抵抗はしなくなり、身体をピクピクと痙攣させる。

口端からはヨダレが垂れ流れ、悲鳴にすらなっていない声を上げる。

「ヒヒヒッ! 良いねぇ~その顔! 女が絶頂に達する時の顔みたいだなぁオイ」

エレナの虚ろな表情を舐めまわす様に見つめながらグリードは黒く鋭い刃をした剣を右手に作り上げる。

そしてエレナの耳に黒い刃を近づけていく。

「あ、ぁ、カッ! え、あヵ……」

もう半分意識が無い状態なエレナは痙攣する身体をくねらせ、グリードの剣から逃れようとする。

が、そんなエレナの柔らかな腹にグリードは拳を容赦なく叩き込んだ。

その衝撃で喘ぎ声にもならない声を上げる。

激痛にエレナは涙を流しながら無意識に周りを見渡した。

と、気が付けば周りには何人もの人間が横たわっている。

そそてそのどれもが耳が切断されていた。

(私も、ああなるのかな……)

心でそう呟きながら、ああなった自分の姿を想像する。

今まで〝死〟と言う物は近くに存在していないと思っていた。

だがそれはただの勘違いで、実際に〝死〟と言うのはこんなにも近くにいたのだと、エレナは心の底から後悔した。




/続く



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「私の、耳?」

そう言えば、ここに拐われる直前にもそんな事を言っていたとエレナは思い出す。

確か〝女神の耳〟とか言っていたっけ。

とても中二病臭いその名前にエレナは顔を曇らせる。

「あの……〝女神の耳〟ってなんですか? そもそもそれって設定なんじゃないんですか?」

「設定、ねぇ~。まぁアンタを作った神様がそう設定したのかもしれねーな」

またしても意味不明な言い回しに少しばかり苛立つエレナ。

グリードはそんなエレナにお構いなしに話を続けた。

「アンタ、もしかしたら普段からおかしな声が聞こえたりしてねーか?」

と、その言葉にエレナは凍りつく。

そう、彼女は昔からそんな変わった能力的な物を持っていた。

テレパシーとかそう言う物ではなく、もっと生々しい声。

時には笑いかけられたり、時には愚痴られたり、時には怒鳴られたり、時には嘆かれたり、時には泣かれたり、時には悲しまれたり――。

そんな声が彼女、神楽咲エレナの日常にはまるでBGMの様に聞こえていた。

初めは気になって仕方なかったが、今ではもう慣れてしまった事だ。

彼女は自分が異常なのだと、自身に言い聞かせてこれまで生きてきた。

今日、この日、あの声を聞くまでは。

「……私は、正常です……」

男の言葉を拒むようにエレナは答える。

身体は微かに震え、息遣いも荒くなっている。

あの嘆き声が彼女の脳内で再び流れ始める。

「アンタ自体は正常な人間だよ。問題なのはその〝耳〟だ。アンタは何故か知らんが女神様が持つとされる〝女神の耳〟を持っている。その耳は万物全ての〝声〟を聞く事が出来るって訳だ。植物、生物、そんな所だ」

男の言っている事は今までの経験の的を射ている。

だからこそ、認めたくない。

エレナは必死に首を振りながら男の言葉を拒絶する。

「違います、ただ私が妄想馬鹿なだけの話です。そんな耳、私持ってませんよ?」

震える声での必死の抵抗にグリードは顔を曇らせた。

そして少女に顔を近づける。

エレナは震えながらもグリードの顔を見つめていた。

相変わらず人の良さそうな表情のグリードにエレナはつい――。

「助けて、ください……」

そう心の底から頼めば許してくれると、彼女は思ったのだ。

そのエレナの言葉にグリードは優しく微笑むと――。

「残念でした~、嬢ちゃんはこの後死ぬんだぜ~?」

と、人が変わったかのような声音にエレナは凍りつく。

そして自分がどれだけ愚かだったか今になって理解した。



/続く



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