長野「水尾 辛口吟醸 生詰 山恵錦」シルキータッチの甘旨味が凜々しく踊る | 酔い人「空太郎」の日本酒探検

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意欲ある先進地酒蔵のお酒をいただき、その感想を報告します。
SAKETIMESにも連動して記事を載せます。

長野の銘酒「水尾」を醸している田中屋酒造店さんのお酒をまとめて取り寄せて、飲み比べをしました。

4本目はこれです。

 

 

水尾(みずお)辛口吟醸 山恵錦」。

 

田中屋酒造店は昨年(2023)12月から、有料の酒蔵体験ツアーという企画を始めました。

3種類のメニューが用意されていますが、そのうちの2つに実際に参加してきました。

「バックグラウンドツアー」に続いて参加したのは「蔵人体験」でした。

 

当日は8時に集合しましたが、参加者は定員一杯の6人。

空太郎以外は40~50代の女性3人、男性2人でした。

接客は田中隆太社長と息子で専務の匠氏。

前日と内容は同じで15分間、蔵のビデオを見て、後半15分は蔵のパンフレットをもとに、田中社長が説明します。

強調したのは酒の仕込み水と使っている酒米の点。

 

 

その後、着替えをして蔵へ。

まずは、米の蒸し上がりの現場を見学。

この日はひとごこちの麹米と金紋錦の掛米。

麹米の掘り出しと麹室前までの運びの様子を見ます。その際、田中社長が皆の前でひねりもちを作り、出来上がったものを小分けにしてメンバーに配ってくれました。

しばらくしてから麹室前に置かれている麹米の所に行き、自然放冷(米を集めて広げるを繰り返す)を手伝います。

適温になったところで、皆で麹室に引き込むと同時に室の中に入りました。

 

 

参加者&蔵元親子、杜氏の9人が床の回りにたち、引き込まれた米を床一杯に広げ、均一の厚さになるようにほぐしていきます。

手袋は無し。

杜氏から麹造りの要点について、いろいろ聞き、種切りのタイミングで戻ってくることとし、一旦、室を出ました。

 

 

この日の掛米は留め仕込み用で600㌔と多く、戻ってきてもまだ蔵人が掘り出して、放冷機に投げ込む作業をしており、その様子を見ながら、田中社長が新しい放冷機の特長を説明してくれます。

次に仕込み部屋に移り、放冷機からエアシューターで米が醪タンクに投入する様を見て、次に酒母室へ。

前日同様、松尾大社の神棚の前で全員、二礼二拍手一礼をする。

続いて酒母室で酒母の櫂入れを体験。

酒母の役割について説明。

 

 

それから再度、麹室へ。

手を洗い、室にいる時間が長いため、白衣や上着を脱いで、水尾のTシャツ姿になって室に入りました。

杜氏のやり方を真似て、全員が種切りをする。

床を8分の1に区分けして(もちろん大体で)振りました。

振った後、5分ほど待って、床もみ。

さらにもう1回種切りして、5分待って、床もみ。

合間に杜氏がいろいろと苦労話を聞かせてくれました。

米を集めて布で包む寝かせは杜氏に任せて、室を出て、休憩となりました。

 

 

レクチャールームで一服。

田中社長は参加者に麹室仕事をさせることについて、

「雑菌汚染が一番心配されるのは麹室にお客を入れることで、それをあえてやるのはチャレンジングなことだと思っている。しかし、酒造りの根幹は麹室仕事だし、これを体験してもらえば喜ばれることは間違いない。いろいろシュミレーションして、手洗いと白衣&帽子の着用、スマホの殺菌(ただし、麹室へは持ち込み禁止)などの対策で問題はないだろうと判断して、実施に踏み切った」

と説明していました。

 

 

休憩後は翌日朝蒸す米の洗米作業を見学。

次に火入れと瓶詰工程の説明。

さらに、保冷庫に案内。

それからもう一回手洗いをしてから仕込み部屋の酒母室へ。

 

5日目と11日目の酒母を飲み比べる。

次にヤブタの脇へ。

ここで金紋錦の特別純米の搾り2日目の槽口の酒と、同じスペックで明日からヤブタで搾る予定の醪を飲み比べて、違いを体感しました。

 

「この醪をなめて、翌日搾りがベストだな、と感じられるようになったら、醪担当合格です」と田中社長。

続いて、純米大吟醸10日目の醪と、アル添大吟醸15日目の醪を利く。

続いて分析室で説明。

BMD曲線の意味を細かく説明してくれる。

これで見学はすべて終了し、レクチャールームへ。

 

 

その後は昼食会場へ。

蔵から歩いて3分の「うなぎ 本多」で。

長野県北部地域で一番人気のうなぎ屋だそうだ。

個室で参加者と田中隆太社長、田中匠専務の8人で食事をしながら歓談。

提供されたのはうな丼(3650円)、肝焼き(650円)。

水尾の冷酒&燗酒付1合程度。

いろいろな話題が出て、盛り上がりました。

食後は蔵に戻り、アンケートを記入後、田中社長の挨拶でお開きでした。

 

 

この企画の最大の目玉は麹室の作業に参加者が加われることでした。

有料の酒蔵体験企画は徐々に増えているものの、多くは雑菌汚染への不安が少ない作業(蒸した米の放冷、掛米のタンク投入、洗米、櫂入れetc)で、麹室体験までやらせるところでも、大半は床もみが限度。

それを田中屋酒造店は種切り作業までを体験させているのはチャレンジング(田中社長)で、注目に値しました。

普段体験できない酒母の醪の味見比べや、同じスペックの純米酒の搾っている最中のお酒と明日搾る醪を飲み比べるという体験も参加者が非常に喜ぶに違いありません。

 

 

こうした体験に昼食(5000円相当)と水尾のTシャツプレゼント(3500円程度)がついて20000円という価格設定はいい所をついていると感じました。

今季はあえて日本人客に絞っていますが、来季からは英語が話せる蔵人が入り、野沢温泉スキー場にやってくる外国人も対象にするそうで、大いに賑わうに違いありません。

 

さて、4本目は、3本目と米もスペックも同じ辛口吟醸ですが、3本目が一回火入れの瓶貯蔵に対して、4本目は火入れしたお酒をタンクに貯蔵。

タンクの部屋は10度以下で、かつ、タンクの酒の上には窒素ガスを乗せて、酸化を防ぎ、出荷段階で瓶詰めをしているお酒です。

 

 

上立ち香はイソアミル系の好ましい香りが鼻腔をくすぐります。

玩味すると中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に油膜を張って、ツルツルの感触を振りまきながら、軽いタッチで滑り込んできます。

受け止めて保持すると、自律的に淡々と膨らみ、拡散して、適度な大きさのガラス玉様の粒々を連射してきます。

粒から滲み出てくるのは甘味5割、旨味5割。

甘味は上白糖系のドライなタイプ、旨味はシンプル無垢で肌理の細かな印象で、両者は足並みを揃えて、スレンダーで淡い舞いを見せます。

流れてくる含み香もイソアミルの上品な香りで薄化粧を付与。

後から来るのは渋味がほんの少しで、メリハリをくっきりと施します。

甘旨味は終盤まで流麗さを失わないまま、徐々に細くなり、最後は反転縮退して昇華して行きました。

 

 

生詰酒よりもより細めの印象でした。

それでは、田中屋酒造店のお酒、5本目をいただくことにします。

 

お酒の情報(24年104銘柄目)

銘柄名「水尾(みずお)辛口吟醸 山恵錦 2023BY」

酒蔵「田中屋酒造店(長野県飯山市)」

分類「吟醸酒」

原料米「地元産山恵錦」                                                                                                                                    

使用酵母「不明」

精米歩合「59%」

アルコール度数「15度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「△」

標準小売価格(税込)「720ml=1200円」

評価「★★★★★(7.5点)」