泰中 啓一
「負けるが勝ち」の生き残り戦略―なぜ自分のことばかり考えるやつは滅びるか

タイトルからするとビジネス書のようですが、生物学の本です。
生物の世界は「弱肉強食」と思われていますが、そうではなく、「利他主義」こそが最適な戦略であると述べています。
短期的な結果と長期的な結果がまったく逆になる複雑系のコンピュータ・シミュレーションやゲームの理論を使い、選挙予測や害虫駆除など具体的な事例で説明しています。
害虫駆除のパラドクスの説明によると、3種の虫がいてそのうちの一種を対象に害虫駆除を行うと、駆除の対象となった害虫が最初は減るものの長期的には増えてしまうとのことで確かに意外な結果です。進化の過程ではいろいろなことが起こっているのだということはわかります。
ただ「「負けるが勝ち」の生き残り戦略」というのは、生物進化の過程での話で、人間の実生活に応用できるというものではないようでした。

水木 しげる
今昔物語(上)―マンガ日本の古典 (8) 中公文庫
水木 しげる
今昔物語(下)―マンガ日本の古典 (9) 中公文庫

説話集の古典「今昔物語」から水木しげるが選んだものをマンガにしたものです。
平成九年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞作品です。
上巻が「入れ代った魂」「産女」「妻の恨み」「色事師平中」「霊鬼」「大江山の悪夢」「老医師の恋」「かぶら男」「赤鼻の僧」「酒泉郷」「堂の主」の11編、下巻が「ねずみ大夫」「安倍晴明」「稲荷詣で」「幻術」「妻への土産物」「水の精」「墓穴」「引出物」「外術使い」「寸白男」「生霊」「蛇淫」の12編となっています。
当然ながら水木しげる風テイストの絵ですが、エロティックな話が多く、あまり怖い話はありません。
あっさりとした話で、たいしたオチもないものばかりなのですが、おおらかな感じで、雰囲気はよく描けているのではないかと思います。

川上 弘美
真鶴

失踪した夫を思いつつ、恋人の青茲と付き合う京は、夫、礼の日記に、「真鶴」という文字を見つける。“ついてくるもの”にひかれて「真鶴」へと向かう。京は娘の百と母親との女3人で暮らす文筆家です。
これまでの著者の作品同様、言葉遣いが独特で、その丁寧な表現に引き込まれますが、今回の作品では、女性の情念のようなものが描かれ、その点がこれまでの作品とは違った感じがします。
「いるのに、いない」「いないのにいる」心の揺れや危うい気持ちを描き、現実と死の世界が交錯する、不思議な感覚の作品です。

門倉 貴史
統計数字を疑う なぜ実感とズレるのか?

タイトル通り、統計に関して、素人が間違いやすいあるいは誤魔化されてしまう数字についてわかりやすく説明しています。
各章の内容は以下の通りです。
「第1章 「平均」に秘められた謎」~平均と実感のズレを「一世帯あたりの平均貯蓄残高」「平均寿命」「平均初婚年齢」などを例にとって説明しています。
「第2章 通説を疑う」~「割れ窓理論による犯罪の減少」「景気回復による有効求人倍率の上昇」などを例にとり、「みせかけの相関」にだまされないことの重要性を説明しています。
「第3章 経済効果を疑う」~「愛知万博の経済効果」「父の日の経済効果」「クールビズの経済効果」「阪神タイガース優勝の経済効果」などを例にとり、経済効果の推計方法を説明しながら、「経済効果」の数字がほとんど当てにならないことを説いています。
「第4章 もう統計にだまされない―統計のクセ、バイアスを理解する」~「消費者物価指数」などの集計方法からそのクセを解説しています。
「第5章 公式統計には表れない地下経済」~地下経済の規模を推計しています。
なんか変だなぁと思いながらも数字に騙されていたことについて、かなりすっきりしました。

森山 大道
昼の学校 夜の学校

写真家森山大道と学生との一問一答による対話集=講義録です。
ぼくは写真には特段関心があるわけではないので、森山大道という写真家がどのような作品を撮ってきたか知らないのですが、書評を見て興味を持ち、手にしてみました。
本書を読むと、作品を見ていなくても、森山さんの生き方については、いいなぁと感じます。
表現者というのはこういう情熱を持って生きていくんだという、自分にない部分がよくわかりました。
また、写真についての考え方、写真集と写真展の違い、表現者の自己顕示欲など、なるほど、と思う部分がいくつもありました。
「ひとまず量のない質はない、ただもうそれだけです、ぼくの唯一のメッセージは」とあるとおり、まずはひたすら撮るということが大事なのでしょう。
たぶん写真だけではなく、すべての物事について言えることなのではないかと思います。

小川 洋子
偶然の祝福

「失踪者たちの王国」「盗作」「キリコさんの失敗」「エーデルワイス」「涙腺水晶結石症」「時計工場」「蘇生」の7編が収められた連作短編集。
単行本は2000年12月に発行されたものです。
主人公である小説家の「私」、若くして死んだ弟、世界を回る指揮者との不倫、シングルマザー、犬のアポロと虚構なのか現実なのかわからない物語が続きます。
ぼくは想像力に乏しいためか、どうも私小説っぽい作りの小説は苦手で、いまひとつこの本の世界には馴染めませんでした。
小川洋子さんの小説は「博士の愛した数式」はよかったのですが、それ以外はどうもダメです。

増田 明利
今日、ホームレスになった―13のサラリーマン転落人生

ホームレスに転落した13人のサラリーマン、経営者のルポです。
登場するホームレスは元大企業の管理職などですが、パターンは、リストラ→転職の失敗→家庭崩壊→ホームレスというのが典型的です。
ほとんど50歳以上で、年齢的にも転職が厳しく、それまでの生活が維持できない、借金の返済ができないなどで転落してしまうようです。
本人たちもまさか自分がそんなことになるとは数年前には考えてもいなかったことなど、意外にホームレスへの道は身近なものであることがわかります。
退職金をもらって希望退職に応じておけばよかったと反省する人もいれば、希望退職に応じないで会社にしがみついておけばよかったと反省する人もいます。
いずれにしても「格差社会」の実態の一部を垣間見ることができます。
ホームレスにならないためには、借金を減らしておく、家族関係を良好に保つ、技術・資格を持つなどが必要なようです。
また、駅のゴミ箱での雑誌拾いなどは知っていましたが、高級住宅街やオフィス街での不用物回収が意外に現金になるのは参考(?)になりました。

乃南 アサ
風の墓碑銘

音道貴子シリーズの長編です。
音道貴子と滝沢保の「名コンビ復活」と謳っているとおり、ふたりの絡みが大きなウェイトを占めています。
「凍える牙」「鎖」のような迫力を期待すると裏切られますが、それはそれで楽しめました。
東京・下町の解体工事現場から発見された白骨死体三つ、そして大家である徘徊老人の撲殺事件という繋がりそうでなかなか繋がらない事件が最後に見事に解決され、さすがに構成はしっかりしていると思いました。
ただ、最後の貴子と彼のオチはちょっと甘いよなぁと感じましたが。

森 絵都
風に舞いあがるビニールシート

第135回直木賞を受賞した表題作を含む短編集。
「器を探して」「犬の散歩」「守護神」「鐘の音」「ジェネレーションX」「風に舞いあがるビニールシート」の6編が収められています。
涙が出たり感動したりという話ではないですが、ラストへのもっていきかたがうまいので余韻が残ります。
表題の「風に舞いあがるビニールシート」は、国連難民高等弁務官事務所に勤める女性を主人公に、その元上司であり元夫である男性との話を描いたものです。
主人公の女性ににいまひとつ感情移入できなかったのですが、参考文献も多く、作者としては力が入っていたのではないかと思います。
6編のなかでは「ジェネレーションX」が一番好きです。
40前の男性と20代後半の男性ふたりの会話が中心となる作品ですが、話の展開、最後のオチとよく出来た作品だと思います。


田村 秀
データの罠―世論はこうしてつくられる

世論調査を始めとする調査を鵜呑みにすることの危うさをわかりやすく説明した本です。
世論調査、視聴率、XXランキング、日本人の英語力、「官から民へ」の検証など、具体例に富み、データを見る眼を養ってくれます。
・世論調査にも恣意的な質問がある
・世論調査では数よりも有効回答率が重要
・インターネット調査などでは特定の層を対象とするため世論調査と同一視はできない
・視聴率は600世帯をサンプルとしているがサンプルを10倍にしても誤差は3分の1になるだけで、どちらにしても1%程度の違いは誤差のなかにはいる
・平均だけで判断するのは禁物、データの分布状況や他の統計指標との比較でデータの特徴をつかむことが大事
など、データを見る際注意すべき点を挙げています。
マスコミの無知あるいは恣意的な報道に騙されないためにもこうしたリテラシーは必要だと思います。