ラヴセクシー / プリンス | A DAY IN THE LIFE WITH MUSIC

ラヴセクシー / プリンス

LOVESEXY / PRINCE


lovesexy


①EYE NO  アイ・ノウ

②ALPHABET ST.  アルファベット・ストリート

③GLAM SLAM  グラム・スラム

④ANNA STESIA  アナ・ステシア

⑤DANCE ON  ダンス・オン

⑥LOVESEXY  ラヴセクシー

⑦WHEN 2 R IN LOVE  ホエン・トゥ・アー・イン・ラヴ

⑧I WISH U HEAVEN  アイ・ウィッシュ・ユー・ヘヴン

⑨POSITIVITY  ポジティヴィティ



本日紹介するのは、1988年のプリンスのアルバム「ラヴセクシー」です。


80年代、プリンスが神だった時代の、文字通り神の領域へ到達した傑作アルバムです。

80年代のプリンスの快進撃を締め括るに相応しい超名盤です。


見てください、この神々しくもキモいヌードジャケットを!

もう完全に突き抜けちゃってますよ。

上記の写真ではわかりにくいですが、プリンスは十字架を胸に下げています。

そして、百合の花の中心から突き出した雄しべは、言うまでもなく男性器のイメージです。


しかもCDでは全9曲が1トラックになっており、選曲出来ません。

曲をスキップしたり、ランダムに聴く、ということをプリンスは拒絶しているワケです。


こうした反商業的な所作に、プリンスのアーティスト・エゴが感じられます。



80年代のプリンスは、音楽的評価はさておき、一般的なイメージは、ムチャクチャ好きか、絶対に好きになれないか、のどちらかでした。

当時の音楽雑誌などでの好きなアーティスト・嫌いなアーティスト、というランキングではその両方で1位だったのです。


このアルバムはまさにそうしたリスナーにとっての「踏み絵」です。

つまり、受け入れるかそうでないかのどちらかを選べ、ということなのです。



アルバムの内容は極めて宗教的で、神聖であり、かつ官能的です。

「ニュー・パワー・ジェネレーション」

「ラヴセクシー」

「スプーキー・エレクトリック」

といったキーワードがあちこちに散りばめられ、「神」や「天国」といった単語もかつてないほどの頻度で登場しています。


「ラヴセクシー」とは、プリンスの造語で、

「男でも女でもなく、天の神を愛した時の気持ち」

だそうです。



オープニングの①は静かに始まります。

「雨は湿っていて、砂糖は甘い。手を叩いて、足を踏み鳴らして。愛に呼ばれたら行かなくちゃ。」

という囁きから、タイトなファンク・サウンドへ突入します。

このマザー・グースのようなフレーズは、タイトル曲⑥の歌詞の一節です。

ドラッグや飲酒や銃を使うことに対してノーと言おう、と忠告します。


ざわざわした話し声の後、②に続きます。

このアルバムからのファースト・シングルです。

何やらセックスを謳歌するような内容ですが、ファンキーなビートとチャカチャカしたギターが印象的な独特のグルーヴを持った名曲です。


③はとてもポップでちょっぴりサイケなイメージの曲です。

個人的にはこの曲が大好きです。

肉体的な歓びを超越した快感を歌っています。


④はこのアルバムのハイライトのひとつです。

タイトルは女性の名前ですが、その女性に対する愛を歌っているのではなく、神への愛の告白が荘厳に歌われています。

「アナ・ステシア」自体がその神の具現的存在であるかも知れません。


ロシアのロマノフ王朝時代の皇帝の皇女アナスタシアと響きが似てます。

家族と一緒にボルシェビキに殺された、とされるアナスタシアですが、後にアナスタシアと名乗る女性が登場したことから、アナスタシアは生存しているという伝説が生まれました。

「アナスタシア」とは「復活した女」という意味だそうです。


イントロは静かなピアノで始まり、詩の内容が昂ぶるにつれて曲も盛り上がってきます。


Love is God God is love. Girls and boys loves God above.

(愛は神、神は愛、男の子も女の子も天の神を愛しているのです)

詩の内容もさることながら、このフレーズの韻が大好きです。


⑤は現実社会を描写しています。

「核兵器禁止令なんて合意をみるわけがない 歌詞はみんなが知ってても音楽はダメに決まってる」

などと歌われます。

複雑で性急なリズムが切迫した現実を表しているかのようです。


⑥のタイトルの意味は上述したとおりですが、こうした言葉を作って曲にして、更にはアルバム・タイトルにしてしまうあたり、この当時のプリンスは冴えまくっていたというか、ぶっ飛んでいたというか、凄いです。

派手でファンキーで、いろんなアイデアが詰め込まれています。

タイトル曲としてはイメージが弱いような気がしますが、このアルバムにおいてはそんなことは全くどうでもいい瑣末なことです。

むしろこの曲以降~アルバム・ラストまでの流れが秀逸です。


⑦は名バラードです。

味わいのある美しいメロディが、美しいファルセットで歌われます。

愛し合う2人にはタブーは何もない、という内容です。

「君の川が海になるまで」

「舌が彼女のLOVEのVの中をまさぐる」

「落ち葉がスローモーションの雨のように見える」

など、詩的で官能的な表現が白眉です。


⑧は、爽やかで清清しい名曲です。

精神的な高みに達したプリンスが、自己耽溺を抑えて淡々と歌います。

「君に愛を 君に天国を」

と、宗教的な内容ながらも優しさに満ち溢れています。


⑨はミドル・テンポのファンク・ナンバーで、このアルバムを覆っている宗教的イメージはないものの、直接的で精神的なメッセージを歌っています。

奇妙でエキゾティックな印象は、精神世界を体現しているかのようです。

「スプーキー・エレクトリック」という心の中のダークサイドの誘惑に抵抗していかなければ、と歌います。


「獣(けだもの)にキスするな、君の精神(ソウル)を曲げちゃいけない」

「僕らの行く道はとても長い」

という歌詞でこの曲は締めくくられます。


そして水の流れる音と、幻想的なキーボードのアウトロが重なってこのアルバムは終わります。





「ラヴセクシー」が発売される前年の87年の12月、プリンスはアーティスト名義もタイトルもない真っ黒なジャケットのアルバム、通称「ブラック・アルバム」 をリリースをしようとしますが、プリンスはなぜかこのアルバムをリリース直前で急遽発売を中止します。

その後、出来上がったのがこの「ラヴセクシー」です。



80年代におけるプリンスの音楽的快進撃は、このアルバムで終焉を迎えます。

当時リアルタイムでプリンスを聴きまくっていたオレは、このまま突っ走ってほしいと思う反面、プリンスは燃え尽きてしまうのではないか、という危惧を抱いてました。



現在では、集団で芸能していくヒップ・ホップ、異なるジャンルのアーティストとのコラボレーション、ラッパーをフィーチャーしたR&Bなどで音楽のスタイルも幅が広がっていますが、80年代のプリンスはそうした音楽的革新を驚異的なペースで、驚異的なハイレベルで、しかもそれらをたった一人でやっていたのです。







アイ・ウィッシュ・ユー・ヘヴン




僕らの確信に対する疑いの気持ちは

どこへ行ってもついてまわる

そして世界中の思いやりが消えてしまったとしても

まだ僕は知っている

君が触れてくれるたび

君に深く感謝するよ

君がキスしてくれるたびに僕は思う


君に愛を 君に天国を

君に幸福の場所を