Beyond Despair -23ページ目

Beyond Despair

― 絶望の底に落ちた少女の先に待つ運命 ―

部屋の中に人影が二つ。

一つは部屋の隅っこに黒い鎖で縛れられた少女、もう一つはそんな少女を呆然と見つめるトンガリヘッドの男の影。

男は今だ目覚めぬ少女に寄り添い、優しく頬を撫でる。

「何でこんな嬢ちゃんが持ってんだかな。ホント、神様ってのは悪趣味って言うか」

誰にこぼす愚痴でもないその言葉で、エレナは眉を微かに動かした。

そしてゆっくりと目蓋を開ける。

「あ……れ……?」

まだ意識が朦朧としているのか、エレナは男に気づいていない。

自分が今、どうしてこうなっているんかさえ理解出来ていないだろう。

男はクスっと笑いながら触れている頬を少しだけムニっと引っ張る。

柔らかい少女の頬は男の指に引かれるがまま伸びていた。

「んむ~」

可愛らしいエレナの声に男はまた笑ってしまう。

そして勢いよく、ゴムを弾くようにエレナの頬から指を離した。

「いたぁ」

ムニンとモチモチした頬が元の形に戻る。

それと同時にエレナの意識はハッキリとしたのか、目の前の男に視線を向けていた。

「よう、目が覚めたかい嬢ちゃん」

軽い口調で語りかけてくる男を少女は弱々しい視線で見つめている。

「こ、ここはどこなんですか?」

「ここはー、俺の隠れ家って所か」

男は部屋の周りを見渡しながらエレナの問いにそう答える。

部屋は明かりが付いておらず、とても薄暗い。

だがどこかのマンションの一室である事は理解出来た。

「っと、自己紹介がまだだったな。俺はグリードってんだ、よろしくな嬢ちゃん」

そう言いながら丁寧にお辞儀をするグリート。

そして自身を凝視するエレナの目の前に胡座をかいて座り込んだ。

「んで、嬢ちゃんはなんてんだ?」

「……答える気があると思ってるんですか?」

ムッとした声音の反発にグリードは何度目かの笑い声を上げる。

どこがおかしいのか、とエレナは目の前の男を睨みつけた。

何とか逃げ出した所だが身体は黒い鎖で縛られており、立ち上がる事すら出来ない。

「まぁ、嬢ちゃんの名前なんざどうでも良い事だがな。用があるのは嬢ちゃんの〝耳〟なんだから」

と、グリードは宝物にでも触れるかの様にエレナの耳を優しく撫でる。

くすぐったさにエレナは身体をビクっと震わせた。



/続く



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「ま、護。早く謝りなさいよ」

蹴られた所が痛むのか、愛花は跪いたまま護に必死にそう声を掛ける。

が、そんな愛花に対して護は――

「謝るのはあっちだろうが。俺達はただ聞きたい事があっただけで何も手出ししてねーだろ。先にやってきたのはコイツらだッ!」

本当によく分からない男だと思ってしまう。

今の時代、こんな事を言う奴がいるのか。

「ガキ、少しばかりイラっときたぜ」

と、片方の男がポケットから何かを取り出した。

何か、銀色に輝く、先が鋭い物。

男は果物ナイフの尖端を目の前の護に向ける。

「ちと痛い目みねーと分からねーようだな、オイ?」

男はヘラヘラ笑いながら、なお苛立ちを込めて護と愛花にそう言った。

愛花は男に向けらてた刃物を見るなり顔を真っ青にする。

が、護は愛花とは逆に覚えるどころか口元を歪ませていた。

「あぁ、んだテメーその顔は?」

「いや、余りにもお前らがデフォルトな行動すっから、ついつい笑っちまったんだよ」

その言葉でもう限界だったのか、片方の男は舌打ちをしながら護に突っ込んでいく。

そこにはもう、目の前の男を殺すと言う感情しか感じ取れない。

「―― あのバカッ!」

私はとっさに護達の方へ駆け寄ろうとして、その自分の行動が無意味であった事を知らされた。

刹那の瞬間、護を殺そうとした男はものの見事に体ごと吹っ飛んだのである。

殺そうとした相手の予想外の反撃によって。

護はただシンプルに向かってくる男の顔面目掛けてストレートを叩き込んだだけだ。

が、問題はそこではない。

ストレート自体に特に疑問に思う事は無い、私が一番疑問に思っている事は、刃物が腹に刺さる直前の護の回避行動だ。

右手に刃物を持ち、そのまま突き刺す様に向かって来た男。

その右手が自身の腹に到達する直前に、アイツは男の右手を左手で振り払ったのだ。

そして空打った男にカウンターとも言える反撃をくわえた。

その光景に私だけでなく愛花もアイネも呆然と護を見つめてしまう。

「あ、あ……ッ!」

顔面を覆い被せるようにしながら男は悶えている。

「何だよ、見た目だけかテメーら」

護は低い声で呟きながらもう片方の男へ視線を向ける。

男は身体を一瞬震わせながら一歩護から距離を取る。

「わ、分かった! 教えるからそう熱くなるなよ?」

「教える? 教えるって何の話だ。つー事はテメーら知ってて知らないって言ってたってか」

友達を傷つけられた事に対しての怒りが、嘘を言っていた男達に対しての怒りに変わる。

バカの奴だ、火に油とはまさにこの事かと私は心の中で呟いてしまう。

護は一歩一歩残った男に近づいて行く。

そして男の首元を力強く掴んだ。

「言え、どこに行った」

その声は本当にあにキモオタから発せられているのかと疑いたくなるような声音。

それくらい冷徹に冷め切った声だった。

それから数秒後だ、男が神楽咲エレナと思われる少女を拐った男の行き先を白状したのは。



/続く



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どうやらこの男たち、見た目通り表向きの人間ではないようだ。

今にでもしつこく問い詰める愛花を殴りそうな態度をしている。

「お願いしますッ! その子大切な友達なんです!!」

「んな事言われたってどこ行ったかなんて知らねーって言ってんだろッ!? たく、気持ちよく情報教えてやったら付け上がりやがって」

「だいだいよー、知らないってさっきから言ってんのにしつこく問い詰めるってなに? オメーは警察か何かか、アァ?」

片方の男が愛花にそう言いながら彼女の左足を蹴り飛ばす。

その衝撃で愛花はその場に跪いてしまった。

そんな愛花を護は心配そうな表情で見つめている。

そして立ち上がり、護は男二人を睨みつけた。

正直、少し以外だった。

「あんな奴でも、怒るとああいう顔出来るのな」

私は足を止めて、しばらく二人を見守る事にした。

あの男がどんな行動に出るのか、少しだけ興味があったから。

「んだテメー、コッチは忙しいんだっての。ガキ相手に削いでる時間はねーわけよ?」

男は護に今にでも殴りかかりそうな勢いで言葉を吐く。

でも、アイツはそんな事に臆する事なく堂々と対峙している。

またしても以外だった光景だ。

「昨日はあんなに怯えてたのに」

公園で怯えながら私を見つめていた彼と今目の前に居る彼は別人のようだ。

いや、ただ単に人間相手だがら平気、と言うだけかもしれないが。

護はも拳を強く握り直すと、キリっとした目付きで目の前の男二人を睨みつける。

「テメーら、少しやりすぎじゃねーのか。確かにしつこく問い詰めたのは悪かった、けどだからって蹴る事はねーだろッ! コイツは女の子なんだぞッ!!」

護は叫ぶように男二人にそう言った。

なるほど、アイツが怒っている理由は情報を全て教えない事に対してではない。

ただ仲間を、友達を傷つけた事に対しての怒りなのだ。

「ハッ! 明らかにテメーらが悪いのにオレらが悪者かぁ?」

男達は互いに顔を見合わせゴキゴキと拳を鳴らす。

喧嘩上等、とでも言いたげな雰囲気だ。



/続く



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