資本資産価格モデル(CAPM)。ファイナンスを勉強すれば必ず習うモデルです。このモデルは名前の通り、資産の価格(期待リターン)を評価するためのもので、DCF法で企業価値を評価する際の割引率の算定等にも用いられています。
 

CAPMは、以下のような数式で表現されます。

 

 

                                       E(Ri): 資産iの期待リターン
                                       rf: 無リスク資産のリターン
                                       E(Rm):市場ポートフォリオの期待リターン

                                       βim: 資産iのベータ


ここでベータは各資産が直面するリスクの程度を示し、以下のような回帰式を推定することにより測定されます(推定後に調整を加える場合もあります)。
 


(添え字tは時間軸、εは誤差項)

 

実際には各リターンは株価等の変化率であり、市場リターンには、例えば日本であればTopixなどの指標を用います。

 

G2010a, Public domain, via Wikimedia Commons


ポイントとなるのはこのベータであり、リスクが高い場合(市場ポートフォリオの変動より大きな資産価格の変動が見られる場合)にはベータは1より大きな値を、低い場合(市場ポートフォリオに連動した変動があまり見られない場合)には1より小さい値を示します。このベータを推定するには統計的な分析が必要ですが(上場されていない資産について分析する場合には、類似する上場銘柄を探す等の作業も必要です)、少し慣れてくると、いろいろな資産(銘柄)を見ただけで、厳密な分析を行わなくともベータがどのぐらいの水準になりそうか、なんとなく相場観のようなものが見えてくるようになります。

一つのポイントは、その銘柄がどのような市場で収益を得ているのか見ることです。特に個人的にイメージしているのは、その銘柄が最終消費市場で収益を得ているのか、設備投資や政府向け等、他のところで収益を得ているのかを見ることで、経済のどのポジションで事業を営んでいるかによって、ベータはかなり変わってきます

 

マクロ経済学を勉強すると真っ先にGDPについて習うと思いますが、その中でいろいろな方法でGDPを分解した内容があったかと思います。ここで個人的に考えることが多いのが、以下のバージョンによる分解方法です。

GDP(=国内総支出)=消費支出+設備投資+政府支出+輸出-輸入

これらの数字について、例えばアメリカの統計を実際に見てみると、以下のような感じになっています(データは米国セントルイス連銀のウェブサイトを参照)。

(1)民間最終消費支出



Personal Consumption Expenditures (PCEC) | FRED | St. Louis Fed (stlouisfed.org)

アメリカの民間最終消費支出。コロナ期間に急減があり、その前後でトレンドが変わっているように見えますが、それ以外は比較的安定的に推移しています。最終消費者向けに消費財(非耐久)等を売っているような銘柄の場合、収益も株価も比較的安定しやすく、ベータはあまり高くならない場合が多いです。

(2)民間設備投資



Gross Private Domestic Investment (GPDI) | FRED | St. Louis Fed (stlouisfed.org)

アメリカの民間設備投資。最終消費支出に比べるとグラフが波打っており、周期的な変動が見られます。設備投資で投入される製品(機械等)を販売しているような銘柄の場合、収益や株価が景気循環に従って比較的大きく変動し、ベータも高くなる場合が多いです。

(3)政府支出



Government total expenditures (W068RCQ027SBEA) | FRED | St. Louis Fed (stlouisfed.org)

アメリカの政府支出。コロナ期間後は上記の消費や投資とは全く変わった動き方をしています。政府系の事業を行っている銘柄の場合、経済全体の景気変動と収益が連動しないため、銘柄の価格変動も市場ポートフォリオにはあまり連動せず、ベータも低くなる場合が多いです。

 

さて、では実際にアメリカの銘柄をいくつか見てみましょう。Yahoo Financeで各銘柄の情報を調べると、ベータの推計値も報告してくれています。


 

 1.P&G(消費財)



The Procter & Gamble Company (PG) Stock Price, News, Quote & History - Yahoo Finance

 

消費財最大手P&Gの株価情報。ベータ(スクリーンショットの右下)は0.39と極めて低くなっています。この手の消費財は、不況になったとしてもすぐに売上が減ったりするものではないので、景気変動に対して比較的株価が安定しており、ベータも低く出ることが多いです。

 

 

 2.GE(電機)



General Electric Company (GE) Stock Price, News, Quote & History - Yahoo Finance

 

大手電機メーカーGEの株価情報。ベータはおよそ1.2。GEは既にエネルギー・ヘルスケア等に事業を絞り込んでおり、実際には公共セクター向けも多いと思いますが、株価の変動は比較的大きく、ベータは1を超えています
 

 

 3.ボーイング(航空機)



The Boeing Company (BA) Stock Price, News, Quote & History - Yahoo Finance

 

大手航空機メーカーボーイングの株価情報。ベータはさらに高い1.44。景気循環により受注が大きく変動する設備投資型の事業のため、景気変動に対する株価の変動も大きくなっており、ベータは高くなります

 

 

 4.ロッキード・マーチン(軍需産業)



Lockheed Martin Corporation (LMT) Stock Price, News, Quote & History - Yahoo Finance

 

こちらは軍需産業のロッキード・マーチンの株価情報。作っているのはボーイングと同じ航空機(戦闘機)ですが、こちらは公共セクター向けのため業績は景気変動と連動せず、ベータも0.68と低めに出ています。
 

 5.アップル(テック企業)



Apple Inc. (AAPL) Stock Price, News, Quote & History - Yahoo Finance

 

最後にアップルの株価情報。テック系は全般的にベータも高め。耐久消費財型の製品なので、最終消費者向けであっても比較的収益の変動は大きいのではないかと思います。



今回はこれだけです。こうしたことは慣れている人から見れば(ファイナンス理論としての正しさは別として)当たり前なんだと思いますが、言われてみればあまり教科書や授業等で教わった記憶もなかったので、まとめておくことにしました。