長野県上田市に酒販店が働きかけて酒蔵が新しいブランドを造り、それがじりじりと売れている美酒があります。沓掛酒造が醸している「互(ご)」がそれです。
誕生して13年になる互をまとめて4本取り寄せて、飲み比べることにしました。4本目はこれです。
「互(ご)夏の青春 純米吟醸 生原酒」。
さて、互の場合、サブのネーミングが野球用語になったのは、お酒の「あらばしり」「中取り」「攻め」といった搾り工程ごとに出てくるお酒の呼び名は、一般の人にはわかりにくいから、野球用語に置き換えて、親しみを持ってもらおう、というのが趣旨だったようです。
当初はあらばしり=先発、中取り=中継ぎ、攻め=抑え、直汲み=隠し球、といった具合だったので、比較的すんなりと命名できたのです。
ところが、夏酒を出すことになった際は、どうネーミングにするかで随分悩んだようです。
結局は、夏の甲子園をイメージして「夏の青春」となりました。
蔵元杜氏の沓掛浩之さんは、辛口の酒を出してみたいと考えているのですが、「適当なネーミングがなくて、迷っています」と話していました。
また、互の書体は銘柄誕生に貢献した酒販店の店主に書いてもらったのをそのまま採用したのですが、達筆すぎて「瓦(かわら)というお酒ありますか?」とか酒販店にやってくる客もあるそうです。
ま、字の真下には「GO」と書いてあるから、それでいいと思いますが。
さて、最後の4本目は夏酒です。
沓掛さんは「青春イコール甘酸っぱい思い出、というイメージを持つ人が多いようですが、私は甘酸っぱい経験をしていないので、軽やかな爽快感を味わいに出そうと、他の互では使っていない協会1401酵母を採用しました」と話しています。
ひとごこちの55%精米の純米吟醸です。
上立ち香は軽快な薄甘い香りが仄かに。
玩味すると、中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面にベビーパウダーをはたいて、サラサラな感触を振り撒きながら、ゆったりとしたペースで滑り込んできます。
受け止めて舌の上で転がすと、促されるままに非常に軽快なテンポで膨らみ、拡散しながら、適度な大きさの真綿状の粒粒を次々と射掛けてきます。
粒から現出してくるのは甘味7割、旨味3割。
甘味は上白糖系の気持ち乾いた印象、旨味は痩身のタイプで、両者は浮き上がるようにしながら踊り、フェザータッチの世界を描くのです。
流れてくる含み香はぶどうの甘い香りが適度で薄化粧を付与。
後から来るのは酸味と渋味が少量で味わいに薄氷の輪郭を形作ります。
甘旨味は涼しい表情で終盤まで爽快な舞いを展開し、最後は全体が反転縮小して、急ピッチで昇華していきました。
この夏酒は買い、でした。
*一升三千円(四合千五百円)以下の美酒に登録します。
お酒の情報(19年284銘柄目)
銘柄名「互(ご)夏の青春 純米吟醸 生原酒 2018BY」
酒蔵「沓掛酒造(長野県上田市)」
分類「純米吟醸酒」「無濾過酒」「生酒」「原酒」
原料米「ひとごこち」
使用酵母「協会1401号」
精米歩合「55%」
アルコール度数「14度」
日本酒度「-3」
酸度「1.9」
情報公開度(瓶表示)「◎」
標準小売価格(税抜)「720ml=1460円」
評価「★★★★★(4.3点)」