レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -427ページ目

間に合うかも知れない

腕組みをして、「これでいいんだ」と僕は呟いた。

ショーケースに置いていたシングルカードというものを撤去し、

プレミア品といわれる本を並べ、愛嬌で'50~'60年代のLPレコードを並べた。

殆どがR&Bのそのジャケットは全て壁に飾りたいほどいい味を出している。

店の様相がガラッと変わってきた。


商売をしているといつも順風満帆という訳にはいかない。

このご時世、サラリーマンの方も似たり寄ったりかも知れない。

思い返すに、僕は気がつくと店を持っていたという感じで、

何かこうメリハリがあるような独立ではなかった。

驚くほど計画性がないのだ。

取りあえず、気が付いた事から手をつける。

後は野となれ山となれという風だ。

そんな事でよくぞ今日までやって来られたものだと思うが、

それは、そんな僕を見るに見かねて

何人もの方が手を差し伸べてくれたからだ。

信じられないことが幾度も起こった。

話した所で、信じてもらえるような事ではない。

そんな事は小説の中でしか起こらないだろうって・・・

そういう意味では、僕は世の中の奇跡というものを信じている。

起こりうるから奇跡というのだ。

そしてそれは偶然になど起こらない。

とことん苦しんで、もうどうにもならないと腹を括り、

それでも血が滲むほど唇を噛み締めて動き出したとき、

それは、唐突にやってくる。

決して神掛かったものではない。



兎も角、以前にも書いたように僕は店のあり方を、

何度も何度も考え直して一つの決心をした。

どうして目に見えて斜陽化していく本屋に拘るのかと言われても

商売としてみた場合、論理的な回答はできない。

ただ、世の中にはなくなってはいけないモノがあるのだ。

本屋もその一つだと思う。



膨大な量の本が世にあるが、僕が持っている知識は砂漠の一粒の砂にも満たない。

でも、コツコツと色々な仕組みを作っていっている。



「アルケミストにでもなろうと言うのかい?」

僕の中で寝そべった黒づくめの僕が皮肉っぽく言う。

僕はフッと笑った。そして、

「まだ間に合うさ」砂埃のついたジーンスを払いながら僕は言った。


まにあうかもしれない