レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -542ページ目

成穂堂参上

門をくぐるとなだらかなスロープが続いてた。

僕は大きく育った庭木を見ながら、

奥まった所にある玄関ドアまで、ゆっくり歩いた。

マホガニー製であろう重厚なドアの前には、

いかにも上品な奥様がお待ちになっていた。

僕は会釈をし、「お電話を頂きました成穗堂です」と、

数分前インターホンで言った事と同じ事を言った。

奥様が「どうぞ」と言って、ドアを開けて下さった。



ドアの内側には、予想を超える大きな空間が広がっていた。

奥様は「お待ちしておりました。この場所で事件はおきたのです。探偵さん」

と、困ったような仕草をみせた。

「ん~、なるほど~。私にお任せ下さい」


実は僕にはもう一つの顔がある。





なんていうような事はない。

ちょっと書いてみたかった。

本の引き取りに伺ったのだ。

ここは、店からそう離れていないお屋敷町。

このあたりから、本の買い取り依頼がある度に、

僕はドギマギする。

ヨレヨレのジーンズに軍手では

門前払いされるのではなかろうか、と思ったりする。

やはり、上質なスーツに革製の手袋などをして

行かないといけないような気がする。


玄関ホールには、大量の本が置かれていた。

本の量もさることながら、その内容に僕は考え込んだ。

殆どが専門書なのだ。

医学書が中心で、一般向きの本もその内容は

精神医学につながるものが殆どだった。

別の箱に建築関係書と文庫が200冊程度。

それとペーパーパックが数百冊。

新刊屋時代に洋書も扱っていたが、

品揃えは問屋任せだった。

凡そ、その合計1,000冊。


僕は「んん~」と唸って腕組みをした。

奥様がニコッと笑って

「どうしようもないですか?廃品回収行きでしょうか?」と。

僕は「いえ、決してそんな事はないのですが」と言って、また腕組みをした。

ちょっと算段がつきかねる。

それを察して奥様が

「生かせる本なら、生かせて頂ければそれで結構なのです。

よければお持ち帰り頂けますか?」

結局、気持ちだけの代金を置いて、

持ち帰らせて頂くことになった。



車に、本を積み込みながら、ふと思った。

町にただ一軒残った古本屋が、

どうにかこうにか生き残っているのも

こういった、本を大切にしていこうとする人たちの

ご厚意による所が大きい。

しっかりやっていかなくちゃ・・・


しかし、あの玄関ホール、僕の部屋よりでかいよなあ。

それはそれで腕組みをして、唸ってしまう。

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