ん?なんだというのが1話目の感想。イトウ、キャベツやら人参やらはどうやら隠語のよう。そして大阪弁を第二外国語という主人公の外人は、ここ、あいりん地区に潜り込んでるらしい。設定に馴染む前に一つのエピソード終了だな。途中で読むのやめようかなとも。すえた匂いもただよってくるかのようだったし。その後は外人主人公さんとキャリア公安警察官に幸恵ちゃんによるスパイになるための実地研修に。ここからが本番なんだな。世界観がどんどん見えていく。日本の各省庁ごとにスパイ部門があるというのは、ほんと、そうかもしれないけど、その発想すげえ。しかも仲が基本悪いみたいだし。主人公のスパイさんも、何故スパイなのかも語られる。自分から率先してスパイになる人いないって。これも納得。ページが進むにつれて、この二人の絡みが流ちょうになってくのがいい。幸恵ちゃんの、アウトローアウトローというつぶやきとともに理不尽をむりくり納得してくのがなにげに好きかも。スパイの世界の暗さややるせなさもにじみでてるよな。おもしろかった。
父親の死後、ほぼ引きこもり状態の若い女性、来夏さんと中古カメラ屋さんでコミュ障ぎみの若い店主、今宮くんの物語。来夏さんね、そのまんまの名前だな。ミステリ気味の短編が、それぞれ象徴となるカメラとともに語られる。教育ママに大切なカメラを処分された小学生やら、首に110カメラをぶらさげた猫を保護するNPOの おばさん、小さな孫のプライバシーをネットにさらしちゃうじいさん、ステレオ写真かと思ったら、左右の写真が微妙にちがったり。1話目、どこかで読んだ感じだなと思ったら、ガンスミス書いた人か。納得。銃がカメラになったんだ。でも、こちらのほうがミステリ部分が洗練されてるよ。プライバシー気にしない爺さんに、やめさせる今宮くんがとった方法が、危ないロリコン風の書き込みというのはお見事。そのあと、からかわれる展開まで。全体的にほっこりでカメラのシャッター音がきこえてくるかのよう。いいじゃないか。そして最後には、えっというどんでん返しも準備されてる。よし、続編読もう。来夏さん、今宮くんの店で引き続き働くらしいし。おもしろかった
表紙の絵が餓狼伝みたいに迫力ある。ゴツくてでかそうな主人公かな。そうだった。九十九乱蔵と相棒の猫又シャモン。乱蔵は当然人外的に強い。仙人の能力みたいのもあるし、色々と説明あったけど、まあ、オールマイティに強いわけで。なので読んでてもかなり安心。ヤクザやら、強い呪やら、でかい猿の妖怪やら、超凄腕の用心棒兼殺し屋やらがでてきても、ああ、やっつけるんだなあと。こうなると小説というよりも漫画的だな。そう、この作家の小説ってシンプルなんだよ。出てくる女性はみんな細い美人さんだし、政治家は悪いやつだし、ヤクザは結構馬鹿だし。単純万歳。なので、お気軽に読める。そして、短編。6話くらいで構成されてる。さすが1話目は強烈だったな。非道な事業家親娘を襲う呪い。助けを求めてきた親娘がいかにひどいやつだったことか。これは続き読みましょう。おもしろかった。
これはエッセイだな。この作家さん、テレビやラジオにも出てる人らしい。なにかの評論家なのかしら。歳の離れた友人のTさんとなにやら語り合い、ふたりでランニングし、その後瞑想し、外食する。ふたりともなかなかのこだわりかつ物言いや内容が哲学ってて、よくわからん部分も多いなあ。でも、食に関するところは大丈夫。食事をコミュニケーションの場とはしない。食べることに集中する。なぜなら、食べることが大好きだからという姿勢、すごくわかる。一緒に食べてる人に、うまいねえというくらいなら良いかもしれないけど。よくある、みんなで食べたほうが美味しいでしょという定説を思いっきりひっくり返してる。たしかにみんなでってのは、ちと道徳的な観点だよな。そこまで食が好きという根底に高校時代、寮での三食が食べれないくらいまずかったのが理由だって。それにびっくり。食べ盛りの高校生なら、多少のまずさなんて気にしないはず。白いご飯と塩だけありゃ、なんとかなりそうなもん。とすると、ご飯もだめなのか。うぬぬ、そこまでまずいとは一体どういうものか逆に心惹かれる。
醤油をつけなくてもうまい寿司ネタを回転寿司で選び食すというエピソードがある。あ、これやってみたいぞ。楽しみました。
1970年代のイランが舞台。ホメイニ氏が海外に亡命してる状況。主人公はリュウ。大学時代にルツという同級生に一目惚れし、つきあうも突然彼女はいなくなる。それっきり女性と付き合うことなく、就職。そしてイランが舞台のプロジェクトに抜擢され赴任していく。仕事は順調でイランの人たちとも理解しあう仲になりやりがいを感じてるところでいきなりの革命。情勢は日ごとに悪くなり 命の危険が迫るというストーリー。なるほど、イランって、旧制復古って感じだったんだな。見方によっては先進国による半植民地みたい。そんな中での日本のとあるメーカーの仕事ぶり。素晴らしいなあ。あくまで謙虚に。実際もそうだったのかしら。今のイランとの関係を思うと、きっとそうだと思いたい。そして、昭和高度経済成長期のモーレツ社員たちの働きぶり、いいな。やる気が漲ってて、すかした感じがまったくない。熱いねえ。
イランの日常、美しさ、暑さ、歴史、中東の人の考え方などがすっと入ってくる、よい小説だった。おもしろかった。
4作目。今回は雪女がテーマ。有能調査員で秘書の万場さんが勉強会で、とある凍死死体の耳の下あたり並ぶ3つの痣に気づく。なんか見覚えが。あ、前も他の凍死体の写真で見た覚えが。これは変だ、他にもあるかもってんでチームみんなでデータベースにアクセス。みつからなかったけど、郡山で女性の凍死死体。こちらは痣はないけど、幽霊の目撃譚が残る。一体なんなんだと東北を中心に調査開始。仙台に郡山、そして秋田。おー、今回はバラバラのピースがだんだん引っ付いていく感じがよいねえ。立派な刑事ものだよ。それでいて、最後まで痣はなんなのかわからない。凍えると熱くなって裸になるってな天久鷹央にもでてきた医療症状もでてきたりと、一級のミステリにしあがってるじゃないか。それでいて、最後まで怪異を匂わせてるのもよいねえ。最後、被害者予備軍、犯人、捜査官たちが川反の居酒屋の個室で酒のんでおでん食べてるのが、ほっとするというか、この物語、シリーズで不幸だった人たちへの贈り物に見える。こういうのはミステリにはあんまりないから新鮮だし、好きだな。勇くんの、唯一記憶に残る肉親、父親の記憶が実は父親じゃなかったことのやるせない感情、震えたなあ。それを支える清花さんにも泣けたな。おもしろかった。
前作はあんまり覚えてなかったけど、少しづつ思い出させてくれるような書き方。にしても、オープニングのすさまじいこと。子猫への虐待をする動画配信者へ行われる成敗。森くまの復活だ。これはきつい。子猫にしていることがつらい。転校してきた女子高生。実は兄が前作で森くまに殺された妹。彼女の部活の顧問が森くまに殺される。それともう一つのエピソード。婚約した女性が強姦魔に襲われる。2つのエピソードは触れることなくクライマックスに。時間差エピソードかあ。凝ってるね。ネットの掲示板、ひどいなあ。前作もそうだったけど、殺人鬼を英雄にしたて、そして、被害者をけなす、あるいはひとりの人間をバッシングする。卑劣。こればかりは事実だよな。そりゃあ一部の人間だけだけど、道徳心の欠如の汚らしさこそ、この小説最大のインパクトだった。おもしろかった。
二作目。今回は甥のために大学病院を辞したときに、見限られた教授の父親の難手術をするというのがメインストーリー。その間に、ブラックジャックとは違う、医学とは、命とは、死に方とはということに、時には体験させ、時には哲学的物言いで、作者の持論が展開されていく。それも常に人の暖かい心にふれるような感じで。もう、この本に出てくる人、みんな大好きだ。
「君はここまで来るために、何人の患者を死なせてきた?」
「本当に大切なことはなくなる瞬間に手を握って別れの声をかけてやることではない」そしていつものようにお店でナポリタンをつくっている方がきっと安心する。
「人を救うのは、医療ではない。人なんだ。」治らない病気をかかえた人だって医者は救わなければいけない。ということ。
時々はじっくり考えたいこと。そして、医者じゃない人だって考えなければいけないことだよな。
医者は一人前になるまでに、たくさんの患者の命と、費用がかかっている。それらのコストを考えたとき、果たしてワークライフバランスなんて言ってられるのか。医者ってのは、大変だよな。稼いでも使い道ないだろうになんて、いつも思う。尊敬すべき人だよなあ。ああ、おもしろかった。華道の家元のばあちゃんからの、死後のお礼のお菓子、泣けたなあ。
3作目。レストランチェーン・シリウスの社員さん、今回は製菓工場で働くかなめちゃんが主人公。もともと製菓部門は別会社だったけど、業績が落ち込んだところで買収。そこに一人異動させられたので、完全なるアゥエー状態。モチベーションも枯れ果てて状態からの、大復活劇。そしてかなめしゃん以上に、製菓部長で元の別会社の社長さんのそれだった。うまくできすぎだよなあと思いつつも、クライマックスにかけては、どうかこうあってほしいという俺の要望と同じ。あー、うれしいなあ。海外を渡り歩き修行してきた部長さんの菓子、どんなものかもっと知りたかったな。いやあ、見事なお仕事小説。そして常夜灯だよ、今回もおにぎりと味噌汁の朝サービスシーンあってよかった。料理はあいかわらず、いまひとつ想像がつかないのが残念だけど、それでもスープの描写はよいなあ。どのスープもほんと、飲みたくなーる。にしても、最古参のパートのおばさん、しゃきっとせい!って、元社長に激をとばしちまうのが、かっこよいし、それを真摯に受け止める元社長さんも素敵だった。おもしろかった。
事故物件なとあるアパート、202号室。周りの部屋の住人から訴えがでるも、その部屋の男は何も感じないという。そういうこともあるかもな。部屋の調査に妙に乗り気。と思ったら澪ちゃんたちが設置した動画を勝手に見て、幽霊画像ゲット。そして動画サイトに投稿してバズる。なるほどねえ、今風だな。これで金が入ってくると思うと、家賃はやすいし、稼げるしだな。でも霊を冒涜するようなセリフにメンバーブチギレ。かつ、この男、ネットでの誹謗中傷で女性を一人死に追いやってたクソ野郎。最後は別の霊に祟られると。なかなかきれいな展開だった。もう一本がメインかな。伊原がもってきた案件でホステスさんの実家の調査。謎の呪集団みたいのが見え隠れ。特徴的な壺やら皿。邪教的な。そしてどうやら次郎の祖父、つまりグループの会長もハマってるらしいというところで次巻。次の大きな話が動きだしたわけですな。でも、間があいちゃうから小話的な完結するやつのほうがいいんだけど。おもしろかった。