少女は振り向くと、黒い鎖で縛られているエレナに近づいていく。
そして彼女を縛る鎖を日本刀ひと振りで切断した。
「これで良いかしら、私は行かないと」
鎖を切断し終えると少女はエレナに背を向ける。
そんな彼女にエレナ声を再びかけた。
「あの、貴方も知っているんですか? 私のこの〝耳〟について」
「えぇ、大体の事なら。けどそれは私の口から語られて良い物では無いわ、貴方自身が思い出さないといけないの」
意味深な少女の言葉に首を傾げるエレナ。
思い出す、などと言うがエレナにはこの〝耳〟に関する記憶なんて全くと言って良い程無いのだから。
ただ、いつしか聞こえる様になっていただけで。
「けど気を付けて、その耳を持っている限り貴方はこれからも〝奴ら〟に狙われる」
「奴らって、何なんですか……あの人の事ですか?」
「えぇ、グリードもその内の一人。私達は奴らを〝ダークサイド〟と読んでいるわ」
ダークサイド、そのいかにも有名なSF映画に出てきそうな名前にエレナなまたしても首を傾げる。
しかし、目の前の少女は冗談を言っているようにも見えないから恐らく事実なのだろうと理解した。
「そのダークサイドって、一体何の組織なんですか?」
「人類が今まさに直面している〝問題〟を生み出している者たち。けどそんなダークサイドに属している人間は約三人、残りのメンバーは全員グリードの様に人により近く作られたアヴェンジャーよ」
「って、ちょっと待ってくださいッ! あの男の人も自分はアヴェンジャーだとか言ってましたけど、もしかしてアヴェンジャーって……」
エレナの言いたい事を理解しているのか、金紗の少女は静かに背を向けたまま頷いた。
その仕草で、エレナはアヴェンジャーと言う存在をついて理解した。
「誰が……生み出してるんですか」
「ダークサイドの筆頭、アレイスター・クロウリー。貴方も名前くらいは知っているでしょ」
アレイスター・クロウリー、少女の言う通り彼女はその名を知っていた。
むしろこの世界で彼の名を知らない者は居ないだろう。
アレイスターは元騎士団の人間でとても優秀な魔術師であると同時に医師だった者だとエレナは聞いている。
が、数年前騎士団に背いた行動を取った事が原因で一時拘束された。
だがその数日後、彼は警備員を殺して逃走、今では行方不明となっている。
「でも……話によれば心優しい人だって聞いてましたけど」
「えぇ、そうね。けど人は時によって人格が変わる時があるのよ」
刺のある少女の言葉にエレナは身体を震わせる。
「でも、何でこんな事を? と言うかアヴェンジャーって一体何なんですか」
「クロウリーの目的はよく分からない。きっと世界征服とかでしょうけど。アヴェンジャーは――」
と、言いかけて少女は言葉を切る。
そして窓に身を乗り出し、一瞬エレナに顔を向けた。
「いいえ、知らない方が楽よ。知ったら貴方みたいな心優しい子は苦しむと思うから」
と、そう言い残して窓から下へと飛び降りた。
エレナは慌てて窓から顔を出し、下に視線を向ける。
そこには既に金紗の少女の姿は無かった。
エレナはそのままその場に崩れ落ちる様に座り込み頭を抱える。
自分はこれからも狙われるとあの少女は言った。
今でも認めたく無い、そんな訳の分からない状況。
エレナはまた身体を震わせ部屋の辺りを見渡す。
あちこちに自分と同い年くらいの女性の死体が転がっている。
そのどれもが耳を切断されていた。
死体の数はおよそ三十体といった所だろう。
「うぅ……嫌だ……こんな風に殺されるなんて嫌だよぉ……」
涙を流しながら吐き気を何とか耐える。
しかしこの場から動く事すら出来ない程にエレナは腰を抜かしていた。
/続く