さまざまな風景は提起され、喚起され、通り過ぎてゆく。
── 夏の午後の、傾きかけた巨大な太陽も、盛り上がり、粉々に砕ける波濤も、冬の夜の凍てつく路面、── 人から捨てられた都市の廃墟に至るまで。
ただ光が、目から目へと、思いから思いへと直線は屈折し、より輝く「形成」。
(7/18)

夏か、白く輝く混沌は、だが確かな形を持つ容器に収められなければ、なんの形にもなりはしない。心情とは水なのだ。
再構成されてゆく風景。── 語りかけてくる妖精たち。妖精たちが語りかけてくることは、僕と共有したものではなく、他のどこかで共有したものなのだ。
── 夏か、妖精たちは押し黙り、その沈黙があらたな混沌へと変容してゆく。
(7/18)

街頭のそこここに立ち並ぶ鏡。
顔の片方が影で見えない男たちの姿が、その鏡に映る。
── 影の中の思いがその姿を鏡の中に現れる。── 鏡の中に、彼らは何を見ようとしているのだろう。
遠く、兵士たちは輝ける城門に侵攻し、城門を残し全てを炎上させる。
──
── いつしか引かれた、砂漠をつらぬく道路。盲目と熱狂とは、かなたの巨大都市を目指す。
終止符を打たれた、子どもたちの夢のない眠りの先、闇と光とのコントラストの異様に高い世界は出現した。
── 遠く、軍隊は輝ける城門に侵攻し、城門を残し全てを炎上させる。
── 鏡の中の映像。(7/20)

街頭、良く晴れた正午。人々でごった返している。露店。
何も聞こえない街頭。光ばかりが硬い。── 気の遠くなるような空白。(7/15)

激しさよ、熱狂と様々な爆発の果てに、やがて世界は本当の姿を見せるだろう。
── 熱した車内に風は吹きこんでくる。数々の疲労は、悲惨は、後ろへと後ろへと、押し流されてゆく。(7/20)

鏡の部屋。水の流れはいつでも思いのままに姿を変えて、そこここに姿を現す。── どこにでも流れているのだ。
あちこちで鏡は割れてゆく、だがそれはさらに奥へ奥へと連なっている。
── より輝く「形成」。特定の「ペア」を持つことなく、だから多様さは連なっていくのか。(7/19)

花々は自分の彩色に気づくこともなく咲き誇る。
夕陽の黄金の色にかがやくあの建物の窓ガラスは、それでも透明なのだ。
── 自分で愛してもいない陽気の中に、女たちの倦怠。(7/16)

路上。家々の向こう側に横に折れる道がある。
生活の連なりのさらに奥、夏の草と海辺、そうして別の街。── やってくる表情も、立ち去る表情も、皆あの帝国の興亡を語る。
──
道の途絶えたさらに先に広がる原野。老人たちは立ち止まり、定住する。
── そうして、幾何学的に区切られた無数の直線の中で、血液は消滅し、それを追うこともなく倒れていく。(7/14)




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夕方のドライブ。もう相当暗い。天気が悪いため、光が当たる場所も淡灰色に浮かび上がっている。
それは次々にやってきて、通り過ぎてゆく。
畑の上を一人の男が歩いていた。── だがそれは古い一本の木だった。
(3/28)

枝葉。それは季節の中に変化していく。あるいは伸び、あるいは落ちて。(7/1)

日に焼けた、僕と同じくらいの歳の女。
陸上競技の服を着た彼女は川原を走ってきて、そうして僕が座っているベンチに腰を下ろした。
何と暑い日だったのだろう。── 久しぶりの野草の香は、僕の表情の中にも、彼女の表情の中にも溶け込んでいた。(7/2)

今僕が持っているペンは僕のものなのだが、僕の物だろうが他人の物だろうが、ペンであることに変わりはない。(3/28)

思考の原型は、実生活の人との交流の中から生まれ、そうして抽象化してゆく。
逆の場合、それは偽物だ。── 知識へのあこがれはしばしばそれをもたらすと僕は思う。(7/4)

コミュニケーションに疲れた人は、群衆の中に入って行く。
誰が言っていた言葉だろう。
── そうしてそこで寂しくなれば、ふたたびコミュニケーションの中に戻っていく。
(6/11)

何人かの男たちが、自分の持ち場がいかに悪いものなのかを自慢しあっている。
中年の男が、笑いもせずにそのやり取りを聞いている。(3/25)

彼女は洋裁学校に通っていると言っていた。
相手の内部に立ち入るような話をしない彼女は、自分の内面もあまり話さなかった。
一度だけ笑って僕の首に手を回し、抱き付いてきたことがあった。
「北海道にいたの」。「十勝よ」。「牧場がね、いっぱいあった」。
── また、こんなことを言っていた。
「転々とするのは嫌なの。落ち着いていたいの」。
── 彼女が自分の内面を話したのはそれだけだった。(6/13)

志賀直哉:「城ノ崎にて」
ネズミが殺されるシーンの冷静さ。もしそこで正義を書きたかったら、有島武朗の「卑怯者」を書くしか無かったろう。(5/26)

予備知識だけの尾瀬は、あくまでも遠くの空にあった。
現実に広がる尾瀬。高い太陽の下の涼風。広大な空間の中の植物群。静かに波立つ水。
木道ははるか彼方にまで伸びていた。
──
一人の男が荷を負って木道を歩いていた。太陽の下、湿原を吹き抜ける涼風の中、一人で。
彼が見つめているものは何なのだろう。(7/5)



J.S.BACH "Flute Sonata in B minor BWV1030 - Andante"
 Peter-Lukas Graf - [Vinyl record]




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京成線。窓の外には根岸、日暮里の街がひろがっていた。
やわらかな夏の日の雨の中、灰色の風景。雨に洗われ、── 明らかになるのはその疲れた姿なのか。
渦巻く轟音、── 風景を区切る無数の直線。(6/14)

どれほど衝撃を与えた作品でも、ただの見世物になる。
これが「他人」の定義だ、── つまり「疲れなくなる」のだ。(6/12)


都市の交差点。路面やビル群、そうして、行きかう人々のまぶしさ。
熱は天を指して立ち上る。建築群と幻想との交錯する風景は熱の中にゆらめき、── 確かにまたこの場所にも、さえぎられ、遠ざかっていく世界の沈黙はある。無数の建築群の影。(6/18)

所々に葦が茂る水面を、羽ばたき走ってゆく鳥たちの姿。
── 街灯が浮かび上がらせる風景の輪郭を切り裂いていくかのように、オートバイは走ってゆく。(6/14)

恒星は死ぬときに爆発し、輝く宇宙の雲となって無限の空間へと広がってゆく。
(6/21)

北国。氷原はるか、空のカーテンは光り、うねる。
その未知の輝き。天空には天神が浮かぶのか、── 初めて見た人々の。
剣はこの宇宙の示した場所に突き立てられ、代弁者も舞台も存在せず、すべての存在はその存在だけをみずから語る。
時間、── 宇宙。(5/23)

路上、見つけた果実をもぎ、── 波はまた遠ざかってゆく。打ち上げられた流木のその沈黙。
── 夕暮れ時。(5/30)

病んだ部分を懸命に明らかにしようとしている作品群。表現者が、彼の信仰を手放せないからなのだろう。
より広く、メタとして把握していくこと。(6/12)

乾いた荒野はうるおされることもなく、── ふと立ち止まる旅人は、風景のまぶしさを知る。
── 向こうを向いている恋人たち。風は光を運んでくる。
── 都市の裏通りにゴミ箱には、表情を持ってしまった風が行き場を探す。
(6/13)

今日で一段落ついた。
夜。── 夏の、もう淡くなった熱と、風と。
家々。── 影が見せる闇。
この夏の夜、眠りにつく未知。(6/11)

消滅を恐れる、傷を負った言語は、焼けただれる運動の中へと走り、脳髄を重たい熱の中へと追い込む。
── あるいはまた、地下室の光と轟音との混沌をつらぬくリズムに、この身は重なり、── やはりそこにもまた、絶えることのない熱の流れ。(5/27)




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閉ざされた眩暈の中、シェルターへの一筋の通路。崩壊と、闇と、混沌と暴力と。── あの地平線にまで広がる紅蓮の炎と、黒煙の渦巻く空と。
── 「当初の空白」は、さまざまな映像に描きあげられていく中、淡く白いもやに閉ざされた眩暈へ、ゆるやかに傾いていった。
シェルターへの一筋の通路。── 偶像は愛されつつ築き上げられ、愛されつつ破壊されてゆく。(7/19)

目も耳も口も使えなくなった男が、砂漠をさまよい、ジグソーパズルに耽っている。もともとそこは、出発点も到達点もない、夢の中の世界だった。
── 地平線まで広がる廃墟の数々。(7/18)

夜風。窓の外から、木の葉のざわめき。
僕の横にいるのは誰なのだろう。陽気なその笑い声は。
── 木の葉のざわめき。舞台には様々な役者が登っては降りる。
思い思いの言葉を、一言、口にして、それで一人の役は終わりになる。
──
川は流れて来て、去ってゆく。僕の目の中には、何かが入り込んだ時のあの痛みがひろがる。── その時なのだ、役者の一人の言葉が響くのは。
──
木の葉のざわめき。映像よ、廃墟を焼きつくす紅蓮の炎よ。
悲哀も倦怠も、なにもかもが愛されるのだろう。つぎはぎだらけの「愛」が微笑んでいる。何もかもは愛され、招かれる。
── 優し気な眠りと、廃墟をさらに焼きつくす紅蓮の炎へと。(7/19)

童話。信ずる者の素顔を見てはいけないという禁句を忘れて、破壊されつくした幻想の壁。── その向こう、森のざわめき。
あるいは、緩やかにうねる夏の光の中の、熱っぽくよどんだ湖。── 法則か。
(7/17)

夏。「消耗」は透明な炎の中に焼き尽くされた。── 行き場を失った盗賊たちは座り込み、盗賊村は人のいないままに朽ちてゆく。
──
夏。波は盛り上がり、限りなく盛り上がり、そうして熱をすら置き忘れて進んで行った。透明な炎、── さまざまな消耗の追放。
──
僕は何の屈託もなく、分かれた人と向かい合える、── 黒煙の渦巻く空も、山間の静かな休息所も通り過ぎれば、かならず。(7/19)

他者の姿。深夜の雑踏の中、通りの横に腰を下ろしている酔った男たちが、ぼんやりと通り過ぎる人々の姿を眺めている。
だが結局、なにも眺めてはいないのだ。── どこででも言葉は増えてくる。
(7/18)

大気の不思議な香。人々の姿は見えなかったがそれでよかった。
灰色の大気の、不思議な沈黙の香。密集した屋根の連なり。── 都市よ。
疲労の焼き付いたガラス窓の外、人々の姿の見えない風景。
── 表に出ようが裏に出ようが、待っているのは眠りだけだった日々。
「愛」が刑の執行人となり、死体は風の中、皆、朽ち果てていく。(7/17)




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駅で母子連れが電車に乗ってきた。
「こっち側に座ろうね。こっちの方があったかいから」。
── そんな言葉を忘れて、ずいぶん経ってしまった。(11/9)

海辺で遊んでいた少年時代の僕らは、海の向こうの水平線の上に大陸があるのを見ていた。
「雲かな?」誰かが言った。
だが、僕たちはそれが雲であるかどうかぐらいの区別はできる年齢に達していた。どうしても雲には見えなかった。
波の彼方の大陸。それは夕闇の彼方、はるかに広がっていた。
──
浜辺。僕たちは焚火の跡を見つけた。かすかに火が残っていた。
僕らはその火を燃え上がらせようとした。
火は意外にたやすく燃え上がった。浜辺に燃やすものはいくらでもあった。
火は次第に大きくなった。僕らはその火を移して、もうひとつ焚火を作った。
── だがそちらには、それほど興味が持てなかった。僕らは元の火の回りにばかりいた。
移した方の焚火は、やがて消えてしまった。
──
海には船が通り過ぎていくのが見えた。
僕らは船にこの火を見てほしかった。船に乗っている人たちはこの火を見ているだろうか、── 僕たちはそんなことを考えていた。(11/16)

夜の川原に沿った道。残った虫がまだ鳴いている。
風。植物は冷たい風の中でざわめいている。長い砂利の道にもまた風。
静止しているかのような家々の灯は、僕の歩行についてくる。
── そうして、流れてゆく自動車のライト。(11/9)

ほらほら、ぼんやりしているから、そんなとき、仰天するんだよ。(11/17)

線路。貨物車かと思ったら、線路の両側に砂利をまく車両だった。
減速してガラガラ、ガラガラと硬く大きな金属音を響かせ、砂利をまいていく。
白煙を上げながらその貨車は僕の後ろへと通り過ぎていく。── 冬の日の光の中に、白煙はやがて溶けていく。
僕の背中に、その音が響いている。(11/15)

Y.Iの逮捕後の反省の声明。それに対する批判。「あんな言葉は許せない云々」。
Y.Iの声明は、彼の人生を示すものだ、それも一つの生き方だ。
「そんなことは言うべきではない。こう言うべきだ云々」。
── うぬぼれた教師面と、自己正当化と、あらゆる騒々しさがある。
そんな連中の一人はある有名人を引き合いに出して、Y.Iを批判した。教師が「偉い人」を引き合いに出して、生徒を教え導くように。(11/9)




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いつだったか、クリスマスミサの音楽を実況録音盤で聴いたことがある。
静かな雰囲気だった。
途中でオルガンの即興演奏が入った。「神の怒り」の表現だそうだったが、演奏者の怒りの表現にしか聞こえなかった。(5/9)

「最も深い悲しみは、魂の奥底で涙を流す」。
自分の一番弱い面に触れるようなことは、表には出さないものだ。
「泣き虫さん」の泣くということは、コミュニケーションの一種だろう。(5/9)

木の葉は太陽を全身に浴びている。光と熱のシャワーだ。
ほこりだらけのアスファルトの道路。(5/11)

少年時代、僕は比較的大きな怪我ばかりしていた。
怪我の痛みは自分一人で耐えなければならないことを体で覚えた。周囲の人が何と言ってくれようとも、結局一人で耐えるしかなかったのだ。
── 心の傷にしても、耐える場所は、自分の孤独の中にしかないのだろうか。
(5/3)

昨日は暑かった。僕は川のほとりの道を、長いこと歩いた。
土の上を長く歩くのは久しぶりだった。(5/11)

友人が、彼のお気に入りのレコードを聞かせてくれた。
だが静かな所で、ボツッと傷の音が入った。彼は蒼ざめて言った。「う、うそだ」。
僕は言った。「ああ、うそだよ」。
彼は苦笑して言った。「そうか、良かった」。(5/3)

耳鳴りかと思ったら、遠くから響く「けら」の鳴き声だった。可愛い虫だ。僕は小さいころ、こいつが大好きだった。(5/6)

竹内好が死に対して身構える間もないうちに死んだとして、吉本隆明は「かわいそうだ」と言った。
── 死に対して無頓着な思想家が思想家なのか?
死は一回きりで、しかも絶対確実なものだ、それ抜きにした思想がどこにある。
かわいそうだなど、同業者の下らない自己陶酔だ。(5/12)

ある評論家が何かを批判する時に、ほとんどかならず使う言葉。
「それは時代錯誤だ」。
批判の対象を時代の彼方に追いやってしまう。要するにそれで十分なのだ。
彼にとって論理とは、後から取って付けたオマケに過ぎない。ともかく論理も何もない「一刀両断の断罪」が全てなのだ。(5/6)

いつの時代でも、素朴で純情な人間は「時代遅れ」であり、何か度外れた感じがする人は「超現代的」だ。
いつの時代でもだ。つまり、時代遅れとは素朴で純情なものを指すのだろう。
(4/28)




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深夜の街。街灯の蒼い光に縁どられる軒のかすかな輪郭。遠くから響く、妖精たちのとぎれとぎれの悲鳴。
── ひとつともる窓の明かり。
沈黙する建築の硬い輪郭の中には、不思議な彩色。── これだったのか。
── ふたつの顔を持つ「神」は、言語の下、どこにでも姿をあらわす。
そうだ、その二つを、この身に重ねなければならないのだ。
ここで初めて剣の感触は──「存在」は確かめられる。(8/30)

最上の味覚というものがあるのなら、それは完全な運動状態の無我の瞬間がほんのわずかゆるんだ、ゆるみのくぼみの中に置かれたものなのだろう。
── ようするに、飽食もほどほどにということだ。(9/2)

美しい庭園の中、走る子どもたち。かと思えば、しかめ面をする大理石の彫像。
── ここで世界は、どのような姿を示しているのか。
いつでも僕に与えられていない虚構を選択する誘惑は存在する。
荒野は静止しなければならないのか、── 閉ざされた大気は運動しなければならないのか。いつでもそれは回答を求めているのか。
──
彼方から響く海鳴り。── 保証書なしの、僕の生活。西風に吹かれる場所からも遠く離れ。(8/29)

休息の時。
確かめられるべき表情もなく、胸は疲れてもいず、熱してもいず、── 体の重たさもなく。
この時間帯の中にもまた、無数の事件は来たり、また去ってゆくのだが、あらたな存在は重ね込まれることもなく、── 「雨の雨」を、細い息吹が連なる。
(8/28)

車中、見やる風景。
彼方、通り過ぎた家々の屋根に僕は、かつての友の表情を思い浮かべる。
結局その表情と、僕との間に流れる音律は、不毛の、行き場を持たぬものだったのだろう。
──
繰り返される切断。── こうして僕の力を導くものは無くなってゆく。
── 風の中のざわめき、その沈黙。
確かめるものもなく、ただ、リズムは走ってゆく。(8/28)

休日の前。彼はその日の使い方に思いをはせる。
様々な喜びを彼は想定し、どれを選ぶのかの楽しい困惑の時間を送る。
休日。── 文字通りに彼は、何をすることもなくその日を終える。(9/2)

レッド・ツェッペリンローリング・ストーンズ。この両極端。
共通点は暴力性だけだ。前者は無機質な、そうして後者は肉体的な。(8/28)




The Rolling Stones  "Brown Sugar"




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深夜。木々のざわめきと風。それは次第に高まってゆく。
僕はそんな道を歩いていた。
── 厚い雲におおわれた暗い夜。眠りについた暗い街。
その時、雲の一角が一瞬、白く鮮やかに輝き、浮かび上がった。
そうして、こもった重たい音の轟きが、遠くから長く尾を引いてやってきた。
── 時間が浮かび上がった。「この一瞬だけが私なのだ」。
──
彼方までひろがる、眠りについた家々。それをおおう、重たい轟音。
雲の一角が再び白く輝いた。── そのとき僕は、腕に水滴が落ちるのを感じていた。(7/22)

水音のする夕暮れ時。
蜘蛛は巣の中央で身じろぎもせず、道端には年老いた人が一人座っている。
── 賢者なのだろう。ふと僕は思った。この道の端から端を知っているのだろう。それなら見えない先まですべてを。
── 熱は立ち去ってゆく。
僕は歩き続け、年老いた人はもう僕の視界に入らない。(7/21)

交差する線路上を走る電車の動輪の硬い金属音。無彩色の直線の構成。
── 人は「明晰さ」を手にした時点で、「表情」を失う。(7/22)

早朝の海。昨夜の雨が信じられないような天気だ。
年老いた人が一人、流木の上に腰を下ろして本を読んでいる。すでに知っていることの「おさらい」のように。
打ち上げられたがらくたの中を、野良犬が一匹歩いている。
── 風と海の音。
どんな黒い渦の中に転落したとしても、かならず嵐はやってきて、それらのすべてを破壊してくれるのだ。
──
夏の日の太陽の下、アスファルトの路面には陽に焼けたうさんな男たちが歩いている。笑いと暴力を知る連中だ。
アスファルトの路面を、遠くから一直線に強い風が吹き抜けていく。
── 早朝の浜辺。
打ち上げられた様々ながらくたの中、野良犬の姿はいつしか見えなくなっていた。(7/23)

墓標の沈黙の連なり。それぞれには、何か文字が書かれている。
その墓地を、僕は電車の窓からも見たことがあった。
── 電車の窓からしか見たことがなかった。電車の規則的な轟音の中、墓地の静けさは僕にはなにか不思議なものに思えた。
── それが眠りなのだ。暖かな大地の下で、二度と目を覚ます必要のない。
(7/22)

自分の目の前から、先へと連なる通路を見ている二人の女。
── 片方の女は、通路の先にいる自分を見ている。通路のこちら側と向こう側で、同じ女が見つめあっている。
── もう一人の女は、通路の彼方に、優し気な顔立ちをした男を見ている。
僕は、彼女は広い世界を見ていると感じたのだが、そのうち彼女は餓死してしまうのかもしれないとも感じていた。(7/21)




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人生にかかわるギャンブル。カードを買うかどうかは本人の選択次第だ。
── 買わされる場合の不幸。(3/24)

帰宅。── 家中の誰もが眠っている時間の帰宅。
それまで彼は、どこで何をやっていたのだろう。
彼の家族は、彼のより良い生活を祈っている。── そうして今は、皆眠っている。(3/24)

やってきた空白の中で、彼は空白に絵筆を入れなければならない欲求から、「何か」を懸命に探す。
── 体の内部の密度が次第に下がっていく気分に追われながら。(8/25)

帰省中の車窓から。僕はぼんやりと外を眺めていた。── 日差しの中の踏切に高く響くシグナルの音。(9/4)

芥川龍之介も志賀直哉も、一方向のベクトルを持つ。つまり深淵へのだ。
── 晩年の作風にはっきりしているのは、そのベクトルが消えているということだ。(8/30)

僕の知る限りにおいて、芥川や志賀はギャンブルに没頭する人間を描かなかった。だから彼らの作品には一方向のベクトルしかないのだ。(9/2)

なにもかもが調和している状態においては、存在する一切のものが明晰だ。無秩序。それはただ、もやにおおわれた状態だ。
── だが系統立った思考の苦しさ。必然から必然への歩行。(9/8)

耳の位置によって、ふだん聞こえない腕時計の音が聞こえてくる。── 耳鳴りの中に、硬い金属音が。(8/28)

ある男。彼はあるとき、こんなことを言われた。
「これなんか、好みじゃないか?」
図星だった。彼は軽い屈辱感を覚えていた。── 自分の部屋の中の見られたくない場所を見られたような。(8/30)

するべきことをして、それ以外の時間はどうしても退屈しのぎが必要になる。
日々は何と早く過ぎ去っていくのだろう。── 退屈しのぎの比率を下げなければ。(8/28)

冷たく長い雨で、蝉の声も聞こえなくなった。
山々の木々の中に響いていた、あのひぐらしの声。── 見る人の持つ生命を偽りなく映し出している自然の風景。(8/31)

ひとつを残して、すべてを放棄してしまった状態。
それは何というおそろしい状態なのだろう。どんなことがあっても、その一つにしがみついていなければならない状態なのだ。(9/2)

虚構の中で眠りこけ、それが虚構であることを忘れてしまうということ。7月25日、8月28日・・・・。(9/6)




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断崖の上に立つ城が、いつしか音もなく崩れ落ちて行った後も、── 最初の兵士たちが見た森林の、そのざわめきは止むこともない。
── 夕照を背に、ビル群のその姿を、一つの鼓動は貫いている。(4/28)

初めて歩く道。土を掘り起こされた空き地があった。野草と、空き地を囲むかのように木々。
── 少年時代の風景だ。あの日々、いつでもそんな場所があった。
── 夕方、雷雨が来たが、昼間は良く晴れていた。(4/21)

表現者と、表現者のことを好きな人。
囲まれていても表現者はいつでも一人だ ── 囲まれているのは展示されている作品だからだ。(4/25)

鏡の中の表情に、「幸福」は重なり、── それが鏡にうつるこの世界を塗りつぶす。
── 他のなにもが見えなくなるのだ。メドゥーサに対抗できないほどに。
(4/26)

高校生の時の、あの夏の日の山国の早朝の事。
── 冷気と川の音。木々と土との香。そうして、青く広がる朝もや。すべての輪郭はほんのわずか、にじみ、遠のいているかのようだった。
しかしそれでも確かな風景は、そこにいた僕たちを静かにした。
風景の、その影が与え続けた「不思議」の数々。
──
そうして、陽が射す中に、急速に朝もやは晴れていった。
── 新たな音律はこの胸に笑いかけた。新たな風景が、あらたな未知とともにやってきて、その未知が歓喜を与えた。(4/23)

渇き。飲料に味を求めるうちは、大した渇きではない。(4/21)

冬の朝の、線路に沿った道の記憶。
朝の静けさと熱の高まり。ふいにやってくる列車の轟音。
遠くのビル群は目覚めているのかどうか、僕にはわからなかった。── おそらくいつでも目覚めているのだろう。
広いアスファルトの路面を走ってゆく、サイレンの音。── そうして混沌のコントラストは高まってゆく。(4/25)

夕暮れ時、間近かに見つけた葦の茂るよどみには、小さな魚たちの姿。
土手に座っている男は笑いながら、女の肩に頭をのせ、目を閉じる。
── この身の血液も、いまは淡く、静かに淡く休息の中に沈んでゆく。(5/7)

音律。肌目の荒れたそれは、誇張と抑圧とからの離別を求めれば、無駄のない美しさに至る。
バッハ。音の運動の輪郭の明晰さ。
モーツァルト。広い庭園には噴水の歌。白い彫像の数々。花々。
── すべてのきらめきと、それがもたらす深い影と。(4/20)





J.S.BACH "Prelude BWV 999 and Fugue BWV 1000" for Laute
 - Walter Gerwig - [ Vinyl Record ]





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