レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -279ページ目

母を想う

体調不良、容態急変、心肺停止、蘇生と思いもよらぬ経験をした母。

その後、何度かの山があったが、

ある時点から、担当医も驚くほどの回復力をみせはじめた。

手術の検討がいるという事だった心臓の弁も

投薬で大丈夫だという所まで治癒しているらしい。

僕は体の回復とは別に、痴呆が進まないか心配だった。

しかし、それも治ってしまったかと思うくらい話はしっかりしている。

そんな事で、先日退院となったが、

行き先は自宅ではなく、やはりグループホームである。

母の願いは届かず、天に召されるまでグループホームで暮らす母。

グループホームに戻ってきて、母はぽつりといった。

「助からなくてもよかったと思う」

誰しも自宅で思うままに暮らしたいだろう。

帰り際に淋しげに手を振る母。

僕は、何度も何度も、ごめんな、と呟く。

病というものは、細々とでも平穏に暮らしたいという、

そんなささやかな願いでさえ奪いとってしまう。

こんな事を書くと、心ない人間と思われるだろうが、

それを悟ったとき、人は死を願うのかも知れない。



今の母に何がしてあげられるのだろう?

どうすれば、生きる希望を見いだせるのだろう?

どうすれば、母の笑顔がみられるのだろう?

僕が母の立場になった時、どうしてほしいだろう?



母よ、僕はまだ何一つ親孝行をしていない。

もう少し、元気でいてくれないか。

輪の中をぐるぐる走るハムスターのように、

同じことを繰り返し考えている。

そこには母の願いを叶えてあげられない僕がいる。