館山の老舗旅館のお嬢さんが若者らしい無鉄砲さで失恋を機に声優になろうとして見合いの日に家出して東京にいく。そこで働くも結局歳が10以上離れた、声優の道を築かせてくれた男性と世帯をもつことに。彼は素晴らしい理髪鋏をつくる小さな会社の社長。彼と職人の義父と、二人の子供との半生を描いた小説。なんといっても主人公の朝子さんと義父がだんだん仲良くというか、こころが通じていく様がよいなあ。朝子さんの、看護師長の叔母さんカッコいいなあ。小児科の看護師長が産後の生活を手伝ってくれるって最高に安心だよな。そして、もちろんこの作家。食べ物がよい。偏食は義父さんを考えた献立だとか、戦後の銀座界隈の色の風景だとか。そして今回は天ぷらの記述。浅草のとあるお店。「口に入れた途端」、淡雪が溶けるようにホロホロと衣がとけ、食材と一体となった美味さが舌にひろがってゆく…」ああ、天ぷら食いたくなった。はい、おもしろかった。
やった!新作だということで本屋に。平積はされてないか。新刊コーナーに一冊だけあった。売れたら補充するんかな。今回は短編集。七篇が並ぶ。SFあったり、ミステリあったり、ホラーあったり、ハードボイルドあったり。そしてそれらが入り混じってたり。でもやっぱりホラーが光ってる感じ。家への帰途、足音が追ってくる。日毎、自宅に近づいてくる。あるいは、遺産で相続した廃洋館の実態とか。一方で、感動ものはなかったかな。この作家、そのへんもうまいのに。これまでの小説に比べるとちょっと物足りないか。いずれも最近の作品ではない。一番古いのは小学生ハードボイルドなやつ。でもジェノサイド以降の作品もあるんだな。どれもクオリティは高いんだけど、やっぱ長編でじっくり壮大なストーリーを味わいたいのがこの作家ということでした。おもしろかった。
家族4人と父親の古くからの友人とその息子が、突然戦時下にタイムスリップする話。この人、超有名な脚本家だよな。でもなんか違和感。このエピソード、必要なの?とか、幼少の頃と大人の友人があまりに違いすぎる。普通、ここまで変わった理由のエピソードとかあるもんだけど。ごたまぜ感というか十分整理してないというか。時代背景はいい。現代は昭和50年代という、なかなか微妙なところ。自分的にはこの小説でいう現代だって懐かしいわけで。しかし、戦時下というのは、嫌だなあ。資格があるんだかないんだか、よくわからん輩がえばりだし、軍隊の精神論みたいので周りの人を萎縮させる。このあたりはすごいリアル感だったな。これが戦争を知ってるかどうかということか。ラスト、ひねってあった。猿の惑星か。楽しみました。1981年の小説だって。
1話目は中二の少女とブックカバー制作の先生が、親子についての悩みを共有し、仲良くなる話。2話目は仕事を辞め専業主婦をしている女性が夫のお使いで文具店を訪れる話。3話目は貧しい家庭環境にある少年と担任の先生の話。4話目は老舗和菓子店の老練な職人と、小学生のころの若旦那の話。5話目は飲食店チェーン会社の販促係の先輩と後輩の話。
度の話もよく泣くのです。読んでるこちらの前に、各キャラたちが。うん、いずれもしみじみいい話なんだよな。どれも、みんながんばれ応援歌って感じ。内容もそれぞれの話で取り上げられる文具も多彩。お、測量野帳がでてきた。なるほど、職人さんのメモ書きかあ。原稿用紙かあ。名前の入ったシールかあ。地下に活版印刷機があったり、お店も結構な規模だよな。硯さん一人で店やってるって大変だよな。どんくらい儲かるのやら。銀座のど真ん中でキャンプかあ。それも屋上で。今はもうできないだろうな。なんともいい気持ちになれる本だった。おもしろかった。
この作家、久しぶり。まあ政治の世界が舞台なので、お得意の社会派なのかもしれないけど、笑いを取りにきたか。現職なりたての総理大臣が突然、落ちこぼれ大学生の息子と中身が入れ替わってしまう。うわー、普通男女間かつ同年齢間というのがお約束なんだけど。答弁で漢字は読めないわ、入社試験で面接相手に一席ぶったりと、そりゃそうだよななんて納得しちゃうことばかり。でも流石なのは、そういった笑えるエピソードが実は政治家として本当に大切なことは何なのかを少しずつ思いだしていくプロセスになってること。同時に社会にはびこる問題が如何にたくさんあるかということ。うん、笑いながらも後半はがんばれ!って声援を送ってしまう。もう、与党野党入り乱れて、党首近辺が入れ替わり起こして、みんな、女性関係にだらしなくてとなんともひでえ。そうそう、野党の親玉はきれいな女子大生の娘と入れ替わり、娘は父の姿で総理大臣を糾弾してるって、なんか想像したくねー。おもしろかった。
今回は舞奈ちゃんが、みんな持ってった。いや、ほんといい子だな。明るく、真面目で、人を疑わず、素直に喜び、悲しむ。何と言っても自分に嘘つかないところかな。そんな舞奈ちゃんに周りがいつの間にやら感化されてる。もう、やったー!って感じ。4人乗りの初レースに始まり、千帆先輩との二人乗り。落水から始まり、最後は一人乗り決勝8位!2人乗り決勝4位、そして4人乗りは優勝でインターハイ出場!おお、すげえ。出場高校4つしかないけど、すげえ。家の近所の川がまるでサイクリングコースのようにカヌーを焦げる、学校からすぐの川でカヌーの練習ができるって、すごいよなあ。あ、でも実際は顧問の監視がない限り、生徒同士のみの練習は絶対だめみたいな感じなのではなんて、んなこと、どうでもいいか。シリーズ4冊の中で一番おもしろかった。
高校でも吹奏楽部に入った主人公颯太くん。高校入学は2020年4月。コロナ流行の行方が全く読めない、だんだん世間が不穏になっていく。中学からサックス。三人兄弟の長男。お母さんは楽器を続けてねという。お父さんは、自分と同じに北大に入るべく勉強しなさいという。でも、颯太くん、それらは愛と感じてるあたりが、ああ、いい子だな。吹奏楽の顧問はちがった。まるでだめ。確かに生徒たちはうまくなるだろうけど、とにかく貶す。貶める。怒ることによって自身を伝えるみたいな感じ。こんな教師をよく学校は放置してるな。現に学校辞める子だっているのに。こんなんで信頼関係って築けるものだろうか。絶対無理だと思うし、一番嫌いなタイプ。そして颯太くん、可哀想にうつ病になって学校にいけなくなる。でも彼の担任の先生、素晴らしい。彼にとっての選択肢を懸命に一緒に考えてくれる。よかった、こっちも鬱屈舌気持ちが解放されていくよ。厳しくも信頼関係をしっかり作り、そしてその上で生徒たちに成功体験を与えられるってのが最高だと思うよ。コロナの頃はどんなだったかの備忘録としても役割を果たしてるな。おもしろかった。
新書というのは珍しい。自身で著した「たういたえとも沈まず」というゴッホを主題にした作品をなぜそんな内容にしたのか、いや、そんな内容となったのかの説明本みたいな感じ。もちろん、その説明は主観のみでなく史実や、あるいは自身が発掘した事実も含まれる。そしてそうした史実が自らの発想にどのようにつながったのかの展開が、ああ、やっぱり作家なんだなあ、そこまで想像するのかあと、感心してしまう。いや、絶対に作家になんてなれんて。
ゴッホの本だから当然、たくさんの絵が出てくる。時には白黒の口絵もあるけど、さすがにそれじゃ、こちらの興味は満たされない。なので、都度都度、スマホで絵画を検索してみていく。なるほど、確かに日本の影響ってあるもんなんだな、今で言えば、初めて漫画を見たときを想像してみたら、なんとなく納得がいった。楽しみました。
朝はモーニング専門の喫茶店、昼はうどん屋、夜はスナック。店主は三女、次女、長女の順。仲いいのかなと思いきや、そんなことはない。次女の離婚問題があったり、長女は行方不明になったりと割合静かな雰囲気で淡々とそれでいて、ありえねーみたいなことが起こる物語。でも、一番力を入れて書いてるなと思ったのはそれぞれの店の食事について。絶品だあ。トーストだけ、うどんだけ、ご飯だけ。せいぜいジャムやらすだちやら漬物もちろっと書いてあるけど、この熱量すげえなあ。そうか、一流どころじゃない楽団だとレコードとかでないか。確かにみたことないな。クラシックでレコードやらCDやらがでること、今更ながら大変なことと認識したよ。結局三人は少し仲良くなって、また揃って、店をやるのが単純にうれしいねえ。というわけで続編もよまなければ。おもしろかった。
家事をやってもらっている身として、かなり突き刺さってきた。家事の大変さの自覚は自分にはあると思ってたけど。日々、子供や家族の面倒を見てと家事というのは、仕事の性格的には両極に位置するよ。この学校もどちらかといえば、家事を学ぶものなので、男性のサークル的でしかも、奥さんからの逃げ場にもなっているあたりが、ひねってあるな。いや、美味しそうだし、楽しそうだものなあ。家事を学んだら、今度は妻のやる家事の粗が見えてしまい、口にすることで険悪に、なんてエピソードはさすが、毒ありの一本って感じ。
ちょうどコロナのころなのか、濃厚接触者という言葉久々に見たし、家族みんなで陽性だとか、自宅療養のための支援物資という言葉がでてくる。なんか懐かしい。おもしろかった。