Beyond Despair -21ページ目

Beyond Despair

― 絶望の底に落ちた少女の先に待つ運命 ―

少女は振り向くと、黒い鎖で縛られているエレナに近づいていく。

そして彼女を縛る鎖を日本刀ひと振りで切断した。

「これで良いかしら、私は行かないと」

鎖を切断し終えると少女はエレナに背を向ける。

そんな彼女にエレナ声を再びかけた。

「あの、貴方も知っているんですか? 私のこの〝耳〟について」

「えぇ、大体の事なら。けどそれは私の口から語られて良い物では無いわ、貴方自身が思い出さないといけないの」

意味深な少女の言葉に首を傾げるエレナ。

思い出す、などと言うがエレナにはこの〝耳〟に関する記憶なんて全くと言って良い程無いのだから。

ただ、いつしか聞こえる様になっていただけで。

「けど気を付けて、その耳を持っている限り貴方はこれからも〝奴ら〟に狙われる」

「奴らって、何なんですか……あの人の事ですか?」

「えぇ、グリードもその内の一人。私達は奴らを〝ダークサイド〟と読んでいるわ」

ダークサイド、そのいかにも有名なSF映画に出てきそうな名前にエレナなまたしても首を傾げる。

しかし、目の前の少女は冗談を言っているようにも見えないから恐らく事実なのだろうと理解した。

「そのダークサイドって、一体何の組織なんですか?」

「人類が今まさに直面している〝問題〟を生み出している者たち。けどそんなダークサイドに属している人間は約三人、残りのメンバーは全員グリードの様に人により近く作られたアヴェンジャーよ」

「って、ちょっと待ってくださいッ! あの男の人も自分はアヴェンジャーだとか言ってましたけど、もしかしてアヴェンジャーって……」

エレナの言いたい事を理解しているのか、金紗の少女は静かに背を向けたまま頷いた。

その仕草で、エレナはアヴェンジャーと言う存在をついて理解した。

「誰が……生み出してるんですか」

「ダークサイドの筆頭、アレイスター・クロウリー。貴方も名前くらいは知っているでしょ」

アレイスター・クロウリー、少女の言う通り彼女はその名を知っていた。

むしろこの世界で彼の名を知らない者は居ないだろう。

アレイスターは元騎士団の人間でとても優秀な魔術師であると同時に医師だった者だとエレナは聞いている。

が、数年前騎士団に背いた行動を取った事が原因で一時拘束された。

だがその数日後、彼は警備員を殺して逃走、今では行方不明となっている。

「でも……話によれば心優しい人だって聞いてましたけど」

「えぇ、そうね。けど人は時によって人格が変わる時があるのよ」

刺のある少女の言葉にエレナは身体を震わせる。

「でも、何でこんな事を? と言うかアヴェンジャーって一体何なんですか」

「クロウリーの目的はよく分からない。きっと世界征服とかでしょうけど。アヴェンジャーは――」

と、言いかけて少女は言葉を切る。

そして窓に身を乗り出し、一瞬エレナに顔を向けた。

「いいえ、知らない方が楽よ。知ったら貴方みたいな心優しい子は苦しむと思うから」

と、そう言い残して窓から下へと飛び降りた。

エレナは慌てて窓から顔を出し、下に視線を向ける。

そこには既に金紗の少女の姿は無かった。

エレナはそのままその場に崩れ落ちる様に座り込み頭を抱える。

自分はこれからも狙われるとあの少女は言った。

今でも認めたく無い、そんな訳の分からない状況。

エレナはまた身体を震わせ部屋の辺りを見渡す。

あちこちに自分と同い年くらいの女性の死体が転がっている。

そのどれもが耳を切断されていた。

死体の数はおよそ三十体といった所だろう。

「うぅ……嫌だ……こんな風に殺されるなんて嫌だよぉ……」

涙を流しながら吐き気を何とか耐える。

しかしこの場から動く事すら出来ない程にエレナは腰を抜かしていた。



/続く



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「な、何で再生されないッ! 俺は人間の武器には傷つかない無敵の男だぞッ!! しかも暗闇なら誰にも殺す事すら出来ない、ましてやこんな事がある訳ねぇぇぇだろうがッ!!!」

予想外の出来事に対しての怒りか、人間に腕を切り落とされた事に対しての屈辱か。

そのどちらとも言える怒鳴り声が部屋に響きわたる。

「テメェー……ッ!!」

初めて出会った時の優しい顔からは想像も出来ない怒り狂ったグリードの表情にエレナは身体を震わせる。

「あまり手間取らせないでくれるかしら。私には貴方を捕獲するために費やす時間なんて無いのよ」

苛立つグリードにそう言いながら少女は近づいていく。

今度は殺す、と言うその表情にグリードは身を震わせた。

「再生が出来ないって事は、あの剣にやられたら本当に終わりって事か……!」

小さな声でグリードは呟く。

そして後ろに横たわるエレナに視線を向けた。

震えながら自分を見つめる少女をグリードは素早く抱え上げる。

(この嬢ちゃんがいなけりゃ意味がねぇーんだッ!!)

そして窓に向けて体当たりしようとした、その刹那――。

「どこに行く気」

背中に再び激痛が走る。

その衝撃にグリードは倒れこそしなかったが、膝を着いてしまった。

今度の痛みは右腕の時よりは軽い物だ。

が、それでも今までに痛みと言う物を感じた事の無いグリードには動けなくなる程の痛みだった。

抱え上げていたエレナを床に落としてしまう。

そんなグリードをエレナはただじっと見つめていた。

「くぅ! テメーは何なんだよッ!?」

思い通りにならない事態にグリードは少女に怒鳴りつける。

そしてエレナに構わず、痛みに耐えながら窓ガラスを突き破った。

「―― しまった!」

窓から身を投げるグリードに駆け寄るも時は既に遅かった。

グリードはそのまま下に落ちていくと、上手いこと地面に着地した。

少女は窓から顔を出し、グリードを見下ろす。

そんな少女にグリードはゲラゲラ笑いながら――。

「わりぃなぁ~、ここ終わる訳にゃいかねーんだよッ!!」

そう言いながら暗い道を一人で駆けていってしまった。

そんなグリードを追わんと少女は窓から飛び降りようとした――。

「待ってくださいッ!」

が、後ろからの呼び掛けに止められた。



/続く



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「お前、本当は俺の駆逐やら捕獲とかどうでも良いんだろ」

彼女の雰囲気を感じ取ったのか、グリードそんな事を呟く。

その問いに少女は――。

「えぇ、本当は貴方なんてどうでも良いのよ。でも建前上は仕方ないのよね、私的には捕獲では無く駆逐の方が手っ取り早かったのだけど」

長い髪を左手でサラっと靡かせながら少女は独り言の様に呟く。

「ほぉ、現代の人間が作り出した兵器じゃ俺達は殺せなってのに、駆逐の方が楽ときた。まさかアンタも〝赤毛犬〟同様の悪魔憑きか?」

「その回答は半分当たりで半分外れよ。彼女は完全に悪魔と契約を成立させている、言わば完璧な悪魔憑き。けど私の場合は半契約つまり完璧な契約は成立していないのよ。だから彼女の様に好きな武器を作り出す事も出来ないわ。半契約の範囲で出来る事は、悪魔に索敵を頼んだり、目標の捜索くらいよ」

「何だ、じゃー俺を倒すなんざ無理な話じゃねーかよ」

呆れた様にグリードは鼻で目の前の少女を笑う。

そして右手に持った黒く鋭い刃をした剣を少女に向けて構えた。

「その手に持ってる剣で俺に対抗しようって考えたのか? ヒヒッ、お馬鹿な姉ちゃんだな」

と、グリードは笑いながら目の前の少女に一気に詰め寄る。

自身に突きつけられている日本刀の刃を真横に避け、少女の細い首に照準を合わせる。

そして右手に持った黒い剣の刃を少女の首に目掛けて叩き込む様に切り込んだ。

――はずだった。

「――ッ!?」

ふと、グリードは右腕に激しい激痛を感じ、とっさに少女から距離を取る。

右腕の方へ視線を向けると――。

「な、何だこりゃァッ!!」

右腕が、綺麗に切断されているのだ。

当たりを見渡し、切り落とされた右腕を探す。

「魂の塊の割に、人間らしい反応をするのね」

焦るグリードの耳、冷静な声が聞こえてくる。

グリードは息を荒くさせ、目の前の少女に視線を向けた。

そこにはつい先ほどまで自分にくっついていた右腕を左手に掴む少女の姿。

「お、お前……何しやがった……」

そんなグリードの問いを少女は無視した。

答える義理なぞ、お前には無いと言う態度にグリードは苛立ちを隠しきれない。

が、エレナは事の一部始終を見つめていた。

あの時、慢心の如く目の前の少女に斬り掛かったグリード。

が、その行動はあの金紗の少女には全て予想されていた事だったのだ。

自身の首を叩き切ろうと振り下ろすグリードの右腕を、突きつけたままだった日本刀で刹那の瞬間に切り落としたのである。

その瞬間、一瞬だけ少女の日本刀が〝別の形状〟をしていた風にもエレナには見えていた。



/続く



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