レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -332ページ目

骨董品の流し売り

骨董品の流し売りという商売をご存じだろうか。

都心部にはあまり現れない。

片田舎の小金持ちが住む地域を

軽トラでゆっくり流している。

荷台には骨董品らしきものを積んでいる。

この「らしきもの」というところがミソだ。

適当な場所を見つけては、車を止め人が通るのを待つ。

人がふと立ち止まると、気に入ったものがあれば、安くしますよと。

値札はつけていたり、つけていなかったり。

値段を聞くとびっくりするほど高い。

そして、かけ引きをしながら徐々に下げていくのだ。

未だにこのような古典的商法があることに驚く。

(業者すべてがそうだとは言わないが)

この方々、どこで仕入れをするのかというと、

リサイクルショップや骨董品店で掘り出し物をみつけて仕入れる事もある。

廃品業者とつながっていることもある。

他にもルートがあるのだろう。


Aの競り市で仕入れたものをBの競り市に出品して

利ざやを稼ぐ業者もいるが、

またこういった業者とは違うようだ。


この流し業者が汗を拭き々うちの店にやって来た。

荷台の品物、全て買い取って欲しいと言う。

価格は○十万円でどうだろうかと。

僕は「いい品物なら買い取ってもよい」と、言った。

業者は小躍りして品物を見せてくれた。

実際に見ると、どう甘めに見積もっても

○十万円も出せるような代物ではない。

「お宅さんの言い値の2割なら買いますわ」と、僕は言った。

「そんなアホでけへん。半値なら考えてもよろしいで。

これなんかいい品物でっせ。○万円はしますで」

「それは鋳型にはめ込んだだけの量産品ですがな」

「ほなこれなんかどうでっか。縁起物でっせ。○円でよろしいわ」

「縁起物なら大切に持っておきなはれ」と、僕は言った。

どうやら煮ても焼いても食えん業者のようだ。

「正味の骨董品を持ってきはったら話しを聞きますわ。

ほんじゃ忙しいので」と、僕は店に戻りかけた。

業者はまだ帰らない。

「ちょっと店の中、見せてもろうてもよろしいでっか?」と。

売るのが難しいとなると、買い手に転じる。

「ご自由に」

業者は暫く店内をうろつき、

「この花台、半値になりまへんか?」と、自然木で作った品物を手に取った。

「他店ならこの培はしますで」

「無理でっか。ほなこれは?」

「端数なら取りますわ」

「どのみち、安う買い叩いているんでっしゃろ。負けときなはれ」

「うちの店はね、買取値の説明をして納得しはったら買取ますねん」

「負かりまへんか」

僕は、にっこり頷いた。


と、帰りかけた所で、業者は着物を見つけた。

その中から一品を取り出し、「これいくら?」と。

「それはいい織物ですわ。値札ついてるでしょ」

「○円でどうですか?」

「端切れとちゃいますからね」

「これ中古でっしゃろ」

「どう見ても新品でしょ」

「クリーニングしてあるんでっしゃろ」

「無理して買う事ないと思いまっせ」

「もうちょっと負かりまへん?」

「その値で、気に入った方に買って頂いたら、それでええんですわ」

「無理でっか」

業者はまだ諦めない。

「それね、しじら織いいますねん」と、僕は言った。

「しじら織?」

「あれっ、知りませんの?」

「そんなええものでっか?」

「勿論。高価なものやないけどええ買い物ですわ」

「いい色合いやし。確かによさげなものやね」

「よさげではなく、いいものなんですわ」

「そうでっか。これ、買いますわ」

業者は代金を払いながら

「お宅さん、辛いでんな。勝てまへんわ」と、言って笑った。

「また、お越し」と、僕は言った。

「ミイラ取りがミイラになるとはこの事や」

業者はそう言い残して帰って言った。



後で家内が「しじら織って、知ってたの?」

「先日、偶然調べた所やねん」

「そんな事やろと思ったわ。ようあんなにくそまじめな顔で言えるわ」

「タヌキ相手に、道理は通じん」僕は笑った。



流しが悪いとは言わない。

問題は商売に対する姿勢だ。それはその人の生き方そのもだと思う。

少なくとも僕は裏表なくお客と接していきたい。


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