サイケデリック漂流記 -124ページ目

昔はサイケで出てました その7

The Legends
Dan Hartmanが在籍していました。DanはEdgar Winter Groupで70sロッククラシックの"Free Ride"などを書き、のちにソロになってからは映画「ストリート・オブ・ファイア」の挿入歌として大ヒットした"I Can Dream About You"(「あなたを夢みて」)をはじめ、ディスコミュージックの世界で名を馳せました。

Legendsは60年代半ばから70年代前半まで活動。その間、数枚のシングルを発売したもののアルバムは1枚も出していませんでしたが、2001年にArf! Arf!からCD2枚組のコンピレーション"High Towers"がリリースされ、その全貌が明らかになりました。

2枚目のCDには1965~66年のセッション音源が収録されていますが、こちらはBeatles, Animals, Yardbirds, Kinksといった英国ビートバンドから、Byrds, Lovin' SpoonfulはたまたMonkeesまで、ほとんどがカバー曲で占められていて、特に面白いものではありません。

しかし、1枚目のCDに収められている1969年から1973年までの音源はちょっとスゴいです。基本的にはクリームとか特にジミヘン&エクスペリエンスからの影響大のヘヴィサイケ/ハードロックなんですが、テクニックのみではなく各楽器の間(ま)というか色気みたいなのがあって、ほとんどダンのペンによる色っぽい曲やボーカルハーモニーなんかにも、荒削りながらも豊かな可能性を感じ取ることができます。数あるジミヘン・フォロワーなバンドの中でもトップレベルでしょう。

彼らのデモを聴いたエドガー・ウィンターが惚れ込んでダンを自分のバンドに引き入れたことで、Legendsは自然消滅して、皮肉にも名前どおり「伝説」のバンドとなってしまいましたが、もしもそのまま活動を続けて、ちゃんとプロデュースされたアルバムを出していれば、70sのメジャーバンド/アルバムとして記憶されていたことでしょう。ひょっとしたら"Free Ride"はLegendsの曲だったかもしれません。


Legends
High Towers

昔はサイケで出てました その6

Bob Seger System
ボブ・シーガーというと、ライブにトラックドライバーの兄ちゃん達が集まるような、男くさくてストレートなデトロイトロックというイメージですが、60年代にはガレージサイケやアシッドロックっぽい曲をやっていて、Fuzz, Acid and Flowersにもしっかりエントリーされています。

彼が全米でブレイクしたのは70年代半ば以降ですが、下積み時代はかなり長くて、60年代前半から活動していました。最初のシングルは1966年にBeach Bumsの名で出した"Ballad of the Yellow Beret"。これはバリー・サドラー軍曹の全米No1ヒット曲、"Ballad of the Green Beret"のパロディで、サドラー軍曹に「訴えてやる!」と脅されて、あえなく撤収されました。しかし、ボブのボーカルはこの頃からすでにむちゃくちゃシブうまです。

その後同年にBob Seger and the Last Heardというグループでシングル"East Side Story"を発表。これが5万枚以上のローカルヒットとなり、大手のCameoレーベルと契約して全米リリースという運びになりますが、まもなくCameoが倒産。要するにツキのない駆け出し時代でした。("East Side Story"はボブの初期シングルを集めたCDや各種コンピで聴けますが、ファズアウトしたギターのリフとチープなオルガンが印象的な、Van Morrisonの"Gloria"をパンキッシュにしたようなガレージクラシック。)

そして1968年に結成したのが、Bob Seger Systemです。その第一作の"Ramblin' Gamblin' Man"は、CCRをサイケにしたような素晴らしいアシッド・ルーツロックで、その後のBob Segerのイメージからすると、驚くほどにサイケ度・アシッド感の高いものです。ボブのボーカルスタイルがジョン・フォガティと通じる部分があるので、余計にCCRを連想させるのかもしれませが、そのようなアーシーで骨太なルーツロックだけに収まらず、内部に深く沈み込むようなアシッドフォークナンバーの"Gone"や、Arthur LeeのLoveを思わせる"Train Man"、ギターオリエンテッドなジミヘン&エクスペリエンス風ヘヴィサイケの"White Wall"や"Blackeyed Girl"と、コアなサイケファンが聴いても違和感なく楽しめるような充実した内容になっています。オススメ!

Bob Seger Systemのアルバムとしては、このほかに69年の"Noah"、70年の"Mongrel"が出ていますが、前者は失敗作でボブがリイシュー許可しない(一時音楽活動をやめて大学に行ってたりしたらしい)とかで未聴、後者は逆にふっきれたようなパワー全開の素晴らしい作品ですが、残念ながらサイケな要素はほとんどなくなってしまっています。

ちなみに、ヘヴィサイケファンにはお馴染みのThe Third Powerでギターを弾いていたDrew Abbottが、のちにBob SegerのSilver Bullet Bandに参加しています。


The Bob Seger System
Ramblin' Gamblin' Man

昔はサイケで出てました その5

今回もセッションミュージシャン関連をいくつか・・・。

Leather-Coated Minds
1967年の"A Trip Down the Sunset Strip"はJ.J. Caleのプロデュースによるセッションアルバム(彼が手がけた最初のアルバム作品)です。J.J.は4曲のインスト曲を提供するとともにギターも弾いています。参加アーティストは、Roger & Terrye Tillison夫妻(ギター&ボーカル)、Leon Russell(キーボード)、Jesse Ed Davis(ギター)といった、オクラホマ出身LA出稼ぎ組です。

と書くとスワンプ系のルーツロックかと思いきや、これがまったく違って、"Eight Miles High", "Mr Tambourine Man"(The Byrds), "Sunshine Superman"(Donovan), "Along Comes Mary"(Association)といった、当時のサイケ系ヒット曲をアレンジしたイージーリスニング的カバー曲集です。おそらく、ラジオやテレビのBGMやダンスパーティやクラブ(ディスコ)での使用を目的とした「企画もの」だったのではないかと思われます。

そういうとつまらない音のように思われるかもしれませんが、意外や意外、これがけっこう面白い。60年代のチープな映画の「なんちゃってサイケ」なサントラが魅力的だったり、ソフトロックやラウンジミュージックにあるような、工場生産的でプラスティックな感触が新鮮だったり・・・。私はその手のものを「おしゃれ感覚」で聴く境地にまではいってませんが、本作は純粋にサイケ的にも楽しめます。

ジャケにも写っていて主役級であるTillison夫妻ですが、彼らはLAに出てGypsy Tripsというデュオとして、1965年にシングルを1枚だけ出します。このシングルのA面の"Rock'n'Roll Gypsies"はHearts and Flowersの1stなどでカバーされ、B面の"Ain't It Hard"はElectric Prunesのデビューシングルとしてカバーされて、のちにガレージクラシックスとなります。

また、ロジャーは1971年にJesse Ed Davisのプロデュース&バックアップにより、"Roger Tillison's Album"を発表します。これはスワンプロックの名盤として、日本のワーナーの名盤探検隊シリーズでCD化されています。


Leather Coated Minds
A Trip Down Sunset Strip


Clear Light
Danny Kortchmar (Danny Kootch)と、のちにCSN&YなどのバックをつとめるDallas Taylor(ドラム)が在籍していました。(ただし、1967年の唯一のアルバムにはDannyはクレジットされていないようです。) また、キーボードのRalph Schuckettは西海岸のセッションマンやTodd Rundgren's Utopiaのメンバーとして活躍。リードボーカルのCliff De Youngはのちに俳優に転向して、「ハリーとトント」「F/X 引き裂かれたトリック」「ナビゲイター」など、多数の映画に出演しています。

このバンド/アルバムは普通にサイケクラシックとして有名ですね。私も愛聴しています。チープ系オルガンとファズギターが売りの、(LAのバンドらしい)わりとわかりやすいB級サイケっぽい音で、ドアーズあたりからの影響もみられます。あと、グレイトフルデッドみたいにツインドラムなのが特色でしょうか。CDの音質も良好です。オススメ!


Clear Light
Clear Light

昔はサイケで出てました その4

今回は西海岸の有名セッションマン編です。

Ceyleib People
Ry Cooder, Larry Knechtel, Joe Osborne, Jim Gordonという、今からすると錚々たるメンバーが参加していたグループ。しかし、アルバムは1968年の"Tanyet"一作のみで、バンドというよりセッショングループというニュアンスかもしれません。

内容はシタールが主役の分裂気味なコラージュ的東洋サイケ作で、二部に分かれた長尺インスト曲から成っています。フルートやメロトロンなどが使われていて、プログレの先取りのような部分もあります。表面的にはかなりサイケデリックでトリッピーな印象ですが、ギター+ドラムがロックするような部分はサイケというより西海岸ロック的な感覚で、それは彼らの技量が確かで切れ味が良すぎるからかな?と思ったりもします。

ライ・クーダーにしてみれば、サイケというより、のちに追い求めるワールドミュージックの一環だったのかもしれませんが、60s好きの私が(東洋サイケ的にも)むしろ1992年のV.M. Bhattとのコラボの方にハマってしまうのはなぜでしょうか・・・。

ちなみに、ジャケットのデザインはサイケデリックポスターやGrateful Deadの"Aoxomoxoa"のジャケなどでお馴染みのリック・グリフィンです。なお、AmazonやAMGをはじめ、グループ名の表記がまちまちですが、正しくはCeyleib Peopleでしょう。


The Ceylib People
Tanyet


Kaleidoscope
60sサイケ関係だけでも他に英国、南米にも同名バンドがありますが、こちらはアメリカのグループ。David Lindleyがリーダー的存在でした。66年に結成した当時はThe Baghdad Blues Bandと名乗っていたり、トルコ出身のメンバーがいたりで、最初からかなり東洋志向だった模様です。

デビュー作の名盤"Side Trips"(1967)には、Devil's Anvilも真っ青のコテコテの中近東ロックが収められていますが、それだけではなくて、スワンプルーツ系のアシッドフォーク曲や、ジャグバンド風のラグタイム、キャッチーなバーズ風フォークロックに、果てはラストの「ミニー・ザ・ムーチャー」まで、バンド名どおりの万華鏡のような多彩さです。("Why Try"のようにそれらの要素が一曲の中に凝縮した素晴らしいものもあり。)

この1stが、サイケ的なユルさとルーツロック的な根太さのバランスが気持ち良かったので、1970年までの全4作とシングル等を収録した3枚組ボックス("Pulsating Dream", 2004)を買ってしまいました。2作目以降は10分前後のアシッドナンバーが増えたり、カントリー色が強くなったり、評価の低い4作目もMoby Grapeがヒネクレたみたいな感じで面白いと思います。音もいいし、ルーツ系サイケ好きとしてはお気に入りのセットになっています。ちなみに、ジミー・ペイジの"My favorite band of all time"だそうです。


Kaleidoscope
Pulsating Dream


Colours
Carl Radle(ベース)とChuck Blackwell(ドラム)が在籍していました。1968年のデビュー作は明快に「サージェントペパーズ」フォロワーな作品で、ビートルズ~英国ポップサイケ色の強いものになっています。(バンド名もColorsを英国綴りにしている。) 同じアメリカのバンドでいうとMatthew MooreのThe Moonとかに近い感じ。(The Moonの"Without Earth"に収められている名曲"Brother Lou's Love Colony"は、実はColoursのオリジナル。)

楽曲は全体にポップでチャーミングですが、要所で使われるシタールやバグパイプがサイケなアクセントになっています。楽器やオーケストラのアレンジからボーカルハーモニーまで丁寧にしっかり作られている印象で、意外にメジャーな感じの音でした。

1969年にもう一枚"Atmosphere"というアルバムを出していますが、そちらは未聴(未CD化?)です。


(うーん、AmazonでCDが見つからない・・・。)


Hal Blaine
ソフトロックファンに限らず、およそ洋楽ファンなら知らないうちにそのドラミングを聴いているという、名実共にナンバーワン・セッションドラマーのハル・ブレインですが、彼が60年代にサイケなソロアルバムを出していたというのは、それほど知られていないのではないでしょうか?

そのインストアルバムのタイトルは、"Psychedelic Percussion"(1967)。わかりやすくていいです。しかも、曲のタイトルが、"Love-In", "Freaky", "Flower Society", "Trippin' Out", "Tune In-Turn On", "Inner Space"・・・。

なんて言ったらいいのか、マジメにいっしょうけんめいサイケやってる姿がほほえましいというか・・・。言っちゃ悪いんですが、けっこう笑える一枚です。モンド音楽的というのか、そのへんの微妙にズレた感覚も、これまたある意味でサイケデリックなのが面白い。


Hal Blaine
Psychedelic Percussion

昔はサイケで出てました その3

The Rockets
Barry Goldbergのプロデュースによる1968年の唯一のアルバムのクレジットは、

Danny Whitten (Vcls, Gtr)
Billy Talbot (Bass)
Ralph Molina (Drms)
Bobby Notkoff (Electric Violin)
Leon Whitsell (Vcls, Gtr)
George Whitsell (Vcls, Gtr)

そうです、Crazy Horseの前身です。6人組という大所帯でした。この翌年にNeil Young with Crazy Horseの名作、"Everybody Knows This Is Nowhere"(1969)が制作されますが、そこにはWhitsell兄弟を除く4人が参加しています。(Notkoffのフィドルが印象的な"Running Dry" のサブタイトルが"Requiem for the Rockets"となっているのは、そういう経緯によります。)

Rocketsの特徴は、まず全編にフィーチャーされたNotkoffのフリーキーなフィドルでしょう。そのためカントリーロックのようなイメージを受けますが、曲自体はわりと平明なポップチューンが主体です。しかし、数曲ですが、かなりサイケな曲も入っていて、それもフリークアウトしたフィドルによるところ大という印象です。

やはり全体的に若い感じは否めませんが、ニールのバッキングでお馴染みの「ウーララ、ウーララ」というコーラスや、Talbot & Molinaの、あの独特の跳ねるようなリズムが早くも聞けるのが興味深いところです。


The Rockets
Rockets


Golliwogs
こちらもメンバーを見れば一目瞭然です。

Tom Fogerty (Vcls, Gtr, Harmnca)
John Fogerty (Vcls, Gtr)
Stu Cook (Bass)
Doug Clifford (Drms)

まんま、Creedence Clearwater Revivalですね。名前が変わっただけです。Golliwogsの前には、同じメンバーでTommy and the Blue Velvetsと名乗っていました。

サイケ/ガレージファンには、なんといってもNuggets Boxなどに収められている"Fight Fire"が有名でしょう。私もCCR BoxでGolliwogsの全体像を知るまではこの曲しか知らなかったのですが、"Porterville"など最初期のCCRと重なっているものがあるものの、ガレージサイケ的な見地からすると、はっきり言って"Fight Fire"に及ぶ曲はほかにはありません。

私は、CCRの数多のヒット曲や傑作アルバムを聴いて、その南部志向(彼ら自身は西海岸~シスコの出身)のスワンプ&カントリーミュージックに根ざした、ゆるぎなく強力なルーツロックは、生まれ持った天才的な才能と感性によるものだろうと思っていました。

ところが、CCRの6枚組ボックスの一枚目に収められているBlue VelvetsとGolliwogsの音源(全シングル+未発表曲)を聴くと、長い下積みとスタイルの模索の時期を経ていたのだということがわかって面白いです。50年代後半のロッカバラードから英国ビートバンド、ビートルズやビーチボーイズにガレージパンクと、ほとんどがオリジナリティの希薄な、60sヒットチャートに迎合したような焼き直し的楽曲であることに驚かされます。やはり「継続は力」ということなんでしょうか?

なお、Golliwogsとしては存命中にアルバムは出ていませんが、1975年に7枚のシングルの14曲からなる"The Golliwogs: Pre Creedence"というLPがFantasyから発売されています。(ブートを含めCD化されているかどうかは不明。)


クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル, ブルー・ヴェルヴェッツ, ゴリウォグス
クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル (試聴はこちら。)

昔はサイケで出てました その2

前回のZZ Topに続いて、今回はMountain関連です。

Vagrants
Leslie Westと弟のLarry West(ベース)が在籍していたオルガン入りのガレージバンド。存命時にアルバムは出していないものの、チープオルガンのリフとレズリーの吐き出すようなボーカルが印象的な"Respect"(オーティス・レディングのカバー)が、オリジナル・ナゲッツに収録されてたりで、わりと名前は知られていたのではないかと思います。

1987年になってメジャーレーベルのAristaから"The Great Lost Album"というタイトルが出ましたが、これはちょっと看板に偽りありで、実際は1966年から68年に発売されたシングル曲の8割に未発表曲を加えたコンピレーションです。その後1996年に"I Can't Make a Friend"というタイトルで、Arista盤に未収録だったシングル曲や13分におよぶアシッド版"Satisfaction"を収録したブートレッグ(?)が出ています。ただ、後者はArista盤のすべての曲を収録しているわけではないみたいで、決定版とは言えないようです。ちなみに、私が持っているのは、両方のタイトルを合体させた「コンプリート版」の怪しげなCD(ヨーロッパ産?)です。

これを聴くと、まるで「いかにして我々はガレージパンクからヘヴィロックへ進化したか」の検証みたいで面白いです。フォーク系レーベルのVanguard時代のシングルは、レズリーのギターもペラペラの音で、初期キンクス風のガレージパンクやらRascalsみたいなR&B風60sポップ曲が主流だったのが、フェリクス・パパラルディのプロデュースによるAtco時代のシングルは、レズリーのネバネバと粘っこいファズギターが大活躍して、アシッド感とサイケ度がぐっと増しています。そして、13分の"Satisfaction"では、まさにサイケデリックとハードロックの過渡期といえるような(当時で言うアートロックみたいな)ヴァニラファッジ風のヘヴィロックが展開されています。


残念ながら、どちらも現在廃盤のようです。


Devil's Anvil
のちのMountainのFelix PappalardiとSteve Knightが在籍していたのですが、前身バンドという意味では、ロック史上最強級の「ギャップ度」でしょう。ハードロックファンがプレ・マウンテンのつもりで聴いたら、ひっくり返るのではないかと思います。

アルバムは1967年の"Hard Rock From the Middle East"一枚のみ。もう、このアルバムタイトルのセンスがすべてを語っています。素晴らしいです。もちろん、Hard Rockとはいっても、1967年当時の意味合いです。フライング・ブリトー・ブラザーズがカントリーロックであるとか、サンタナがラテンロックであるとか、シカゴがブラスロックであるとかいう意味で、これほど明快な「中近東ロック」というのもあまりないのではないかと思います。

メンバーにKareem IssayとかEliezer Adoramとかアラビア風の名前の人がいて、ウードやアコーディオンを担当しているのも本格的で、曲もほとんどが本場(アラビア、ギリシャ)のトラッドやポップスナンバーだそうです。パパラルディの歌う英語の曲("Misirlou")が1曲で、他はアラビア語が7曲、ギリシャ語が2曲でトルコ語が1曲とのことですが、英語以外は私には区別がつきません。

ラーガロックというと、西洋人による「似非」東洋風ロックという意味合いもあって、そのへんのインチキ臭さや、いかがわしさもサイケ好きにとっては魅力なのですが、このバンドは本格的とはいえ、そういういかがわしさも最高峰で、ウードやブズーキにファズギターがからんだりする中近東サイケは一度ハマると癖になること請け合いです。1967年というとパパラルディはクリームのプロデュースもしていた頃だと思いますが、こんな仕事もしてたのかと驚かれることでしょう。

なお、CDはFreak Sceneの"Psychedelic Psoul"とのカップリングで出ています。どういうわけでこの2枚がカップリングされたのかはよくわかりませんが、
"Psychedelic Psoul"はレココレのサイケ特集号のアルバムガイドで一番最初に紹介されていた"Psychedelic Moods of the Deep"の続編的なプロジェクトで、サイケファン必聴級の名盤なので、この2on1はお得だと思います。オススメ!


The Freak Scene & Devil's Anvil
The Freak Scene/The Devil's Anvil


余談ですが、レズリー・ウェストは「最もダイエットに成功したロックアーティスト」ではないでしょうか? 右の写真は最も太ってたとき(1980年頃?)の3分の1くらいに見えますが・・・。

昔はサイケで出てました その1

今回は、70年代以降にメジャーになった人で、60年代にはサイケなレコードを出していたアーティストの特集です。とはいっても、60年代後半にロックをやっていて、(ボブ・ディランのように)当時のサイケデリックムーブメントの洗礼をまったく受けなかった者のほうがむしろ例外的ではないかと思います。

特に英国のプログレ関係などは、ピンク・フロイドを筆頭として、大半が60年代にはサイケデリックをやっていたということもあります。ということで、ヴァニラ・ファッジ、ディープ・パープル、ピンク・フロイドといったビッグネームは置いといて、サイケファンには有名でも一般にはマイナーな存在のバンド/アルバムを主に取り上げていきたいと思います。


Moving Sidewalks
ZZ TopのBilly Gibbonsが在籍していたバンド。サイケファンにはPebblesなどのサイケ/ガレージコンピでは定番の、かっこいいオルガンパンク曲"99th Floor"でお馴染みかもしれません。このシングルは1968年の唯一のアルバム"Flash"には未収録だったのですが、CDにはボーナストラックとして収められています。

内容は、一曲目から"Third Stone from the Sun"みたいなフレーズや"Are You Experienced ?"という歌詞が出てきたりで、モロにジミヘン(&エクスペリエンス)フォロワーなアルバムです。ZZトップ時代のギボンズのギターって、特にジミヘンを連想しなかったのですが、ここではS・レイボーンかロビン・トロワーかというくらいジミヘンそのまんまのフレーズやエフェクトを連発しています。ルーズな感じのボーカルスタイルもジミヘン譲りだったのだなと納得してしまいます。


The Moving Sidewalks
Flash


American Blues
こちらはZZ Topのリズム隊、ベースのDusty HillとドラムのFrank Beardが在籍していました。(ギターはDustyの兄で、のちにソロで活動するRocky Hill。)

Moving Sidewalksにも言えますが、ZZ Topの前身とかバンド名とかから想像する以上に「プロパーな」サイケ寄りの音で、デビュー作の"American Blues is Here"(1968)は、まったりとしたアシッド感あふれるサイケアルバムになっています。クリームを意識したというだけあって、ヘヴィで手数の多いリズム隊が活躍しますが、ギターの音がディストーションしてなくてペラペラなのが個性的かもしれません。

なお、セカンドの"American Blues Do Their Thing"(1969)も(1stとの2on1で)CD化されているようですが、そちらは未聴です。


American Blues
American Blues Is Here

という次第で、テキサスのふたつのヘヴィサイケバンドが合体してZZ Topが誕生したのでした。

第38回 Wendy & Bonnie


Wendy & Bonnie
Genesis (紙ジャケ仕様はこちら

以前このブログを始めた頃に、CDをオークションで入手したという記事を書いたのですが、数行程度のものだったので、「無人島サイケ」に格上げして、新しく書き直します。

録音当時(1968年)17歳と13歳だった姉妹(ジャケットのBonnieの写真が男の子みたいに見えますが、弟ではなく妹)による、今や定番となった「埋もれていた名作」、Wendy & Bonnieの"Genesis"(1969)です。やはりこれはサイケデリックやソフトロックというより、フラワーミュージックと呼ぶのが一番ふさわしいように思います。

なんといっても、彼女らの名前がWendy FlowerとBonnie Flower! しかも、生まれ育ったのが花のサンフランシスコですから・・・。ちょっと出来過ぎのようですが、Flowerという姓は芸名ではなくて本名とのことです。ちなみに、両親のFlower夫妻はプロのミュージシャン(父親はドラマー、母親はシンガー)でした。

アルバムの色合いとしては、メランコリックでトリップ感のあるフォークチューンが主体ですが、LPの各面の先頭にビートの効いたロックナンバーを配したり、ファズギターが印象的なサイケ調の曲がラストナンバーだったりで、意外にロックっぽいと感じられるかもしれません。ラリー・カールトン(ギター)、ジム・ケルトナー(ドラム)、マイク・メルボイン(キーボード)といった西海岸の一流どころがバックをつとめていることも、その要因のひとつでしょう。彼らのメリハリのあるタイトな演奏と、この手のソフトロック系のプロダクションにはつきもののストリングスやホーンが入っていないということが、この作品の個性となっています。

そのへん、海外のサイケ関係のレビュアーによる、「プレーンな西海岸物にすぎない」といった評も見うけますが、全編を覆う、どこか浮世離れした二人のハーモニーに「サイケデリック」を感じるのは私だけではないと思います。これは偶然の結果かもしれませんが、リードボーカルのウェンディはレコーディング時に(扁桃炎やら喉頭炎で)喉の具合が悪かったそうで、風邪気味で熱に浮かされたような独特のアシッド感が醸し出されています。

プロデュースの意図として、あまりアレンジや凝った音作りを加えないで、素材(全曲姉妹によるオリジナル!)の曲の良さ(*1)と、ふたりのピュアなハーモニーを生かそうと考えたのではないでしょうか。本作に関してはそのような制作意図によるプレーンなバッキングで正解だったのだと、聴くたびに確信するようになりました。

面白いのは、ボーナストラックに収められている、アルバム制作前に姉妹が参加していたCrystal Fountainというバンドのアセテート盤からのカットです。これが、JA風の男女混声サイケナンバー(ボニーがドラムを叩いている。これも二人の作)で、地元シスコのサイケデリックシーンにどっぷりハマった、元々サイケ寄りの感性を持っていた早熟な姉妹だったのだということがわかります。

さて、めでたくアルバムが発売され、ビルボードにも広告が打たれて、地元のテレビ局への出演など華々しいデビューを飾ろうとしていた矢先、契約元のジャズ系レーベルのSkyeが突然倒産してしまいます。また、1971年には、アルバムのプロデュースとアレンジを担当したレーベルオーナーのヴァイブ奏者で、音楽上の父ともいえるGary McFarlandが、薬物中毒による心臓発作で急死するという不幸にも見舞われます。

ウェンディは高校卒業のひと月前に学校を辞めて、プロのミュージシャンとして身を立てるつもりでいたために、いっそう不運でした。その後も、あくまでメジャーな音楽活動を目指す姉に対して、大学進学を希望する妹との意見の相違などにより、ふたたびWendy & Bonnieとして表舞台に立つことはありませんでした。しかし、ふたりとも個々にローカルな音楽活動はずっと続けていたようです。(Genesis再発を期に、再結成によるセカンド制作という話もあるとか・・・。)

ところで、「ソフトロックAtoZ」等で言及されていた「ウェンディ&ボニーのウェンディは、プリンスファミリーのウェンディ&リサのウェンディ」という話はウソです。Love Generationの話といい、どうも日本のソフトロック関係者の中にこのようなデマを流している輩がいるのではないかと思えるのですが・・・。

*1
"You Keep Hanging Up On My Mind", "The Winter Is Cold"など、独特の歌いまわしが耳について離れません。ボーナストラックにふたりの歌とBonnieのアコギだけのデモテイクが収められていますが、まわりの大人たちによって「つくられた」ものではなく、ホンモノの才能だったことがわかります。特に、手練れてなくてウブなところが良いです。

キャンディ


アスミック
キャンディ

サイケファンにはバーズやステッペンウルフによるサントラ盤のほうが有名かもしれません。(レココレのサイケ特集でも取り上げられていました。) でも、本編の映画も最高におバカで、私は大好きです。

お話は、大学教授の詩人や名外科医やヨガの導師や将校といった権威者たちが、エヴァ・オーリン扮するキャンディの性的魅力の虜になって、リビドー丸出しで彼女に迫るというもの。(映画ではほのめかし程度ですが)最後には父親や神様(仏様)までもがヨロメいてしまうという、ハチャメチャなB級作品です。

出演は、マーロン・ブランド、リチャード・バートン、ジェームズ・コバーン、ウォルター・マッソー・・・という、いまでは考えられないような大物の競演で、加えて、医院長役に映画監督のジョン・ヒューストン、メキシコ人(!)の庭師役にリンゴ・スター、謎のせむし男にシャルル・アズナブールといった豪華なもの。しかも、内容が超B級の脱力系で、彼らがこぞってひとりの少女を追っかけるというアホらしさが素晴らしい。

原作は映画「イージーライダー」の脚本で有名なテリー・サザーンで、60年代らしい、徹底的に権威・権力をコケにしたブラックユーモア的パロディです。本国アメリカでは発禁になったようですが、これに関しては無理もないかなと思います。

映画では原作の風刺性は薄らいでいますが、そのかわりエヴァ・オーリンのキャンディが最高で、天然としか思えないようなアホっぽくて60sフラワーなロリータキャラが爆発しています。宣伝文句に「おしゃれエッチ」というのがありましたが、まさにそんな感じ。キメぜりふの"Why?"が耳について離れません。

それと、リンゴ・スター。この人が画面に登場するだけで(ビートルズ映画みたいな)60sポップな雰囲気になってしまうという、すごいキャラだと思います。(そういえば、最近ビデオで観たフランク・ザッパの「200モーテルズ」にもザッパ役でリンゴが出てましたが、これも超おバカな映画でした。) あと、冒頭のサイケデリックなオープニングと、素晴らしくフラワーなラストも大好きです。


使われてる音楽は、60sの曲ではSteppenwolfの"Rock Me"と"Magic Carpet Ride"、それにByrdsの"Child of the Universe"くらいですが、全編に流れるデイヴ・グルーシンによる東洋サイケ風の楽曲群が、いかにも60sな感じで良いです。ちなみに"Child of the Universe"はByrdsのアルバム"Dr. Byrds & Mr. Hyde"(1969)に収録されていますが、元々はデイヴ・グルーシンとロジャー・マッギンがこの映画のために共作した曲です。また、同アルバムには、この映画のテーマにするつもりで書かれた"Candy"という曲も収められていますが、こちらの方は映画には不採用となりました。


テリー サザーン, メイソン ホッフェンバーグ, Terry Southern, Mason Hoffenberg, 高杉 麟
キャンディ (原作)


The Byrds
Dr. Byrds & Mr. Hyde

ロック&ポップス名曲徹底ガイド


ロック&ポップス名曲徹底ガイド

CDジャーナルムック『ロック&ポップス名曲徹底ガイド』(全5巻)の第2弾、『ロック&ポップス名曲徹底ガイド(2) 1965~69年編』が発売されました。「(60年代後半の)名曲200曲をピックアップ、名曲が生まれたエピソードなどを盛り込んだ解説に加え、カヴァーなどその曲の演奏が聴ける決定盤CD896枚を収録。」とのことです。詳細はこちら

60s好きとはいえ、メジャーなヒット曲が意外と盲点だったりするので、おさらいしてみるのもいいかも・・・。ちなみに、6月に発売された第1弾は『ロック&ポップス名曲徹底ガイド(1) 1955~64年編』です。


ロック&ポップス名曲徹底ガイド―名曲184決定版CD776 (1)