レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -334ページ目

命懸けでコトに当たれ!

食事中に石でも噛んだかのような衝撃が奥歯に走った。

舌をもごもごしてみると、何だか塊がある。

取り出して見ると、奥歯の冠だった。

この春先に3本も虫歯を治して貰ったばかりなのに、また歯医者通いだ。

歯医者恐怖症の僕だったが、

余りに歯医者通いが増えてしまい、

最近はもうどうでもよくなってきている。

人間、慣れとは恐いものだ。


行きつけの歯科クリニックに電話を入れると、

「こんにちは、○○クリニックです」と、愛想のよい声がした。

「こんにちは、Kenです」と、言うと

「あっ!こんにちは」と。

その「あっ!」は何?・・・

一応、外れた冠を持って来て下さい、と言うので

丁寧に小袋に入れて歯科クリニックに行った。

診療台に座ると、先生がにっと笑って「はい、背もたれを倒しますよ」と。

僕が口を開こうとすると

「分かってますって。痛くすると、倍返しだ、と言うのでしょ。古いって」

歯の様子を見ていた先生が「えっ?」と、言った。

「んがっ?」

「Kenさん、この歯、治療途中で冠を被せてありますぜ」

「んがっ、どういうこと?」

「ほらこれ綿が詰まってましたよ」

と、取り出した綿を見せてくれた。

今のクリニックに通い出してかれこれ8年程だから

治療したのはそれ以前という事になる。


レントゲンを撮ってもらったが、

特に炎症を起こす事もなく、治療途中のままの状態だという事だった。

先生は「いやあ、びっくりですわ。よくどうもならなかった事ですな。

恐るべき免疫力です」と。

土台がわりに綿を詰めてあるなんて僕の方がビックリだ。



当時はアチコチの歯医者に行っていたので、

どの歯医者の仕業か分からない。

これは医療ミスどころか、殺意ある行為だと言われても仕方ないのではないか。



念のため、数回根っこの消毒に通って、

新たに冠を被せましょうという事になった。

診察台にだらしなく仰向けに寝ている僕に

助手のお嬢さんが

「先生は少しはずします。

ちょっと掛かりそうですが、このまま待ってて下さいね」

と言って、少し頭の位置を上げてくれた。

先生が他の患者さんと、何やら相談しているらしい。

何とはなしにぼぅ~としていると、強烈に眠くなってきた。

今まで気がつかなかったが、

歯医者の診療台というのは、意外に寝心地がよい。

と、思う間もなくうとうととしてしまった。

暫くして「Kenさん、起きて下さいよ」

と、言う先生の声でハッとした。

助手のお嬢さんがクスクス笑っている。

「歯医者の診療台で、正味寝たのは、

後にも先にもKenさんが初めてですよ」

と、先生は半ば呆れている。

「いやいや、緊張のあまり気絶したのかなあ」

「気絶した人間が、寝息をたてまっかいな」


実のところ、かなり寝不足が続いているので、

目を閉じれば場所をとわず眠気が襲ってくる。

それに抗うなど無駄な努力というものだ。



真面目な話になるが・・・



かつて、治療した歯の中から折れた針が出てきたという

信じられない事もあった。

このような治療という名の下、

悪劣ともいえる行為をしてしまえる人間というのは、

どのような道徳観を持って生きているのだろう?

僕たちは、その医者の人格を知らぬまま、

それでも医者は正しく誠意ある人と信じて身を任せるしかない。

僕は人命を預かるような大変な仕事をしている訳ではないが、

商売人である前に誠意を持った人であろうと思う。


正義を持った芯のある生き方をせよ!


・・・そう自分に言い聞かせる成穂堂店主であった。


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