第670回「デンジャラス・ゲームス」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

デンジャラス・ゲームス/アルカトラス

アルバムの中には時代の動きや価値観の変化と共に、評価が大きく変わるものがある。アルカトラスの作品で言うなら、前作「ディスタービング・ザ・ピース」(1985年)が、正にそれではなかろうか。スティーヴ・ヴァイを迎えて製作した同作は、デビュー作「ノー・パロール・フロム・ロックン・ロール」(1983年)に衝撃を受けた多くのリスナーを当時はお手上げ状態にさせた。

 

イングヴェイ・マルムスティーンが披露したクラシカルな速弾きは初期アルカトラスの重要な部分と言え、イングヴェイの色が無くなったうえに、ヴァイの個性が全面に取り入れられた「ディスタービング・ザ・ピース」は余りにも作風が違っている。しかしながら、今やイングヴェイもヴァイも偉大なギタリストである。ヴァイがギターで描き出す音楽や表現を知ったうえで聴くと、「ディスタービング・ザ・ピース」は傑作であると判る。

 

イングヴェイの「ノー・パロール・フロム・ロックン・ロール」、ヴァイの「ディスタービング・ザ・ピース」と双方で明確な個性の違いを感じられるが、実はアルカトラスにはオリジナル・スタジオ・アルバムがもうひとつ、80年代のカタログに存在する。それがヴァイ脱退後にダニー・ジョンソン(g)を迎えて製作したアルバム「デンジャラス・ゲームス」(1986年)だ。

 

3枚目のアルバムとして発表された本作「デンジャラス・ゲームス」は、今や非常に影の薄い扱いとなっており、はっきり言ってしまえばこれが現在のアルバムの評価とも言える。イングヴェイやヴァイがギターを弾いていた輝かしい時代の影に隠れてひっそりと存在しているような「デンジャラス・ゲームス」に今一度、焦点を当てて話を進めて行きたい。

 

「ディスタービング・ザ・ピース」発表後、ヴァイはデイヴ・リー・ロスのバンド加入の誘いを受け、アルカトラスを脱退している。よって、グラハム・ボネット(Vo)、ダニー、ゲイリー・シェア(b)、ヤン・ウヴェナ(ds)、ジミー・ウォルドー(Key)という編成に。前作からギタリストが交代したのみではあるが、アルカトラスの場合、ギタリストの交代がバンド・サウンドの変化と直結しているのは間違いない。

 

先に言ってしまうと、本作はギタリストが交代した事によるサウンドの変化だけでなく、この時代の音を存分に取り入れた1986年らしい作品となった。それは1曲目「イッツ・マイ・ライフ」から判り易い形で表れている。メタリックなギター・リフで始まる「イッツ・マイ・ライフ」は進行するに従いデジタル音が効果的に取り入れられ、テクノ風味のヘヴィ・メタルと言えそうな楽曲に。

 

「アンダーカヴァー」では、その手法が更に濃くなり、キーボードの洗練された音以上に、デジタル・ビートが全面に出されている。冒頭の2曲を聴いて感じるのは、前2作品はギタリストが前に出た音作り及びアルバムに仕上がっていたのに対し、本作はグラハムのヴォーカルが主役の歌モノの作品との印象が強くなっている点だ。

 

「ザット・エイント・ナッシン」や「OHAYO TOKYO」を聴けば、新加入(当時)のダニーはテクニカルなギタリストである事が判る。しかし、イングヴェイやヴァイのようにギター・ソロを弾きまくるのでは無く、全体的に見ると飽くまで歌のバッキングとしてのギター・プレイに徹しているように思う。

 

他にもロックン・ロールのような軽快さを持ち合わせた「ノー・イマジネーション」、ロック・サウンドの中に哀愁が宿る「デンジャラス・ゲームス」、ポップな「ブルー・ボア」とキャッチーな楽曲が満載。ゆったりとした曲調に乗ってグラハムが歌い上げる「オンリー・ワン・ウーマン」「ザ・ウィッチウッド」も素晴らしい。

 

コード進行が緊張感とスリリングな空気感を生み出す「ダブル・マン」、重厚なコーラスが新鮮な「ナイト・オブ・ザ・シューティング・スター」と続いてアルバムは終了する。ラストの「ナイト・オブ・ザ・シューティング・スター」は、グラハムのヴォーカル&コーラスをフィーチュアしたア・カペラ曲で、こういった手法は珍しい。

 

1986年はシンセサイザーを導入した音作りがモダンな手法とされていた時代であり、ヘヴィ・メタル作品の中にも、その手法を取り入れたバンドが多く存在している。本作「デンジャラス・ゲームス」を聴けば、アルカトラスもその方向性を目指していた事が判る。サウンドとしては時代の音を存分に吸収したものだ。

 

ただ本作は、ほとんど話題にならなかったアルバムであり、バンドはライヴで食いつないで生計を立てていた。実際、翌1987年にアルカトラスは解散しており、グラハムはその後、インぺリテリのアルバムに参加。華々しくデビューを飾ったアルカトラスは、フェイド・アウトするかのように消えて行ったイメージが強い。

 

と言いつつ、本作を改めて聴くとキャッチーな楽曲満載の非常に良いアルバムだ。思えばアルカトラスはヴォーカルのグラハム以上に個性の強いギタリストが在籍した事によって、パワー・バランスが保てなかったような気がする。その分、本作は歌モノのアルバムであり、最後にしてグラハムが主役になったとの見方ができる。ギタリストのダニーも歌のバッキングとして演奏する点では、地味ではあるが良い仕事をしていると言えまいか。