【作品#0783】身代金(1996) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

身代金(原題:Ransom)

【概要】

1996年のアメリカ映画
上映時間は121分

【あらすじ】

航空会社の社長であるトム・ミューレンは息子のショーンを何者かに誘拐されてしまう。犯人は身代金として200万ドルを要求してくるが…。

【スタッフ】

監督はロン・ハワード
音楽はジェームズ・ホーナー
撮影はピョートル・ソボチンスキー

【キャスト】

メル・ギブソン(トム・ミューレン)
レネ・ルッソ(ケイト・ミューレン)
ゲイリー・シニーズ(ジミー・シェイカー)
デルロイ・リンドー(ロニー・ホーキンス)

【感想】

約3億ドルを売り上げ、1996年の興収ランキングでは7位となった。ちなみにメル・ギブソンとレネ・ルッソは「リーサル・ウェポン」シリーズでも共演している。

主人公のトム・ミューレンは贈賄の容疑でFBIから捜査中の身である。トムは否定しているが、息子のショーンを誘拐されてからFBIのロニーに自身の罪を認めている。そして、刑務所にいるジャッキー・ブラウンが怪しいとして会いに行くのだが、獄中から誘拐を指示できるわけもなく彼が犯人であるという線は当然ながら消えることになる。ここでジャッキー・ブラウンは「お前が捕まるべきだった」と言っているが、贈賄は渡した側も受け取った側も罰せられるはず。お前「も」捕まるべきだったなら理解できる。

そして、トムはこの罪をロニーに自白し、そしてロニーがトムの妻ケイトにも話すことになり、彼の罪を知る人物が映画内に二人増えることになる。ところが、ロニーはトムの罪を口外する気はないと言っているし、ケイトに関してはそのことでトムを攻めることもない。息子を誘拐された人物に対して自白した罪をすぐさま攻めることはなくてもトムは贈賄の罪を犯したのは事実である。本作は黒幕ジミー・シェイカーが殺されたところで終わってしまうので、トムが贈賄の罪を犯したという事実はなかったことになっている。ジミー・シェイカーから贈賄の疑いがかけられていることで、問題が発生したら金で解決する人間だと思われトムの息子が誘拐される流れになるので、その点は理解できる。であればトムは疑いこそかけられているが実際は無罪であるとするか、もしくは有罪であるのならこの罪をどう償っていくかまで描くべきだ。

その後トムは一時は身代金の支払いを試みるが、受け取りに来たポンコツと追ってきたFBIのせいで支払いは未遂に終わってしまう。そして、トムは身代金を支払ったら息子は殺されるとして心変わりし、身代金を支払わないと決心する。ちなみに、「ゲティ家の身代金(2017)」でも孫を誘拐された主人公は絶対に身代金を支払わないというスタンスだった。それはもし支払ってしまったらまた同じような誘拐が発生してしまうと危惧してのことであった。本作はそういうわけではない。確かにショーンがどういう状況に置かれているか、犯人側が何を考えているかは分かりかねるが、「身代金を払ったら殺される」と結論づけるのは理解しがたい。

そしてトムは暴走し始める。テレビの生放送に出演して身代金として支払う予定だった200万ドルを犯人の懸賞金にすると言い始めるのだ。この展開は意外性があるものの、トムを演じたメル・ギブソンなら「言いかねないな」と思ってしまうところだ。FBIのロニーが言うように「経験からこうすべきだ」というある程度の進め方はあるだろう。ただ、どれだけ策を講じてもうまくいかないことはあるだろうし、運良く助かることだってあるだろう。なんとも言えないな。

また一方で、いくらなんでも犯人グループがアホ過ぎないか。どう見ても使い物になりそうにないカビーがいる設定がダメだわ。このキャラクターが登場した時点で「こいつのおかげでショーンが助かる」とか「こいつのせいでうまくいかない」といった思いを巡らしてしまう。しかも、犯人グループにあの人数が必要だったとも思えない。ショーンの面倒、逆探知の妨害くらいしかすることないだろうに。

おまけに主犯格のジミー・シェイカーが警官となればいざという時に切り捨てられる可能性があることも映画を見ていれば想像がつくし、案の定その展開になってしまう。ショーンを監禁していた場所にはジミー・シェイカーの指紋まみれだろう。テレビのニュースでも主犯格の人物が他にいるという報道がなされていた。そしたらショーンが監禁されていた場所は鑑識が入って指紋などを調べているはずだ。しかも、真っ先に入ったジミー・シェイカーは警官なので指紋は他の指紋と区別するために管理されているはずだ。これは素人でも疑問に思う箇所である。とても勝算のある作戦だったとは思えない。

ここまで疑問に思わせる描写になるのなら犯人側の描写とキャラクターの数を削って、主人公と観客が犯人を知るタイミングを合わせたら良かったのではないだろうか。観客はかなり序盤から誰が犯人かを知っているわけだし。ここまで描くなら犯人側の動機(特にジミー・シェイカー)はもう少し描いても良かったんじゃないか。ただの金目当ても悪くはないが。

ロン・ハワード監督は前作「アポロ13(1995)」にしてもアカデミー賞を受賞作「ビューティフル・マインド(2001)」にしても登場人物を極限状態まで追い込むことが多い。本作も息子を誘拐された両親は極限状態まで追い込まれる。身代金を支払ったとしても息子が無事に帰ってくる保証はない。かといって強気に出て犯人が逆上して息子を殺してしまうかもしれない。結局はトムが強気に出たことで犯人グループに不和が生じ結果的に息子は命に別状なく帰ってきた。トムの想定外の行動に敵も極限状態に追い込まれたのだ。

エンタメ作品としては最低限のものは提供されたとは思うが、もう少しどうにかなったのではないかと思ったのが正直なところだ。

【関連作品】

「誘拐(1956)」…オリジナル
「身代金(1996)」…リメイク



取り上げた作品の一覧はこちら



【ソフト関連】

<DVD>

言語
├オリジナル(英語)
├日本語吹き替え
映像特典
├未公開シーン
├メイキング映像「あなたならどうする」
├撮影の合間
├オリジナル版劇場予告編


<BD>

言語
├オリジナル(英語)
├日本語吹き替え
音声特典
├ロン・ハワード(監督)による音声解説
映像特典
├未公開シーン
├メイキング映像「あなたならどうする」
├撮影の合間
├オリジナル版劇場予告編