バタリアンズ・オブ・フィア/ブラインド・ガーディアン
本作「バタリアンズ・オブ・フィア」(1988年)は、ブラインド・ガーディアンのデビュー作である。1988年と言えば日本でも、いわゆるジャーマン・メタルがブームになっている最中であり、ドイツ出身のパワー&スピード・メタル、ツイン・ギター、2バス連打の疾走曲という音楽性を挙げると、どうしても流行の中でデビューしたバンドとの見方が出てしまう。が、果たしてそれは本当だろうか。
バンドは1985年に結成。多くのバンドがそうであるように、ブラインド・ガーディアンもまた初期の頃はメンバー交代やバンド名の変更を行いながら活動。そしてデモ・テープを制作し、それがレコード会社の目に留まってデビューという流れに。次作「フォロー・ザ・ブラインド」(1989年)でカイ・ハンセンがゲスト参加する辺りを見ると、どうしてもハロウィン的なものを連想するのは避けられない。
だが、ブラインド・ガーディアンの結成時期や影響を受けたアーティストの話を聞くと、決してハロウィンを目指したのではないようだ。これは双方のデビュー時期や順序が関係していると言え、ブラインド・ガーディアンが後にデビューしたから背負う事になったイメージと思える。ブラインド・ガーディアンは一連のジャーマン・メタルの型にはまったバンドでは無く、明確なオリジナリティに溢れたバンドであった事は、その後のキャリアが証明している。
作品を重ねる毎にオリジナリティは強くなり、後のアルバム「イマジネーションズ・フロム・ジ・アザー・サイド」(1995年)、「ナイト・アット・ジ・オペラ」(2002年)などは、その代表的な例と言えそうだ。2021年現在の楽曲は大作趣向が強い。
確かに初期の作品は疾走曲が多く、一聴するとジャーマン・メタルと呼ばれるサウンドそのものだ。しかし後の作品も踏まえて掘り下げて行くと、本作「バタリアンズ・オブ・フィア」もまた、ブラインド・ガーディアンとしてのサウンドが反映された内容であると気付く。その辺りも考慮して作品を改めて聴いて行きたい。本作は、ハンズィ・キアシュ(Vo,b)、アンドレ・オルブリッチ(g)、マーカス・ズィーペン(g)、トーメン・スタッシュ(ds)という編成で製作されている。
次作以降はジャケットに描かれている世界観がよりファンタジックに、より繊細になって行くが、本作のジャケットはまだ荒削りな印象を受ける。ただ、ファンタジックな世界観は既に宿っており、スウェーデンやフィンランドのバンドが描き出す世界観とは異なる、ドイツのバンドらしい色合いが感じられる。
本作は、優雅なワルツから移転して角の立ったギター・リフが切り込む「マジェスティ」によってスタート。楽曲は疾走パートを含みながらも様々な展開が設けられ、7分を超える構成はドラマ性に満ちている。改めて「ガーディアンズ・オブ・ザ・ブラインド」「トライアル・バイ・ジ・アーカン」「ウィザーズ・クラウン」といった楽曲を聴くと、興味深い事に気付く。
今でこそジャーマン・メタルという名称があり、こういったサウンドを形容するジャンルが確立されているが、80年代中期はまだそのような時代ではない。例えばハロウィンの楽曲が「デス・メタル」(1984年)という企画盤に収録されていたように、メロディック・スピード・メタルは当時からすれば、とてつもなくアグレッシヴな音だったのは間違いないはず。
本作で聴けるブラインド・ガーディアンの楽曲もまた、聴き方によってはスラッシュ・メタル的であり、80年代ドイツ産へヴィ・メタルらしい薫りに。「ラン・フォー・ザ・ナイト」「ザ・マーター」「バタリアンズ・オブ・フィア」と、アルバムはテンションを保ったまま疾走曲が続く。ラストにはインスト曲が2曲あり、「バイ・ザ・ゲイツ・オブ・モリア」「ガンターフズ・リバース」がそれだ。
本作「バタリアンズ・オブ・フィア」は、80年代の若き日のブラインド・ガーディアンらしく、疾走曲満載のエネルギーが漲る作品に。その勢いの中にも考え抜かれた曲構成と展開があり、単に速いだけではない楽曲の構成美を感じる。また「バイ・ザ・ゲイツ・オブ・モリア」のようにクラシックのフレーズを引用したパートもあり、メロディの美しさを追及していると思わせる部分が多い。
後にトーメンは、初期ブラインド・ガーディアンのようなサウンドを追求するために、バンドを脱退しサヴェージ・サーカスを結成する。この経緯を見ても判るように、ブラインド・ガーディアンの音楽性は時代によって姿を変えており、本作で聴けるサウンドは初期特有、この時代だからこその空気が宿った作品だ。
尚、本作は本編終了後にデモ音源をボーナス・トラックとして追加した再販版が2007年にリリースされている。最終的にアルバムに収録される事になった完成ヴァージョンと、デモ・ヴァージョンの楽曲を聴き比べてみるのも面白い。