健一は何を理由に合コンを断ろうか考えていたが
坂井の「矢田はもうメンバーに入ってるぞ」という言葉で
しぶしぶ行くしかないか、と考え始めていた。
坂井は心からその合コンを楽しみにしている。
健一は坂井のそういうところが少しうらやましく感じる。
木曜日の夜、あやの携帯電話が鳴った。
矢沢あいのコミックを読んでいたあやはその着信音で
すぐに相手は健一だと分かった。
「もしもしぃ?けんいちぃ?」
読んでいたコミックのシーンとは違ってあやの声は明るい。
「あっもしもし?あや?」
健一とあやは2日か3日に一度は電話で話す習慣が付いていた。
社会に出た健一とまだ大学生のあやとの溝はなかった。
健一はもちろん合コンのことをあやに話すつもりはなかった。
しかし金曜の夜に会社の飲み会があると告げた。
「めんどくさいんだけどね、参加しないといけないんだ」
「そっかーどうせ参加するなら楽しんできてねー!?」
健一はあやに嘘をついたことが悲しくなった。
あやに嘘をつくのははじめてだった。
そしてあやのやさしさで罪悪感を覚え、ますます合コンに行きたくなくなった。
最愛のあやに嘘までついてまで行くようなものでは到底なかったし、
この嘘があやと僕との溝を生むものになるのではないかとまで考えた。
しかしこれも社会の厳しさだと自分に言い聞かせた。
健一は【付き合い】というものが嫌いだったが
社会ではそれが重要なものであることはわかっていた。
合コンにやってきた3人の女性はみんな綺麗だった。
そして何かフェロモンをかもし出しているような女性だった。
みんな同い年だと聞いていたが年上に見えた。
健一が思った通り坂井のテンションは上がっていた。
健一は坂井に便乗して少しだけテンションを上げた。
その女性3人に失礼だと思ったからだ。
いやそうすることが合コンを楽しむ方法だと知っていたからだ。
健一の合コンモードのスイッチが入った。
合コンモードとはいえ普通の付き合いモードのスイッチと同じものであるのだが。
お酒を飲みながら女性の一人と話していると
「矢田クンって彼女いるの?」と聞いてきた。
「いるよ」
どう答えようか迷ったが素直に言った。
この質問は特に深い意味はなく普通に会話の中に出てきただけだったが
健一の脳裏にはあやが現れた。
この女性もすごく綺麗な人だったが
あやとてんびんにかけるとあやのほうが断然勝った。
いやてんびんにかけるような勝負ではなかった。
「キミも彼氏いるでしょ?!そんなに美人なんだから」
と一応相手を褒めておいた。
流れで全員電話番号を交換することになった。
その合コンはあっさり終わった。
健一が抱いていた不安もなんのその
普通に楽しく過ごすことができた。
帰りの電車の中で健一は
あやと今日の合コンの美人3人の違いについて考えていた。
あれだけ美人なのに僕はなぜ何も思わないのだろう。
化粧が少し強いからか。
フェロモンはあるのに。
僕はただのロリコンなのか。
答えは出なかった。
健一はあやに対してはとても一途であることを再認識した。
そしてあやのことをもっと好きになった気がした。
合コンで知り合った子を口説くぐらいなら
あやをもっと口説いてあやに自分をもっと好きになってもらおうと思った。
合コンも悪くないなと思った、
それが自分の恋人の良さを再認識するものになるのであれば。
あやが合コンのようなものに行く機会があっても
無理に引き止めることはしないでおこう。
それが自分が良い彼氏だと再認識するものになるのであれば。
アルコールのせいかそんな自意識過剰な考えを張り巡らせながら
健一は家に着いた。
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