No.42/ 漸進。
・・・なっ?・・・顔が、っていうか体ごと、死んだやつになった!?
長身の男は、まるで新しい身体を試すかのように首を回したり屈伸をすると、慌てた様子でその場から走り去った
男の走る速度は、完全に人間の力を越えていた
そして新井田もその後を追うが、その速度に後を追うだけで精一杯だった
しばらくして男は人気のない路地に入ると立ち止まり、携帯電話を取り出す
真剣な面持ちで相手の応答を待っている
「はやく・・・出てくれ~ッ」
「・・・あっ!あのコータローさん!!・・・自分です、アキトです!
・・・いや、なんかいきなりやられて・・・ハイ、周りには誰もいなかったんすけど」
新井田は男の会話を聞こうと慎重に近づいていく
「いきなりバーンって・・・あっ、ハイ、じゃあ今すぐそっちに向かうんで
コータローさんも気をつけてください・・・よ、よろしくお願いしますッッ!」
・・・なんだ?一体誰と話してたんだ・・・よく聞こえなかった
そもそも、こんな人間みたいな星人がいるなんて・・・
・・・正直やりにくい・・・
でも、形がどうだろうと、コイツは明らかに星人なんだ、なにも迷うことはない・・・
電話をしまうと、またすぐに走り出す男
・・・くそ、またかよ、こいつ足はやすぎ・・・
息を切らしながら後を追う、アキトと名乗る男はさらに加速する
そのスピードで狭い路地を縫うように進むアキト、ついに新井田は撒かれてしまった。
「はぁ、はッ・・・コータローさん、お待たせしました・・・」
「おお、我が同胞よ!無事でなにより」」
コータローと呼ばれる、ガンツに映し出されていた男は、両手を広げて仲間の無事に笑みを浮かべる
「は、早く逃げましょう!またやられるかもしれないっすよ!!・・・ん?・・・その少年、新しい同胞ですか!!?」
アキトはコータローの後ろに立っている少年に目をやる、その少年は新井田の弟の直貴であった
「その通り、この少年も今日から我等の一員だ。
・・・そして私達は悪の組織に狙われているようだな
一刻も早く同胞を増やし、悪を根絶やしにしなくては、さぁ、キミたちも同胞集めを始めてくれッ。」
「はいッ!」
二人は返事をし、アキトは走り去っていった、そして直貴は普段通り学校に向かった。
・・・くっそ、見失った・・・
アキトに撒かれた新井田は、全力で走ったせいか疲れて座りこんでいた
・・・はぁ、まいっか、どうせアイツ等の位置はレーダー見りゃわかるし・・・
レーダーを確認、しかし新井田はなにか違和感を感じた
・・・ん?オイ、これって、増えてねぇーか?・・・
・・・うッ、増えた!いま、確かにレーダーに一つ星人が増えたッ!!
やべぇ・・・もうこれ、オレ一人じゃ手に負えないって・・・
どうしよ、どうしよ!?・・・うぅ・・・あッ!そうだ、止めればいいんだ!!
時間も何もないし、止めればいい・・・うん、そうしよう!
幸い星人に正体ばれてないし、まぁ、念のためここからは離れたほうがいいかな・・・
新井田はすぐにその場を離れた。
しかし行くあてもない、一人、誰もいない公園でベンチに座りながらボ~っとしていた
はぁ~、こんなはずじゃなかった・・・自分が強くなった気がしてただけで
・・・実際、ガンツに初めてきた時のオレと、たいして変わってないじゃん・・・
なぁ~んにもすることがない、いくら点数をとっても、目的がないから意味がない
ただ、死ぬのが怖いから戦ってるだけ・・・生きてても苦しいだけなのに
まだオレは生きたいと思ってる、生きてれば何かあるだろうって期待してる・・・
結局、住む世界が変わっても、オレの考えてることはなんも変わってない、昔といっしょじゃねぇーか・・・
昨日から一睡もしていないせいか、新井田はそのまま深い眠りについた。
「おいッ、新井田ァ!!起きろよ!!!
お前授業中も寝てんだから休み時間くらい起きてろって~」
ガンツの世界に行ってからも全く普段と変わりない吾妻が新井田を起こす
「んぁ・・・吾妻かぁ~」
目を覚ます新井田、彼は日常生活に暮らす、もう一人の新井田 生である。
「まぁ、いいじゃん、ここの学校遠いから朝早いんだよ・・・」
半開きの目をこすりながら、答える新井田
「なぁなぁ、知ってるかぁ?朝のニュースでやってたんけどさぁ・・・」
そんなことはおかまいなしに話しかける吾妻
「ああ、あのアレだろ・・・強盗をぶっ飛ばしたり、子供助けたりとかしてるヤツ
最近そればっかりじゃんテレビ、最悪の正義の味方現る、とか言ってただの殺人鬼だろ・・・」
「そうそう、それだよ!なんかこの辺で通り魔を殺したらしいぜッ!!
いくら悪人だからって殺すなんてヤバイやつだよなぁ、何者なんだろうなぁ・・・
なぁ、今日捜しにいかねぇ!?」
子供のように目を輝かせる吾妻にたいして、面倒臭そうな顔をしている新井田
「・・・いや、いいよ、行かなくて・・・」
学校も終わり、一人探索に向かう吾妻の後姿を、眠そうな目で見送る新井田
・・・はぁ、アイツは別に嫌いじゃないんだけど
なんかあのノリについていけないんだよなぁ・・・
ま、どうでもいっか・・・あぁ~しかしこのあと塾かぁ、やってらんねぇ・・・
塾から帰るともう夜の8時を回っていた、家についた新井田、玄関をあけ、台所にいき冷蔵庫を物色する、ふとあることに気づく
「あれ?そういえばなんでだれもいねぇーんだ?」
普段ならば父、母、弟の三人が夕食を食べているはず、しかし台所には夕食の準備すらされていない
「まぁ、もうすぐかえってくるか・・・」
そのまま自分の部屋で眠りについた新井田
しばらくして携帯電話から着信音が鳴り響く、吾妻からだ
「なんだよ・・・せっかく眠れそうだったのに・・・」
乱暴に携帯を掴み取ると電源をきってしまった
「あッ!アイツきりやがったなぁ・・・せっかく面白いこと起こりそうなのに」
吾妻は今、中学校のグラウンドにいた、そこにはガンツのターゲットであるコータローの姿が
そして彼の元にぞくぞくと人が集まってくる、その中には新井田の家族の姿もあった
「なんだ、一体何がはじまんだ・・・」
そのとき吾妻を寒気が襲う、さらに金縛りが
「あっれ、なんだよ!?・・・おいッ、あ、あ!、あ~ここかぁ~」
再びガンツに召集された吾妻、部屋にはすでに全員がそろっていた
山本、白川、五木、そして新井田
新メンバーは、ガラの悪そうな男3人と、暗い顔をした若い女が2人
その5人は全員なにかにおびえたようにうずくまっていた
そしていつもどおりに進行していくガンツ
今回の星人は・・・
「ベルト星人」
それを見た新井田は、深く溜め息をついた。
No.41/ ごほうび。
なんだ?鍵?
ご自由にきてくださいって・・・まさか・・・
新井田は鍵を握り締め、周りの反応をうかがう
すると、メンバー全員が注目している、なかでも山本と白川は
握られた鍵を物欲しそうに凝視している
新井田は嫌な予感がしたのか、すぐさまレーダーを取り出し、姿を消した
「あっ!」
「チッ、逃げられたか・・・」
舌打ちをする山本、白川は後を追うように外に出るが新井田の姿を確認することはできなかった
翌日、新井田は結局帰る場所がなく、夜通し町をさまよっていた
・・・はぁ、この鍵、どう考えてもあの部屋のだろ・・・
ってことはいつでもあの部屋にいけるわけだ・・・
行く、か?どうする?・・・今のオレにはなんの目的もないのに
たしかに戦うのは嫌だ・・・だからはやく100点をとって自由になりたい
でも、自由になったとしても・・・オレには、もう帰る場所がないんだよ・・・
闇雲に歩き続ける新井田、気がつけばそこはガンツの部屋があるマンションの目の前だった
「くそッ・・・行くしかねぇのかよ・・・」
部屋の前で立ち止まり、深呼吸をする
そして鍵を刺し込む
ガチャ、開いた
ドアを開け中に入る、そこにはもちろん黒い玉があった
「ガンツ来てやったぞ・・・オレは、何をすればいい?」
するとガンツに文字が浮かび上がってくる
そこには“うぉんてっど”とあり
星人の名前と顔写真、そして倒した時にもらえるであろう点数が表示されていた
「・・・太郎星人、ぬすっと星人、ワレモノ星人・・・
こいつ等全部倒すまで・・・ガンツはこんなこと続けてくのか」
表示されたいくつかの星人の中で新井田の目に止まったのは、
最も点数の低い、ベルト星人(15点)
赤いスカーフを首に巻いた、一昔前の特撮の主人公のような凛々しい男が映し出されていた
・・・まずは軽くこの辺からだな、オレ一人じゃ正直不安だし・・・
「コイツのことをもっと詳しく教えてくれ」
新井田はベルト星人の顔写真を指差していった
ベルト星人
特徴
つよい
好きなもの
良い子
嫌いなもの
悪の組織
口ぐせ
今日からキミもヒーローだ
いつも通りの役に立たない情報が出たあと
さらに画面が変わり、おおまかな地図のようなものが映し出された
そこには現在地とターゲットの位置が表示されている
新井田はそれをまじまじと見つめると、思わず声を漏らした
「あっ、これってオレんちの近くじゃん・・・」
それぢわ
勝手に行ってくだちい
ガシャン
という音と共にガンツが開いた、新井田はとりあえず持てるだけの武器を装備する
「アレ?転送、始まらないし・・・勝手にって、自分でいけってこと?」
玄関に行ってみると、普通に扉を開けることができた
新井田は戸惑いながらもその場を後にする
レーダーに目をやると、星人の位置は表示されているものの、残り時間がなく
しかも1キロ四方のエリア設定もない
つまりこのミッションは無理に成功する必要もないため、途中で止めることもできる
・・・はじめはどうかと思ってたけど、こんなんで点数もらえるんなら、ホントに「ごほうび」だな
建物の上を飛び越えながら現場に向かう新井田、そのとき一瞬視界に見覚えのある人物が映った
「な、直貴!・・・」
弟の直貴だ、どうやら中学校へ登校する途中らしい
今まで忘れていた本当の家族の事を思い出し感傷にひたる新井田
だがそれを振り切り足を進める、新井田が去った後すぐに弟の直貴に一人の男が近づいてくる
首に巻いた赤いスカーフが目立つ、凛々しい男、ベルト星人だ。
直貴の前に立ちはだかる星人、それを無視して通り過ぎようとする
しかし肩をつかまれてしまい仕方なく立ち止まる直貴
「あの・・なんですか?」迷惑そうな顔をして尋ねる
すると真っ白い歯をむき出して、とびきりのスマイルで返す星人
「キミはヒーローになりたくないかい?」
直貴はただ呆然とするしかなかった。
「大体この辺か・・・」
新井田はレーダーを確認すると3つ反応があり、そのうちの1つはすぐ目の前を歩いている、細身の男と体格の良い長身の男の二人組を示していた
・・・ふぅ、あの二人のうちどちらかが星人、いやどちらも星人かもしれない・・・
とりあえず銃で見てみるか・・・
住宅の屋根の上から銃についているレントゲン機能で、二人組みを観察する
すると、二人のうちの長身の男が腰にオモチャのようなベルトを巻いていた
・・・なんだアレ、ベルト・・・
あいつがベルト星人?・・・もう一人のやつに見られるのは厄介だけど
ここで逃がすわけにはいかねぇ・・・
新井田は迷わず引き金をひいた
バンッ
「あ、え?」
友人がいきなり破裂したという状況が理解できずに、戸惑うもう細身の男
上半身がなくなった友人を前に腰が抜けて立てなくなっていた
・・・うぅ、やっぱりあんな人間みたいなヤツを殺すの、気が進まない
新井田は顔しかめながら、次のターゲットの位置を確認しようとレーダーに目をやる
「あ、れ!?」
星人を倒したはずだが、未だにベルト男の死体ともう一人の男に反応を示していた
・・・ってことは、もう一人も星人なのか、でもアイツは普通だった
まさか・・・アレでまだ生きてるのか!?
次の瞬間、死体の腰に巻かれていたオモチャのようなベルトが
生きているかのようにシュルシュルと死体から離れていく
そして、近くに座り込んでいたもう細身の男の腰に巻きついてしまった
「なんだこれッ?えっ、あぁ、わッ!!」
ピカッ
するとベルトから弱い光が発せられた
見る見るうちに姿が変わっていく、ゴキゴキと身体が波打つ
細身だったはずの男は、身長が伸び、筋肉が膨らむ
その変貌した姿は、新井田に殺された長身の男そのものだった。
No.40/ 自由。
ミッションが終了し、転送されてくる新井田
それに続いて白川
「あぐぅ・・・!!?・・・はぁ、はぁ・・」
息絶え絶えな白川、ミッションが終了し部屋に戻ってきたことに気が付く
するとその場にうずくまり、震えだした
そんな彼女を見て、いつも通りの白川に戻ったと安心する新井田
そして本当の事を聞こうと近づいていく
「白川さん・・・ちょっといいかな、話・・・」
うつむいた顔をゆっくりと持ち上げる白川
そこにいたのは、何の感情も感じられない、冷たい目をした白川だった
「私じゃあ、不満?」
感情のこもっていない笑顔を浮かべる白川
「・・・ハハッ!アイツじゃない!・・・まだ、まだ私でいられるッ!!!」そして高笑いしながら叫ぶ
「そんな、戻ってない・・・」
驚いた顔をしている新井田に白川が言う
「なにが、戻ってない、よ・・・戻ってるじゃない、私が本物の白川ユキミなんだから」
「お前が本物?・・・じゃあ、今までの白川さんは、どうなったんだよ?」
そんな新井田の問いに彼女は渋い表情で答える
「ああ~、あの子?・・・さぁ、消えたんじゃない?
そもそもずっと邪魔だったのよ、後から出てきたくせにでしゃばって
私から色んなものを奪って、楽しそうにして・・・
それなのに辛いことは、ぜ~んぶ私に任せて、自分は隠れてる
でも、ここに来たおかげで、私だけの時間が増えてるの・・・
おかげであの子が私から奪ったものが、全部戻ってきそう
アハハッ、ガンツには心から感謝してるわ
ここは強いヒトしか生きていけない世界なんだから
あんなゴミみたいなヤツが存在してちゃいけないのよ」
こいつの言っていることは間違ってはいない
新井田自信、もう一人の自分を目の当たりにしたとき
同じような思いが心の中にあった
そのため、言い返す言葉が何も見つからなかった。
二人が話しあっている間にも、吾妻、五木、と転送されてくる
そして最後に、三島と山本の姿も
なんとか生き延びることができたものの、最近の自分のふがいなさに怒りをあらわにする山本
「あっちゃん、落ち着いて・・・とにかく生き残れたんだから、いいじゃないか」
そんな山本をなだめる三島
「ハァ、ハァ、くっそ・・・」
・・・このオレが、ただ生き残るだけでやっとだとぉッ!?・・・
こんなことで、ガンツの言う「ごほうび」をもらえないどころか
おじさんを守っていけるのか!?・・・くそッッ!!!!
ち――――ん
「採点が・・・はじまったか」
新井田 くん
20 てん
TOtaL25 てん
あと 75 てん でおわり
「おおッ!新井田ァ~!!20点・・・ってすごいのか?」
よくわかっていないが無駄にテンションが高い吾妻
「いや・・・すごいよ、自分でもこんな高いの初めてだし・・・」
新井田もこの点数には驚きを隠せない
次に表示された吾妻は5点だった、五木はなにもしていなかったので0点
そして白川は10点、トータル52点、それを不満そうな顔で見ている
残っているのは山本と三島
山本 くん
15 てん
TOtaL27 てん
あと 73 てん でおわり
「あっちゃんが15点?・・・アレっ?」
不思議そうにガンツを見つめる三島
「はぁッ!?オレが15点だって!!?オレは一匹も殺してないはずなのに」
何度見てもガンツには山本が15点獲得していることになっている
・・・おかしい、ガンツが間違えた!?
・・いや、いくらなんでも0点のやつに点をやるほど甘くはない
な、なにが起こっているんだ!?
それぢわ
今回一番がんばってくれた
新井田くんには
ごほうびをやります
今後ともがんばってくだちい。
「はぁ!?ちょっと待てよ・・・おじさんの採点はどーした!?」
なぜか三島の採点が行われなかった、山本はガンツに叫ぶ
「おいッ、ガンツ!!なんでオレが15点なのに、おじさんは採点すらされねぇーんだよ!?
オラァ、答えろォ!!どーなってんだよォォオ!!?」
ガンツに思い切り蹴りをくらわせる、しかしいつも通り全く反応はない
「あっちゃん・・・もういいって」そんな山本をなだめる三島
「いいわけねぇーよ!おじさんは少なくとも2匹は倒したのに・・・
オレの15点は、おじさんの点数のはずなのに、おかしーだろこんなの!!」
「・・・あっちゃん、多分だけど・・・私はここでもう一回死んだから
生き返してもらったから、点数がもらえないんじゃないかな・・・」
三島の言葉で山本は黙り込み、色々な考えを巡らせる
今回自分に入った得点は明らかに三島のものだ
だとすると生き返った人間は点数がもらえずに
生き返した人の方へと点数が移動するということ
100点メニューの「再生できる」というのは
ガンツから銃やスーツを取り出すのと同じことではないのか?
山本は確信した、今、目の前にいる三島高幸という人間は
ガンツのメンバーなどではなく
ただの武器か道具のような存在だということを。
この世界でゲームオーバーになった人間には自由はない
そう、三島高幸をこの世界から開放することはできない
彼は、この地獄のような世界にしか存在することができないのだ
山本は絶望した。
絶望する山本をよそに、今回最高得点者である新井田に
ガンツから「ごほうび」が与えられた
新井田の目の前に、転送のように現れてくる
それは真っ黒い鍵の形をしたものであった
新井田はその「鍵」を手に取ると
まじまじとそれを見つめる、するとそこには文字が浮かび上がってきた
ご自由に
おこしくだちい。
No.39/ 別格。
目を覚ます新井田、目の前に広がる光景に絶望した
「あっ!・・・キミ大丈夫!?」側にいた五木が声をかけてきた
「・・・今、どうなってるんだコレ・・・」
星人と吾妻が戦っている、しかしそれ以外人の姿が見えない
・・・ウソだろ、オレ達以外みんなやられたのか!?
アイツはッ、山本は!?まさか・・・アイツでも勝てなかった・・・
「あの人じゃあ、いくらやっても殺せないよ」いきなり後ろから声が聞こえた
振り向く新井田、そこにいたのは白川だった
「もちろんお前でも」
新井田を冷たい目で見下ろしながら言った
その目は、普段の白川のモノではない
見つめる新井田、彼はその目に見覚えがあった
最近のことではない、この世界に来る寸前
そう、学校の屋上で初めて白川と出会ったとき
自殺しようとしていた白川を止めようともみあいになった
そこまでは覚えている、だが何故自分が死んだのかが思い出せない
曖昧な記憶の中で、一番最後に目にしたのが
白川の、生気すら感じられない無機質な目だった
その後すぐにガンツのもとに召集され、そんなことを考えている余裕がなかったが
今思えば、自分は白川に殺されたのかもしれない
「アイツは私が殺すから」とつぶやき、ゆっくりと星人に向かっていく白川
「きッ、きみがアレを倒すって!?そんな無茶だ!!・・・やられる前に逃げようッ!!!」
五木が止めようとする、それに対し白川は振り向き、いきなり銃を向けると引き金をひいた
ギョ―――ン
「ッッ!!?うぁああああッッ!!!」絶叫しながらその場に座り込む五木
スーツを着ていたため何も起こらなかったが、腰が抜けてしまったようだ
「あなたたちがどうなってもカンケーないけど、私の邪魔はしないで」そう言うと再び星人の方へと足を進める
普段とはまるで別人のような白川に、新井田が問いかける
「本当に・・・白川さん、なの・・・」
足を止め、新井田の方に振り向くと、ニヤッと口をつり上げて言う
「私が・・・私が白川ユキミ、そうに決まってるじゃない」
違う
心の中で新井田は確信した。
カメ星人と戦う吾妻、彼はこの戦いで、周りのモノより数十倍も早く動ける能力を
徐々に自分のものにしていった
しかし、相手の攻撃をいくら避けられたとしても、強固な甲羅の前に
こちらの攻撃が全く通用しないという事実は変わらなかった
「はぁ、はぁ!!クソッ!!なんで、きかねぇーんだよ!!!」
甲羅にこもった星人に幾度となく攻撃をするが、やはりダメージはない
「はぁッ!はぁ、はッ・・・ヤバイ、疲れたッ・・・いてぇッ」
疲れの色が見える、彼の能力は身体への負荷が大きく、全身に激痛が走っていた
そのとき吾妻の背後から、白川がもの凄い勢いで走ってくる
ガッッ
そのまま思い切り星人にぶつかっていった
星人に強烈なタックルをくらわすと両手で甲羅を掴み、その巨大な塊を一気に持ち上げる
「あぁぁああ!!!」
そして掛け声とともに星人を海に放り投げた
ドッパ―ン
水しぶきを上げ沈んでいく星人、それを見てあっけにとられる吾妻をよそに
白川はホルスターから小型の銃を取り出すと思い切り息を吸い込み、その後を追うように海へと跳躍する
ボコボコボコ
多くの気泡をあげながら、ゆっくり沈む星人
海中に入ったことに気づいたのか頭を甲羅から出し、あたりを見回す
すると星人の頭上あたりに白川が銃を撃ちながら泳いでいる
それを見つけた星人は、もの凄いスピードで向かっていった
次の瞬間、ドバァァッと海面に水柱が数本あがり、海中の白川たちは大量の気泡に包まれた
彼女の狙いはこれだった
気泡で身を隠し、甲羅にこもっていない星人に近づくことだった
星人は体の大きいためこの状況でも簡単に位置を把握できた
すでに星人の背後に近づいていた白川は、星人の首に狙いを定め、そして
ガッッ
両手両足で、星人の丸太のように太い首を一気に締め付けた
「ガボォッッ!!?」
口から大量の空気を吐き出し、苦しそうにもがく
それでもなお締め付けを強力にする白川
「ゲェッ、ゲグゥ・・・」
・・・コイツしぶといッ・・・こっちだって息がもたないッ・・・
苦しすぎて大口開きの星人に対し、白川は締め付けを足だけにして
空いた両手に銃を握り口の中に突っ込み乱射
ギョ――ン、ギョ――ン、ギョ――ン
ギョ――ン、ギョ――ン、ギョ――ン
両腕に思い切り噛みつく星人、スーツが千切れ肉が裂かれる、それでも撃ち続ける白川
口内は体表に比べて強固ではなく、銃に撃たれた場所はハジケて、大量に出血をしている
ブチィィッ
あと少し、という所でついに白川の両腕が噛み千切られた
しかしそんなことはお構い無しに、残った足だけで星人の首を締め上げる
「・・・グェッ・・・」
ゴキッッッ
首の骨が外れた、その一瞬で星人の体から力が抜けたのがわかった
グリッ
白川はさらに自分の身体をねじり、星人の首をあらぬ方向に曲げる
これで完全に殺した
彼女はゆっくりと海面に向かっていく
そしてカメ星人は海の底へと消えていった。
「おいおい・・・どうなってんだよ、あの子出てこねぇーぞ」静かになった海面を眺めながらつぶやく吾妻
「おおッ!!新井田ァ、生きてたか!!」後ろから新井田と五木が近づいてくる
「気絶してただけだって・・・」暗い表情で答える新井田
三人は海を前にしばらく沈黙する
「あ!」
海面から顔を出す白川が見えた
息を切らしながらこちらに近づいてくる
「うッ!!」
両腕を噛み千切られた白川の姿に、おもわず声を漏らす三人
そんな彼女に声をかける新井田
「お前が、殺したのか・・・」
「ん~?・・・うん、私が、殺した。」
笑みを浮かべながら答える白川
これが白川の本当の顔で、普段の彼女は猫をかぶっているのか?
新井田には、そうは思えなかった
それほど目の前の人物が、別人に見えた
日常世界の白川、ガンツ世界の白川
二つの世界を境に、全く異なる人格が彼女の中に存在しているかのように。
No.38/ 堅物。
次々と転送されていく
それを見て新井田は焦りながらガンツから武器を取り出す
吾妻にも持てるだけ武器を持つように促した
そして転送される吾妻と新井田
「おお、今度は海かぁ~!!」
転送されたメンバーを待っていたのは海、と血の臭いだった
月明かりに照らされて確認できる二つの塊
それに近づく吾妻
「うおッ!!!新井田ッ、これ・・・」
一見岩のように見えるが腕や足がある、カメ星人の死骸だった
「ああ、星人だな・・・やっぱり西村たちがいたんだ」
・・・じゃあ、今どこにいるんだ・・・
っていうか「あとかたづけ」って、星人がまだ残ってるってことか?
不思議に思いレーダーに目をやる、反応が一箇所だけある、それも海の中だ
「海の中?・・・わかった俺に任せとけ!」
吾妻がいきなり言うと、海に向かって走っていった
「はッ!?オイ、バカあぶねーって!!」
新井田の声に聞く耳をもたない、吾妻は思い立った事をせずにはいられない性格なのだ
「うお~、まだ海つめてぇな~」
無謀にも星人が潜む海で泳ぎ始めた、その緊張感がまるで無い姿にあきれる新井田
ふと吾妻から少し離れた海中が、ボンヤリと光っていることに気づく
何かいる・・・
急いで新井田は吾妻を呼び戻そうとした、その瞬間
ぬ~っと海面から巨大な影が現れる、カメ星人だ
岩のような甲羅とウロコが体中を覆い、その上にアロハシャツを強引に着ている
腰まで伸びた真っ白いヒゲ、そしてサングラスをかけている
浜に転がっていた星人の死体よりも数倍の体をもっていることから
おそらくボスだろう、自分の子を殺されカメ星人の表情は憤怒に満ちていた
「カメカメハー、カメカメハー」
星人が呪文のような言葉を唱えながら右手を吾妻にかざす
その手には、巨大な光の塊がゴウゴウと音を立てながら揺れている、海中に見た光はそれだった
見る見るうちに巨大化していく光の塊
しかし新井田はそれとは別のモノに目がいっていた
星人の左腕だ、何かを掴んでいる、黒い何か・・・
!!
人の形であり、しかもガンツのスーツを着ている
だがそれが誰であるか判別することはできなかった
なぜなら、首から上がなくなっているからだ。
漠然と頭をよぎる「あとかたづけ」という言葉
・・・オレたちは西村たちのあとかたづけをさせられてる?
ってことはもう、アイツは、死・・・
「オイッ!!!なにボーっとしてんだよッ!!」
さっきまで海で泳いでいたはずだが、いつの間にか新井田は吾妻に押し倒されていた
と同時にすぐ脇から爆発音が聞こえる
「はぁ、新井田お前、あのエネルギー弾みたいなの当たるところだったんだぞ!!」
どうやら星人の放った攻撃から吾妻が庇ってくれたようだ
「ああ、ワリィ・・・」
ゆっくりと立ち上がり、星人を睨みつける新井田
・・・くっそ・・・殺したのか、アイツが・・・
星人の持っている死体がどうしようもなく西村に見えてしまう
銃を握る手に力が入る新井田
怒りがこみあがってくる、西村とはたいした仲ではなかったが
勇気のない新井田をいつも動かしてくれたのは西村だった
そして今も、彼の死が新井田の闘争本能を駆り立てる
「アイツは、オレが倒すッ」
星人に銃を向け、引き金をひきまくる
しかし星人は左手の死体を盾に攻撃を防ぐ
ババンッッ
「ああッ!!」
破裂する死体に動揺する新井田
次の瞬間、目の前が真っ白になる
ドーンッッ
星人のエネルギー弾が直撃した
10メートル以上吹っ飛び、砂地に埋もれる新井田、そして動かなくなった
その様子を見ていた五木が心配して新井田のもとへ駆け寄る、吾妻も星人に注意をはらいながらそちらに向かう
その他の新メンバー3人は三島に隠れるように言われたが、怖気づき逃げようとする
しかし、ひとりも逃がさないと言わんばかりに、特大のエネルギー弾を放つ星人
「ああッッ!!!・・・」
3人は吹き飛び、三島も爆風で気を失ってしまった
「おじさん!!」
慌てて山本が三島の様子をみる、そして気を失っているだけとわかると
表情を変え、カメ星人に叫ぶ
「てめぇぇえ!!何したかわかってんのか、ぁああッッ!!?
今のオレは気分がわりぃんだよ、てめぇ楽に死ねると思うなよぉ・・・ハハッ」
三島の手前、おとなしかった山本だがストッパーが外れたかのように本性を現す
「まずは・・・腕からだぁあ!!」
刀を星人の右腕めがけ横なぎに切りつける
ガキィィインッ
「なにッ!!?」刀は右腕を切り落とすはずだった
しかし両断するどころか、血一滴すら出ていない、そこには小さなヒビがはいっただけであった
強固なウロコに弾かれる刀、いったん刀をひく山本
そして渾身の突きを放つ、一直線に星人目指して伸びていく刀
ギンッッッ
突きが当たる瞬間に甲羅にこもった星人、今度は渾身の一撃にも関わらず
星人の甲羅にはヒビひとつ付けることができなかった
「は・・・久々に楽しめそうだ」
刀での攻撃を止め、今度は銃を手に取る山本
とりあえずカメ星人に向けて一発
ギョ―――ン
未だに甲羅にこもる星人
しばらく待っても何も起こる気配がない
・・・まさか、こいつの甲羅には銃も刀も通用しないのか・・・
とにかく乱射しまくる山本、しかし星人にまったく変化はない
・・・ちっ、いい加減出てきやがれッ!!もう時間すくねぇーんだよ・・・
くそッ・・・こうなったら力ずくで引きずり出すしかねぇな・・・
星人に近づき、甲羅の穴に銃を突っ込む、そして中で乱射しまくった
バキバキバキッッ
甲羅の中からウロコが割れる音が聞こえてきた
「いだいっ!!いだだだだだぁぁあ!!!」
それには流石に悲鳴を上げる星人、耐えられずに甲羅から勢いよく頭と四肢を突き出す
ダラダラと頭から血を流しながら立ち上がる星人
・・・やっと出てきたか・・・
しっかし・・・あんだけ撃ったのに軽い出血だけ、どうゆう硬さだ
まぁ、アレを使えばコイツがどれだけ硬いっつっても一撃だがな・・・
山本はチラッと三島の方に目をやる
捕獲銃だ、三島が持っている捕獲銃を使うことを考えていた
先の攻撃に激怒した星人は両手に光を溜め、エネルギー弾を乱発し始めた
怒りで暴走した星人はメチャクチャに攻撃を放つ
ドガンッッ
放たれた攻撃が山本に当たる、暴走しているため軌道が読めず当たってしまったが
何とか両手で防ぐことができた。
・・・くそ、腕が・・・なんて重い攻撃だ、まともに食らったら一発だな・・・
何とか防いだものの腕がしびれるうえに何メートルも吹っ飛ばされてしまう
弾速もはやいため、なかなかスキがなく近づくことができない
捨て身で行こうにもスーツが壊れてしまうため、無理はできない
・・・気が進まないが、捕獲銃を使うしかないか・・・
山本は後ろを振り向き、エネルギー弾が降り注ぐなか全力で走る
そして三島のもとにたどり着き、ホルスターから捕獲銃を取り出す
「!・・・攻撃が止んでいる?・・・」
銃のことしか頭に無かった山本は途中から星人が攻撃を止めたことに気づいていなかった
おかしいと思い星人のほうに目をやる
ゴゴゴゴッ
空気が震えるほどに巨大なエネルギーの塊が、星人の両手の平に集まっていた
しかもそれはこちらに向けられ、今まさに放たれようとしている
・・・うそ、だろ・・・
ズドォォォォオオオン
避けることはできた、しかし避ければ後ろに倒れている三島に当たるかもしれない
山本は身をていして三島の盾となった
数十メートルも吹き飛ばされた山本、もちろんスーツはもう役に立たない
体中の骨が折れているようで四肢が動かない、意識が次第に遠退いていく
・・・おじさんは生きてるのか・・・オレは死ぬのか・・・
ぜってぇー死なせねぇーし、死なねぇーよ・・・
はっ・・・はぁっ・・・オレ、たちは・・・
・・・いき、るん・・・だ・・・。
No.37/ 無敵。
「オラァ!来いよクソ半漁人ッ!!」星人を挑発しながら近づいていく吾妻
それを見て、三島も戦う決心をする
「そうだ・・・戦わなきゃいけない、戦って生き残って・・・
あっちゃんが私を生きかえしてくれたんだ・・・まだあきらめるのは、早い」
「キミィ!!撃ってくれ!!なんでもいいからッ、とにかくアイツを撃ってくれ!!!」
「わかったッ!!」
三島と吾妻はとにかく銃を星人に向け乱射する、だが中々あてることができない
「くっそ、あたんねぇ~・・・魚のクセに早いんだよ」
文句を言いながら、どうすれば当てられるのか必死に考える吾妻
・・・アレしかない・・・アレが自由に出来るようになれば、こんなヤツ楽勝なのに
脳の処理速度が極限まで高まることで、全てのものがスローに見える
それができれば簡単に攻撃を当てることが出来る
吾妻は考える、どうすればソレが発動するのか
今までどんな状況で発動したのかを思い起こすと、簡単に答えは見つかった
身の危険を感じた時、それも死が間近に迫っている状況
「死ぬ寸前・・・か、やるしかねぇよな・・・」そうつぶやくと
吾妻はその場からいきなり走り出す、もちろん星人に向かって
「うおぉぉお!!!・・・ゲフッ」
勢いよく飛び出したものの、スーツの力で急に加速したためつまずいてコケてしまった
そのまま星人の足元までズザーっと滑る
星人の大きな瞳と目が合う、自分の力に期待する吾妻だが
この至近距離では恐怖のあまり頭が真っ白になってしまった
身体が震えて動かない
改めて自分の頭の悪さに後悔する
・・・こ、これってテレビとかゲームだろ・・・なんでッ、こんなに怖いの
これが、現実だから?・・・じゃあ死ぬの?いや、俺さっき死んだじゃん?
あれダメだ・・・わかんない、わかんない・・・誰でもいいから、たす、けて・・・
「あぁぁぁああ!!!」
星人に片腕を掴まれ、ブラブラと宙吊りになる
そして吾妻をそのまま口の上まで持っていくと、丸呑みにしようと口を大きく開けた
そのときすでに吾妻の脳は危険を察知し、あの能力を発動させていた
「あああ・・・あ・・あれ?」
我に返り、周りの空間がゆっくり流れていることに気が付く
「ふっ、ははっ・・・こうなりゃもう楽勝なんだよぉぉお!!!」
掴まれていないほうの手で星人の腕に手刀をあてる
すると、まるで豆腐を切るように、すんなりと星人の腕を両断した
そしてゆっくりと身体が落下していく、そして蹴りをいれようと足を突き出す
その間吾妻が星人にくらわした蹴りは5発
吾妻が地面に着地したときにはすでに星人は宙を舞い
蹴られた5箇所には穴があき、大量の血液が撒き散らされた
ズズーン
またも向こう岸まで吹き飛ばされた星人、
それでもなお立ち上がり、川に逃げ込もうとしている
横で見ていた三島にはそれが一瞬のできごとにしか見えず、あっけにとられていた
しかし星人が弱っていることは事実、すかさず銃を向ける
「これで終わりだ、あっちゃんのことは私が絶対に生きかえすからッッ」
ギョ―――ン
三島に止めをさされたことも知らずに、逃げようと必死な星人
そして身体がはじけ飛び絶命する
そのときだ、星人のバラバラになった死骸の中から
ヒョロっと一本の線が出てきたかと思うと、急に人に姿を変えた
「・・・!!?」
何が起こったのかわからず呆然とする
しかし三島にはそれがなにかすぐにわかった
「あ・・・あっちゃん!!」
そこにいたのは山本だった、星人に食べられたはずの山本がフラフラと立っている
涙ぐみながらも山本の名を呼び続ける三島、それに答えるように微笑む山本
そして転送が始まり次々と部屋に戻っていった。
部屋にはすでに新井田たち四人が座っていた
「おお~、新井田ぁ~!お前どこいってたんだよ~」
吾妻が星人との戦いを自慢げに話す、このとき新井田は確信した
星人ごとにバラバラの場所で戦わされていたことを
後は西村たちがもどってくれば、今回の狩も終わり
ガンツの言う「ごほうび<」が明らかになる、新井田にはソレをもらえる自信があったBR>
残り時間30分・・・
このときガンツに変化が起こる
てめぇ達は今から
あとかたづけに
行ってくだちい。
「はぁ?どういうことだ?」誰もがこれには戸惑う
しかし有無をいわさず転送されていくメンバー達
あとかたづけ=西村たちの星人暗殺失敗の尻拭い
つまり星人暗殺の失敗は、西村達の死を意味していた。
No.36/ しんか。
新井田たちがツル星人を倒す15分前。
「うっわ、なんだこれ!?・・・ホントに外じゃん!!」
目の前の景色が急に変わったことに驚く吾妻や新メンバー達
山本と三島は落ち着いた様子でレーダーを確認している
「今回少ないな・・・」
「少ないからって油断しちゃだめだよ」
「うん、とりあえずおじさんを自由にすることを優先するから
オレが星人と戦ってるスキに、こいつでやっちゃって」捕獲用の銃をわたす山本
「それって、あっちゃんが囮になるってこと?」心配そうな顔をする三島
「大丈夫だって、オレは100点を取ったんだから
もうこの世界でオレに敵うヤツなんていねぇーって、だから心配すんなよ!」
「・・・それがいいのかもね・・・私達以外はみんな始めてな感じだし・・・
あっちゃんが一番強いと思う、それでも、もしなにかあったら絶対に助けるから!!」
「ああ」
深くうなづく山本、今回のは三島を死なせないということだけを考えていたが
何かがおかしい、先に転送されたはずの須藤たちの姿が見えないどころか
後から転送されてくるはずの新井田たちが一向に来ない
・・・それだけじゃない、ガンツに星人が2匹も表示された・・・
しかも転送が別々・・・まさか、オレ達は
少なくとも2匹の星人と違う場所で戦わされているのか!?
つまり・・・各エリアで競わせて、最も点数が高かったやつに「ごほうび」が出る
そうゆうことか?・・・
色々な考えを巡らせるが、今は星人を見つける方が先決である
山本たちのすぐ横に流れる大きな川、レーダーではその中を示している
星人はすぐ側まで忍び寄っていた、しかし位置はわかっても姿が確認できない
そんな中、不用意に川に近づいていく吾妻
「新井田おせぇーな~、マジで宇宙人ていんのかぁ?・・・っていうかタイは海だろフツー」
文句を言いながら、部屋で新井田に渡された銃でバシャバシャと水面を叩く
そんな吾妻に三島が危ないからと呼びかけるが
突如、暗い川底から気泡が上がる、そして何かがゆっくりと近づいてくる
それに気づく気配のない吾妻
ドバッッ
いきなり巨大な水柱が上がり、その中から吾妻を水中に引き込まんと二本の腕が伸びる
「うわっっっ!!?」
・・・ナンダこれぇぇえ!?・・・
手!?人間?・・・うわっ、これ人間の色じゃねぇーし!!!
吾妻を襲う二本の腕は薄紫色をしており、指の股には水かきがついていた
そして飛び散る水しぶきの中から巨大な魚の顔がのぞいている
・・・こっ、これがタイ人星人!!?
こんなんマジでいんのかよっ!すっげ~・・・ってアレ?
まただ・・・周りが全部遅い!・・・こいつ俺のこと殺そうとしてんだろうけど
・・・こんな遅いんじゃ余裕で避けれるっつの!!
ゆっくりと流れる時間、吾妻は以前二回ソレを体験していたが、今回は少し違っていた
身体が動く、普段の状態に近くスムーズに動かすことが出来る
!?
えっ、身体が・・・つーかなんだこのマッスルボディはぁあッ!?
・・・これ、新井田が言ってた、着ると強くなれるって・・・マジかよ・・・
驚く吾妻だが、未だにゲームか何かと思い込んでいるため
調子に乗って星人から逃げるどころか攻撃をしようとしている
「オラァァア!!!」掛け声とともに渾身の一撃をタイ星人の頭にぶつける
グチャッと頭がつぶれ、変な汁が飛び散る
と同時に、物凄いスピードで吹っ飛んでいく星人、そして川の向こう岸に落ちた
今の出来事に言葉を失う吾妻、自分の手にはタイ星人を殴った感触が残っている
そんな彼に注目が集まる、山本でさえ今起きたことを理解できずに沈黙する
「うぉぉお・・・スッゲェー!!!なんだこの服、一発でアイツあんなに吹っ飛んだぞ!!」
興奮して叫ぶ吾妻に山本が近づいてくる
「お前、今なにを・・・」
その問いに吾妻は、ただ殴っただけあとはよくわからない、と答えた
「・・・初めてここに来たやつにしては上出来だが・・・お前、あまり調子に乗るなよ・・・」
山本は脅すように耳元でささやき、三島の所へ戻っていった
・・・はっ、なにが殴っただけだ・・・このスーツの力でもアレはありえねぇ・・・
アイツがなんだろうと、おじさんが危険な目にあわなければそれでいいんだ、余計なことを考えるな・・・
とにかく、星人は川の中からスキを見ていきなり襲ってくる
なら川から離れて、人を襲おうと出てきた瞬間を狙えばいい・・・
そう思い立つと行動に移す
三島は川から離れた所に吾妻と新メンバー2人をつれていき、そこから銃を構える
山本はライフル型の銃と刀を持つとタイ星人を誘きだすために川岸に立つ
そして水面をじっと見つめる
しばらくして気泡が上がり、ゆっくりと星人の影が近づいてくる
山本は星人に向かい思い切り刀を伸ばし、串刺しにしようとした
ザァァッ
水しぶきをあげ、ソレを回避する星人
さすが魚の形をしているだけあって水中での動きは素早い
攻撃が全くかすりもしないことにキレ気味の山本
ライフルで水面を広い範囲に多重にロックオンし、引き金をひく
ドッッパ―ン
川の水が半分以上空中に舞い、その中にいたタイ星人が岸に打ち上げられた
魚の身体から生えた腕と足で四つんばいになり、川にもどろうとする
そんな星人に捕獲銃を撃つ三島、星人は縛りつけられ動けなくなった
「ふう」と息を漏らし、山本の方へ近づいていく三島
そしてもう一度捕獲銃の引き金をひくと、星人がガンツの転送のように頭から消えていく
「多分あと一匹だから・・・気をつけないとね」
心配する三島に山本は何も言わずにうなづいた
そのとき、さらに巨大な星人が川からあがってきた
完全に二足歩行の魚、口をすぼめてフーフー息をしている
「おじさんッ、はやくあっちへ!!」
三島に逃げるように促す山本
すると星人が両手を山本にかざすと
「フゥゥゥウウッッ!!」と大きく息を吸い込む
ズオォォォオ
次の瞬間山本の周りの空間が歪む、それに合わせ彼の身体もグニャ~とねじれてきた
「なんだぁ!!?コレはッ、身体が動かせっ、ない!!!」
ねじれた身体がヒモのように細くなり星人の口へ吸い込まれていく
あまりにもあっけなく、山本は敗れ去った
「う・・・あ、あっちゃんが、あっちゃんが・・・
絶対助けるっていったのに、私はなにもできなかった」
ショックのあまりその場に崩れ落ちる三島、そんな彼に容赦なく星人が近づいてくる
「ちょっと待てぇ!!」と威勢良く飛び出した吾妻
この超危険な状況を全く理解していない彼は無謀にもタイ星人のボスに戦いを挑む
「俺が、相手だ」
吾妻は頭が悪い、テストでは常に赤点ばかりだ、そんな彼でもこの状況が危険であることくらい解っているはず
しかし今彼の頭の中では、コレはゲームだ、と自分に言い聞かせ、実際そう思い込んでいた。
No.35/ 習慣。
「あ・・・!」急降下してくる星人と新井田に気づく白川
「うわっ!こっちに、こっち来てるぅッッ!!?」慌ててその場から走る五木
鳴り響く激突音、落下地点に開く大穴がその衝撃の強さを物語っている
そしてゆっくりと穴から這い上がってくる新井田の姿が見えた
「き・・・きみ大丈夫なの??」
この状況で生きている新井田を見て驚きながらも、心配して近づいてくる五木
「あ、まだ、アイツ生きてるかもしれないから・・・」近づいてきた五木をさがらせる
・・・このくらいじゃあ、死なないだろうな・・・
っていうかあんだけの大穴開くほどの衝撃受けたのに、オレ全然平気みたいだし・・・
やっぱこのスーツってスゲェ・・・コレ着てれば楽勝なんじゃねぇか?
おお、なんかイケそうな気がしてきたぞ・・・今までビビってた自分がバカみたいだな・・・
そのとき穴からツル星人が勢いよく飛び出してきた
しかしすぐにヘナヘナと地面に落ちる、相当なダメージを負っているようだ
すかさず新井田は止めをさそうと銃を構えようとしたが、先の星人の攻撃で銃を落としたことに気づく
近くにいた五木がライフル型の銃を持っていたのでそれを借りようとする
「え!・・・この鉄砲?・・・ソイツをこれで撃つの?」立つことも出来ない弱弱しい星人を見て戸惑う五木
「はやく!」
「あっ、ハイハイッ!」新井田に急かされ結局銃をわたす
新井田もこんなにも近くで殺すのには多少抵抗があった
しかし、これは仕方がないことだ、と自分に言い聞かせ引き金に指をかける
それに気づいたのか、星人が残りの力を振り絞り、命乞いをするかのように鳴き叫ぶ
あまりにも痛々しい鳴き声に、白川は後ろを向き手で耳を塞ぐ
「ちょっ、ちょっと待ってよ・・・」
どんな命でも奪ってはいけない、五木の中にあるその思いが彼を動かした
「そこまでしなくても、いいんじゃないかな・・・
やっぱり生き物を殺すのはよくない・・・きみの手、震えてるじゃないか」
「でもっ、こうしないといけないんだ、仕方ないんだって・・・」
本当は今すぐにでも止めたい自分を、押さえつけるように言う新井田
「そもそも、この生き物が何かはわからないけど・・・こいつらが何をしたんだ?
私から見たら、理由もないのに一方的にこの生き物を虐殺してるだけに思える・・・」
こんな事には意味が無い、と主張する五木の言葉に新井田はさらに動揺した
新井田は思う、ここで撃たなければ、次もまた撃てない
この世界で生きていくためには慈悲という感情は捨てなければならない
しかし、慈悲を捨て、目の前の命を絶つことに何も感じなくなったら
三島を殺した山本と、あの男と同じになってしまう
「・・・くっそ、ダメだ・・・けどオレは違う・・・」
ギョ―――ン
そうつぶやくと引き金をひいた、やめろ、と叫ぶ五木の声は新井田には聞こえていなかった
バラバラになった星人を前に物思いにふける新井田
山本は殺すことを楽しんでいる、
しかし自分は、食料を得るために家畜から命を奪うのと同じように
自分が生きのこるために仕方なく殺しているんだ、そう割り切ることに決めた
慈悲は捨てても山本のようには絶対にならない、そう思うことにした
「あと一匹・・・」そうつぶやく新井田
レーダーを確認するが、新井田の物は壊れていて使えないので、白川が持っていたレーダーを借りて星人の位置を確かめる
すると、すぐ近くから力士の滝ノ藤の声が聞こえてきた
「うわあああ!!たすっけてくれッッ!!」
上空から落下してくる滝ノ藤の巨体、そして地面に叩きつけられた
「おいっ、大丈夫か!!?」
駆け寄る三人、何があったのか尋ねると
体をゆっくりと起こしながら答える滝ノ藤
「でかい・・・さっきのヤツより倍以上ある・・・なんなんだアレはぁ!?」
軽いパニック状態に陥り、恐怖のあまり身体が震えている
「ボスだ・・・星人の」新井田が空を見上げながらいう
何かが暗い夜の空を、飛び回っている
ソレの姿を確認できないほどのスピードで
ゴォォオオオッッ
一瞬何かかが横を通り過ぎた様な気がした
新井田があたりを見回すと、あることに気づく
足りない、人数が足りなかった、四人いるはずだが白川の姿が見えない
・・・あっれ?さっきまでここにいた・・よな・・・
まさか・・・嘘だろ、今ので、一瞬で連れてかれたってことか!?
焦る、姿が見えないほどのスピードを持つ相手に、どうすれば勝てるのか
再び銃を握る手が震えだす新井田
「くっそ、くそ!!」
とにかくレーダーで星人を探す、もの凄いスピードで移動しているのがわかる
これでは手の出しようがない
白川を捕まえ高速で飛び回る星人
身体が大きく、腕も生えている、羽の生えた人間ような形をしている
両足で身体を握締め付けられた白川は逃げることが出来ない
銃も落としてしまい攻撃もできない、恐怖のあまり意識が薄れていく
・・・もう、ダメ・・・
薄れ行く意識の中で締め付けが弱くなった気がした
星人のボスが白川を地面に落とそうと力を緩めたのだ
身体が星人から離れる、はずだった
しかし、白川は星人の右足首を両手で掴みぶら下がっていた
「お前は、逃がさない・・・あたしが、殺、す」
目つきが変わる、そこにいるのは、いつもの弱々しい白川ではなかった
両手に思い切り力を入れ、足首を握り締める
激痛が星人を襲う、白川を振り落とそうと足をバタバタさせる
それでも離れない、さらに左足で彼女を蹴りまくる
そんなことはお構い無しに星人の身体を徐々に登っていく白川
すると星人は右腕を上げ指先に力を込めるとポ~っと光だした、ソレを白川に向けると
「どど~~~ん!!」という掛け声とともに
指先からレーザー光線が放たれる
その光を目にした新井田たち、星人の動きが鈍くなっていることに気づく
「まさか白川さんが・・戦ってる?」
銃のスコープを覗き込むが、いくら星人の動きが鈍くなったといっても、まだまだ捉えることが出来ない
新井田はなんとか、星人が攻撃を放つ時の光を頼りに、慎重にその場を目指す
ビ――― さらに光線を放つ星人
バチィィ
白川の肩をかすめた、スーツが破れ、肉がえぐれる
それでも全く表情が変わらない白川
星人はなおも光線を放つ、しかし彼女が身体にピッタリくっついているので
自分自身に光線が当たってしまう可能性がある、そのため中々急所を狙えない
体中が傷つき、血を流す、しかし白川は痛みを感じていないかのように動き続ける
そして星人の背中の辺りまでよじ登ると
バサバサと羽ばたく、巨大な翼に思い切り掴みかかった
ゴキゴキ・・・ブチッ
白川は星人の翼を捻じ曲げ、骨ごと引っこ抜いた
「アヒィィィイイ!!!!」
全身を激しく震わし悲鳴を上げる星人、白川は引っこ抜いた翼ごと地面に落下する
そして星人は片方の翼だけでバランスをとり、ユラユラとゆっくり降下してくる
その様子をすぐ近くまで来ていた新井田は見逃さなかった
確実に狙いを定め、引き金をひく
ギョ―――ン
銃から光が放たれる、星人の命もあとわずかの間しかない
しかし、その数秒の間、地上に叩きつけられた白川に向けて最後の攻撃を放とうとしていた
両手で円を作る、そこに光が集まり、次第に強くなっていく
まるで星人に残っている、全ての力を集めているかのようだ
そして集まった光を、一気に放出した
ババンッッ
「よしっ!!」
その瞬間、新井田に撃たれた銃の効果で破裂する星人
しかし、すでに放たれた極太の光線が白川めがけ一直線に伸びていく
・・・避けられない
そう思った白川はとっさに、星人の翼を盾にした
これでも防ぎきれるとは限らない、この絶対絶命の状況下でも、彼女の顔に恐怖という感情は表れなかった
ドドンッッッ
直撃する光線、もの凄い熱と圧力が白川を襲う
盾代わりに使っていた星人の翼もボロボロと無くなっていく
スーツが徐々に融けていくとともに、露出した皮膚が焦げてめくれ上がる
目が開けられない、しかし目の前がまぶしい
すでに彼女のまぶたは消失していた、そして次第に意識が無くなっていく・・・
新井田が駆けつけたとき、そこには巨大なクレーターが出来ていた
そしてその中心には、真っ黒い塊があった
「うぇっ!!ウソ・・・だろ・・・」
新井田はソレが白川だと思うと吐き気がした
そのとき真っ黒に焦げた白川の身体が、半分になっていることに気づく
転送が始まったのだ、そう彼女は生きていた
そして新井田も転送されていく
彼は今回の戦いで、三島も山本もいない、頼れるものが何もない中で
誰も死なせずに、星人を倒すことができた
この世界で生き残っていく自信が芽生えた。
No.34/ ⅹ×3。
タイ星人
特徴
つよい エライ
好きなもの
カメ ツル
嫌いなもの
なめくじ
「は?」
「なんだ・・・え!?」
経験者たちは、今までこんなことはなかった、とガンツを注目しながら思った
「宇宙人っていっぱい居るのんだぁ?」吾妻が新井田に尋ねる
「え、まぁ、そうだけど・・・いつもは一種類だけなのに・・・どうなってんだ・・・初めてだ、こんなこと」
二種類もの星人を相手にするのか、それとも二手に分かれて戦うのか
色々考えをめぐらせるが、どちらにしても危険度が高いことに違いない。
「ちょっと、新井田~、俺もしかして頭無い?」
「あ!」
吾妻の転送が始まっていた、とにかく新井田は外に出てても帰ってはいけないと念をおして言う吾妻が転送され、次に山本と三島、そして新メンバー二人
と次々に部屋から消えていく、残ったのは新井田と白川
そして獣医の五木と、力士の滝ノ藤
五木は30代前半の男で、滝ノ藤は小兵の力士である
新井田はその3人をチラッと見まわす、滝ノ藤はスーツを着ているが五木は着ていない
白川は、いつものようにうずくまっているが、いつのまにか武器を持っている
このごろ、白川はずっとこの調子だ、だが点数はいつも高めである
新井田はそのことが一番気がかりであった
直接聞いてみるか・・・と白川を見つめる新井田
そのとき、いきなり顔を上げる白川、何かを見つめているようだ
新井田もその方向を見る、するとガンツがある、しかもまた画面の表示が変わっている
「おいおい・・・何匹いるんだよ!?」
ツル星人
特徴
ワル
嫌いなもの
カメ
口ぐせ
ひっひっひ
慌てて新井田は持てる限りの武器を持つ
そして全ての人間が部屋から転送された。
「なんだここ?」どこかの屋上のようだ
あたりを見回す新井田、先に部屋から転送された西村や山本たちの姿は見えない
とりあえずレーダーを確認する新井田
そこには星人の位置が二箇所表示されていた
・・・二匹?ってことか?・・・でもおかしくないか、少なくても3匹はいるはずだろ?
いまいち状況が理解できないが、自分達だけで星人を倒さなければいけない、そんな気がしてならなかった
・・・二匹だとしたら、なんとかなる・・・だろ・・・
この四人の中で経験者は新井田と白川
いくら白川が高得点を取っていたとしても、か弱い女の子に任せるわけにもいかない
ということはこの中でまともに戦えるのは自分だけ、焦る新井田。
「あの~、これから一体なにを?」獣医の五木が新井田に尋ねる
「え、ああっ、宇宙人みたいなのを探して・・・倒さないと、いけないみたいな」
しどろもどろ答える新井田
「そのなんとか星人を倒さないと帰れないわけ?」
新井田はうなずくと、武器を持っていない五木と滝ノ藤に銃を渡す
そして星人を見かけたらとにかく撃つように指示をする新井田
・・・くっそぉ、この人数じゃ心細い、この人たちに協力してもらって、ぜったい生き残るんだオレだって星人を倒せただろ・・・やればできるんだよっ・・・
レーダーの示す星人のいるポイントに
ビルからビルの間を恐る恐る飛び越えながら、徐々に近づいていく
もちろんスーツを着ていない五木はついてこれないので、白川と一緒に狙撃をしてもらうことにした
滝ノ藤は黙って新井田についてくる
・・・やっぱ怖い、いくらこの人が相撲やってる人だとしても、ここの世界じゃどうだか・・・そのとき向かい側のビルの屋上、何かが見える
足を止め、物陰に隠れて様子を伺う
そこには二匹の鳥のような姿をした星人がいた、新井田は深呼吸をすると
「オ・・・オレが先に、いくから・・・ここから銃で、撃っててください・・・」
声が震える、体も震え、中々足が動かない
やはり自分には無理だ、あきらめかける新井田
そんな新井田を見ていた滝ノ藤が口を開く
「私が行くよ、怖いなら無理をしなくていい」
「えっ!?」
驚く新井田、顔では心配そうな表情をしているが
心の中では(あぁ~たすかった~、どうぞどうぞ行ってください)と完全に人任せな新井田
一人ツル星人に戦いを挑む滝ノ藤、いざ星人を前にして躊躇する
ツル星人はほとんど普通の鶴と変わらない
強いて違うのはサングラスをかけていることくらいだ
・・・これを殺すのか
気が進まない滝ノ藤、ゆっくり星人に歩み寄る
彼の接近に気が付いた星人は、羽を広げ飛び立とうとする
遠くからその様子を伺っていた新井田、すかさず引き金をひく
星人の一匹がバラバラに弾ける
あ、当たった!!一匹逃がしたけど・・・いけるっ、いける!
しかし飛び立った星人は予想以上に飛行速度が速い
ロックオンしようにもその姿を捕捉することはできなかった
空を見上げる新井田、すると星人はいきなりこちらに向かってくる
姿を消しているはずだが、星人には見えているようだ
ズンッ
そのスピードに全く反応できず、気が付けばクチバシが腹にめり込む
そのままクチバシで新井田を持ち上げ、再び空に舞い上がった
・・・いてぇ~~・・・
っていうか高ッ!!落ちたらヤバイってッ、うえぇ、なんか気持ち悪い・・・
とにかく落ちないように必死に星人にしがみつく新井田
「ひ~、ひ~」
スーツのもの凄い力でしがみつかれたので苦しそうに声を上げる星人
振り落とそうとさらに激しく空中を旋回する
その結果さらに強くしがみつく新井田
耐えられなくなった星人は、いきなり急降下を始める
「うわぁぁぁあ!!!」
ドゴォォオッッ
No.33/ 同時多発。
「うぅっああ!!?・・・あれ、なに?これ?」
部屋に転送されてきた吾妻、そこにはすでに人がいる
吾妻を含め、7人、中には老人や力士までがいた
あたりを調べる者、暗い表情で座り込む者などさまざまであるが誰一人として今の状況を把握している者はいなかった
そのとき、また新たに人間が転送されてくる
新井田 生だ、あたりを見回し、ある一人の人物と目が合う
「あっ」
「あぁ~!!新井田じゃ~ん!!?」
新井田の側に駆け寄ってくる吾妻
「あっれ、吾妻!・・・なんでここにいるんだよ」
「いやいや、お前のほうこそなんなんだよ、っていうかその格好、そうゆうアレなの?」と新井田の体をチラっと見る
「ああ、これはまぁ、色々あって・・・とにかくコスプレとかじゃないから」顔を赤らめ否定する新井田
そうこうしているうちに、次々と転送されてくるメンバーたち、そして一番最後に山本
彼は激怒していた、転送されるて来るなり、ガンツに蹴りを入れる
「どうゆうことだガンツッ!!てめぇ、100点とっただろうがッ、なのに何でおじさんが消えてんだよッッ!!!」
部屋中に響き渡る、しかしガンツに一切反応はない
山本は舌打ちをしてその場に座り込んだ、シーンと部屋は静まりかえる
そんな中、吾妻が新井田の耳元で、あの人怖ぇ~、などとささやく
「あの人に、絶対関わったらダメだから・・・」真剣な表情で返す新井田
そのとき、いつものようにラジオ体操の歌が流れ出した
部屋が静かだったせいか、ビクッとする新メンバーたち
そして全員が黒い玉に注目する、そこには・・・
最近とても忙しいのてつが
てめぇ達に
やる気が感じられません。
そこで今回・・・
一番がんばってくれた方には
ごほうびをやるので
はりきってくだちい。
「はぁ、何だよごほうびって?なんかくれんの?」
ざわつく新メンバー、これには経験者たちも驚かされた
「まさか・・・自由になれるとか・・・」そうつぶやく新井田に、西村が付け加える
「つまり、今回のミッションで、点数の一番高い人に、なにかある・・・ってこと」
そして玉の表示が変わる、今回のターゲットとなる星人は――
カメ星人
特徴
かたい エロい
好きなもの
ギャル
嫌いなもの
ツル
口ぐせ
かめかめは
そして玉が開き、中から武器が出てくる
それらを手に取るメンバー達、しかし新しく来た者達は誰もスーツを着ようとしていない
いつもならここで三島が説明を始めるのだが、今はもういない
「うっわ~!何これ、すっげ、どうなってんだよこれ~!!?」吾妻が騒ぎ立てる
一応同級生ということもあり吾妻に状況を軽く説明し、スーツを着るように促す
意外と素直にそれに応じる吾妻、スーツを着て武器を選ぶ
「これってさぁ、やっぱテレビとかの企画?それとも夢でも見てんのか?」
なにか楽しそうな吾妻に新井田が言う
「そうだったらいいけど・・・どっちも違うから・・・」
そうこうしている間にも転送が始まり、須藤が転送されていくことに気づく
それを見て、山本が舌打ちをしガンツに蹴りを入れる
「オラァ!なに勝手に始めてんだよ!!くっそ・・・おじさんを出せっ!!」
するとガンツの表示が代わり、以前と同じ死んだ人間のリストが出てきた
山本は三島(父)の画像をリストの中から指差した
・・・一々これをやらないといけないのか?おじさんは生き返ったんじゃないのか!?
そして目の前に三島の姿が現れてくる
「あっちゃん、絶対生き残ろう!」
山本は深くうなずき、三島を見つめる
・・・とりあえず、おじさんが100点を取れば、自由になれるはず・・・
今回、ガンツがごほうびとか言ってるが、開放されるという可能性もある・・・
・・・まぁ、なんであろうと絶対に手に入れてやる・・・
「うわぁぁあ!!」「なんだッ、また・・・かよ!!?」
新メンバーの一人が転送されていく
武器もスーツも持っていない、それを見て西村が焦った様子で新井田に話しかける
「やばい、このままじゃあ、新しい人たちみんな死ぬって!!なんとかスーツだけでも、着せないと・・・」
「え・・・あ、う・・・」適当に返事をする新井田
・・・はぁ、やっぱり新井田くんはダメかぁ・・・ここは僕がやるしか、ない!・・・
頼れる人が誰もいない、西村は改めて三島が生きていたら、そう感じた
そんな弱い自分の心を振りほどくかのように、バッと立ち上がり、軽く深呼吸をし、口を開く西村
「ぼ、僕たちはいまからッ、この宇宙人を倒しに行かないといけないんだ!!
これって遊びとかじゃなくて、実際に死ぬかもしれないッ!!!」
だからスーツを着てくれ、と懸命に説明をする
ほとんどの者は聞く耳を持たないが、半信半疑ながらも、数人はスーツを着てくれた
それでもなお、呼びかける西村だったが、それも虚しく彼も転送されていった。
「あれ、なんか遅くないか?・・・転送、まだ結構人残ってんのに」
そうつぶやくと新井田がガンツの方に目をやる
そのときあることに気づく、本来なら残り時間を表示しているはずのガンツ
しかし、そこには新たな星人の姿が映っていた。