●ポルシェ356 は1948年から1965年まで生産された言うまでもなくポルシェの名を冠した最初の市販車。生産期間の長かった356は、大まかに試作・増加試作・プレＡ・356A・356B・356Cと変遷した。
356の中で私の好きな356Aというのは、1955年10月～1959年10月までの4年間に生産された車両。クルマは新しい程良いというのも一面の真理だとは思うけれど、デザイン的には356B以降は安全対策のためにバンパー位置、ヘッドライト位置が上がるなどで明らかに356のオリジナルデザインの比類のない美しさを損ねてしまったと思う。
●ポルシェ356A が生産されていた時代の日本では国内産業保護を目的とした外車輸入制限のため、正規輸入代理店だった三和自動車は基本的に日本人向けに輸入をしていない。当時、日本に棲息していた稀有な356Aは在留米人等の日本人の所有ではなかったクルマが大半だ。
★ジェームス・ディーン（James Byron Dean; 1931年2月8日-1955年9月30日)の愛車として、ポルシェ550スパイダーと共にあまりにも有名なポルシェ356スピードスター
●日本製1958年ポルシェ356Aハードトップ2種
356Aには実車と同時代に造られた日本製の模型/玩具が2種ある。何れも1958年から生産されたハードトップ・ボディ(1961年の356Bカルマン製ハードトップではない)をモデル化している。
★日本製1958年ポルシェ356Aハードトップ2種(手前：倉持商店コレクトーイ、後方、：カナメ産業)
(1) 日本製の一つは台東区入谷で戦前から玩具製造をしていた倉持商店製(代表：倉持恵昭氏)のダイキャスト・ミニカー「COLLECTOY(コレクトーイ)」。トミカより大きく1/43スケールよりは小さい1/48～1/50スケール程度のもの。中島登氏の著書に1956年4月から生産されたとの記述があるが、モデル化されたリンカーン、エドセル等の米車群の殆どが1957年デビューの1958年式であるところから、コレクトーイの生産は早くても1957年からだろう。また、輸出中心で国内販売はされていないため国産ミニカー第１号は1959年秋のモデルペットであるといった記載が多いものの、私は国内の小売店でコレクトーイのデッドストックを多数確認しているので、コレクトーイは国産車のモデル化こそなかったが黎明期の立派な国産ミニカーと言えると思う。ダイキャストの質が悪く経年によりボディ塗装がひび割れているものが多いのが難点ではある。
私はコレクトーイの356Aハードトップを製造から約20年を経た1977年の夏に吉祥寺の中央模型(現在の西友のサンロードを挟んで西向かいにあった模型店)で売れ残っていたものを発見した。
(2) もう一つは、墨田区寺島町のカナメ産業製(代表：加藤 要氏)1/20スケール程度のブリキ玩具。フリクション駆動、電動、リモコン等の多数のバリエーションが確認されている。ブリキ製の356としてはディストラ製(西独DISTLER)の356プレAカブリオレと双璧をなす逸品だろう。
私はカナメ産業の356Aハードトップ（フリクション）を製造から約30年を経た1980年代後半に昭和一桁生まれのクルマ好きの大先輩より譲り受けた。1950年代当時、デパートの玩具売場で買い求めたものとの話だった。何しろ現在とは違い、例えお金があっても日本人は余程特殊なルートがない限りポルシェを所有出来なかった時代のこと、玩具とはいえ叶わぬ夢を買うようなものだったことだろう。
●ここで不思議に思うのは、当時の日本製の模型/玩具上記2種が何れも何故ポルシェ356の代表的なデザインであるクーペでなくハードトップをモデル化したのだろうかということ。
この謎を解く鍵はどうやらセールス・カタログにあるようだ。恐らく、両玩具メーカーは実車を取材してモデル化することが叶わず、セールス・カタログだけを頼りに356をモデル化した。1957年10月発行の1958年式356Aのカタログには、1958年式のNewバージョンとしてハードトップだけが大きくクローズアップされた写真で掲載されており、クーペやカブリオレやスピードスターは小さなサイドビューの写真と側面図しか掲載されていない。これを見た倉持とカナメの両玩具メーカーがハードトップこそがポルシェ356の代表的なボディスタイルだと勘違いしても不思議ではないと思えるからである。
★1958年ポルシェ356Aセールス・カタログ
(ハードトップだけが大きく掲載されている)
