レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -336ページ目

カクレという不思議な場所

師匠から手伝いに来いとの連絡。

むかった先は通称「カクレ」と呼ばれる一角だった。

道順を聞いても、そんな所に道路は通っていない気がした。

「Kenさんの店からやったら、310号線を南に下るねんな。

○○の交差点を越えると大きな左カーブがあるやろ」

「坂道の取っ掛かりの所ですよね」

「そうそう、その交差点を越えて直ぐ右側に細い道路があるねん」

「そんな所に脇道、ありましたかね?」

「それが、あるねん。目印になるものがないので、説明しにくいんや」

「まあ、兎も角向かいますわ」

と、いう事で僕は「カクレ」目指して車を走らせた。

が、見事に迷ってしまった。

適当に車を止めて、地元の人らしき年配の方に道を訊ねたが、

「カクレ」なんていう場所は知らないと言う。

住所を見せると、どうも僕は見当違いの所にいるらしいという事だけは分かった。

師匠に電話を入れ、現在地を言うと、

「わりと近いけど、筋が違うわ。

○○の交差点まで戻って、もう一度よーく右手を見てみ」と。

今度は注意深く言われた道路を探した。

これか?

その脇道というのは、急なカーブを描きながらの上り坂になっていた。

ふとした目には袋小路の路地にしか見えない。

地元の人にもあまり知られていない一角。

道路は何か獣道をちょっと広げてみましたと、いう感じだ。

自動車一台がやっと通れるその坂道を少し入ると、風景が一変した。

因みにこんな細い道路なのに、一通ではない。

対向車が来たら、道路から少しへこんでいる田んぼの畔にでも車を寄せるしかない。

下手をすると田んぼに落っこちるよなあと思いながら、車を進めた。

しかし、民家は並んでいるのだが、人の気配がない。

再度、師匠に電話を入れると、

「その坂道を上がっていくと、大きな池があるからその池に沿って進んでおいで。

その先の竹林の手前に建っている家に来てほしいねん。

わしの車が止まっているから分かるわ」

本当にこの道であっているのか?ざわざわとした不安が走る。

僕は妙な空間に引きずり込まれたのではなかろうか?



数十メートル東側には堺の中心部と河内長野を結ぶ道路を

ひっきりなしに車が通っている・・・はずだ。

それにひきかえ、妙に懐かしい空気と静寂が、ここら一帯を包んでいる。

子供の頃、探検ごっこをしていて、意を決して踏み込んだ野原のようだ。

その野原はレンガ塀で囲まれた向こう側にあり、

何故かカッパが住むと言われていた。

そこはやはり、まわりとは速さの違う時計が時を刻んでいた。




やがて師匠の言っていた池があり、

その先には見慣れた師匠の車が止まっていた。

僕は「師匠、師匠は本物ですよね」と、聞きたい気持ちを押し殺した。

それを察したのか「不思議な場所やろ。ここは飛び地でな、地図を見ても分からんかも知れん」

と、師匠が笑いながら言った。

「人の気配がしませんね」と、僕は言った。

「ハハハ、ここは平家落武者の隠れ里やったんや。

人はちゃんと住んでる」

それで、「隠れ」と言うのか。

「さあ、Kenさんは本を運び出してや」と、師匠。

車の荷室を開けると同時に、

うるさいほどの蛙の鳴き声が聞こえだした。

どの土地でもこのような、時がとまったような場所があるのだろう。



「カクレ」での時間。

あれは現実だったのだろうか?

持ち帰った段ボール箱を開けると、

木の葉がぎっしり詰まっていたりしないだろうか?

何とも白日夢をみたような気分だ。