第668回「殺人機械」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

殺人機械/ジューダス・プリースト

1978年7月にジューダス・プリーストは初来日公演を行っており、翌1979年2月には早くも2度目の日本公演を行っている。初来日の写真を見ると、ステージで歌うロブ・ハルフォード(Vo)はヒラヒラが付いた王子様風の衣装を着ているのが興味深い。そして2度目の日本公演は、ライヴ盤「イン・ジ・イースト」のジャケットで見られるレザー&スタッドというファッションだ。

 

ヘヴィ・メタルを代表するバンドのひとつであるジューダス・プリーストも、その音楽性やファッション、スタイルなどは、バンド活動を通して徐々に確立されて行った事が判る。特に1978年から1979年にかけては、以降のバンド・イメージの基盤となる要素が幾つも確立されたのは間違いない。

 

その時代に発表されたアルバムが本作「殺人機械」(1978年)だ。前作「ステンド・クラス」(1978年)の1曲目を飾った「エキサイター」はヘヴィ・メタルの幕開けを告げる名曲であったが、その方向性を取り入れながら、もっと総合的な意味でヘヴィ・メタルとしてのアルバムに仕上げたのが本作「殺人機械」のように思えてくる。

 

時系列で言うと、日本では1978年10月に本作を発表。翌年2月に来日公演が行われて、その模様を収録したライヴ盤「イン・ジ・イースト」が同年10月にリリースされている。改めて「殺人機械」のジャケットを見ると、後の「イン・ジ・イースト」の写真で見られるステージ上のロブそのものであり、音楽的な面に加えて、ヴィジュアル面でもヘヴィ・メタルのイメージを築いた原点の作品と言えそうだ。

 

因みに、日本では収録曲「Killing Machine」のタイトルを取って「殺人機械」という邦題となっているが、国によってはHell Bent for Leather」というアルバム名に。よく海外のミュージシャンが、影響を受けたアルバムとしてジューダス・プリーストの本作を挙げる際は「Hell Bent for Leather」と言っている。これは日本で言うところの「殺人機械」の事。

 

本作はロブ、グレン・ティプトン(g)、K.K.ダウニング(g)、イアン・ヒル(b)、レス・ビンクス(ds)という顔ぶれで製作された。先ほどへヴィ・メタルというワードを用いたものの、改めて本作の1曲目「ユダへの貢物」を聴くと、この時代、この時期特有のサウンドが絡み合っていると気付く。ここで聴けるのは、後の80年代に時代を制するヘヴィ・メタルの音というよりは、70年代のブリティッシュ・ハードロックが進化した形と表現できそうだ。

 

それは「ユダへの貢物」に限らず、本作全体のサウンド・イメージとも言える。「ロック・フォーエヴァー」「殺人機械」「邪悪のファンタジー」など、よりハードに、よりヘヴィに聴かせる楽曲も、下地となっているのは初期の作品で提示したブリティッシュ・ハードロックの音であると感じる。

 

その一方で「殺戮の聖典」「バーニング・アップ」「ランニング・ワイルド」といった楽曲は、80年代のヘヴィ・メタル・シーンに受け継がれるサウンドの原型に。「殺戮の聖典」はジューダス・プリーストのライヴでは欠かせない楽曲となり、ロブがハーレーに乗ってステージに登場する演出も有名だ。サウンドのみならずファッション、ヴィジュアル、イメージを含め「殺戮の聖典」は重要な存在となる。

 

また、ヘヴィ・メタルという硬派なイメージを全面に出しているジューダス・プリーストであるが、実はポップな楽曲も多い。本作で言うなら「イヴニング・スター」と「テイク・オン・ザ・ワールド」が該当するのではなかろうか。演奏は角の立ったディストーション・サウンドでありつつ、歌メロは一緒に歌えるキャッチーさを兼ね備えている。バラード曲「ビフォー・ザ・ドーン」はイギリスらしい薫りに満ちた1曲。

 

「殺戮の聖典」と並び本作を代表する1曲が「グリーン・マナリシ」。フリートウッド・マックの楽曲をジューダス・プリースト流に味付けした本曲は、以降のライヴで頻繁に演奏される事に。カヴァー曲でありながら、一般的な認識としてはバンドを代表する1曲と言っても過言ではないほどだ。

 

本作前後のアルバムが聴け、その後の歴史が明確になっているからこその見方となるが、「殺人機械」は前作「ステンド・クラス」で提示した要素と、次の「ブリティッシュ・スティール」(1980年)で提示する要素の、ちょうど中間に位置するサウンドとなっている。

 

ブリティッシュ・ロックを、よりエッジの効いたサウンドに進化させたのは前作からの流れであるし、「殺戮の聖典」「ランニング・ワイルド」などのギター・リフは、次の「ブリティッシュ・スティール」に受け継がれる要素と言える。これらを含めて、音楽が進化する激動の時代に発表された作品との色合いが強い。

 

本作発表後に行われた日本公演を収録したライヴ盤が「イン・ジ・イースト」である。本作収録曲の多くがライヴで演奏されているので、是非そちらの音源も合わせてチェックしていただきたい。ヘヴィ・メタル創設時の歴史がそこに収録されている。