仁木悦子 『棘のある樹』
私はジョロを放りだし、私たちをとりかこんでいる大小さまざまなシャボテンどもを、
いまいましくにらみまわした。
( 地の文・仁木悦子の心 )
ジョロやシャボテンといった当時の生きた言葉が文章に表れてくると、
ひどい事件であるにもかかわらず、なぜだか微笑ましく思えてしまう。
そんな仁木さんの文章の魅力に僕はたまらなく引かれてしまう。
本日紹介しますは、仁木悦子さんの 『棘のある樹』 です。
写メールでの画像であるため粗いのはご容赦。
それにしても黒猫いいなあ。
- 仁木 悦子
- 刺のある樹
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知る人ぞ知る名探偵コンビ、仁木雄太郎、悦子兄妹を、ある日一人の紳士が訪ねてきた。ここしばらくの間に何度も命を狙われるような体験をしたので相談に乗ってほしいというのだ。
紳士の話では、一度は、横丁から飛び出してきた車にひき殺されそうになり、二度目は川の中に突き落とされたという。しかも最近、怪しい男に自宅を覗かれるに及んで、遂に仁木兄妹を頼ることにしたわけだ。話を聞いた兄妹は、早速事件解決に乗り出した。だがその矢先、紳士の妻が何者かに絞殺されるという事件が起きた・・・・。
軽妙なストーリー展開と綿密な構成、燻銀の巧さが光る傑作長編推理!
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仁木さんを「日本のクリスティ」と評する時もあるのですが、構成能力や語り口のやわらかさ、
一見アクロバティックに思えがちでもその実手堅いトリックを使っている方法、
クリスティの筆を思わせる筆力を感じることから、旨い喩えだと思います。
今まで読んだ仁木さんの作品を通して言えることに、サスペンスドラマを見ているような、
妙な現実感を小説内に感じる瞬間があります。
前述のシャボテンなどの愛らしい言葉や、雄太郎の植物に関する知識など、
様々な事件とは関係のない魅力がそうさせているのでしょう。
『棘のある樹』 は雄太郎が温室でシャボテンに水遣りをしている場面から始まる。
乾燥した気候を好むシャボテンに水をかけてやってもいいのだろうか?
そう疑問に思う悦子に雄太郎は 「これだから素人は困る」 といった顔つきで
どういったシャボテンに水が必要とされているかについて説明する・・・
なんだか一つ頭が良くなった気分にさせられました。
今回の事件は、ポワロが乗り出してきてもおかしくないくらい本格的な事件でした。
絞りきれない容疑者、崩せないアリバイ、そしてちらつく謎の人物の影・・・
黄金時代の香り漂う純粋なwhodonitののおもしろさがあります。
また、探偵役の失敗や、不謹慎なほどに興味を持つ悦子の姿など、
作者の発するメッセージにハッとさせられてしまう瞬間があります。
ちょびっとほろ苦い瞬間を味わうことで、より二人の魅力が増しているのかもしれません。
解決後の雄太郎の後姿に人間的な成長を見ることができました。
まるで映画やドラマを見ているような、とても安定した筆力に乗せられてしまい、
ひさびさに全てを忘れて読書に没頭してしまいました。
仁木さんの小説は安心して読むことができ、純粋に楽しむことができて嬉しいです。
この本を惜しげもなく僕にくださった副会長Bに感謝!
whodonit や whydonit 、クリスティが好きな人は買いです!
暗号小説 『秘文字』 復刊を目指して!
ミステリ好きの皆さん、本日はミステリが大好きな皆さんにお願いがあります!
『秘文字』 の復刊を実現させたいのですが、ご協力をばお願いいたします!
《《 復刊ドットコム 『秘文字』 》》
『秘文字』とは暗号研究家の長田順行さんの編集の下、
泡坂妻夫さん、中井英夫さん、日影丈吉さんの三人が書き下ろした暗号小説をまとめた短編集。
文字通り全編暗号で書かれており、解読しない限りは何が書いてあるかもわからない、
ミステリ史上稀にみる奇妙な本です。
泡坂妻夫さんの作品は 『かげろう飛車』
中井英夫さんの作品は 『薔薇への遺言』
日影丈吉さんの作品は 『こわいはずだよ狐が通る』
これらの作品に加え、暗号論や長田さんの暗号解読法などが付いており、
基本的な暗号解読法により一般読者も解読できるよう作られているそうです。
ついぞ解読できなかった読者には解読された解答まで容易されている親切さ。
そのような本格的なパズル小説の性格と、艶のある作品を書かれる泡坂さん、
独特の文体を持つ中井さん、文学とミステリのハザマを突き進む日影さんと作家陣にも恵まれ、
内容の方にも自然と期待が高まります!
オークション等でたまに見かけても10000円を超える高値安定傾向、
絶対数が足らないためか、古本屋を歩き回っても見つからない状態。
それが復刊されるとなったら喜ぶミステリ好きさんも多いと思います!
興味を持たれて、復刊された場合購入する意志のある方、
ぜひ一票投じていただきたく思います。
投票数が100に到達してからが復刊の交渉が始まるようです。
まずはドアを叩けるところまで行きたいものですね!
麻耶雄嵩 『メルカトルと美袋のための殺人』
メルカトルはステッキ片手に揚々と引き上げていく。
何故おれはこいつと友達してるんだ・・・
( 地の文・美袋の心の内 )
銘探偵メルカトル鮎と推理小説作家の美袋三条、ただの名探偵役とワトソン役では無かった・・・
美袋とメルカトル、一見違う人種に見えますが、根本的には同じ人間なのではないかと思います;
だから友達してしまっているのではないのかなあ・・・ 謎です;
本日紹介いたしますは、麻耶雄嵩さんの短編集 『メルカトルと美袋のための殺人』 です。
- 麻耶 雄嵩
- メルカトルと美袋のための殺人
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ウラジオストクからモスクワへ向かうシベリア急行。その車内で作家・桐原剛造が殺された。死亡推定時刻、同乗者たちには食堂車で夕食中というアリバイが。密室殺人から奇妙奇天烈な不可能犯罪まで、銘探偵・メルカトル鮎と推理作家・美袋三条が空前絶後の推理力で事件の真相を看破する!新本格推理傑作集。
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以前紹介した 『翼ある闇』 よりも時系列的には前の話となっています。
七つの話からなる短編集で、紹介文にもあるとおり、密室ものからトンデモまで色彩に富んでいます。
何よりも濃い色をしていたのは、件の銘探偵・メルカトル鮎・・・
『翼ある闇』 、 『夏と冬の奏鳴曲』 では、さっと現れて一言放ち、読者に衝撃を与える存在。
探偵というよりもトリックスターと言えなくも無い一種独特な存在感を放っていたわけですが、
今回の 『メルカトルと美袋のための殺人』 ではちゃんと名探偵役を演じていました。
底知れぬ邪悪さと鬼畜さを備えた名探偵ですが;
人を人とも思わず、目的のためなら手段を選ばぬ外道探偵、それがメルカトル鮎です。
もちろん助手役の美袋に対しても同じような態度で接しています。
その結果、小説内で幾度も 「殺してやる」 と美袋に思わしめる始末・・・
きちんと(?)事件を解決するだけマシかもしれませんが、とにかくヒドイ。
治められている作品は、多種多様。
・美袋の恋心から始まる麻耶節 『遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる』、
・本格推理の空気ただよう 『化粧をした男の冒険』、
・どこかしらホームズの香りがする 『小人閒居為不善』、
・ホラー要素を含んだ 『水難』、
・メルカトル鮎の書いた犯人当てに挑む作中作形式の 『ノスタルジア』、
・本作中最もメルカトルの鬼畜度が高かった 『彷徨える美袋』、
・そしてシベリア急行を舞台に行われた密室殺人事件 『シベリア急行西へ』。
以上七編。 これでもかっというくらい豪華です!
暢気な雰囲気がありながら、最後の一行で不穏な空気を漂わせる 『小人閒居為不善』。
図や明確なアリバイが明示されており、ライトな読者も推理に参加できる 『シベリア急行西へ』。
この2作が僕の好みには合いましたが、皆さんはどうでしょう?
『ノスタルジア』 では作中人物を通してメルカトルの思考を感じることができますし、
『化粧をした男の冒険』 では銘探偵の独善的な邪悪さがにじみ出ているかと思います。
どの短編にも一つ二つは、「え!?」と思わされるような状況や、メルカトルの発言、
ジェットストリームアタックや死兆星など、遊んでいるのかと思ってしまうような記述があります。
『翼ある闇』 や 『夏と冬の奏鳴曲』 に比べるとインパクトは弱いと感じますが、
前二つが異常なほど強いインパクトがあった、ということだと思います。
決して軽い読み物ではありません、この作品も充分強烈です;
どろどろとした陰惨な家庭内問題が好みの方 → 『翼ある闇』 (イチオシ)
アンチミステリの魅力、眩暈を感じる嫌な気持ちを求める人は → 『夏と冬の奏鳴曲』
不条理さや読み切りやすいものを求める方は → 『メルカトルと美袋のための殺人』 をオススメします!
麻耶雄嵩さんの 『神様ゲーム』 も手に取ることになるでしょう。
鬼畜、麻耶節、新本格もの、メルカトル鮎、メルカトル鮎、メルカトル鮎が好きな方、絶対買いです!
しかし、メルカトル鮎、好きであんな格好していたわけでは無かったのか・・・
我孫子武丸 『8の殺人』
「いいです、もう!田舎に帰って、乾物屋を継ぎます!」
「やかましい!早くしないと俺が突き落とすぞ!」
( 速水恭三警部補とその部下木下の会話 )
本日紹介しますは、我孫子武丸さんのデビュウ作 『8の殺人』
- 我孫子 武丸
- 8の殺人
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”8の字形の屋敷”ゆえに案出された、不可解極まる連続殺人。速水警部補と推理マニアの彼の弟&妹の三人組が挑戦するが、真相は二転三転また逆転――。鬼才島田荘司に”本格ミステリー宣言”を書かしめた、二人目の大型新人の本格的にして異色、かつ絶妙なユーモアで味付けした傑作長編推理デビュー作!
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我孫子武丸さんの作品は初めて読んだのですが、『殺戮にいたる病』 など話を聞いていると、
麻耶雄嵩さん以上にカタストロフィに満ち満ちた作風なのだろうか・・・など不安に思ったりしました。
しかし、二階堂黎人さんの掲示板に対する書き込みなどを読んでいると、
なんとなく人の心をひきつける温かみのある人だなあ、と思わされたりもしました。
デビュウ作にあたる 『8の殺人』 を読んでみたところ、実際は、後者の方じゃないかなっと思えます。
主人公は速水三兄妹で、長男の恭三(警部補)、次男の慎二(喫茶店マスター)、そして一郎(妹)の三人。
三兄妹の父親が、息子を三人作って 「逆から名前を付けていってやろう」 と計画したものの、
末っ子が女の子になってしまい、一郎という名前の女の子が誕生したわけだそうです。
プロットとは直接関係の無い記述ですが、こういうエピソードが作品をおもしろくする要素だと思います。
何よりも面白いのは、警部補恭三とその部下木下のやりとりではないでしょうか。
落語的というか、スラップスティック調のドタバタ喜劇が展開されているようで、
僕にとっては非常になじみやすい笑いの要素でした。
木下が思った通りにやられていく様は、サディストでなくても笑ってしまうかと思います。
どろどろした因縁や、精神を削られるような怖さは全く無いものの、
ユーモアミステリの醍醐味が充分に出ているのではないでしょうか。
作品の構成も親切で、要所要所に見取り図や、詳細な図が挿入されており、
ネタバレ回避のために注を付けたり、モトネタを提示したりと、
常に読者を意識した書き方をされているかと思います。
作中に出てくる推理小説に対する言及も、知っているもの、知らないもの、読みたいと思っているもの、
様々なものに触れられており、ニヤリとしてしまうこと間違いなし。
とくに奇術探偵マリーニについて書かれていたときは 「オオ!」 と思ってしまいました。
そして、そのマリーニの注には、「泡坂妻夫みたいな人」 と書かれており、なんだかおもしろかったです。
トリックや、事件性、館の構造など、専門家が見たらツッコミどころ満載なのでしょう。
そのようなツッコミをいれたところで、おそらく、おもしろいという評価は変わらないと思います。
ただ純粋に推理するという本格の醍醐味を味わえれば良いものだと思います。
この小説で目を引くのが、巻末で島田荘司さんが寄せている 『本格ミステリー宣言』。
なぜ島田荘司さんが新人に力を注ぎ後押しするのか、どういうところに問題があり、
どういうところを良くするために島田荘司さんが活動していたのかがわかります。
その辺りの経緯を知らなかった僕は 「なるほどなあ」 と妙に納得してしまいました。
陰惨な事件よりも軽快な文章や会話が好きな方、買いです!
鯨統一郎 『あすなろの詩』
「言っても判らないだろ。 『ドグラ・マグラ』 っていうんだ」
「夢野久作だろ」
(甲斐京太郎と玉岡千春の会話)
こんな会話にシビれる、憧れる!
見知らぬ相手と 『ドグラ・マグラ』 をきっかけに話し始めてみたい!
そう思わせてくれる一冊でした。
それにしても、受験会場に 『ドグラ・マグラ』 を持ち込む受験生って・・・
そんなわけで、本日紹介いたしますは、 鯨統一郎さんの 『あすなろの詩』
- 鯨 統一郎
- あすなろの詩
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鯨統一郎がかってない挑発をあなたに投げかける!
甲斐文太郎は星城大学入学後、文学青年・玉岡と共に文芸クラブ「星城文学」を立ち上げる。二人の目的は、以前大学内で発行された同人誌「あすなろの詩」を復刊すること。しかし、凄惨な事件に巻き込まれることに…。
本格ミステリ躍り食い!四季折々、魚まみれの驚愕トリック4連発!!
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Amazonから引っ張ってきた紹介文なのですが、「?」 という疑問符が頭に浮かびあがりました。
魚まみれ? なんだかわかりませんが、よしとしておきます!
意味がわかっておられる方、こっそりとコメント欄にてお教えください;
以前、カラクリリリカル(管理人B)の記事
で取り上げられていたものですが、
まだミステリを読み始めて間もなく、この世界の右も左もわからなかった僕は、
トンデモミステリ教科書 『ミステリアス学園』
を購入しました。
いつか買おう、と思いつつ、約半年が過ぎ、やっと手に取る準備ができました!
作中にちりばめられた純文学作家やミステリ作家の名前や作品、
そしてそれらのイメージを持つ言葉の数々、それらの文字面を見ているだけで、
ミステリ好きや文学青年ならば、ニヤリとすること間違いなしです。
とくに、鯨統一郎さんの作家さんたちに対する評価はおもしろかった。
泡坂さんに対する評価や、中井英夫さんの『虚無への供物』に対する言及。
「なるほどぉ」 と思ったり 「おおー!」 と思ってしまいました。
鯨統一郎さんの特徴として軽妙な文体があると思うのですが、どうでしょう。
作品が 「青春もの」 の風味があることや、論理論理の理詰めでは無いこと、
そしてその独特の文体から読みやすい小説になっていると思います。
380ページを苦無く賞味2時間強で読み終えることができました。
さて内容ですが、失われた文芸誌 「あすなろの詩」 を復刊すべく、
星城大学の学生六人が、文芸倶楽部 「星城文学」 という部活動を開始する、というもの。
ここまで説明を読んだ感じですと、一見、米澤穂信さんの 『氷菓』 を思わせるものがあります。
しかし、内容は全く違うもので、舞台が高校ではなく大学ということもあり、
部活内恋愛のどろどろ加減や、その後味など一味違ったものを感じます。
青春モノとして見た場合、『氷菓』 の方がさっぱりとしていて好みに合います。
「星城文学」 を立ち上げた部員たちの目標は 「あすなろの詩」 を復刊させること。
そしてもう一つ 「プロの作家としてデビュウする」 各個人の目標がありました。
作家志望が四人おり、その内一人が過去に佳作として入賞する偉業を達成している…
その上そこに恋愛が絡んでくるので、どろどろもいいところ、
他人事ながら主人公の恋がどうなるのか、ハラハラしてしまいました;
主人公の恋はどういう結末を迎えるのか?
「あすなろの詩」 は無事復刊することができるのか?
作家志望のメンバーはデビュウすることができるのだろうか?
鯨統一郎さんの差し出した答えを、僕たちは受け取ることができるのだろうか!
なんて、ちょっと煽ってみたりします。
本格ミステリと謳われているため、がちがちの本格ものか、と思って買うよりも、
「ミス研もの」 や 「青春もの」 として買ったほうが楽しめると思います。
「ミス研いいなあ」 と思ったお方、僕たちと雑談しながらミステリについて話しませんか?
そんなあなた、是非コチラまでご連絡ください↓↓↓↓
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時間の無い社会人のためのインターネット部活:
ネットミステリー研究会『Mistereader's Net』通称ネトミス
。
来年の11月に出す会誌、創刊号なので、がんばらないとなあ。
ブラーボー!! RSC 『夏の夜の夢』
まさにシェイクスピア劇の神髄・・・
一週間に渡り僕たちに夢を見させてくれたロイヤル・シェイクスピア・カンパニの 『夏の夜の夢』 が、
万雷の拍手と共に、2005年12月17日土曜日、ゆっくりと幕が下された。
一生に一度見られるか否かの劇だったということは、考えずとも感覚でわかる。
その場に居合わせることの出来た僕たちは、その瞬間最も幸せな人々のうちの一人だったのです。
先週の土曜日、待ちに待った RSC日本公演の 『夏の夜の夢』 を観てまいりました!
なんと言うか、もう最高と言うしか表現しようがありません。
劇中、あまりの興奮で、にぎったこぶしを振り振り、大笑いしておりました。
幻想的!まるで夢の中の景色のような舞台演出に恍惚とさせられました!
「役者たちは皆影法師」 というセリフが芝居のラストにあるのですが、
舞台後方に設置されたスクリーンに投影される役者たちの影、この影が役者と共に演技をするのです!
現実の役者たちの劇と影たちの劇が二重に展開されておりました。
そして舞台に浮かび上がる星やカンテラの灯りの美しいこと。
まさかこれほどの美しい舞台演出を海外(彼らから見て)で見られるとは思いませんでした。
セリフもはっきりと緩急あるもので、ゆったり三時間使ってくれる豪華さ。
マニヤックなことを言うと、あの 「P」 の発音!これこそ英語って感じです。
つばを飛ばすかのような破裂音、気持ち良いくらいの思いきりの良さでした!
・・・劇本題に戻ります;
今まで見てきた 『夏の夜の夢』 と異なる点にオベロンの描写がありました。
今回のオベロンの男らしいこと!露出度が高く、身体のラインがはっきりと浮き上がる衣装。
がっちり分かれた腹筋に盛り上がる筋肉、悪魔的な魅力を感じました!
一挙手一投足に威厳を感じ、まさに 「王」 という表現がピッタリくる演技でした。
ジョー・ディクソン、このオベロン王の演技にピンと来た方は覚えておきましょう。
(インタヴュや一部舞台演出について→ http://www.natsuyume.jp/news/index.html#news5 )
何よりもこの喜劇をおもしろおかしくしてくれていたのが、劇中劇『ピラマスとシスビー』!
今回の 『ピラマスとシスビー』 はとにかくおもしろい、と前評判が高かったのですが、
おもしろいどころじゃない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
抱腹絶倒、あまりの滑稽さに会場全体が笑い声に包まれていました。
「静か」 が特徴の日本の劇場がコレホド賑やかに沸いたのは珍しいことです。
笑い声にのせられて、役者さんも悪ノリの一つや二つは絶対していたことでしょう!
敵国同士の戦士ピラマスとシスビー姫が、塀の裂け目越しに愛のささやきを交わすのですが、
この劇中劇では、その 「塀の裂け目」 が、一風変わっておりました。
まぬけな町人たちによる未熟な劇であるため、配役に 「塀」 という役があるわけですが、
ブロック塀の衣装に身を包み、全身漆喰で白く塗った 「塀」、自分の役どころを説明した後、
衣装であるブロック塀に裂け目が無いことに気が付くわけです。
通例、塀の裂け目は、「塀」 からニョッキリと出た生白い指で代用されるのですが、
今回のブロック塀は腕を出す穴すら無い!
四苦八苦した挙句、苦し紛れに 「塀」 は自分の股を塀の裂け目に見立てる始末。
このお尻の裂け目越しに愛のささやきを取り交わすのですからたまらない、下品も下品、
あまりの光景に目から涙が出るほど笑ってしまいました。
一般ウケするのが難しい下ネタすらハイクオリティな笑いネタにしてしまう、
鬼才グレゴリー・ドーランの演出の底深さには全く脱帽です!
森の中で行われる二組の男女によるドタバタ劇もとてもおもしろかった!
おちびさんで行動的なお姉さん肌のハーミア、背は高いけれど妹分のヘレナ、
ハーミアと恋仲にあるライサンダーに、そのライバルでハーミアの許婚であるデミートリアス。
中でもハーミアのアクションには笑わされました!
まるで 『じゃじゃ馬ならし』 のカタリーナよろしく、暴れ馬のごとく縦横無尽に舞台を走り回るハーミア。
ライサンダーに飛びついたり、男性二人を足にぶら下げても力ずくで引きずり、ヘレナに挑むハーミア。
型にはまった貴族の女性ではなく、奔放な女性の魅力が出ていたと思います。
演出上最も評価すべきところは、前年の来日で着想を得たという、文楽の技法で操られる人形。
オベロン妖精王とティターニアの不和の原因として、インドの子ども、があるのですが、
その 『インドの子ども』 なんと動く人形でした。
黒子のような妖精たちに支えられ、奇妙に艶かしく生き物のように動く人形…
妖しくも興味をひきつけられる異様とも言える存在でした。
「妖精たちは見えない」 という芝居上のお約束と 「黒子はいない」 という歌舞伎等のお約束、
響きあうものがあるのでしょう、相性が良かったと思います。
あっと言う間の三時間でした・・・ 終わってしまい哀しい気持ちでいっぱいです。
興奮でほてった体に12月の夜の風がとても冷たかった・・・
白く輝く月も、舞台が終わってしまった哀しさに、夢から覚めた感を与えてくれるだけでした。
この 『夏の夜の夢』 を思い出すと涙が出てきそうなほど心が揺れます。
久々に 「芝居の良さ」 を思い出させてくれる公演だったと思います。
一生に一度見られるか否かのおもしろい喜劇だったのではないでしょうか。
この舞台に出会えたこと、何て幸せなんだろうと思い出す日が来ると思います。
来年も来てくれるかわかりませんが、次回RSC日本公演も必ず行かなければなりません!
文句なしの今年No.1! 平幹二郎さんの 『冬物語』 は2位というところで、今年の演劇は終わりです。
次の演劇は1月7日の 『ミュージカル・グランドホテル』 これも期待大です。
なんて言ったって前田美波里さんが出ているのだから!!
綾辻行人 『水車館の殺人』
この絵ゆえに、それは 「水車館」 でなければならなかったのだ。
(水車館の殺人・地の文)
本日紹介しますは、綾辻行人さんの 『水車館の殺人』 です。
館モノ第二弾。買ったのは先月の今頃でしたので、約一ヶ月放置してしまいました。
- 綾辻 行人
- 水車館の殺人
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古城を思わせる異形の建物「水車館」の主人は、過去の事故で顔面を傷つけ、常に仮面をかぶる。そして妻は幽閉同然の美少女。ここにうさんくさい客たちが集まった時点から、惨劇の幕が開く。密室から男が消失したことと、1年前の奇怪な殺人とは、どう関連するか?驚異の仕掛けをひそませた野心作。
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綾辻さんはあまり好きではないかもしれない、と思ったこともありましたが、
半年間ほどミステリを読み進めた結論、綾辻さんが好きです。
この作品の舞台は巨大な水車の付いた館。館と言っても、大きなお屋敷がボテーンとあるものではなく、
□の形をしていて、北西、北東、南東、それぞれの隅に塔があり、南西が入り口。真ん中は中庭。
そしてそれぞれの塔を回廊が結んでいるわけです。
この回廊、いいですねえ。 回廊には物語性があって好きです。
その水車館の住人は、過去の事故により顔と足を失った館の主・藤沼紀一、
十数年間外界から隔絶された環境に幽閉されている黒髪の美少女、妻・藤沼由里絵、
機械仕掛けの執事・倉本に、不自由な館主を世話する家政婦。
そして、キーとなる 「絵」 に惹かれ、訪れてきた客人たち・・・
人物設定などには他の作家の過去の作品に似たものを感じざるを得ませんが、
それはそれで、古典もののような感じがし、僕にとっては良いモノと思いました。
本格推理モノのおもしろさが滲みでているのでは無いでしょうか。
それっぽい設定でも陳腐なものにならない理由は綾辻さんのストーリーテリングにあると思います。
作品の難易度もそれほど高いものではなく、きちんと整理しながら読み進め、
空想を働かせれば、かならず事件の真相にたどり着くように出来ていると思います。
百戦錬磨のハードミステリーダーには物足りないかもしれませんが、
ハマりはじめのライトミステリーダーには 「十角館」 同様、楽しめる作品ではないかと思います。
一ヶ月も放置してしまい綾辻さんに対して申し訳ない気持ちで一杯になりました。
小人のようなものが本を隠しさえしなければ、もっと早く読み始めていたのですが・・・
物ってどうして無くなるんでしょうかね? ミステリです。
本格もの、奇妙な住人、嵐の山荘、好きな人は買いです!
麻耶雄嵩 『夏と冬の奏鳴曲』
本日紹介しますは 麻耶雄嵩さんの 『夏と冬の奏鳴曲』 です。
銘探偵メルカトル鮎第二段、今度は孤島ものです。
- 麻耶 雄嵩
- 夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)
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首なし死体が発見されたのは、雪が降り積もった夏の朝だった!20年前に死んだはずの美少女、和音(かずね)の影がすべてを支配する不思議な和音島。なにもかもがミステリアスな孤島で起きた惨劇の真相とは?メルカトル鮎の一言がすべてを解決する。新本格長編ミステリーの世界に、またひとつ驚愕の名作が誕生!
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先日紹介した 中井英夫さんの 『虚無への供物』 と同じく、アンチミステリに属する作品です。
アンチミステリの特徴として、ひとつ、衒学的ということがあるような気がします。
悪い意味でペダンティックと言っているわけではなく、小説的な魅力としてのペダンティックがあります。
ウンベルト・エーコが 『薔薇の名前』 で見せた学者ならではの膨大な知識も素晴らしいのですが、
どこかしら危うい魅力を備えたもの、それが衒学的な小説だと思います。
今回の 『夏と冬の奏鳴曲』 にもそのような危うい魅力がありました。
作中で触れられるキュビスムの概念と歴史、僕も詳しくはありませんが、
幼年より触れていたアポリネールから始まるキュビスム、そこから派生したシュルレアリスム、
何かが違うようで、違うと言い切れず、消化しようとしているうちに、小説内へ引き込まれてしまいました。
麻耶雄嵩さんの作品において、ご自身もどこかで言及されていた気もしますが、
『カタストロフィ』 という語がテーマとして常にあるようです。
日本語に直す場合難しく、大惨事や悲劇と直したら誤訳になりそうですが、
他の作家さんには見られない麻耶さんの独自性は 『カタストロフィ』 にある気がします。
何ともいえない残酷さや虚無感、めまいのするような嫌悪、悲劇の予兆を感じて冷や汗が出ます。
作中人物が突き落とされる奈落へ、僕たち読者も突き落とされ、
底へ叩きつけられた瞬間、事件の本質に気付かされる、そのような感覚を味わいました。
語りたいことや疑問に思うことが山とあるのですが、ネタバレを含むため自重いたします。
『夏と冬の奏鳴曲』 既読の方は カラクリリリカル(管理人B) の記事をお読みください。
(カラクリリリカルの書評) (カラクリリリカルのネタバレ有りの考察)
記事はもちろんですが、コメントもネタバレを含むため、自分の考えを持った上で読むことをお薦めします。
既読の方、Bと聖司さんのやり取りは必見!
最後になりましたが、アンチミステリの魅力、それは最後まで読み終えたとき、
結末に達していないことに気がつき、もう一度事件の原点に回帰することではないかと思います。
未読の方、メモ帳片手に、気が付いたことをメモに取りながら、唯一の真相を探してみると良いです。
そうすることで、この 『夏と冬の奏鳴曲』、魅力が何倍にも膨れ上がると思います。
自らの手で真相を究明することが好きな方、絶対に買いだと思います!
肩透かしを食らうかもしれませんが、本編を読み終えた後、
巻末のメルカトル鮎の一言で再び探偵魂がメラメラと燃え上がることでしょう!
次は小栗虫太郎さんの作品を買ってきたいと思います。
中井英夫 (塔晶夫) 『虚無への供物』
私は、さしあたって乙女座のM87星雲―――
反宇宙が存在するというそのあたりへ旅立って、
おずおずとこの本を差し出すほかはない。
これは、いわば反地球での反人間のための物語だからである。
( 塔晶夫 あとがき )
1962年、正の原子からなる正の地球に反小説が突如出現した。
作家の名は塔晶夫。唯一にして無二の反物質からなる小説を残し、
その後に続く作品を残さずして、ケミカルリアクションを起こし、消滅した。
『夏と冬の奏鳴曲』 と共に、今年一番熱中して読んだ作品になりそうです。
本日は、中井英夫(塔晶夫) 『虚無への供物』 を紹介します。
- 塔 晶夫
- 虚無への供物
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黒ビロードのカーテンは、ゆるやかに波をうって、少しずつ左右へ開きはじめた。
――十二月十日に開幕する中井文学。
現実と非現実、虚実の間に人間存在の悲劇を紡ぎ出し、
飛び立つ凶鳥の黒い影と共に壁画は残された。
塔晶夫の捧げた"失われた美酒"唯一無二の探偵小説『虚無への供物』を――その人々に
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先日、12月10日、中井英夫さん
の十三回忌が山口にて行われた。
1922年から1993年、大正の時代から平成まで、三時代を生きた作家だった。享年72歳。
TRICK+TRAPの戸川さん
のコメントが『パン屋のないベイカーストリートにて』
に載せられている。
巻末の出版代表者の名前を眺めながら、ふと13年前の12月10日に思いを馳せてしまう。
中井英夫さんは、この作品を描くために、それまでの人生の全てを捧げていた。
そして七年間世話したこの苗を品評する場として江戸川乱歩賞を選んだ。
第8回乱歩賞選考の日、妖しい光沢を持つこの 『虚無への供物』 という薔薇は、塔晶夫の命と共に散った。
江戸川乱歩賞を逃した中井英夫さんはこのように述べている。
七月三十一日
時間は九時十五分を廻って二十分に近い。
私の生涯を賭け、すべてを投じた小説はあっさり没になったのであろう。
しらせの電話はついに鳴らなかった。五百六十余枚。二度と書くこともない。
さらにまた永久に未完のまま土に朽ちるべきその物語のために、
ひとり苦い杯をあげよう。
他の人ならば、また、ということもあり、何度でも別の長編を書き上げる筆力を持っていよう。
しかし、ぼくは、生涯これしか書けず、この一作にまる七年の歳月を費やした。
ぼくの夢や希いは、それほどお粗末なものではなかった筈だが、
と、愚痴をこぼさずにいられぬ、どころか、泣いても泣ききれぬ、みじめさだ。
一人称「ぼくは」で始まる文章の、痛切な叫びに思わず涙してしまいました。
評価を受けてしかるべき作品と思っていたものが、
当然受けられると思っていた正当だと思っていた評価を受けられず、
厳しく残酷で、そして当たり前の現実の前に、崩れ落ちる様子が見える。
その苦しみは形を変え、小説の後半部にて、現れているように思えてならない。
小栗虫太郎の 『黒死館殺人事件』(1938) と夢野久作 『ドグラ・マグラ』(38) をはじめとし、
竹本健治 『匣の中の失楽』(78)、麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』(93) と続く、
アンチミステリと呼ばれるジャンル、それにこの作品 『虚無への供物』(64) は含まれている。
アンチミステリ、意味の定まらない言葉で想像をたくましくしてしまい勝ちだが、
冒頭で述べた中井英夫の言葉でアンチミステリ 「反推理小説」 の全てが語られている気がする。
『反』という語を見たときに、「ミステリに対抗する」 や 「ミステリに反旗を翻す」、
といったアンチテーゼもしくは否定的主張、反立を感じてしまうかもしれない。
間違いではないと思うけれど、『虚無への供物』 に関しては、批判的主張を感じない。
作品内において、女流ホームズ奈々村久生の口を借り、作家の姿勢がうかがえる。
主人公アリョーシャが事件を小説化する際、奈々村久生はこのように述べていた。
「むろん、探偵小説よ。それも、本格推理長編の型通りの手順を踏んでいって、
最後だけがちょっぴり違う――」
大枠にして本格推理ものなのであって、それを否定する立場では無いということだ。
似ているのにちょっぴり違う反物質のような、現実世界の裏側の世界の推理小説なのだ。
アンチミステリの意味は、それ以上でもそれ以下でもないのかもしれません。
『虚無への供物』、事件の核は氷沼家で起きる殺人事件 「ザ・ヒヌマ・マーダー」 にある。
現実と虚構を行き交い、解決したかに見えても必ず新しい謎が生まれ、
新たな事件へと枠が広がり、結局は最初の事件へと回帰していく…
何度も何度も大きなブレを繰り返しながら、やがて読者は 「ザ・ヒヌマ・マーダー」 の真相にたどり着く。
こんなに読ませられる小説、 『カラマーゾフの兄弟』 以来の衝撃でした。
複雑にして怪奇でありながら、殺人事件という重大性を無視し、
ぞくぞくするような推理ゲームに興じる名探偵たちの姿は、
推理小説を読む僕たち読者の姿でもあり、グロテスクな稚気があり、ぞっとしてしまう。
なぜなら、そのザ・ヒヌマ・マーダー推理ゲームはとても魅力的で、興味深くておもしろく、
読者も参加できる、百者百様事件の真相にたどり着くことができ、
氷沼殺人事件の本質なんて忘れてしまう質のものだからだ。
読み手を選ぶ推理小説だと思うのでオススメはしませんが、
耽美、虚構現実、薔薇、倒錯、メタミス、そういったものが好きな方は買いです。
というより既にお持ちであらせられるかもしれませんね;
追記:
僕はこの 『虚無への供物』 が完結しているようには思えません。
62年に前半二章を脱稿し、64年に後半部を付け足したということですが。
三章+最終章という組み合わせ、どうしてもあと一章あるような気がしてなりません。
また主人公に付けられた名前、アリョーシャ、言わずとも知れた 『カラマーゾフの兄弟』 の主人公。
上巻のみの 『カラマーゾフの兄弟』 を読めば、この作品に続きがあってもおかしくない、と思えるはずです。
作者の死と共に失われた 『カラマーゾフの兄弟下巻』、あるはずの無い 『虚無への供物―第二部』 …
僕まで 「ザ・ヒヌマ・マーダー」 にとりつかれてしまったようです。
RSC公演 『夏の夜の夢』 東京芸術劇場
大きな月が輝き、無数の星のきらめく夜空が舞台一面に浮かび上がる
12月13日付けの朝日新聞に目を通していると、ふと目に飛び込んできた文章です。
記事の内容はロイヤルシェイクスピアカンパニの来日公演
、
先週末に始まって中日を過ぎた 『夏の夜の夢』
についての批評でした。
グレゴリー・ドーランは稚気溢れる楽しい演出をして、
観客たちを 「これでもか!」 というくらい笑わせてくれる演出家さんです。
そのグレゴリー・ドーラン、今回の 『夏の夜の夢』 ではより幻想的に、
「巧みな光の魔法で魅惑的な幻想世界を展開して」 いるようです!
光と影、証明とシルエット、とにかく光を使った夢幻を見させてくれるようです。
そのような現実と虚構を行き交う演出方法は、まさにシェイクスピア一流の思想、
「人生は夢、人は影法師」
を印象付け、否が応でも期待が高まる演出です!
『夏の夜の夢』で展開される夢と現実の複雑に交錯する世界は、
日本の過去の詠み人知らずの歌
「この世とは夢か現か現とも夢とも知らずありてなければ」
を思い出させるものがあります。
作中にインドの子どもなど東洋的または異教的な装置がいくつも使われており、
人界と妖精界、操られたアイデンティティの交錯、果ては獣と人との境を越え、
midsummer madness 「ばかげた行為」 がまかり通る開放的な世界が展開されます。
それを光と闇で夢幻的に描くのですから、おもしろくないはずがない!
演出に関しては素晴らしいこと尽くめで、何も言うことはなさそうですが、
少々気になることが朝日新聞に書かれておりました。
批評をされている東大助教授河合祥一郎さんの話によると、
「来日公演初日は、その力が出し切れたとは言えなかった。
この夏、私がイギリスでこの公演を観たときは、
ボトムらの劇中劇は抱腹絶倒の出来であり、劇評家マイケル・ビリングトンも
「これほどこっけいなピラマスとシスビーは見たことがない」
と公言したほどだったが、日本人観客のおとなしい反応を意識しすぎたせいか、
演技が抑えられ、せっかくの力が炸裂していなかった。」
これから見に行ってみようかなと思っておられる皆さん、
笑いましょう!おもしろかったらお腹を抱えて笑って笑って笑ってください。
感動したら涙をぼろぼろ流しましょう。嗚咽がもれてしまっても構わないのです。
涙で潤んだ目、抑えることのできない笑い声、
そういったものが劇を何倍にも何十倍にも素晴らしいものへとしてくれます。
今回最も期待をしているのが、劇中劇 『ピラマスとシスビー』 です。
領主の結婚を祝うために、街の職人たちが素人演劇をするのですが、
百人の演出家がいたら百人の演出が、千人の読者がいたら千人分の空想が働く名場面!
その 『ピラマスとシスビー』 が過去最高級に笑えるそうです。
映画ではよく感動的とも言える芸術性をもって描かれる場合もありますが、
グレゴリー・ドーラン、直球で勝負してくるようです!
他にも文楽の影響を受けた人形使い、赤く染めた髪のやさぐれたパック、
グロテスクなまでのロバ頭、もう土曜日まで待てない気持ちです;
