深夜。木々のざわめきと風。それは次第に高まってゆく。
僕はそんな道を歩いていた。
── 厚い雲におおわれた暗い夜。眠りについた暗い街。
その時、雲の一角が一瞬、白く鮮やかに輝き、浮かび上がった。
そうして、こもった重たい音の轟きが、遠くから長く尾を引いてやってきた。
── 時間が浮かび上がった。「この一瞬だけが私なのだ」。
──
彼方までひろがる、眠りについた家々。それをおおう、重たい轟音。
雲の一角が再び白く輝いた。── そのとき僕は、腕に水滴が落ちるのを感じていた。(7/22)

水音のする夕暮れ時。
蜘蛛は巣の中央で身じろぎもせず、道端には年老いた人が一人座っている。
── 賢者なのだろう。ふと僕は思った。この道の端から端を知っているのだろう。それなら見えない先まですべてを。
── 熱は立ち去ってゆく。
僕は歩き続け、年老いた人はもう僕の視界に入らない。(7/21)

交差する線路上を走る電車の動輪の硬い金属音。無彩色の直線の構成。
── 人は「明晰さ」を手にした時点で、「表情」を失う。(7/22)

早朝の海。昨夜の雨が信じられないような天気だ。
年老いた人が一人、流木の上に腰を下ろして本を読んでいる。すでに知っていることの「おさらい」のように。
打ち上げられたがらくたの中を、野良犬が一匹歩いている。
── 風と海の音。
どんな黒い渦の中に転落したとしても、かならず嵐はやってきて、それらのすべてを破壊してくれるのだ。
──
夏の日の太陽の下、アスファルトの路面には陽に焼けたうさんな男たちが歩いている。笑いと暴力を知る連中だ。
アスファルトの路面を、遠くから一直線に強い風が吹き抜けていく。
── 早朝の浜辺。
打ち上げられた様々ながらくたの中、野良犬の姿はいつしか見えなくなっていた。(7/23)

墓標の沈黙の連なり。それぞれには、何か文字が書かれている。
その墓地を、僕は電車の窓からも見たことがあった。
── 電車の窓からしか見たことがなかった。電車の規則的な轟音の中、墓地の静けさは僕にはなにか不思議なものに思えた。
── それが眠りなのだ。暖かな大地の下で、二度と目を覚ます必要のない。
(7/22)

自分の目の前から、先へと連なる通路を見ている二人の女。
── 片方の女は、通路の先にいる自分を見ている。通路のこちら側と向こう側で、同じ女が見つめあっている。
── もう一人の女は、通路の彼方に、優し気な顔立ちをした男を見ている。
僕は、彼女は広い世界を見ていると感じたのだが、そのうち彼女は餓死してしまうのかもしれないとも感じていた。(7/21)




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