No.32/ わかれ。
「お前が・・・お前が三島さんを殺したんじゃないか」
あふれ出す怒りを新井田は止められなかった
余計なこと言いやがって、という表情で新井田を睨みつける山本
そしてすぐに三島(父)の顔色を伺う
「・・・キミが、あっちゃんの・・・山本君の何を知っているかは知らないけど
この子がそんなことをするはずがない・・・」
真っ直ぐに新井田を見据える三島、その目には涙がたまっている
その表情は、死んだ三島とそっくりだった
そのあと新井田はなにも言えなかった、自分を見つめる三島(父)からは、山本への絶対的な信頼を強く感じられた
トボトボとその場を後にする、それについて他のメンバーも次々と帰っていく
残った山本と三島も帰路に着く、玄関を出て黒い空を眺めながら物思いにふける山本
・・・もう一度100点を取らないとおじさんは自由にはなれないのか・・・
くそっ・・・やっとオレのものになったんだ、絶対に、守り抜いてみせる・・・
「おじさんっ・・・帰ろう家に!」
三島の方に振り向く山本、そこには誰もいない
いつの間にガンツの部屋の扉は閉じられている、あたりを見回すも三島の姿はなかった
「おじさんっ!!!おじさんっ!!!くっそ、なんでだ・・・ガンツッッ、開けろぉぉお!!!
この中にいるんだろっ、なんでっ、オイ!・・・100点とったじゃねぇーかぁあ!!!」
何度も何度も扉を叩く、しかしそれが開く気配は全くなかった。
ガンツの世界、それとは全く逆の日常生活、一人の男がその世界に限界を感じていた
「あぁ~あ、ヒマだぁ~なんかないかなぁ・・・」
学校、昼休み、教室で昼食を取りながらつぶやく
「新井田ぁ、お前いっつもそれしか言わねぇな」
新井田 生、彼はガンツの手違いから、全く同一の人間が二人存在することになった
今、友人から話しかけられたのは普遍的な日常生活を送る、もう一人の新井田である
実際そうなんだからしょうがないだろう、と友人の肩を叩く
「そんなにヒマならさぁ、今日帰りゲーセンでも行かねぇ?」
「え・・・吾妻って陸上部だろ、サボるのかよ」
正直いきたくなかったので、話をそらす新井田
「ああ~、いいよ別に・・・最近記録伸びなくてさぁ、なんかどうでもいいって感じ
まぁ、そんなことは置いといて行こうって!」
「ごめん」
結局、吾妻は新井田に断られ一人でゲームセンターに向かう
・・・ったくよ~、アイツ人付き合い悪いんだよなぁ・・・
と文句を頭に並べながら歩く吾妻
そのとき、いきなり目の前を子供が通り過ぎ、そしてそのまま道路に飛び出していった。
・・・あ!?・・・車・・・
車が子供めがけて走ってくる、もうブレーキをかけても止まらないだろう
もう助からない・・・そう思う吾妻だが、足が勝手に動く
彼には自信があった、この一瞬で子供を助けられるほどの
足を、スピードを持っている、そんな思いが彼の体を動かしていた
・・・たいした距離じゃない、いける!
しかし、子供を抱え上げ、最初の一歩を踏み出そうとしたが、すでに車との距離は50センチもなかった
うおぁあっ、いつの間に・・・ヤバイ死、ぬ・・・
ん?・・あれ~なんか・・・すげぇ走馬灯とかよぎってるんですけど
これってほんとだったんだぁ~・・・周りがスローになるってやつ・・・
っていうか遅すぎじゃねぇーか!?・・・逃げればいいのに、何止まってんだよ俺!?
徐々に迫ってくる車、必死に体を動かそうとする吾妻
・・・うごっかねぇ、いや重い、体中が・・・すんげぇ重い!
くっそ!動いてくれ~、俺のからだぁ~!!!!!
ゆっくりだが確実に動いている、一歩、二歩と進んでいく筋肉が切れてしまうような痛みが襲ってくるが、死にたくないその一心で体を動かす
そして無事、車を避け、向かい側の歩道までたどり着くことが出来た
「はぁ、はぁ、たすかった・・・すげぇ、全然不調なんかじゃねぇじゃん・・・
これがあれば・・・、全国大会も夢じゃねぇ!!!」
次の日、彼は学校を休み、昨日自分に起こった現象をもう一度体験するために道路に来ていた
さて・・・正直なにも起こんなかったら俺死ぬよな・・・
だからってじっとしてらんねぇし、昨日の感覚を覚えてるうちに・・・なにかしないと!!
決心を固めた吾妻、タイミングをはかって道路へ飛び出す
昨日の件で彼の中にある恐怖感が吹き飛んでしまい、意外とあっさり車の前に行けた
・・・やばっ、ちょっと出るの遅すぎたかもっ・・・
車は吾妻の目と鼻の先まで迫っている
・・・おい・・・早く・・来いよ、火事場のばか力みたいなやつ・・・
・・・え、やばい、あたるよ、死んじゃうっっっ!!!・・・・
・・・って、もうキテルじゃん!!!
昨日と同様に周りの物が全てスローモーションになった
しかし、ときすでに遅し、吾妻の体は正面の車にめり込み、激しい痛みがゆっくりと襲う
骨が折れ、肉が裂ける、大量の血液が飛びちる、そして体が宙を舞う
・・・あ~、いってぇ~、何やってんだろ、バカだな俺って・・・
ゆっくりと地面に叩きつけられ、意識がなくなっていく
しかし、目が覚めた、覚めるわけがないはず、しかしこれが現実
彼は普遍的な日常生活から開放された人間、つまりガンツの部屋の住人となった。
No.31/ 黒い部屋 。
暗い、光が全く差し込まない、そして何の音もない
そんな中、一人の初老の男が目を覚ます
・・・ここは?・・・何も見えない・・・何も聞こえない
私は・・・死んだ、のか・・・
闇の中を当てもなく、フラフラとさまよう
すると、後方から強い光がさしこんだ
今度は逆にまぶしくて何も見えない、とにかく光の方に振り返る男
そしてゆっくりと、目をつむりながら光の方向に歩く
光源に近づくに連れて、耳が、微かな音を捉える
さらに近づく、何か、聞き覚えのある、歌
歌だ、歌が聞こえる
しかもこの歌は・・・
あの、異常な狩りの、始まりを告げる歌。
男は光に慣れ、次第にに見えてくる、目の前の光景を目にする
そこにあったのは、空中に浮きあがる文章
コレも見覚えがある、一見ふざけているようだが
記されていることすべてが事実なのだ
てめぇはま~た命を無くしました。
てつが、この方が
新しい命をくれました。
新しい命を
どう使おうと
この方の勝手です。
という理屈なわけでだす。
「!?・・・あっ・・・ちゃん・・・」
その文章のあとに、映し出されたものを見て、男は驚きのあまり声がもれた
そこにあるのは山本の姿だった、真剣な面持ちでこちらを見つめている
「な、なんでっ、私なん・・・
言葉を言いかけたが、金縛りにかかり、そのまま転送された
「あ・・・おじさんっ」
目の前に現れた、男に今にも泣きそうな、震えた声で呼びかける山本
それに答えるように男は山本に微笑む
「あっちゃんが、私を行き返してくれたの?」
山本の目をまじまじと見つめ問う男
「うん、やっと・・・100点とったんだ・・・」
「ありがとう・・・でも私なんかじゃなくて、自分のために使ってくれれば・・・」
「いや・・・そんなこと、これも十分自分のためだし・・・
オレが自由になるのは、おじさんとおばさんを自由にしてからだよ」
「ごめんね・・・、あ、広幸は?広幸はどこに?」
男は広幸こと三島広幸の実の父親、三島高幸である
そんな三島の、息子を心配する言葉に、表情が変わる山本
「あいつは・・・死んだよ・・・」
それを聞いた三島は山本の肩を掴み、嘘だ、という顔をした
「ほんとだよ・・・あいつは、もうすぐ100点だからって
自由になれるからって・・・一人で無茶して・・・それで・・・
オレ・・・アイツのこと止められなくて・・・おじさんっ、オレ・・・」
そんな山本の目には涙が浮かんでいた、もちろんその涙は
死んだ三島に向けられたものではない
「ふざけんな」
いきなり、新井田が叫ぶ
二人のやり取りを横から見ていた新井田
三島を殺したかもしれない山本が、本当の事のように作り話をしている
そのことが、新井田の頭のなかで、三島は山本が殺した、という事実を固めた
滅多に感情的になることがない彼でも、兄弟のような人を殺されて
黙っていられなかった。
No.30+α/ 終点。
「はぁ、はぁ」
「あと・・・7分しかないぞ・・・星人を倒すのはどうするんだッ!?」
「心配するな・・・そこはちゃんと準備してある・・・、ゴチャゴチャいってないで、続きを始めるぞ・・・」
対峙する三島と山本二人の戦いは未だに続いていた
武器を持っていない三島、そんな彼に容赦なく山本は黒い刀を振り回す
刀が長いため、一向に近づけない
逃げる三島、追う山本、中々決定打が出ず、ただ体力だけが消耗されていく
・・・はっ、山本に近づけないッ・・・さっきのように投石でもするか?
ダメだ・・・、オレが石を拾う一瞬のスキを狙われる・・・
・・・アイツは手加減して攻撃している
俺がスキを見せた瞬間を確実に捉えるためにッ・・・
・・・こうやって避けやすくすることで、油断を誘ってるんだ
くっそ!!どうすることもできない・・・
やっぱり・・・俺には・・・
山本を、アイツを倒すなんて、俺には・・・できない・・・
「はぁっ!!!どうした三島ぁぁあ!!なんかしてみろやッッ!!!」さらにあおる山本
三島はただ攻撃を避け続けることしかできなかった
そのとき、疲れから足がもつれる三島
それを見逃さない山本、容赦なく脇腹めがけて攻撃をあたえる
「終わりだぁぁぁああ!!!!」
ガツッッ
その瞬間とっさに両手で刃を掴む、そして思い切り踏ん張る
しかしあまりの勢いに地面をえぐりながら滑る三島
「はぁ、はぁ・・・山本、やっと捕まえた・・・」
刃を握り締める腕に力を込め、刀を思い切り引っ張った
「うおおおおお!!!」
それでも刀を離さない、今度は山本ごと刀を、ハンマー投げのように振り回す三島
「やまもとぉぉぉお!!!」そう叫びながら、思い切り振り回し校舎に投げつけた
ドゴォォオッッ
あまりの勢いに校舎を貫通して住宅街にまで吹き飛んでいった
「すまない・・・これで、よかったのか・・・」
山本を殺してしまったのではないかと身体が震える
しかしその震えはすぐに止まった
「あああああ!!!」雄たけびをあげ、鬼のような顔をした山本が
多くの瓦礫をかきわけながら、もの凄い勢いでこちらに向かってくる
ダンッ
弾丸のような速さで飛び上がり、一瞬にして三島との距離を詰める
そして硬く握り締めた拳を三島の顔面にめり込ませた
バキィィ
身体が地面に叩きつけられ、ボールのようにバウンドする
グダーっと仰向けになった三島、頭がボーっとする
・・・あ~、なんだ?誰だ?・・・山本か・・・
いってぇ、何すんだよ・・・人の顔殴って・・・
そっかぁ・・・俺、山本と、殺し合いしてるんだな・・・
ウッ!!また殴った・・・何発目だよ?・・・
そんなに殴ったら死ぬだろ・・・
ああ、本気なん、だな・・・や、まも・・・と・・・
強い衝撃のせいで意識がもうろうとする三島を、容赦なく殴り続ける山本
そしてスーツが壊れた事に気づくと、山本は手を止め、口を開く
「三島・・・これで、お前死ぬんだからな・・・わかってんのか・・・」
うわ言のように答える三島
「あ、あ・・・お、父さんと・・・お母、さん・・・を・・・
二度と・・・辛い、思いを・・・させ、ない、で・・・くれ・・・」
「・・・わかってる」
小さくうなずく山本
目を閉じて、握り締めた拳を振り下ろす
ドスッ・・・
鈍い音とともに三島の命は絶たれた。
「う、はっ・・・!?」
目を覚まし、ゆっくりと起き上がる新井田
慌ててあたりを見回すが星人の姿は見当たらない
「はぁ~・・・たすか・・・ったぁ」
!?
ふと何かに気づく、目の前に広がる戦いの傷跡
割れた地面、崩れ落ちた校舎・・・
それらの破片が散らばる中、一人の男が立っている
「ん、誰だろ?・・・あいつ、山本!?」山本が立っている、その下に、何かがある
なんだ・・・人!?
「・・・あ!・・・まさ・・・か・・・」
そのときいきなり目の前の景色が変わっていく
「あっ!ああっ!・・・」
戻ってきた、ガンツのある、あの部屋に
部屋にいたのは白川、須藤、西村の三人
すると慌てて西村が駆け寄ってくる
「よかった~・・・生きてたんだ
・・・てっきり死んじゃったかと思って・・・」
「ああ・・・何とか逃げきれたみたい・・・それより――」
目の前に山本が転送されてくる
その表情は今までの山本にはない、人間らしい顔をしていた
転送前のことを言いかけたが押し黙る新井田、ただ山本を睨みつける
ち――――ん
黒い玉から妙な音とともに文字が現れた
「あれっ・・・採点?」
「ちょっと待ってよ・・・まだ三島さんが・・・」困惑する新井田と西村
新井田の脳裏に転送前の映像が浮かぶ、山本の足元に倒れている
人のようなもの、あれは三島ではないか
しかし転送されてこないという事実、それは三島の死を意味している
新井田は全く実感できなかった
身近な人の死、心に、なにか穴があいたような、そんな感じがした
呆然とする新井田たちに関係なく、ガンツはいつものように採点をはじめた
新井田 くん
5 てん
TOtaL5 てん
あと 95 てん でおわり
今回初得点の新井田、しかしそんなことはどうでもよかった
その後も淡々と続けられる採点
西村0点、須藤15点、そして白川24点
高得点の白川は合計で42点に達している、それを見て自分でも驚いているようだった
山本 くん
20 てん
TOtaL112 てん
あと 0 てん でおわり
「あ・・・112点!?・・・すげぇ・・・」部屋に居る誰もが山本に注目する
するとガンツの表示が徐々に変わっていく
祝112点
あなたは見事目標点に
達しましたので
この中から
お好きなものをえらんでくだちい
山本は軽くため息をついた、今までの苦境の道のりを思い出すかのように
そして、黒い玉の表示が変わり、そこには「100点めにゅ~」と題された、三つの選択肢があった
1、記憶をけされて開放される
2、より強力な武器を与えられる
3、MEMORYの中から人間を再生できる
選ぶものは決まっていた
しかし流石の山本もそう何度も100点を取ることが出来るのか心配であった、決心がゆらぐ
ぐっと奥歯をくいしばる、ゆっくりと呼吸をし、口を開く
「ガンツ・・・メモリーから、生き返らせてくれ・・・」すると、画面から文字が消え
代わりに色々な人の顔が次々と表示されていく、その中には三島の顔もある
どうやらこれは今までにミッション中に死んでいった者達であろう
多くの顔の中から、一人に指を刺す山本
懐かしげな表情を浮かべながら、
「この人を・・・生きかえせ」
そう言うと、指名した人物以外の顔が消えていく
そして残った者の画像が弱い光を放つ
しばらくして、その光が一直線に伸び
転送のように、人間が頭から現れていく
「あ・・・ああ・・」
山本の表情が徐々に緩み、喜びに満ちていく
そんな山本の目の前に、一人の男が再生された。
No.29/ 予定外。
バシッ
須藤が引き金を引くより一瞬早く、星人の拳が銃をはじく
両手から離れ、足元に転がる二つの銃
間髪いれずに突きを放つ星人、咄嗟に左腕で攻撃を防ぐ須藤
痛みも衝撃もない、しかし
ゴキゴキゴキ
骨がねじれる音と共に左腕がグネグネと波打ち、風船のように膨らむ、そして破裂
バンッッ
「あぐうぅっ!!!」
はじけ飛ぶ腕、飛び散る肉片
長い間感じていなかった痛みが、一度に襲いかかったかのように感じる
痛みに耐えられずに、地面に膝をつく
あまりの痛みに意識が遠くなる
この世界にきて、山本と行動を共にしてからというもの
死を感じるような危機的状況が一度もなかった
それは圧倒的強さを持つ山本の存在があったからだ
今、一人になって思い出す、この世界の恐ろしさを
山本という男がいないだけで、ここまで簡単に死の淵に立たされるとは
自分の弱さに打ちひしがれる須藤
・・・確実にやられるだろうな・・・
須藤は、この絶体絶命の状況で自分の弱さに絶望するが冷静だった
恐怖と痛みで戦意が徐々に削がれるそんな中、彼の意識は
自分のすぐ後ろに転がる、捕獲銃に向けられていた
まだ終わりじゃあない
生き残ろうとする本能に、徐々に体が反応する
星人に気づかれないよう
正面だけをただ真っ直ぐ見つめる
なるべくゆっくり、ゆっくり、銃へ手を伸ばす
その間に星人に殺されるかもしれない、いや確実にやられるだろう
それでも須藤は残された最後の希望に賭け、そのチャンスを逃すまいと銃へその手を進ませる
ピクッ
星人が、何かに気づいたかのようにあたりを見回す
そして―――
バキィッッ
星人の体を包む漆黒の鎧にひびが入ったかと思うと
背中から大量の血液と共に鎧が粉々にハジケ飛ぶ
「ぷギャちッッ!!」妙な悲鳴を上げ、悶える星人
「ったく・・・遅すぎる・・・」つぶやく須藤
その一瞬の隙を逃さず、銃を掴み取り、引き金をひく
ギョ――ン
三角形の弾が飛び出し、星人に直撃、その瞬間
三角の頂点をつなぐ三本の光線が巨体に絡みつき、捕縛する
「ふう・・・終わった・・・」
大きなため息をつき、気が抜けたのかその場に倒れこむ須藤
彼の頭の中では、山本抜きで星人のボスを倒せた、そのことが駆け巡っていた
死に瀕した状態でも冷静さを失わなかった須藤だが
このときばかりは、ただ勝利の喜びに酔いしれていた
自分の左腕から血液が大量にあふれ出していることを忘れるほどに
「・・・ィ・・・ォイ・・・
オイッッ、起きろって、死んでんのかよお!!!」
その呼びかけにハッと目を覚ます須藤
目の前には、柏木のいつになく心配そうな顔
「・・・遅すぎだ・・・、何してたんだ、お前・・・」
ゆっくり口を開き、のそっと体を動かす
すると左腕に応急処置が施されていることに気づく
「ハハァ・・・生きてたんかよ、しぶてぇーヤツだ」
そういいながらも須藤の体を支える柏木
「・・・終わったのか?」
「いやぁ、聞こえんだろこの音」
校舎側からは未だに、地面を砕き、破壊する、激しい戦いの音が響く
「お前は、どっちが生き残ると思う?」
柏木の唐突な質問に押し黙る須藤だったが、しばらくして
「あの人は、三島を殺す・・・
あの人が負ける所を想像することができない・・・」
「だな、オレもだわ」
二人が話している間にも捕縛された星人は必死に逃れようと体をひねらせている
二人はそれに全く気づいていなかった
ギョ――ン
ギョ――ン
突如、そんな星人に発砲する者の姿が
柏木と須藤からさほど離れていない場所から銃声が聞こえた
ババンッ、バンッッ
ハジケ飛ぶ、しかし破壊されたのは鎧のみ、体自体にダメージは少ない
しかもその衝撃で体に絡み付いていた光線が消え、星人は開放された
何が起きたのかわからない様子の二人、銃声のした方を見つめる
そこには一人の女の姿があった
白川ユキミ
彼女は真っ直ぐ星人を凝視しながら、ゆら~っと近づいていく
「てめぇ・・・なにっ、したかわかってんのかっ!!?」
状況を理解した柏木が白川に詰め寄り、大声で怒鳴りつける
しかし
「そんなことしてる時じゃないと思う・・・、逃げないと死んじゃうよ」
白川の言葉に星人の姿を確認する柏木
体中から出血があるが、深い傷ではない、中途半端なダメージのせいで星人はかなり興奮していた
逃げた方がいい
頭に浮かんだその言葉を体が実行し、須藤のもとに駆け寄るはずだった
しかし、目の前にはいつの間にか星人が立っている
見えないほどの速さで繰り出される攻撃の前に、柏木は地に伏した。
スーツが壊れ、地面に崩れ落ちる柏木
グチャアッッッ
柏木の胴が粉々に弾け、胸から上と腰から下に真っ二つに分かれた
空中に散乱する肉片
そのとき近くにいた白川がいきなり星人に向け、ライフル型の銃を放つ
それに気づいた星人も素早く身をひるがえして回避する、が
ブチッ
左手の中指と人差し指が、なくなる
白川は、柏木の肉片が飛び散ったことで星人の注意力が削がれた一瞬のスキを見逃さなかった
「はやっい!?」
あまりの速さに驚きの声をもらす白川
攻撃の手を休めずにさらに引き金をひく
しかし先ほどのようにかすりもしない
イラ立ち始める白川に一気に間合いを詰める星人
突き出される無数の拳、それを紙一重でかわす白川
・・・ふう、早い・・・けど、なんとか見える早さ・・・
タイミングさえ掴めば・・・今みたいに避けれる・・・
攻め続ける星人の攻撃をかすりながらも回避する白川
その中で、攻撃のチャンスを伺うが全くスキがない
「・・・スキがないなら、作ればいい」
そうつぶやくと、柏木の上半身だけの死体にロックオンをする
そして柏木の頭をわしづかみにした
ブンブン死体を振りまし、星人に向かって思い切り投げつけた、と同時に引き金をひく
血や臓物を飛び散らせながら空中を一直線に進む柏木の半身
もちろん星人はそれを避ける
しかし星人のすぐ横を死体が通り過ぎようとした瞬間
バンッッ
弾ける、バラバラに弾けとんだ肉片がビチビチと星人にへばりつく
予期せぬ出来事に一瞬体が硬直する
ニヤッと唇が曲がる白川、待ってましたと銃を乱射しまくる
「アハハッハハハッッ」
原型がわからないほどにグチャグチャになった星人を前に、甲高い声を上げ楽しげに笑う白川
しかし笑い声がやんだかと思うと、急に泣き崩れる白川
まるで先ほどとは別人のように、全く逆の感情が表に表れた
そして転送が開始されミッションの終わりを告げた。
No.28/ きょうだい。
もうもうと漂う砂ぼこりの中、微かに動く物の気配を感じる
山本は伸びきった刀を縮めながらそれの様子を伺う
そのとき、分厚いほこりの壁を突き破り
何かが山本めがけ一直線に向かってくる
!?
――岩の弾丸、それは崩壊した校舎の破片であった
握りこぶし程度の大きさだがその向かってくる速さは尋常ではない
砂ぼこりが目くらましとなり反応が遅れたため回避不可能
ならば斬り落とそうと刀を握る両腕に力を込める、が長すぎる刀では防御が間に合わない
――くっ!!まともに喰らうよりはっ・・・
山本は刀を離し、高速の岩を両手で防ごうとする
ガッ
手のひらに直撃した岩は乾いた音と共に砕け散った
そして山本の両手は弾かれ、上体が仰け反る
・・・くそっ、あの野郎も・・・本気ってことか・・・
山本は渋い表情を浮かべ手放した武器を拾おうとした瞬間
ゴツッ
またしても投石、頭に直撃した岩は砕け
その場に倒れこむ山本
頭の中でゴツッ、という音が繰り返し響く
――油断した
今さっき三島が本気であることはわかっていた
しかし心の中で山本は、三島が本気で自分に仕掛けてくるとは思っていなかった
しばらくして今まで二人を隔てていた分厚いほこりの壁も薄くなり、見通しが利くようになった
起き上がった山本は、十数メートル先に三島の姿を確認する
対峙する二人、ふと目が合う
鋭い眼光で真っ直ぐ睨みつける山本
キョロキョロと用心深く様子を伺う三島
しばらく沈黙が続いたが
「なんで・・・なんでだ・・・」震えたような声でその沈黙を破る三島
「なんでこんな・・・こんなことしたって無駄だろう・・・意味、ないって」
「俺等もうすぐ100点とれるじゃないか!?それで、二人で、生き返せばっ・・・」
「違う」
三島の声を掻き消すように、強い口調で否定をする山本
「確かに、オレは絶対おじさんとおばさんを生き返す、その気持ちは今でも変わりはない
でもよぉ、お前の考えていることとは少し違う、そして今していることはオレにとっては意味がある」
三島はわけがわからなかった、だが山本がまた自分と戦おうとしていることを止めようと必死に叫ぶ
「わかんねぇーよ、全然っ!なんでそんな風になったんだよ山本?
あの時はそんなんじゃなかっただろう!!!」
「あの、とき・・・か」
昔を思い出すかのようにつぶやく山本
―――あの時、まだ三島の両親が生きていた時。
三島家3人がガンツの部屋に召喚され、二度目のミッション、その時に山本と出会う
三島と山本は年が近いせいかすぐにうちとけ、協力して過酷な星人暗殺ミッションをこなしていった
その頃の山本は、ガンツの不手際から生じたもう一人の自分の存在のために
自分の家に戻ることが出来ずに悩まされていた
そんな理由から、三島家に居候をさせてもらえることとなった
資産に恵まれてはいたが、親の愛情を全く受けずに育ってきた山本
そんな彼にとって三島家での生活は理想であり夢のようであった
三島家は山本のことを本当の兄弟のように、本当の息子のように接してきた
はずだった
この幸せな生活のなかにある違和感、彼の心の中に日に日に増してきているモノ
それが4度目のミッションで爆発した
大量の星人に囲まれ絶体絶命の危機に瀕した山本と三島
「あああっ、たすけてッ、殺されるッッ!!」
二人は悲鳴を上げ、助けを必死に呼ぶ
すぐに三島夫妻がかけつけ、まっさきに――
「ヒロユキッ!!今たすけるからっ!!!」
我が子を救出するため必死で戦う二人
それを横目で見ていた山本、彼は声をかけられることもなく星人と一人戦い続けた
結局、このミッションで生き残ったのは、三島広幸、山本敦也、この二名だけ
三島夫妻は息子をたすけるためにその命を落とした
山本はこのとき実感した、自分は本当の家族にはなれない
と、それはわかりきったことだが、現実が重く圧し掛かり、彼は次第に変わっていった。
「気づいたんだよ、おじさんとおばさんが死んだとき・・・
今のままじゃあ、オレはあの二人の本当の家族にはなれないってさぁ・・・」
口調は強いが、そこからは悲しみが伝わってくる
三島は自分達はまるで本当の兄弟のようだったじゃないか、と一歩踏み出しながら叫んだ
「まぁ、そうだった、確かに・・・こんな状況じゃなければな、それでも
わかるんだよっ、本物と偽者の違いってのが!」
「けど・・・わかったんだよ、オレが本当にあの二人の家族になる方法」
ス~っと右腕を上げ、人差し指をのばし、三島を指し一言
「お前を、殺すこと」
三島の存在、本物の存在はとても強大だった
親が我が子を可愛がるのは当たり前のこと
血のつながっていない、ただの居候ごときがそれに並ぶことなど出来る訳がない
なら、どうする
一つしかない、消すこと、本物を消すことだ。
「オレはお前を殺して、二人を生き返す、二人はオレのものだ」
殺意に満ちた山本の目、それを目の当たりにした三島、吐き気がした
とにかく気持ちが悪い、今まで感じたことのない吐き気が
次の瞬間、後方に飛ぶ山本、地面に落ちている刀を素早く拾い上げると
刃が縮みきっていないにもかかわらず水平に振りぬく
ガガッガガガッッ
崩れ落ちる校舎と共に鳴り響く、けたたましい騒音が、再び戦いの始まりを知らせる。
「ひゅう~っ、派手にやってるねぇ~、あの人は」
柏木が両手に銃を持ち乱射しながら言う
「それどころじゃない・・・この状況・・・」
緊張感の感じられない柏木に対し、焦りの色が見える須藤
今二人は北斗星人のボスを相手にしている、山本にはなるべく時間を稼ぐように言われていたが
須藤の言うようにそれどころではなかった
予想以上に強い星人のボス、普通の星人に比べ身の丈は3倍以上、そして体にはイカツイ鎧をまとい、圧倒的な迫力で迫り来る
「くっそ、あたらねぇ!!?俺らってアイツに見えてねぇよなぁ!!?」
二人は姿を透明にしているはずだが星人は、わずかな空気の流れを読み取り
巨体の割りに素早い体さばきでひらりとかわす
ロックオンしようにも銃口を向けた瞬間に範囲外へ逃げられ
これは素早いというより、二人の動きを完全に読んでいるようだ
「おいッ、須藤、マジでどうすんだコイツ!?」
流石に柏木も焦り始め、須藤に呼びかける
須藤は考えていた、どうすれば攻撃が当たるのか
近づけばスーツを破壊される、かといって銃での攻撃はかわされる
・・・なんとかアイツの死角を突けば・・・
やはり、遠距離からの狙撃が有効か・・・
思いたつやいなや、柏木に遠距離からの狙撃をするようと頼む
しかしそれは柏木が狙撃を始めるまで、ボスと須藤が一対一になるということだ
走り去る柏木を背に思慮をめぐらせる須藤
柏木が去っても星人が全く反応しないことに疑問を感じる
遠距離からの攻撃も回避可能なのか?
それとも一人ずつ確実にしとめるということか?
とにかく今は圧倒的に危険な状態である
今までは二人で乱射しており、ボスも守りに徹していた
その手数が二分の一になれば当然、攻める余裕ができる
・・・これは賭けだ
須藤には星人のボスの攻撃を防げる自信がなかった
右手に捕獲用の銃、左手に小型の銃を握り
とにかく隙が出来ないよう交互に撃ち続ける
しかしその間を縫うように近づいてくる星人
「うっ、・・・!!」
気が付けば、いつの間に自分の懐に拳が伸びてくる
ならば、と捨て身覚悟で捕獲銃のトリガーを引く
ギョ――ン
その瞬間、目の前にいた星人の巨体が、突如視界から消失し
三つの銃口から放たれた――三つの弾がそれぞれ光線でつながれた三角形の
――捕獲用の弾が虚しく闇の中に消える
なんとか攻撃は避けた、と思ったのもつかの間
須藤の後ろに星人の姿が
「アタタタタタタタタタァァァアアッッ!!!!」
あまりの突きの速さに、腕の残像が数十本にも見える
須藤の背中をこれでもかと星人の拳が直撃した
ゆっくり後ろを振り向く、目の前にある星人の巨体をただ呆然と見上げる
今からコイツに殺されると思うと、今までの何倍も恐ろしく感じてきた
「くっ・・・まだだ・・・」
まだ自分は生きている、そう感じると自然に銃を持つ手に力が入っていた
銃口を星人に向け、トリガーを引く、無駄とわかっているが最後の抵抗をする須藤
スーツもすでに使い物にならない、コレをはずしたら終わりだ
バンッッ
はじけ飛ぶ腕、飛び散る肉片
はじけたのは須藤の腕だった。
No.27/ 予定通り。
ギョ――ン
ギョ――ン
バンッ、ババンッ
「ふう・・・あと何匹だ?」
「ラスト一匹、あの学校の屋上にいるのって多分ボスっぽいわ」
学校近辺の建物の屋上から星人を狙撃する山本達
「ボスか・・・ボスはお前等に任せる、その代わりなるべく時間を稼げ」
山本が柏木と須藤にそう言うと、右足のホルスターから抜いた銃を渡す
「・・・捕獲用?」
その銃は三つの銃口が逆三角形にならんだものであった
「そいつで捕まえて、時間ギリギリになったら好きにしていい
・・・残り時間25分か・・・十分だな・・・」
レーダーに表示される時間を確認し、その場を後にする山本
「三島のヤツってもうすぐ100点だよな・・・あ~あ
・・・あの人殺す気だな、ハハッ、面白くなってきたなぁ~」
妙に興奮する柏木に突っ込む須藤
「その前に・・・ボスを倒すのが先だ油断するな・・・」
「わーってるってば、俺らだってこんなトコで死んでられるかっての」
二人はボスのいる屋上に向かう。
「はっ、最後の、一匹は向こうの校舎か・・・」
両手に小型の黒い銃を握る三島
今彼は星人がいる校舎の向かいにある別棟の裏を走っている
「くそっ・・・まだ二匹しか倒していない・・・
このままで100点とれるのか!?・・・残りの一匹は絶対に俺がッ・・・」
一刻もはやく星人を倒さなければ他のメンバーにやられるのではないか?
そう思うと焦りと不安がこみ上げてくる
「早く、早くッ・・・この高さなら・・・飛べるだろ」
足に力を込め、屋上めがけ飛び上がる
ダンッッ
つい力んでしまったせいか屋上を越え飛びすぎた三島
「ちっ・・・!?」
・・・あれ、は!?いた・・・星人のボス、と誰かが戦っている!?
向かいの校舎の屋上で柏木と須藤が星人と戦っている
着地した三島はすぐにそこへ向かおうとした
そのとき
「ミシマァァアアッッ!!!」
星人と戦う二人の後方から自分を呼ぶ者がいる
「や・・・まもと・・・こんな時に・・・」
向かい側の校舎から山本が叫んでいた
「お前にィィ、100点はッ、絶対にとらせねぇ!!!!」
しかしそれを無視し、走る三島
「まぁ、いいか・・・それより・・・
気をつけろ・・・その辺はロックオンしてあるからなぁ」
そうつぶやく山本、そしてライフル型の銃を向け引き金を引く
ギョ――ン
加速をつけ三島が飛びあがろうとした瞬間
バゴッ、ドゴゴゴッッ
三島の足元が一瞬揺れたと思うと、いきなりその周辺が陥没した
「・・・っ!!?」校舎の屋上が抜け落ち、瓦礫と共に埋もれる三島
山本はさらに、三島が埋もれている瓦礫に銃を向け
その一帯に多重ロックオンをする
そして思い切り飛び上がり、屋上のさらに上空で引き金を引く
ギョ――ン
瓦礫の山は一度に吹き飛び、破片と共に三島の体も宙を舞う
・・・ウッッ!山本・・・あいつ本気で俺のこと・・・・
浮いた体が降下し始めたとき、三島の目に遥か上空に飛び上がった山本の姿が見えた
山本は黒い刀の刃を伸ばせるだけ伸ばし、思い切り振り上げていた
一瞬目が合う二人
「やま・・・もと」
「ミシマァアッ!!」
ビュオオオッッ
天に向かって伸びた一本の黒い線が動き出したと思うと、もの凄いスピードで校舎を破壊しながら近づいてくる
ゴガッッッ
「がぁうッッ・・・!!!」
一直線に振り下ろされた刃が三島の胴体に直撃する
「おぁぁああぁああ!!!!」刀を握る手にさらに力を懸ける山本
ズズンッッ・・・
校舎は真っ二つに割れ、三島は振り下ろされた刀の圧力で地面に押し込まれた
そしてあまりに刃を伸ばしすぎため直線上にあった民家や建物が崩壊し、砂ぼこりが霧のように舞う
そのなかで興奮し息を荒げる山本
ほこりで視界が悪いが、彼の目の前は何十メートル先にも続く斬痕が残っていた。
No.26/ とうそう。
「は?・・・西村ぁ、お前・・・スーツが・・・」さらに追い討ちをかけようとする星人
「うっ、あぁ・・・」西村の顔が青ざめていく、そして体がガクガクと震えだした
「やっべ~・・・逃げるッ、逃げよッ!!」西村を抱えてその場から走った
もちろん星人はその後を追ってくる
「はぁ、はッ・・・アイツ、何んなんだよっ」未だ震えが止まらない西村が答える
「北斗星人・・・、アイツに殴られると、ガンツの銃みたいに
時間差でダメージを受けるんだ・・・」
「え、あっ、西村!大丈夫か!?」
「うん・・・スーツ着てたから、なんとか・・・」
スーツが壊れ、戦えない西村を見た新井田は
この状況、どう考えても自分が星人を倒さなければならない
そう思った
「はあッ、くそっ!!このままじゃあ、ダメだ追いつかれるッ」
・・・このまま誰か、助けがくるまで逃げ切れるか?
無理だ・・・じゃあ、やるか?アイツと、オレが!?
くそぉ、無理だ怖いッ、じゃどうすんだよお―!!?
どうするって・・・ヤルしか、ねぇーじゃん・・・
「新井田くん・・・戦おうよ」
と西村が言った、彼も逃げ切れないと判断したらしい
「だっ、そんな無理ッ、二人ともやられるっ!!」
頭ではわかっていても恐怖には勝てない新井田
「怖いのは、始めだけだよ・・・多分」
「イヤだッ!!怖いッ!!」
まるでわがままな子供のような新井田
「一緒に戦うから、二人でさぁ!!
そうしないとッ、どっちにしろ殺されるっ!!」
「はぁッ・・・でもっ、でもさぁ、逃げ切れるかも・・・しれないし」
ギリギリで逃げ切れるかも、という気持ちが新井田の頭の中を満たしている
「もう無理だよ」それを否定する西村
「まだ、わかんねぇーってッ!!!」
「だって・・・後ろ――
そう言われ軽く後ろを見る新井田
!!
――もう追いつかれてる」
西村を抱えて走る新井田のすぐ後ろ
北斗星人が両手を広げ、飛びかかってきた
「ッッぁぁあああ!!!」
ガバッ
星人が新井田の両肩をわしづかみにし、そのまま地面に押し倒す
西村は地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がっていった
「ああッ!うあッ!!」
うつ伏せに押さえつけられた状態の新井田、必死に馬乗りになった星人を振りほどこうとする
「アたぁッツ!!」後頭部に強烈な突きを出す星人
「うっあ、やめろ!!やめろッ!!」
ミキミキミキ
スーツの力で体中の筋肉が膨れ上がる
星人の押さえつける力が弱くなったように感じた
・・・いける、これならッ!!
「ああッッ!!!」
ゴッ
思い切り星人の脇腹にヒジ打ちをくらわせた
「ひでぶッッ」妙な悲鳴と共に星人は吹っ飛んだ
そのスキに立ち上がり銃を構える新井田、倒れた星人に向かいとにかく銃を乱射
ギョ―――ン
ギョ―――ン
ギョ―――ン
ギョ―――ン
「はぁ、はぁ、当たったのか・・・死ねよ早く・・・」倒れた星人が起き上がると
バンッッ
「あべしッッ!!」
右の脇腹とヒジから下が弾け飛ぶと、妙な悲鳴を上げ苦しむ
「まだ、生きてる・・・くそぉ!!!」
さらに乱射する新井田、しかし中々当たらない
傷ついた体で攻撃を避けながら、新井田に近づいてくる
「くそっ、なんで、オイッッ!!」
「アたぁあ!!」
後ろの回りこまれ、背中に星人の攻撃が当たる
「うわあああ!!」
キュウウウウウ・・・
「なんだ!?スーツっが、まさかっ!!!」
・・・ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ・・・死、ぬ・・・・
逃げる新井田、とにかくその場から全速力で走る
・・・はッ、足がもう、疲れて上がらない、脇腹が痛い、息ができない・・・
もう走れない、もう無理だって・・・でも、でも死にたくない・・・
どれくらい走っただろうか、限界に達していた新井田は足がもつれその場に倒れてしまう
・・・うあ~、もう立てねェーよ・・・
もし立っても、一歩も歩けない・・・こんなに走ったの、初めてだ・・・
新井田はもうろうとする意識の中、顔を上げ首をヒネリ、後ろを向く
そこに星人の姿はなかった。
No.25/ めんどい。
またガンツの部屋に集められる面々
例の如く、はじめてこの場所にきた者達がわめく
イラついた表情の山本が叫ぶ
「ギャーギャーうるせんだよっ!!!少し黙れっっ!!!」
そして銃口を新しく来たメンバーに向けた
いつもならここで止めに入るはずの三島の姿はない
・・・やっべ、またコイツ殺す気か!?・・・
止めないとっ・・・でもあの人、止められるか?オレが!?・・・
三島さん、さっきまでここにいたのに・・・
玄関の方を探す新井田
そこに三島はいたが何か様子がおかしい
「・・・あと、5点・・・あと5点だ・・・」壁にもたれてブツブツと独り言を言う三島
そんな彼の表情は、新井田との生活の中では見せたことの無いものであった
「・・・」
声をかけようにも中々言葉が出ない新井田
きゃぁあああっ
うぁぁああぉおっっ
そのとき部屋から何人もの悲鳴があがる
「うぅっ・・・三島さんっ・・・と、止めないと、早く!!」
「ぎゃぁあっ!!」
「はははっ、うぜぇーんだよ!!!止めてみろやっっ、ミシマァァア!!!!」
部屋からは痛々しい悲鳴と山本の奇声が聞こえてくる
新井田は部屋の現状を考えると怖くなり、耳を塞ぎその場にしゃがみこむ
・・・おかしーって、なんだよここ・・・なんなんだよコレはっ!!?
しばらくして鎮まりかえった部屋を、恐る恐る覗き込む新井田
部屋には誰の姿も無く、血のりが部屋中を赤く染め、人と区別のつかない肉が散乱している
「うぉっ・・・」
不思議と吐き気はなかった、それよりもガンツに浮き出た「行ってくだちい」の文字
「やべっ!・・・もう転送はじまってんのかよッ!!」
急いで武器を掴む新井田、そして転送がはじまり視界が変わっていく
「・・・」
転送されたその場所は、学校のグラウンドのようだった
暗いせいか辺りを見回すが人気が無い、新井田は悪い予感がした
・・・西村と、白川さん・・・は?
ま、さか・・・部屋で山本に・・・やられたんじゃ・・・
「ウソだろ・・・」
そのとき目の前に三島が転送されてきた
「三島さんっ!・・・オレどうしたら・・・」
声をかける新井田だが、反応が無い三島
そして暗闇の中に走り去っていった
・・・一体どうしちゃったんだよ・・・くそぉ
ああ、どうしよ?・・・今回も、どっかに隠れてればいいか・・・
とりあえずレーダーで敵の位置を確認する新井田、するとすぐ近くに星人がいることに気づく
うっ・・・マジかよ~・・・早く逃げないとッッ!!
ザッザッザッザッ
足音がこちらに近づいてくる
「・・・ッッ!!?」
真っ暗な夜のグラウンドで二つの影が走っているのが確認できた
両方人間のように見えるがなにか様子がおかしい
次第に近づいてくる二つの影
「あ!・・・西村ぁ!!!」
西村が生きていたことに安心したが
その後ろにいたのは明らかに星人だった
「はぁッ・・はッ・・・逃げて、コイツやばいッッ!!!」
息絶え絶えの西村、新井田に逃げるように促す
「え、おいっ、何だコイツっ!!!」星人を前に戸惑う新井田
その星人は一見人間のように見える
しかし顔が小さく足も普通の人間より細長い、そして尋常ではない筋肉をもっている
さらにムネには星型の傷が無数に残っている
「アたぁあッッ!!!」
という叫び声と共に拳を突き出す星人
ゴッッッ
「う・・・えっ!?」
殴られはしたが、新井田は痛くもかゆくもなかった
・・・なんだコイツ・・・もしかして弱いのか!?
さらに、星人が拳を構えると胸にある星型の傷が光りだした
「ダメだッッ!!!逃げろッッ・・・」
叫ぶ西村、だが新井田は星人に銃を向けている
バッ
星人の拳が突き出されると同時に新井田を庇う西村
そこに星人が連打をあびせる
「アたたたたたたたたたァァッッ!!!!」
もの凄い速さでくりだされる拳、まるで腕が何本もあるかのように見える
「・・・ッ!!?」
全ての打撃を受けた西村、しかし傷一つついていない
「に、西村・・・コイツ弱いんだって」
楽観的な新井田に対し、苦悶の表情を浮かべる西村
「そうじゃないんだ、コイツは・・・」
ドロッ・・・
西村のスーツが壊れた。
No.24/ 決別。
クラス中の人間の視線を感じ、すぐに身を隠した新井田
・・・っは~、なに、やってんだオレ~・・・
・・・あ、オレって見えてないんだな、そういえば・・・
「なんだ?・・・今、勝手に開いたよなぁ・・・」
「ったく・・・どうせ誰かのいたずらかなんかだろ~、吉田っ、そこ閉めておいてくれ」
数学の教師が廊下側の最後尾の吉田に戸を閉めるように言う
「・・・は~い」面倒くさそうに立ち上がり戸に手をかける
ドカッ
「いっ・・・え!?」
「吉田、どした~?」
「なんか・・・あたった・・・気のせい、か?」
戸が閉められそうだったので、急いで教室に入ろうとした新井田だったが
不覚にも吉田に身体がぶつかってしまった。
・・・・はぁ~・・・あぶねぇ~・・・
まぁ、なんとか、侵入成功ってとこか~・・・
その後も授業が何事も無かったかのように再開する
そして新井田は自分の席に眼をやる
・・・・
・・・い・・・た・・・あれ、オ・・・レ?
自分の席に座るソレらしき後姿、だがいまいち信じられない
・・・違うやつだ・・・絶対、そうだオレがいないうちに席替えしたんだ・・・
それにオレ、あんなに髪うすくねぇし・・・
そう自分に言い聞かせながら、近づいていく、そしてちょうど男の真横に来た新井田
・・・ふう、よし、・・・なに・・・緊張してんだ、オレなわけないってのに
・・・本物のオレは、ここにいるんだっ・・・
ゆっくりその男の顔を覗き込む
男は一見真面目に話を聞いているようで、どこか上の空で、間の抜けた顔をしていた
・・・あっ、はっ・・・鏡とかじゃないよなあ・・・やっぱオレじゃん、コレ・・・
ソレはまぎれもなく自分の顔であった、見間違うはずも無い
毎日、朝起きて顔を洗うとき鏡に映る自分、自分の顔を見なかった日などないだろう
・・・はぁ・・・
わかっていたこととはいへ、少なからず希望を持っていた新井田には、この現実がさらに重く感じられた
授業が終わり、その後ずっともう一人の自分を観察していた新井田
その日は酷く落ち込んでいたが、なぜか次の日もまた学校に行き自分を観察する
自分というものを別の立場から見ることで、それがまるで別人のように見えてきた
次第に、オレってこんなヤツかぁ~などと思うことが多くなってきた
新井田 生、18歳
趣味、もう一人の自分観察、それが唯一の楽しみとなった
いつものように夕飯の後片付けを三島とこなし
二人でテレビを見て笑う、この生活が板についてきた
自分観察がもとで、自分と、もう一人の自分とは全く違う人間だと割り切れるようになった新井田
そのおかげで、居候をさせてもらっている三島のことを本当の兄弟か親のように思えてきた
そんな生活に少なからず幸せを感じていた、しかし
ゾク ゾク
二人は寒気を感じた
「・・・来た、またあそこに・・・」そうつぶやく三島
「どうしたんですか」
「今、寒気したよね・・・」
「あぁ、そういえば」
「この、この寒気がしたときが・・・あの部屋、ガンツのところに行く合図なんだ」
「え・・・」
「でも・・・三島さんは、もうすぐ100点じゃないすか!
今回の戦いで100点いけるかもっ!!!」
「そう、だな・・・今回で絶対、100点とって取り戻すっ!!!」
「え?・・・100点取るとあの部屋に行かなくていいとか、思ってたけど違うんですか!?」
「ああ、そういえば言ってなかったね、100点取るともちろん自由にはなれるけど
あの部屋で、一度死んだ人間を生きかえすこともできるんだ・・・
だからオレは、オレの両親を生きかえす、それまでは絶対オレは死なない。」
三島の目に涙のようなものが浮かんでいるが、それでも十分な決意を感じられた。
No.23/ ふだん。
目を覚ます新井田、見慣れぬ部屋に一瞬戸惑うが昨夜のことを思い出す。
ガンツの指令する星人の抹殺を終え、
その後部屋から出て行く新井田に三島が声をかけた。
「新井田くんは家・・・とか大丈夫なの?」
「は?・・・」
「キミってもう一人、自分がいるっていってたから、もしよかったらオレんち来てもいいよ」
「あ、はい」
そしていま三島の家に居候している。
・・・そっかぁ、オレ、三島さんとこにいるんだっけ・・・
あんま迷惑かけらんないけど・・・もしウチにもどってたら、もう一人の自分を
オレ、殺してたかも・・・
「お~い、起きて~、朝飯つくったからっ」と三島の呼ぶ声が聞こえる
「ラーメン・・・」
テーブルの上にはラーメンが二杯、朝っぱらからラーメンか、と思いつつハシを手に取る新井田
「コレさぁ、オレが作ったんだけど、どうかなぁ」
「ん・・・うまいです・・・」
「マジでか!?よかった~!!見たらわかると思うけど、オレんちってラーメン屋やっててさ
まぁ、両親が死んでから店は閉じてんだけど、いつかはオレが復活させてやろうと思ってるんだ」
「へ~、そうなんですか」
とりあえず返事をするが、食うほうに夢中の新井田
「山本のやつも、キミと同じでオレのウチにいたんだ」
「えっ、そうなんすか!?」
「あの時はアイツもあんなじゃなかったのに・・・ウチの両親が星人にやられてから・・・
アイツ段々おかしくなってきて・・・」
「え、もしかして・・・三島さんの親って・・・」
三島の目に涙が浮かんでいたのに気づき、新井田は言葉を詰まらせた
食事を食べ終わり、後片付けをしているときに三島が言う
「オレ、いまからバイトでちょっと空けるけど、もしよかったらアレ見てもらえないかなぁ」
そう言うと奥の本棚から、使い古したノートを引き抜く三島
そして新井田に手渡すとその場をあとにした
「なに・・・これ?」
パラパラと適当に目を通した、これにはスープやら麺の作り方が細かく書いてあった
・・・ああ、これってなんか秘密製法とかそうゆうやつか?・・・
こんなんオレに見せてどうすんだろ?・・・・あっ!・・・
オレ、この店の復活のために利用されるんか!?
料理なんてできないって、ってゆうか今それどころじゃないような・・・
まぁ、これから、ここでずっと世話になりそうだから仕方ないか・・・・
毎日することのない日が続き、いい加減飽きてきた新井田
「あぁ~、することないってのも、なんかな~」
・・・家とか学校とかどうなってんだろ・・・もう一人のオレってホントにオレなのか?・・・
もしかしたら星人とかじゃないのか!?
・・・くっそ、行くか・・・行って・・・どうする?・・・
どうするって、様子見るだけだし・・・それで、もしアイツがオレの姿をした・・・
星人かなんかだったら・・・殺せばいい・・・
・・・って何考えてんだオレっ、殺すって、でも本物がここにいるんだ・・・
アイツはっ、絶対にせものだろ!・・・
新井田はガンツの部屋から持ってきた黒いスーツを学生服の中に着て、念のためカバンに銃を入れた
「よし・・・一応な、もしもの時のために、・・・見るだけだ、からな・・・」
少しでも殺意を抱いた自分をなだめるかのようにつぶやく
そしてレーダーをいじり、自分の姿が消えたことを確認すると学校へ向かう新井田
「はぁ、ふう・・・何緊張してんだ、オレ?」
学校の門の前に立つ新井田、たいした時間は経っていないが妙に懐かしかった
「・・・行くか」
玄関に入り、土足で校舎内に入ることに罪悪感を感じつつも、自分の教室を目指す
・・・今、授業中?・・・いくら人がいないし、オレの姿が見えないっつっても・・・
緊張すんなぁ~・・・悪いことしてるみたいで・・・
いやいやっ・・・オレは何も悪くなんかない・・・そうだオレはここの生徒だし・・・
悪いのは全部アイツだ。
そう思うことで少し緊張がほぐれてきた新井田、そして3-2の教室を目の前にする
「オレの、教室・・・」
・・・いるのか?マジで?・・・もしかしたら、いないかもな・・・
多少の希望を持ち、教室の戸に手をかける
・・・ふう、よしッ行く・・・3、2・・・イチッ!!
ガラッ
自分が透明であることも忘れ、思いっきり戸を開けてしまった新井田
そしてクラス中の視線が何もないソコに集まる
・・・ヤベ・・・