第38回 Wendy & Bonnie | サイケデリック漂流記

第38回 Wendy & Bonnie


Wendy & Bonnie
Genesis (紙ジャケ仕様はこちら

以前このブログを始めた頃に、CDをオークションで入手したという記事を書いたのですが、数行程度のものだったので、「無人島サイケ」に格上げして、新しく書き直します。

録音当時(1968年)17歳と13歳だった姉妹(ジャケットのBonnieの写真が男の子みたいに見えますが、弟ではなく妹)による、今や定番となった「埋もれていた名作」、Wendy & Bonnieの"Genesis"(1969)です。やはりこれはサイケデリックやソフトロックというより、フラワーミュージックと呼ぶのが一番ふさわしいように思います。

なんといっても、彼女らの名前がWendy FlowerとBonnie Flower! しかも、生まれ育ったのが花のサンフランシスコですから・・・。ちょっと出来過ぎのようですが、Flowerという姓は芸名ではなくて本名とのことです。ちなみに、両親のFlower夫妻はプロのミュージシャン(父親はドラマー、母親はシンガー)でした。

アルバムの色合いとしては、メランコリックでトリップ感のあるフォークチューンが主体ですが、LPの各面の先頭にビートの効いたロックナンバーを配したり、ファズギターが印象的なサイケ調の曲がラストナンバーだったりで、意外にロックっぽいと感じられるかもしれません。ラリー・カールトン(ギター)、ジム・ケルトナー(ドラム)、マイク・メルボイン(キーボード)といった西海岸の一流どころがバックをつとめていることも、その要因のひとつでしょう。彼らのメリハリのあるタイトな演奏と、この手のソフトロック系のプロダクションにはつきもののストリングスやホーンが入っていないということが、この作品の個性となっています。

そのへん、海外のサイケ関係のレビュアーによる、「プレーンな西海岸物にすぎない」といった評も見うけますが、全編を覆う、どこか浮世離れした二人のハーモニーに「サイケデリック」を感じるのは私だけではないと思います。これは偶然の結果かもしれませんが、リードボーカルのウェンディはレコーディング時に(扁桃炎やら喉頭炎で)喉の具合が悪かったそうで、風邪気味で熱に浮かされたような独特のアシッド感が醸し出されています。

プロデュースの意図として、あまりアレンジや凝った音作りを加えないで、素材(全曲姉妹によるオリジナル!)の曲の良さ(*1)と、ふたりのピュアなハーモニーを生かそうと考えたのではないでしょうか。本作に関してはそのような制作意図によるプレーンなバッキングで正解だったのだと、聴くたびに確信するようになりました。

面白いのは、ボーナストラックに収められている、アルバム制作前に姉妹が参加していたCrystal Fountainというバンドのアセテート盤からのカットです。これが、JA風の男女混声サイケナンバー(ボニーがドラムを叩いている。これも二人の作)で、地元シスコのサイケデリックシーンにどっぷりハマった、元々サイケ寄りの感性を持っていた早熟な姉妹だったのだということがわかります。

さて、めでたくアルバムが発売され、ビルボードにも広告が打たれて、地元のテレビ局への出演など華々しいデビューを飾ろうとしていた矢先、契約元のジャズ系レーベルのSkyeが突然倒産してしまいます。また、1971年には、アルバムのプロデュースとアレンジを担当したレーベルオーナーのヴァイブ奏者で、音楽上の父ともいえるGary McFarlandが、薬物中毒による心臓発作で急死するという不幸にも見舞われます。

ウェンディは高校卒業のひと月前に学校を辞めて、プロのミュージシャンとして身を立てるつもりでいたために、いっそう不運でした。その後も、あくまでメジャーな音楽活動を目指す姉に対して、大学進学を希望する妹との意見の相違などにより、ふたたびWendy & Bonnieとして表舞台に立つことはありませんでした。しかし、ふたりとも個々にローカルな音楽活動はずっと続けていたようです。(Genesis再発を期に、再結成によるセカンド制作という話もあるとか・・・。)

ところで、「ソフトロックAtoZ」等で言及されていた「ウェンディ&ボニーのウェンディは、プリンスファミリーのウェンディ&リサのウェンディ」という話はウソです。Love Generationの話といい、どうも日本のソフトロック関係者の中にこのようなデマを流している輩がいるのではないかと思えるのですが・・・。

*1
"You Keep Hanging Up On My Mind", "The Winter Is Cold"など、独特の歌いまわしが耳について離れません。ボーナストラックにふたりの歌とBonnieのアコギだけのデモテイクが収められていますが、まわりの大人たちによって「つくられた」ものではなく、ホンモノの才能だったことがわかります。特に、手練れてなくてウブなところが良いです。