黒い刃は既にエレナの左耳に到達している。
後は少しだけ力を入れれば綺麗に切断出来るだろう。
エレナはもう、自分の命はここまでなのだと理解した。
「んで、人間様特有の遺言ってのはあるか? 一応今までも聞いてきてやってはいるんだが、そのどれもが泣き叫ぶだけでよ~。アンタは正解なんだから、ちゃんとした遺言残してくれよ?」
でないと面白くない、とグリードは笑う。
しかしエレナにはこれといって言い残す事は無かった。
強いていえば、護や愛花、龍二や坂口達ともっと一緒に居たかった、と言う後悔だけだ。
「なら、最後に一つ聞かせてください」
耳障りな魂の嘆き声に耐えながら、なんとかまともな言葉を話す。
「貴方は、一体、何なんですか?」
弱々し声音で、最後の力を振り絞っての問いかけ。
その問いにグリードはヒヒッ、と下品に笑うと――。
「俺は、人間により近い、〝化け物〟だよ」
と、そう言いながらグリードはエレナの耳に当てている黒い刃に力を込めた。
が、その瞬間に背中から耳慣れない音が響きわたった。
部屋のドアが乱暴に開かれる音。
グリードはとっさに振り返る。
と、そこには右手に鍔の無い日本刀を握り締めた金紗の髪の少女が立っていた。
少女はグリードでは無く、エレナの事をじっと見つめている。
予想外の出来事にエレナも乱入者を見つめてしまう。
「何だテメーは、まさか騎士団とかって奴か?」
「いいえ、あんな連中と一緒にしないで。私は貴方の知らない組織の人間よ」
凛とした美し声音にエレナは魅了される。
すると金紗の少女は鞘から日本刀を静かに引き抜くと、馬乗り状態のグリードに先端を突きつけた。
「私が受けた依頼は貴方を捕獲する事、言ってる意味は分かるわよね」
「なるほどなぁ~、てっきり俺はどこぞの〝赤毛犬〟かと思ったぜ」
ふー、と胸を撫で降ろすグリード。
そしてフラフラと立ち上がり、目の前の少女に向き直る。
ふと、エレナは金紗の少女の瞳に誰かとの同じ雰囲気を感じた。
(あの青い目、どこかで……)
そんな事を思っているエレナにお構いなく、グリードと金紗の少女は互いに視線を交差させる。
グリードは波ならぬ殺意を醸し出している、がしかし少女はグリードとは逆に冷静だ。
言ってしまえば目の前の男なぞ眼中に無い、と言った感じである。
/続く