三浦 紀夫
倒産社長、復活列伝

倒産社長である著者が、12人の倒産社長について話を聞き、その復活についてまとめた本です。

12人の倒産社長は以下の通り。
・ガリバーインターナショナル社長の羽鳥兼市さん
・あきない総合研究所社長の吉田雅紀さん
・ダブルデジット社長の浜田義史さん
・ストロベリーコーンズ社長の宮下雅光さん
・中島警備保障社長の中島邦雄さん
・久喜市議会議員の須藤充夫さん
・花研社長の草野直樹さん
・エス・キューブ社長の高橋義信さん
・SOHOの草分け笠松ゆみさん
・経営コンサルタントの鈴木健介さん
・タクシー運転手の大塚功さん
・ツカサグループ代表の川又三智彦さん

一部上場企業の社長から現在もタクシー運転手をやっている方までいろいろです。
それぞれみな興味深い人生を送っているのですが、ひとりについての紙数が短いので、要点をまとめただけになってしまい、感動は伝わってきませんでした。


西村 健
笑い犬

過剰取立の結果顧客を自殺に追いやり、恐喝と詐欺で刑務所に入れられたメガバンクの支店長が、自分が嵌められたことを知り出所後反撃に出る話なのですが、刑務所内の描写が長く、反撃は事件を追っていたジャーナリスト主導で大したこともなくあっさりと終わってしまい、カタルシスがありませんでした。
刑務所内の様子については詳しく書かれており、それなりに読めるのですが、小説としては構成の失敗ではないかと思います。
また、「笑い犬」のタイトルは、主人公が絶望の果てに浮かべた笑みが周囲を慄かせるということでついた主人公の呼び名なのですが、その怖さはあまり感じられず、キーワードとするには弱い感じがしました。

吉田 太一
遺品整理屋は見た!

「天国への引越しのお手伝い」遺品整理専門の「キーパーズ」という会社の社長が書いた現場の話です。
死後数ヶ月経った孤独死の「死臭」や「蛆虫」など壮絶な現場の様子が書かれていますが、社長の筆致は真摯で、好感が持てました。
大変な仕事だということが伝わってきますが、それとともに仕事に誇りを持っていることも感じられます。
放置された死体の様子を読むと、家族に看取られて死ぬということが幸せなことであることを認識しました。

梁 石日
ニューヨーク地下共和国(上)
梁 石日
ニューヨーク地下共和国(下)

「イラク戦争の内実、超大国アメリカの野望、そして、全世界規模で張り巡らされた陰謀…。超大国アメリカを破滅させる脅威とは!?破滅へと向かう世界を救うすべはあるのか!?愛と暴力にあふれた街で、未来を夢見る男と愛に飢えた女が絡み合う人間ドラマ。 」との紹介で、好意的な書評なども見たので読んでみたのですが、作者にベースとなる知識がないため、小説に全く説得力がありません。
エンロン事件、9・11テロが軸となるような話ですが、証券市場に対する知識がなく、聞きかじりで書いたような内容となっているため、読む気が失せてしまいます。
前半、証券マンが主人公となって動いているのですが、あまりに証券市場に無知で、途中からは間違い探しをしているような気分になりました。ヘッジファンドとハゲタカファンドを混同したり、意味もわからず401kのことを書いてみたり、ちょっと調べればすぐわかることなのですが。
自分がこれまで読んだ小説のなかでもかなり質の低い部類です。もう少しちゃんとした小説を書くひとだと思っていました。


東野 圭吾
赤い指

話の展開自体は結末も予想通りで「容疑者Xの献身」のような意外性はありません。
幼女殺人、親の認知症、ひきこもり気味の息子、という材料にトリックをひとつ加えてミステリーの出来上がりという感じです。
犯罪自体が雑なので(それはこの小説の場合責められるわけではないのですが)、仮にこのトリックがなくても真実にはたどりつけそうな話です。
それでも最後まで一気に読ませてしまうのですから、それはそれでたいしたものだと思います。

鏑木 蓮
東京ダモイ

第52回江戸川乱歩賞受賞作。
シベリア捕虜収容所で起きた中尉斬首事件と現代の舞鶴で起きた殺人事件をつなぐ謎解きという壮大な構想の作品です。
元収容兵の自費出版をしようとした句集がカギを握り、その原稿のなかの俳句から犯人探しをするというアイデア自体はいいと思うのですが、そこから中尉斬首事件の犯人発見のプロセスはちょっと苦しい感じがします。
また。シベリア捕虜収容所の描写などはよく出来ていると思いますが、真犯人に至る過程も含め、謎解き部分に不満が残ります。
捕虜収容所での殺人は極限状況ですから、リアリティは別として納得できますが、現代の殺人のほうは動機、リアリティともに弱い感じがします。
題材は面白いのですが、ミステリーとしての面白さはいまひとつでした。

中田 力
脳のなかの水分子―意識が創られるとき

著者は、東京大学医学部卒業、カリフォルニア大学、スタンフォード大学で臨床研修を受け、カリフォルニア大学脳神経学教授に就任、1996年にファンクショナルMRIの世界的権威として日本に戻り、文部省学術審議会により中核的研究拠点(COE)のプロジェクト・リーダーに選ばれとともに、新潟大学統合脳機能研究センターを設立、その長として活躍する一方で、日米を往復して臨床医・脳科学研究者としても忙しい日々を送るというすごい実力・経歴の持ち主です。
が、この本のなかで著者が主張する「水性相理論」「渦理論」は、著者自身が述べているように、脳神経生理学の主流からみると異端の「危ない科学」のようです。
著者の主張が正しいのかどうかは、「科学好き」程度では判断できません。
ノーベル化学賞を受賞したポーリング博士の「全身麻酔は水のクラスター形成をうながし、結晶をつくるから」という論文を出発点として、熱力学的に脳が確率論的自己形成を行うという「渦理論」を提唱し、「渦理論」には熱対流を起こす媒介が必要であり、それが水であるということなのですが、物理、化学等の最新の知識がないと著者の説明を追っていくのも難しいぐらいです。

「脳のなかの水分子から意識の謎を説明する」ということなのですが、この部分はいまひとつ理解できませんでした。

薬丸 岳
闇の底

去年「天使のナイフ」で江戸川乱歩賞を受賞した著者の受賞後第一作。
幼女殺害事件のたびに性犯罪の前歴者が首なし死体となって発見される連続殺人事件を、自身が妹を性犯罪者に殺された過去を持つ警察官を主人公に描いていきます。
前作同様、被害者家族のつらさ、哀しみがよく描かれています。
「天使のナイフ」ほどどんでん返しがあるわけではありませんが、ぼくは最後までうまくミスリードされてしまいました。
ラストも意外でした。

ジム クレイマー, James J. Cramer, 井手 正介, 吉川 絵美
全米No.1投資指南役ジム・クレイマーの株式投資大作戦

億万長者にして凄腕ヘッジファンド・マネージャーの経歴を持ち、TVの投資番組の司会者でもあるカリスマ投資家による投資戦略の本。
タイトルと表紙の印象や、ヘッジファンドのファンドマネージャーという経歴から、ちょっといかがわしい感じがしますが、内容は意外なほどまともです。
まず、徹底して述べているのが「バイ・アンド・ホールド」ではなく「バイ・アンド・ホームワーク」、買った後はそのままホールドしておくのではなく、その銘柄について、週1時間はチェックすること。
そして、老後資金と余裕資金とを分けて考えること。
これまでの本と違う点は、余裕資金での投資のなかのある程度の割合は投機を行うべきだとしていることです。
基本的な知識、株価収益率の意味、相場のサイクルなどの見方を身につけ、著者の言う、トレーディングのための10のルールと長期投資のための25のルールを身につければ、個人投資家は職業的な縛りがないので、ヘッジファンドや投信よりも有利な立場にあると説きます。
そのほかにも、ポートフォリオの作り方、大底、天井の見極め方、投機のための戦術等解説しています。
実際にこれらの知識を身につけ、ルールを守るのは簡単なことではないと思いますが、今まで読んだ株式投資の本の中で最も実践的な内容の本だと思います。

早瀬 乱
三年坂 火の夢

第52回江戸川乱歩賞受賞作。
「三年坂で転んでね」と言い残した兄の死と火の街を疾走する謎の人力俥夫。
明治の東京を舞台に、兄の死の謎とを解くべく上京して一高受験の準備をしながら、三年坂を探す主人公の実之のストーリー『三年坂』と、東京大火災と三年坂の関係を探る英語講師の高嶋鍍金(めっき)のストーリー『火の夢』とが交互に平行して進展し、最後に両者が結びついて事件の真相が明かされます。
明治期の東京の地理についてよく調べていると思いますが、坂の場所を確認するのに追われてしまい、選評で乃南アサさんが書いていたように、小説という感じがあまりしません。
「事件の真相」もちょっと腰砕けの感があります。