第二章 友達の絆 94 | Beyond Despair

Beyond Despair

― 絶望の底に落ちた少女の先に待つ運命 ―

「私の、耳?」

そう言えば、ここに拐われる直前にもそんな事を言っていたとエレナは思い出す。

確か〝女神の耳〟とか言っていたっけ。

とても中二病臭いその名前にエレナは顔を曇らせる。

「あの……〝女神の耳〟ってなんですか? そもそもそれって設定なんじゃないんですか?」

「設定、ねぇ~。まぁアンタを作った神様がそう設定したのかもしれねーな」

またしても意味不明な言い回しに少しばかり苛立つエレナ。

グリードはそんなエレナにお構いなしに話を続けた。

「アンタ、もしかしたら普段からおかしな声が聞こえたりしてねーか?」

と、その言葉にエレナは凍りつく。

そう、彼女は昔からそんな変わった能力的な物を持っていた。

テレパシーとかそう言う物ではなく、もっと生々しい声。

時には笑いかけられたり、時には愚痴られたり、時には怒鳴られたり、時には嘆かれたり、時には泣かれたり、時には悲しまれたり――。

そんな声が彼女、神楽咲エレナの日常にはまるでBGMの様に聞こえていた。

初めは気になって仕方なかったが、今ではもう慣れてしまった事だ。

彼女は自分が異常なのだと、自身に言い聞かせてこれまで生きてきた。

今日、この日、あの声を聞くまでは。

「……私は、正常です……」

男の言葉を拒むようにエレナは答える。

身体は微かに震え、息遣いも荒くなっている。

あの嘆き声が彼女の脳内で再び流れ始める。

「アンタ自体は正常な人間だよ。問題なのはその〝耳〟だ。アンタは何故か知らんが女神様が持つとされる〝女神の耳〟を持っている。その耳は万物全ての〝声〟を聞く事が出来るって訳だ。植物、生物、そんな所だ」

男の言っている事は今までの経験の的を射ている。

だからこそ、認めたくない。

エレナは必死に首を振りながら男の言葉を拒絶する。

「違います、ただ私が妄想馬鹿なだけの話です。そんな耳、私持ってませんよ?」

震える声での必死の抵抗にグリードは顔を曇らせた。

そして少女に顔を近づける。

エレナは震えながらもグリードの顔を見つめていた。

相変わらず人の良さそうな表情のグリードにエレナはつい――。

「助けて、ください……」

そう心の底から頼めば許してくれると、彼女は思ったのだ。

そのエレナの言葉にグリードは優しく微笑むと――。

「残念でした~、嬢ちゃんはこの後死ぬんだぜ~?」

と、人が変わったかのような声音にエレナは凍りつく。

そして自分がどれだけ愚かだったか今になって理解した。



/続く



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