【作品#0779】ダ・ヴィンチ・コード(2006) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

ダ・ヴィンチ・コード(原題:The Da Vinci Code)

【概要】

2006年のアメリカ/マルタ/フランス/イギリス合作映画
上映時間は149分
※エクステンデッド版は174分

【あらすじ】

ルーブル美術館のソニエール館長が館内で何者かに射殺される事件が発生した。パリで偶然にも講演を行っていたハーバード大学のロバート・ラングドン教授は、現場に残されたメッセージの解読のために警察からルーブル美術館に向かうと、暗号解読官ソフィーも現場に現れ、ロバートが容疑者であることを知らされ警察から逃亡する羽目になる。

【スタッフ】

監督はロン・ハワード
脚本はダン・ブラウン/アキヴァ・ゴールズマン
音楽はハンス・ジマー
撮影はサルヴァトーレ・トティーノ

【キャスト】

トム・ハンクス(ロバート・ラングドン)
オドレイ・トトゥ(ソフィー・ヌヴー)
イアン・マッケラン(リー・ティービング)
ポール・ベタニー(シラス)
アルフレッド・モリーナ(アリンガローサ)
ジャン・レノ(ファーシュ)

【感想】

ダン・ブラウンが2003年に発表した同名小説の映画化。映画としてはシリーズ1作目だが、後に映画化された「天使と悪魔(2009)」の方が小説としては先に発表されている。1億2千万ドルの製作費に対して全世界で7億6千万ドル、日本でも90億円の大ヒットを飛ばした。一方で批評的には失敗し、ロン・ハワード監督はラジー賞で最低監督賞にノミネートされてしまった。

ルーブル美術館の中で映画の撮影がされたのは本作が初めてである。ただ、モナリザに直接照明を当てることは許可されなかったので本作で登場するモナリザはレプリカである。また、当初ロバート・ラングドン役はビル・パクストンが検討され出演に前向きであったがスケジュールの都合で断念し、ラッセル・クロウらの候補がいた中で、ロン・ハワードの長年の友人であるトム・ハンクスが演じることになった。

映画全体の印象としては、「とにかく説明」である。キリスト教徒であっても本作の内容を観て全部理解できる人はどれだけいるのだろうか。キリスト教にそこまで理解のあるとは言えない日本人なら尚更。それでも世界のみならず日本でも2006年の興収ランキングでは「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト(2006)」に次ぐ大ヒットを記録した。

私も当時のブームに乗って小説(上中下の文庫本だったが)を手に取ったものの、あまりの情報量の多さなどについて行けず上巻で断念してしまった。そこからしばらく時を経て映画化された本作を鑑賞したのだが、小説を読んでいた時に感じたのと同じような感覚である。サスペンスミステリーであるのに謎解き要素は観客側にほとんど用意されておらず、主人公が次々に解いていく。さらには登場人物らの心理描写や背景描写があまりに乏しく、彼らの行動原理も理解しがたい。

まず冒頭のシークエンスから不自然である。ルーブル美術館のソニエール館長が謎の男に殺される場面から始まる。ソニエール館長は死に際にメッセージを残し、自らをダ・ヴィンチの人体図に模して遺体として発見される。偶然にもパリで講演を行っていた宗教学に詳しいロバート・ラングドン教授はフランス警察の要請で現場に連れて来られる。すると、暗号解読官のソフィー・ヌヴーも現場にやって来て、フランス警察はロバートを容疑者と考えているとロバートにこっそり伝え、二人はこっそり逃げたふりをしてフランス警察をルーブル美術館の外へ追いやりルーブル美術館内部で遺体やメッセージの意味を解読しようとしていく。

そもそも謎の男(シラス)はソニエール館長を殺すのが目的だったはずであり、まだ死んでもいないのに現場を後にして殺人完了の報告をしている。結果としてソニエール館長は息絶えるのだが、それまでの間にダ・ヴィンチの作品にロバートが気付くように暗号をあちこちに残したのだ。銃で撃たれて死に際の男にできることではないだろう。モナリザの前に血があるのをソフィーが気付く描写があるのだが、銃で撃たれた男が美術館内をあちこち歩き回っていたら血まみれだろうに。なぜモナリザの前にしかないのか。死に際にできる仕事量ではない。シラスがとどめを刺していたらロバートは現場に呼ばれさえしていなかったことだろう(参考人にはなったかもしれないが)。

また、ソニエール館長の横に残されていたメッセージをロバートが見せられるが、その最後の一行(追伸…ロバート・ラングドンを探せ)は警察によって消されていたことがソフィーの情報網で判明する。警察はこのメッセージからロバートを疑っているようだが、さすがにこの追伸だけでロバートが犯人であると断定するのはどう考えても無理がある。もしロバートが犯人なら「ロバート・ラングドンを探せ」と書かずに「ロバート・ラングドンが犯人だ」と書くはずだ。事件に関係していると考えるのは不自然ではないが、警察側が容疑者だと思って話を進めていくのはいささか無理がある。

おそらくソニエール館長が殺されたのはロバートが発売した本のサイン会をしている前夜であろう。ロバートはソニエール館長と食事の約束をしていたがすっぽかされたと言っている。その時にすでにソニエール館長は殺されていたはずだ。そうであるならばロバートがその店に居たというアリバイもあるはず。せめて警察は調べたけど誰も覚えていないとかそれくらいの一言はあっても良かった。

それ以外にもソフィーがあのタイミングでやって来たこと、来る前からロバートが容疑者でありGPSが服の中に仕込まれていることをすべて知っているなど説明不足にも程がある。そのGPSをトイレの窓の外から投げて車に乗せたことでそのGPSの信号を追った警察が警備にたった一人だけ残して全員出払ってしまうのは間抜けすぎる。コメディ映画じゃないんだから。その警備に残った警官もソニエール館長の遺体のある場所からあっさり離れてしまう。歩哨じゃないんだから現場を離れるなよ。というか一人しか残さないってあり得るか。

その間にロバートとソフィーは残されたメッセージから次々に暗号を解読していく。こちらに考えさせる余裕なんて与えれらることはない。とにかく彼らが解読していく様子を傍観するしかない。そしてそれは全編にわたって繰り広げられる。これは謎解きではなく「説明」である。残念ながらそこに楽しさはない。「インディ・ジョーンズ」シリーズも主人公がある程度は謎解きをしていくのだが、あのシリーズには楽しさがちゃんと用意されている。

さすがにずっとそればかりしている訳にもいかないだろうから、警察から追われていたり、味方だと思うキャラクターから裏切られたりするという展開を合間に挟んでいく。ただ、フランスの警察がロバートを犯人だとして執拗に追いかけ回す理由も、何の前触れもなく急に裏切り者が登場する展開も理解しがたい。それらを説明できる背景や伏線は基本的に用意されていない。この本筋から少しそれた話についても観客は考える余地がなく、突き進んでいく物語を傍観するしかない。

これほどまでに主人公がほぼ独力で事件を解決していくキリスト教にまつわる物語だとすると、主人公をある程度は神格化したような意図があったのだろうか。また、バディものという割にはロバート・ラングドンとソフィーは驚くほどに噛み合わせが良くない。これは演じたトム・ハンクスとオドレイ・トトゥの組み合わせ自体が悪かったのだろうか、それとも演出の問題か。

仮に本作のやっていることが「説明」だとしても、登場人物を描けていたらそれでも良いのだがそこにも本作はあまり興味がないようだ。ロバート・ラングドンが閉所恐怖症だったのは原作通りだったと記憶するが、それが映画内で幾度か描かれたとしても特に意味をなしていない(この設定は次回作以降引き継がれていない)。映画全体が観客の方を一切向いていないのだ。しかも、少しでも脱落したらもう取り返しのつかないタイプの映画だし、しかも2時間半もある(エクステンデッド版は3時間!!)。この長い上映時間を集中して見せ切るほどの演出もない。さらには、本作は映画的には2時間くらいの時点で終わった感があるのに、エピローグがとても長い。終わった感があった後に長く続くと観客はしんどいものだ。

最終的にソフィーが生涯独身だったキリストの子孫であるという、トンデモ展開で映画は終わる。そもそも何千年も前から言い伝え始められたことが果たして本当なのかはもはや確認する術はない。キリストが生涯独身だったのか、伴侶がいたのか、童貞だったのか、はたまたキリストなんていう人物が本当にいたのかなんて誰にも分からない。私は無神論者であるが、キリスト教やそれを信じる人たちを馬鹿にする気はさらさらない。何を信じるかはその人たちの自由である。むしろ、なぜ信じるのか、信じ続けられてきたのかといった部分には興味は多少ある。

キリスト教だって時代を経るにつれて、場所が変わるにつれて分派していき、今では細かい宗派まで数えたらキリがない程存在する。そのうえで何千年も前のことを議論するのはもはや不毛にさえ思える。こんなことで人が死んでしまうなんて、と思ってしまう。ただ、宗教を考える契機にはなるかもしれないと思った。

説明することに終始することになるのなら、連続ドラマで丁寧に描くべきだったように思う。脚本は先を急ぎ過ぎ、メインキャストは驚くほどに輝きを失っていた。

【関連作品】

「ダ・ヴィンチ・コード(2006)」…シリーズ1作目
天使と悪魔(2009)」…シリーズ2作目
インフェルノ(2016)」…シリーズ3作目



取り上げた作品の一覧はこちら



【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語/フランス語/ラテン語/スペイン語)

 

<Amazon Prime Video>
 

言語
├日本語吹き替え


【ソフト関連】

<DVD(2枚組/デラックス・コレクターズ・エディション)>

言語
├オリジナル(英語/フランス語/ラテン語/スペイン語)
├日本語吹き替え
映像特典
├原作者ダン・ブラウンインタビュー
├『ダ・ヴィンチ・コード』に隠されたコード
├ロン・ハワード監督撮影初日インタビュー
├ラングドンの人物像
├ソフィー・ヌヴーとは?
├魅力的なキャストたち
├魅力的なロケーション
├"モナ・リザ"と向き合って
├映画製作者の旅 パート1
├映画製作者の旅 パート2
├音楽の世界
├オリジナル劇場予告編集


<BD(2枚組)>

言語
├オリジナル(英語/フランス語/ラテン語/スペイン語)
├日本語吹き替え
音声特典
├ロン・ハワード(監督)による抜粋シーンの音声解説
映像特典(Disc1)
├インタラクティブピクチャー・イン・ピクチャー(本編を観ながらインタビュー、ストーリーボード、トリビアなどが、同時にお楽しみいただけます。) ☆
├『天使と悪魔』特別先だし映像
├「天使と悪魔」トレーラー
映像特典(Disc2)
├原作者ダン・ブラウンインタビュー
├『ダ・ヴィンチ・コード』に隠されたコード
├ロン・ハワード監督撮影初日インタビュー
├ラングドンの人物像
├ソフィー・ヌヴーとは?
├魅力的なキャストたち
├魅力的なロケーション
├"モナ・リザ"と向き合って
├映画製作者の旅 パート1
├映画製作者の旅 パート2
├音楽の世界
├オリジナル劇場予告編集


<4K Ultra HD+BD>

言語
├オリジナル(英語/フランス語/ラテン語/スペイン語)
├日本語吹き替え
音声特典
├ロン・ハワード(監督)による抜粋シーンの音声解説
映像特典
├映像クリップ集
├キャスト&スタッフ
├「インフェルノ」特別映像 ~ ダ・ヴィンチ・コードを振り返って
├エクステンデッド・エディションからの映像
├オリジナル劇場予告編(2種)


【書籍関連】

<ダ・ヴィンチ・コード(上中下合本版)>

形式
├紙
├電子
出版社
├角川文庫
著者
├ダン・ブラウン
翻訳者
├越前敏弥
長さ
├697ページ


【音楽関連】

<CD(サウンドトラック)>

収録内容
├14曲/68分


【グッズ関連】

<ポスター>

サイズ
├68.5㎝×101.5㎝

 

サイズ
├68.5㎝×101.5㎝