A DAY IN THE LIFE WITH MUSIC -835ページ目

クロージング・タイム / トム・ウェイツ

CLOSING TIME / TOM WAITS


closing time



①OL' 55  オール’55

②I HOPE THAT I DON'T FALL IN LOVE WITH YOU  恋におそれて

③VIRGINIA AVENUE  ヴァージニア・アヴェニュー

④OLD SHOES (& PICTURE POSTCARDS)  オールド・シューズ

⑤MIDNIGHT LULLABY  ミッドナイト・ララバイ

⑥MARTHA  マーサ

⑦ROSIE  ロージー

⑧LONELY  ロンリー

⑨ICE CREAM MAN  アイス・クリーム・マン

⑩LITTLE TRIP TO HEAVEN (ON THE WINGS OF YOUR LOVE)  愛の翼

⑪GRAPEFRUIT MOON  グレープフルーツ・ムーン

⑫CLOSING TIME  クロージング・タイム



本日紹介するのは、1973年のトム・ウェイツのアルバム「クロージング・タイム」です。


これは、トム・ウェイツのデビュー・アルバムになります。


「酔いどれ詩人」と言われるトム・ウェイツですが、さすがにこのアルバムでは声もまだまだ若々しく、曲調も歌詞もストレートです。

タイトルが示すように、ここで聴かれるものは夜の雰囲気で、内省的で切ない男の感情をロマンティックに歌うラヴ・ソングで構成されています。


シンプルで素朴でクセのない美しいメロディが際立つ名盤です。


ジャケットのイメージそのまんまですので、「ジャケ買い」しても損はしませんw



オープニングの①は静かなピアノのイントロで始まります。

スローでメランコリックなナンバーです。

イーグルスもこの曲をカヴァーしていますが、トムはインタビューでそのことを聞かれた時、

「ターンテーブルの埃よけくらいにはなるだろう。」

と辛辣ですw


②はアコースティック・ギターが基調のフォーキーなバラードです。

「君に恋などしたくない」と、強がって意地を張る男の気持ちが切々と歌われます。


③は一転してジャジーなナンバー。

ミュート・トランペットがその雰囲気を盛り立てます。


④はディラン風の、ギターによる3拍子のカントリー・タッチの曲です。

このアルバムの中では明るい雰囲気の曲ですが、女性との別れを歌っています。


⑤もジャジーなナンバーです。

ここでもミュート・トランペットがフィーチャーされています。

冒頭の歌詞、

「6ペンスの歌を歌おう ポケットにはいっぱいのライ麦」

というのは、マザー・グースからの引用句です。

トムのことですから、ここでのライ麦というのはウィスキーのことなのかも知れません。

エンディングのピアノのメロディがとても印象的です。


⑥と⑦は共に女性の名前がタイトルになっています。

どちらもストレートな感情を告白する曲で、ゆったりとした優しい印象ながらも胸に迫るものがあります。


⑧は狂おしいくらいの未練がましい男の歌です。

「君がいなくて寂しい」

トムのピアノによる弾き語りです。


⑨はスウィング・ジャズ的なナンバーです。

アップ・テンポながらどことなく寂しげな雰囲気が漂います。


⑩はこのアルバムのハイライトです。

ピアノでしっとりと歌われるラヴ・ソングです。

「君の愛の翼に乗って天国へ小さな旅をする」

という歌詞はロマンティック過ぎますねw


⑪も詩的なイメージの広がるロマンティックな名曲です。

後半から被さるストリングスが何とも言えず味わい深いです。


⑫は、アルバムの最後に相応しいジャジーな3拍子のインストです。




全12曲どれも素晴らしい出来映えなんですが、個人的に好きなのは、③⑤⑩⑪ですね。


トム・ウェイツの音楽は、しんみりとお酒を飲みたい時にぴったりなんですが、お酒はもちろん、夜のドライヴのBGMにもグゥです。






グレープフルーツ・ムーン




グレープフルーツのような月 光る星ひとつ

それが僕を照らしている

あの調べをもう一度聴きたいと

焦がれている僕を

あのメロディが聞こえるといつも

胸の奥で何かが壊れる

グレープフルーツのような月 光る星ひとつ

潮の流れは それでも戻せない


踏み越えられない運命

そんなものはなかった

君は僕にインスピレーションを与えてくれた

だがいったい何を失わなければならないのだろう

あのメロディが聞こえるといつも

胸の奥で何かが壊れる

グレープフルーツのような月 光る星ひとつ

僕には覆い隠せない


今 タバコをふかしながら

僕は清らさのためにたたかう

でも星のように

暗闇に落ちてゆく

というのはいつもあのメロディが聞こえると

樹に登るのに

グレープフルーツのような月 光る星ひとつ

それしか見えないから


アビー・ロード / ザ・ビートルズ

ABBEY ROAD / THE BEATLES


abbey road



①COME TOGETHER  カム・トゥゲザー

②SOMETHING  サムシング

③MAXWELL'S SILVER HAMMER  マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー

④OH! DARLING  オー!ダーリン

⑤OCTOPUS'S GARDEN  オクトパス・ガーデン

⑥I WANT YOU (She's So Heavy)  アイ・ウォント・ユー

⑦HERE COMES THE SUN  ヒア・カムズ・ザ・サン

⑧BECAUSE  ビコーズ

⑨YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY  ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー

⑩SUN KING  サン・キング

⑪MEAN MR.MUSTARD  ミーン・ミスター・マスタード

⑫POLYTHENE PAM  ポリシーン・パン

⑬SHE CAME IN THROUGH THE BATHROOM WINDOW  シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バスルーム・ウィンドウ

⑭GOLDEN SLUMBERS  ゴールデン・スランバー

⑮CARRY THAT WEIGHT  キャリー・ザット・ウェイト

⑯THE END  ジ・エンド

⑰HER MAJESTY  ハー・マジェスティ



本日紹介するのは、1969年のザ・ビートルズのアルバム「アビー・ロード」です。


これがビートルズにとっての実質的なラスト・アルバムになります。

ビートルズが最後に見せた、完璧な傑作です。



この年の1月、「ゲット・バック」セッション が失敗に終わり、ビートルズはすでに事実上崩壊寸前の状態だったのですが、メンバー4人はもう一度ビートルズとしてのアルバムを制作することを決意します。

アルバム契約が残っていたからなのか、「ゲット・バック」での失敗のままグループが終わってしまうのを嫌ったのか、或いは他の理由があったのか、わかりません。


「アビー・ロード」のレコーディングは1969年の7月~8月にかけて行われました。

「ゲット・バック」セッションからこの「アビー・ロード」制作までの間、シングル「ジョンとヨーコのバラード」とそのB面「オールド・ブラウン・シュー」をレコーディングしたこと以外は、メンバーはビートルズとしての仕事をほとんど行っていません。


リンゴ・スターは俳優として映画の撮影を、ジョン・レノンはヨーコと結婚し、6月には初めてのソロ・シングル(プラスティック・オノ・バンド名義)である「平和を我等に」をレコーディング、ポールもリンダと結婚、また、ジョージはマリファナ所持の疑いで逮捕されています。




アルバム収録曲は、いくつかの新曲を除いては「ホワイト・アルバム」 の頃に作られた曲や、「ゲット・バック」セッションで仕上げられなかった曲で構成されています。


このアルバムがビートルズとして最後のアルバムになることはメンバー全員が知っていました。

ここではかつてのように4人でレコーディングしており、バンドとしてのタイトで素晴らしいまとまりや、美しいハーモニーを聴くことが出来ます。


LPでは、①~⑥がA面で、⑦~⑰がB面です。

プロデューサーであるジョージ・マーティン曰く、

「A面はジョンの好きなロックンロールに、B面はポールの好きなロック・シンフォニーにした。」



ジョンによるクールでファンキーな①で幕を開けます。

ジョンのヴォーカル、ポールのベース、リンゴのドラム、どれもがカッコイイ名曲です。

この曲はまた、チャック・ベリーの「ユー・キャント・キャッチ・ミー」に酷似しているということで、裁判沙汰になりました。後にのジョンはソロ・アルバム「ロックンロール」でこの曲を収録しています。

意外なことに、ジョンの曲がアルバムの冒頭を飾るのは、「ヘルプ!」以来のことです。


②はジョージによる名バラードです。

ジョージの曲としては初めてシングルのA面になった曲でもあります。


③はポールの物語風の曲。歌詞の内容はちょっと怖いです。

「ゲット・バック」セッションでも何度が取り上げられていました。

映画「レット・イット・ビー」でもその時のセッションの様子を見ることが出来ます。


④もポールによるヘヴィなロッカバラードの名曲。

「君に捨てられたら僕はやっていけない どうか信じてほしい」

という歌詞はまるでジョンに訴えているみたいで切ないです。

この時期のポールはこうした内容のものが多いです。

この曲も「ゲット・バック」セッションで取り上げられていました。


⑤はリンゴによるポップでコミカルなナンバー。

映画「レット・イット・ビー」ではこの曲をジョージと一緒にピアノを弾きながら作っているシーンが見れます。


⑥はジョンによるブルージーで強烈な曲。

「ヤー・ブルース」「ドント・レット・ミー・ダウン」に続くジョンのヘヴィ路線の末端。

歌詞はたったの3節しかありませんが、曲は8分近くあります。

ジョンの絶叫、ジョージのギター、リンゴのドラム、そしてポールのコーラス全てがキテます。

ビートルズの最後の狂気であり、シンプルな歌詞を連呼するその作法は、翌年にリリースされるジョンのソロ・アルバム「ジョンの魂」に通じるものがあります。

テープ切ったように、この曲はばっさりと終わります。


ジョンの意向で作られたといわれるA面ですが、ジョンの曲は最初と最後の2曲だけです。

しかしながらその2曲はどちらも新曲であり、それなりにジョンも気合が入っていたんじゃないか、と思ってしまいます。


⑦はジョージによる和やかな曲です。


⑧はジョンによる美し過ぎる名曲。

このアルバムからムーグ・シンセサイザーが使われているのですが、この曲ではそれが効果的に使われています。

また、ジョン・ポール・ジョージによるコーラスも絶品です。

ここでもジョンの歌詞はひたすらシンプルで美しいです。


⑨~⑯まではメドレーになっています。

いわゆる「ヒュージ・メドレー」と言われているものですが、ビートルズとしてのラスト・アルバムを完璧に仕上げるという意欲がある一方で、仕上がっていない過去の曲をまとめるためのやり方でもあったようです。

現に⑯以外は、全てすでに前からあった曲ばかりです。

しかしながらこのメドレーは、このアルバムの、ビートルズ最後のハイライトです。

楽しそうで、しかも美しく、そして切ないです。

ポールはこうしたロック・オペラ的な展開がお気に入りなのか、解散後のウィングスのアルバムでもこうした手法を取り入れています。


めまぐるしく展開が変わる⑨の後、⑩⑪⑫とジョンのナンバーが続き、⑬⑭⑮で静かにそして徐々に激しく盛り上がっていき、⑯で文字通り「ジ・エンド」を迎えます。


⑯ではリンゴのドラム・ソロの後、ジョン・ポール・ジョージの3人が持ち回りでギター・ソロを弾いています。

大団円です。

そしてこの曲は「ジ・エンド」というタイトルですが、歌詞の中では「In the end」、つまり「結局は」という意味で使われており、決して終わりそのものを歌っているのではない、という言葉遊びのような感覚がビートルズらしいです。


そして約15秒のブランクの後、アンコールのようなポールの弾き語りによる小品⑰でアルバムは幕を閉じます。



この「アビー・ロード」はビートルズが最後の力を振り絞って出来た、メンバー4人の結晶です。

ライヴ・セッションによる「ゲット・バック」が失敗に終わった以上、ビートルズとして残された道は「スタジオ・ワーク」しかなかったのだと思います。


その最後の「スタジオ・ワーク」を見事に仕上げ、ビートルズは解散したのです。


正に有終の美、です。



そしてビートルズと共に、60年代も終わったのです。








ジ・エンド




そして結局は

君が奪う愛というものは

君が作る愛と同じなんだ




abbey road jacket


ブラック・アルバム / プリンス

THE BLACK ALBUM / PRINCE


black album


①LE GRIND  ル・グラインド

②CINDY C  シンディ・C

③DEAD ON IT  デッド・オン・イット

④WHEN 2 R IN LOVE  ホエン・トゥ・アー・イン・ラヴ

⑤BOB GEORGE  ボブ・ジョージ

⑥SUPERFUNKYCALIFRAGISEXY  スーパーファンキーカリフラジセクシー

⑦2 NIGS UNITED 4 WEST COMPTON  トゥ・ニグス・ユナイテッド・フォー・ウェスト・コンプトン

⑧ROCKHARD IN A FUNKY PLACE  ロックハード・イン・ア・ファンキー・プレイス



本日紹介するのは、1994年のプリンスのアルバム「ブラック・アルバム」です。


ファンの間ではよく知られたエピソードですが、このアルバムは1987年12月に、「サイン・オブ・ザ・タイムズ」 の次のアルバムとしてリリースされる予定でしたが、発売の一週間前に突然差し止められました。


アーティストの名前も曲のタイトルすらも明記されていない、ただ真っ黒なジャケットで発売される予定だったこのアルバムは、真っ白なジャケットのビートルズの「ホワイト・アルバム」 とは正反対の、「ブラック・アルバム」と呼ばれ、その後多くのブートレグ(海賊盤)が出回り、皮肉にも最も売れたブートレグとなったのです。


アルバム発売中止の理由はいろいろと諸説ありますが、一般的にはプリンスの気まぐれ、という説が有力なようです。


この頃のプリンスは飛ぶ鳥も落とす勢いで、ボーダーレスなジャンルを越えたアルバムをリリースしまくっていたのですが、皮肉にもそれは保守的な黒人層からは、プリンスは正統なブラック・ミュージックを忘れてしまった、という危惧を抱かせることにもなったのです。

そうしたことを払拭するべく、プリンスが作ったこのアルバムは、正に原点回帰のストレートで超ファンキーな内容でした。

ここでのプリンスは非常に攻撃的で暴力的で不気味で大胆不敵で直接的です。


そうした「負の衝動」から作られたことをプリンス自身は後悔し、発売を中止させたのです。



このアルバムを封印したプリンスは「ラヴセクシー」 という傑作を発表します。

「ラブセクシー」のテーマは「愛」と「魂の再生」であり、「ブラック・アルバム」とは対極の位置にあります。


ビートとメロディ、肉体と精神、善と悪、陰と陽、全てにおいて正反対です。


プリンスのこの「負の精神」は、「ラヴセクシー」においては「スプーキー・エレクトリック」という名で、いわゆる心の中のダークサイドとして登場しています。

また、1988年のラヴセクシー・ツアーのパンフレットにも、この邪悪な精神との葛藤が物語風に語られていいました。


音楽的には上述したようにファンキーでノリノリの内容です。

当時のプリンスの精神状態がどうであれ、ここでの音楽は最高にカッコイイグルーヴを提供しています。

これがプリンスにとって最もファンキーなアルバムというのは皮肉なものです。



オープニングの①はのっけから強力でソリッドなファンクです。

ホーンとコーラス、プリンスとの掛け合いがカッコイイです。

ベースもブリブリです。


②も①と同じ流れのファンキーなナンバー。

「シンディ C」とは、シンディ・クロフォードのことらしいのですが、プリンスはお金を払うから遊んでよ、と歌ってますw

ここでもホーンがカッコイイです。後半のキャットのラップもイイです。

最高にファンキーです。


③はプリンスによるラップです。

87年当時、台頭してきたラップをプリンスがラップで辛辣に皮肉ってますw

「あのラッパーの辛いところは、そもそも音痴ってことさ」

「いいラッパーなんて 死んでしまったヤツだけさ」

「オレの金歯はオマエの家より高いぜ」


④は唯一、「ラヴセクシー」へ流用された作品。

なぜこの曲がこのファンク・アルバムに収録されたのかわかりませんが、なぜこの曲が「ラヴセクシー」に収録されたのかはわかるような気がします。

珠玉の名バラードです。


⑤は、数あるプリンスの楽曲の中でも最も奇妙で最もぶっ飛んだ曲です。

回転数を落とした不気味な声で、ミドル・テンポのファンクをバックにひたすら喋ってるだけです。

かなりキテる男が、浮気してる女に腹を立て、撃ち殺し、警察が来て銃撃戦になる、という内容。

プリンスがコワれてますw

それでも、

「そいつの名前は何て言うんだ?ボブ?何をしてる男だ?ロック・スターのマネージャー?誰の?プリンスだと!クソったれ!あのカン高い声の痩せっぽちのクソ野郎か?」

というユーモアで救われてます。


⑥はアップテンポのファンキーなナンバーです。

タイトルは、映画「メリー・ポピンズ」の挿入歌「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」のモジりです。

ここでもメロディはなく、ひたすらラップしてます。

ホーンは参加しておらず、タイトでシャープな演奏です。

また、この曲の歌詞の一部は、サイン・オブ・ザ・タイムズのツアーで演奏された「ビューティフル・ナイト」ですでに歌われていました。


⑦はクロス・オーバー(死語)でファンキーなインスト・ジャムです。

プリンスの覆面インスト・バンド「マッドハウス」用にレコーディングされた曲です。

ジャズ・ファンクの即興演奏風のこの曲は、参加してる楽器のどれもが素晴らしいです(特にベース)。


⑧はボツになったプロジェクト・アルバム「カミール」からのミドル・テンポのファンキー・ナンバーです。

ファンキーなホーンのリフが印象的で、また、間奏で聴かれるギター・ソロも秀逸です。

プリンスは、「勃起が無駄になるなんて見たくない」と歌い、一旦フェイド・アウトした後、再びフェイド・インして「こりゃ何て終わり方だ!」と言ってこのアルバムは終わります。




このアルバムは、オフィシャルでリリースされることは絶対ないだろう、と思っていました。

ところが、プリンスが改名騒動やマスター・テープの所持などで所属のレコード会社ワーナー・ブラザーズから離れることになった1994年にこのアルバムは発売されました。


ワーナーとのアルバム契約が残っているプリンスにとってはその契約をさっさと終わらせたかっただけの、いわゆる「残務処理」だったのでしょうが、限定盤とはいえきちんとした形でリリースされたのは嬉しいことです。


しかし、アルバム制作から7年後に発売されたこのアルバムは、文字通り「7年物」の音になっていました。

7年の間にロック・シーンは大きく様変わりし、このアルバムの持つエネルギーや勢いや雰囲気が失われていたのが残念でなりません。



オレがこのアルバムを初めて聴いたのは1989年の夏でした。

就職活動していたオレは、たまたま立ち寄った輸入レコード店でこのアルバムのブートを発見したのです。

初めて手にした海賊盤でした。


いまでもこのアルバムや「ラヴセクシー」を聴くと、いろんなことがあっていろんな思いに揺れ動いていた大学時代の暑い夏を思い出すのです。







ボブ・ジョージ




ほらオレにダンスを見せてみな

新しいコートか?

ナイスじゃねえか 買ったのか?

そうか あのクソ野郎にまた会ってたんだってな

アイツのことよ あのずる賢い金歯だらけのヤツよ

バカ言ってんじゃねえよ

オレにおととい来やがれなんて言ったら

オマエのケツを来週半ばまで蹴り倒してやるぜ

悪かったよ ベイビー

そういうもんだろ?


ここの家賃だってオレが出してやってんのに

食い物と光熱費にも金がかかるばっかりだ

言うことあんのか?

TVディナーなんか食えないって言う割には

アレを食うのは好きだもんな

ダイヤの指輪は誰に買ってもらったんだ?

そうだよな

で、いつから働きはじめたんだっけ?

あの金持ちブタとまた会ってんだろ?

そいつの名前は何てぇんだ?

ボブ?ボブだってよ たまんねえな

そいつの仕事は何だよ?

ロックスターのマネージャー?

誰の?プリンスだって?

あのカン高い声のクソ野郎の痩せっぽちだろ?

頼むよ オレっておととい来やがれってカオしてるんか?

オマエを殺そうと思えば今すぐにでも殺せるんだぜ

大当たり 銃を持ってるんだ

嘘だって?

じゃあコレが見えないのか?

静かになったな

小さいが音はデカいぜ

よし スーツケースを降ろしてそっちへ行って

オレが買ってやった新しいカツラをつけてみな

違う違う その赤茶のほうだよ

ボブか たまんねえよな

わかったわかった


ヘイ、ボブ このレコードを聞いてるんなら踊ってみせな

オマエがファンキーなヤツだってきいたからよ ほらほら

サイテーだぜ ボブの野郎


「手を上げて出て来い」

ブッ飛ばしてやる

「最後通告だ」

オレが撃たないと思ってるのか?

参ったな

とりあえずここから出よう


ミスター・ジョージはご在宅で?

あ ジョージさん?ご案内のオレだよ

あちこち女に手ェ出してんじゃねえよ

何やってんだよ?

踊ってるだけじゃ気が済まねぇのか?

踊ってるだけじゃよ?

違う 違うよ オマエの話をしたいんだよ

オレを誰だと思ってるんだよ

痛い目に会いたいのか?二度も?

ボブ そこにいるなら踊ってもらおうじゃないの

オマエがファンキーなヤツだってきいてるぜ ホレ


BOBって名前は上から読んでも下から読んでもクソとも言えねえ

もうおしまい?


ボブ サイテーのヤツ