ワイヤレス給電を操るためのパワエレ技術講座|コイルの位置ずれ対策 -5ページ目

ワイヤレス給電を操るためのパワエレ技術講座|コイルの位置ずれ対策

ワイヤレス給電の開発課題
・コイルの位置ずれ対策
・電力伝送距離の延長
・安定した充放電制御
がパワエレ技術でどのように解決できるのか。
ワイヤレス給電とパワエレの両面から、双方向ワイヤレス電源の開発実績に基づいたノウハウを解説します。

「分布定数回路」と「集中定数回路」との違いはわかりますか?

この違いを理解しておくことは物理学・工学を勉強する上で重要なのですが、まったく知らないというパワエレ技術者も少なくないようです。

というわけで、パワエレ技術者としてこの違いをどのように理解しておくと良いかを解説します。


●分布定数回路
空間的な位置が違えば、それぞれの位置の物理量が違う回路モデル。
当たり前のことを言ってますよね。
つまり我々が通常見ている空間は分布定数回路です。
数学的には
  f(x,t) g(x,y,z,t)
こんな関数で物理量が表されます。

●集中定数回路

空間座標という概念を用いずに記述できる回路モデル。
オームの法則やキルヒホッフの法則に空間座標はないですよね。
つまり基礎的な電気工学は集中定数回路であり、パワエレも基本的に集中定数回路で扱います。
数学的には
  v(t) i(t)
こんな関数で表されます。


どういうことかというと、電気や電磁波というのは有限の速度で伝わるために空間的な差異が存在するので「分布定数回路」で表現されますが、これを無限に早い速度で伝わり空間的な差異が存在しないと「近似」したのが「集中定数回路」です。

通常のパワエレはこの近似したモデルで扱うことができるので「集中定数回路」で考えますが、この近似モデルでは誤差が大きすぎる場合(周波数が非常に高いなど)は「分布定数回路」で考える必要があります。

特に、ワイヤレス給電を理論的に扱うためには、最初にどちらの回路モデルで考えるのかを明らかにしておくことが重要です。


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電気自動車用の非接触充電の課題は、効率が低いことであると説明している記事や論文がたくさんあります。

また、高効率化を課題とした発明が多数特許出願されています。



この課題について根本的なところから考えてみましょう。


電気自動車の非接触充電において、
「送受電コイル間の距離が離れたり位置関係がずれたりすると、充電ができなくなる(充電時間が延びる)」
ということが本質的な課題です。


充電ができなくなるのは、
「受電側コイルから充電に必要なエネルギーを取り出せなくなる
ためです。


そして、エネルギーを取り出せなくなるのは
「効率が低い」
ためです………。


いや、ちょっと待ってください!
本当に効率ですか?

よく考えてみましょう。

 ★ 効率が低下するエネルギー損失の原因は何ですか?
 ★ その損失の原因を取り除いて効率を上げれば、充電に必要なエネルギーを取り出せるようになりますか?


実際は、エネルギーを取り出せなくなるのは
「結合が低い」
ためであり、
「結合の低下」と「効率の低下」とは、別の問題です。

つまり、課題は
「結合が低い場合に、充電に必要なエネルギーを取り出せなくなる」
ことです。


効率を改善しても、この課題は解決できないため
結合を強めるか、結合が低くても十分なエネルギーを取り出す方法を考案することが、課題クリアの手段となります。


課題設定って重要ですね。

しっかりと課題を見極め、それを解決することで製品開発を成功させてください!


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近頃は「効率」という言葉をよく聞くようになった気がします。
環境問題への意識の高まりから効率を意識する人が増えたのでしょう。

この「効率」というのは理工学系の人にとってはそれほど特別な言葉ではないのですが、一般的に広く使われるようになってからその意味が曖昧だなと思うことも増えました。

特にワイヤレス給電の「効率」というのは、定義を曖昧にして使われる場合があるため注意が必要です。

本来、理工学分野で定義される「効率」とは、注入したエネルギー(入力エネルギー)と取り出せたエネルギー(出力エネルギー)との比のことです。

また、ここでいうエネルギーとは、SI単位系では[W](ワット)という次元を持つ量とします。

  効率=出力エネルギー[W] / 入力エネルギー[W]

何も特別なことは言っていません。
常識的にこの定義です。

ただし、ワイヤレス給電では、「受電電圧の低下」や「コイルの結合係数の低下」のことを「効率の低下」と言い換えられることがあり、
これは本来の「効率」の定義とは違っています。

言葉の定義がズレているために、議論がおかしくなっている状況をよく見るので気をつけましょう。


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最近「置くだけ充電」という言葉を聞くようになりましたが、これはコネクターの金属接点で接続せずに携帯電話などを無接点充電器の上に置くだけで充電するというもので、
「ワイヤレス給電」という技術が使われています。「ワイヤレス給電」のほかに、「非接触給電」や「電力無線伝送」などと呼ばれることもあります。この技術は、電気自動車に搭載されている電池の充電への応用も盛んに研究されていますが、一般向けの製品化はまだのようです。

さて今回は、技術者向けなので前置きは以上で本題に入ります。

まず、ワイヤレス給電の勉強をした技術者・研究者のみなさんは、以下の図を見てどのように思いますか?
(※ この先は以下の図を見て「ワイヤレス給電」の話だとわかる人に向けて書きます)



おそらく、この図は「磁界共鳴方式」のワイヤレス給電の回路図だと考えた人が多いのではないかと思います。
インターネットでも「磁界共鳴方式」を解説しているところで類似の回路図はすぐ見つかります。
そして、磁界共鳴方式とは、アンテナコイルとコンデンサで決まる共振(共鳴)周波数を、1次側と2次側とで一致させて高効率で電力を伝送する方式と解説されています。
(図では、2次側の負荷はダイオード整流と電池としていますが、抵抗負荷でも同じです)

さて、この図は某大学の先生の論文に掲載された図を簡略化したものです。
先生は可変コンデンサ装置の研究をされており、この論文では、その可変コンデンサ装置を2次側に設置することでコイルの位置がずれても高効率でワイヤレス給電が可能であると述べられています。

ここまで読んで、この論文は「磁界共鳴方式」に関連していると思われる人がいるかもしれませんが、論文中に「磁界共鳴」という言葉は出てきません。
論文の理論的解説部分を要約すると、「コイルの相対位置のずれにより変化するコイルの自己インダクタンスを可変コンデンサで直列補償することで、コイルと可変コンデンサを合わせたリアクタンス成分を小さくでき高効率の電力伝送が可能となる」と述べられています。

先日、この先生にお会いした時に直接話を伺いましたが、この論文は電磁誘導方式だとおっしゃっていました。

まとめます。

電磁誘導方式と呼ばれるワイヤレス給電回路に対して、アンテナコイルの周辺にコンデンサを追加すると、コイルの距離を離したり位置をずらしたりしても電力伝送効率を高く維持することができます。
この効率向上が磁界共鳴現象によるものという説明(磁界共鳴方式)がインターネットや雑誌で多く見られますが、コイルのインダクタンス成分をコンデンサで補償(キャンセル)することで効率が向上するという理解も可能です。

この2つの立場はまったく異なり両立しないのですが、コンデンサの調整でコイルの位置がずれても高効率が維持できるという効果は同じであり、さらに回路図を見てもどちらなのか判断がつかないということから、私は理論的に正しい理解はどちらか一方だと思います。

今後、このブログで明らかにしていく予定ですが、私は電磁誘導方式にインダクタンス成分のコンデンサ補償を追加したという理解の方が正しいと考えています。

電気自動車の充電などでワイヤレス給電の実用化が早く実現できるように、理論的なアプローチによる検討を続け、その記録をこのブログに残しながら情報発信をしていきます。