ヘイ・マン/MR.BIG
ハードロック・ファンのみならず、誰もが親しめるキャッチーな楽曲、本格派趣向のリスナーも唸る高度な演奏技術、そしてメンバーのキャラクター性もあり、MR.BIGは特に日本において確固たる地位を確立した。
だが、成功と引き換えにバンド内部では徐々に歪が生じていた。それが音楽性にも表れ、やがてはポール・ギルバート(g)の脱退という衝撃的なニュースに発展する。その節目となったアルバムが、本作「ヘイ・マン」(1996年)だ。
さて、本作をレコーディングしたメンバーは、ポールをはじめ、エリック・マーティン(Vo)、ビリー・シーン(b)、パット・トーピー(ds)。先ほども書いたように、アルバム発表後にポールは脱退するので、90年代の作品としては、この4人で制作された最後のアルバムとなった。
本作の幕開けは、ピアノの音色で始まる「トラップド・イン・トイランド」。そこからヘヴィなギター・リフが切り込み、グルーヴィに発展する。前作までには無かった急激な音楽的変化に、当時のリスナーは驚いたはず。
だが、今になれば、このサウンドの意図は理解できる。1996年という事もあり、グランジやオルタナティヴのエッセンスを取り入れたのだろう。グルーヴィでありつつ、重さと陰鬱なムードを内包している。
そういった楽曲がある一方、2曲目の「テイク・カヴァー」は誰もが思い描くMR.BIGを連想する1曲。アルバム発表時期をはじめ、再結成以降もライヴの定番曲となり、本作を代表する楽曲となっている。パットの叩くドラム・パターンが屋台骨に。
ビリーが弾く、太いベース・ラインが特徴の「ジェーン・ドウ」。セッション的と言うか、良い意味でラフさがあり、メンバーが集まって楽器を鳴らしているうちに、意気投合して曲に発展したのではないか・・・といったイメージの1曲。
アコースティック・ギターの伴奏を軸とした「風にまかせて」は、エリックのソウルフルなヴォーカルが堪能できる。ゆったりとした「ザ・チェイン」、これまたグルーヴ感を有する「ホエア・ドゥ・アイ・フィット・イン」、切れの良いポールのコード弾きが耳に残る「イフ・ザッツ・ホワット・イット・テイクス」と続く。
1996年という時代の空気を存分に吸っている点では、8曲目「アウト・オブ・ザ・アンダーグラウンド」もそれに該当する。ヘヴィ且つグルーヴィで、ある種の暗さを持っている。
「ダンシン・ライト・イントゥ・ザ・フレイム」「ママD」と来て、流れを一転させるのが「フール・アス・トゥデイ」。独特のリズム・パターンと、跳ねるような躍動感が宿っている1曲。「ティアーズ」は、バラード曲。
本作はバンドのカタログの中でも、賛否両論・・・どちらかと言えば否定的な意見が多い。演奏面で言うと、MR.BIGらしい高度な技術のうえで成り立つ楽曲が満載されているのだが、確かに楽曲は前作までと比較すれば、随分と印象が異なる。
ひとつは90年代中期らしく、陰鬱なムードを取り入れた楽曲がある点が挙げられるが、それは飽くまで2~3曲。本作の印象を決定づける要因となるのが、ラフさになるのではないか。
以前の3作品にあった火花散るプレイ、個性がぶつかり合い、時には調和するスリリングなプレイは、本作において大きく後退。更に、楽曲の細部まで構築された緊張感も薄まった。
先ほど「ジェーン・ドウ」でも挙げたように、セッション的というかジャムのような雰囲気の楽曲が多く、それが収録曲を何となく聴き過ごしているうちにアルバムが終わっていたという流れを作り出している気がする。
やはり本作は、ポールが脱退する前であり、バンド内の人間関係と雰囲気も決して良くなかったと推測できる。そのような状況下での製作が、そのままサウンドに反映されたと考えれば、アルバムの立ち位置が見えてきそうだ。
だが、こういった分裂はアーティスト問わず、どのバンドにもある。2009年以降の再結成も含め、今改めてバンドの歴史を振り返ると、MR.BIGもキャリアの中でそのような時期があったと、当時よりは冷静に見る事ができそう。
ただし、当時の日本におけるMR.BIGの人気は凄まじいものであり、本作「ヘイ・マン」もオリコンチャート1位を獲得。それだけ多くの人に影響を与える存在であったのは、今も昔も変わらない。

















